その24 次回予告
二人はなぜいなかったのか?
大急ぎで教室を片付け、クラス全員で校舎を出たのは、もう七時になろうかという頃だった。
「そういえばさあ、人形供養は終わったの?」
「うん、つつがなく」
木葉の問いに、高橋がほんわか笑って答えた。
文化祭で使ったコッペリア人形。この人形をどう処分するかで誰もが頭を悩ませた。
なにせ、出来がよすぎる。このまま解体するには忍びず、さりとて保管といってもどこでどう保管するか悩ましい。それに、モデルとなった高橋由紀と瓜二つすぎる。他人に譲渡するわけにもいかず、モデルとなった高橋も製作者の和井田も引き取ることには及び腰だった。
結局、元教員が住職を務める寺に供養と処分を依頼し、本日午後、担任とモデル、製作者の三名で出向いた次第である。
「よかったのか? せっかくの作品なのに」
「まあ、また作りますよ」
美術部・三浦の問いに、和井田は平然と答えた。あのレベルの人形をまた作る。よくもまあ平然と言えるなと三浦は感心するやら呆れるやらである。
「ちょっとみんな、佐島先生に言われた議事録、ちゃんと手伝ってよ!?」
やー、楽しかったね、終わったね、という雰囲気のクラスメイトに、木葉は念押しするように叫んだ。
HRの時間を使って学校行事とは関係のないことを話していた。
そのことを咎められ「ま、ケジメはつけようか」とクラス委員長の木葉は、議事録の作成と提出を命じられた。全員で分担してもいいというあたりに担任の温情措置が見て取れるものの、大変なのは確かである。
「でも相沢が議事録書いてたんだろ?」
「あれはただのメモ。ちゃんと書式も指定されてるんだからね」
「めんどくさそー」
「んー、ならさあ」
と、武久が顎に指を当てながら言う。
「いっそ議論を基にした作品集、みたいなのにしたら面白くない?」
「どゆこと?」
「絵でも小説でも漫画でも、なんでもいいからつけて出すの」
いやそれかえってめんどくせえじゃないか、と始めは思った面々だが、「じゃ私は漫画」「議題書いた模造紙」「議事録もとにした小説」「告った時の歌」などとアイデアが出始めると、なんだか面白そうな気がしてきた。
「よし、クラス内で競争しよう! 一番になった人が、クラスメイトの誰かに好きなこと命令できる、てのはどう?」
「好きなことって……え、マジ!?」
「まあ、公序良俗に反しない範囲で、ね」
木葉ウインクに、俄然色めき立ったのは男子生徒である。
なにせ今日だけで三組のカップルが成立するところを見せつけられたのだ。あわよくば自分も、と考えたって無理はない。
「これからだと、クリスマスデートとか初詣デートとか、アリだねー」
高橋がほんわかとした口調で燃料を投下する。これで燃えない生徒は、二年三組にはいないのだ。
「よーし、次のイベントは、これだー!」
「「「イェーッ!」」」
二年三組一同の元気な声が晩秋の夜空に響く。
それを職員室から見ていた教師・佐島は、「また面白そうなことをする気だな」と微笑み、静かに窓を閉めるのだった。
いえ、ないですからね、次回なんて。




