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その23 光臨

真打登場

「せ、先生!?」

「もう六時過ぎてるぞ」


 佐島(さじま)幸雄(ゆきお)、四十二歳・男性、妻と二人の娘との四人家族。

 彼こそがこの二年三組の真のボス、生徒三十四名を率いる担任様である。

 まあそれはいい。担任様は懐の大きい人物であり、少々の悪ふざけは、法令に違反でもすれば別だが、大目に見てくれる肝のすわった人物だ。

 しかし、その担任様の後ろに付き従う二つの影はまずかった。

 そう、和井田健、高橋由紀の二人。

 まさかのご本人様光臨である。


「なんだか面白そうなことをしているな」

「いや、これはですね、先生」


 議長、のプレートの前にいた来賀がダラダラと汗を流しながら言い訳を考えようとして、ホワイトボードにデカデカと掲げられた模造紙を思い出し、断念した。


「木葉、荻野。文化祭の反省は?」

「はっ、文化祭における我らの活動は完璧。ゆえに反省はなし、です!」

「なるほどな」


 迷いのない木葉の返事に、かっかっか、と担任は笑った。


「それでこれか。いやお前ら、ほんと面白いな」


 担任が模造紙を叩いた後、苦笑しながら振り返ると、クラスメイトもまた全員が振り返った。

 その視線の先にいる女子生徒――高橋由紀。

 クラスのお姉ちゃんにして、学校一モテると噂の女子生徒。その女子生徒が、みんなの視線を受けて、真っ赤な顔で恥ずかしそうにうつむいていた。


「人気者はつらいな、高橋」

「ええっ、せんせぇ〜。面白いで済ませないでくださいよぉ。わーん、恥ずかしい……」


 ぐおっ!

 いつもほんわかと笑っている高橋が、テンパった顔でモジモジとする。たったそれだけのことが、これほどに破壊力があるとは思わなかった。この高橋を目の当たりにして惚れない男はいないんじゃないか、と男女を問わずクラスメイトの誰もが思った。


「さすが高橋さん、知らないところでも主役だね」


 そして何よりも、その隣で泰然自若としている和井田がすごかった。そのメンタルは間違いなく鋼鉄製。「おい、お前も当事者だぞ」と突っ込みたいが、本人バレしたので少々後ろめたく、誰も突っ込めない。


「あ、あのねえ、健くん!」


 そんな和井田に対し思わず叫んだ高橋。だが失言に気づき「あ、やばい」という感じで口を押さえた。


 んん?

 とある一人を除いて、クラスメイトが首をかしげた。


 「健くん? 名前で呼んでんの? それって……」と皆が同じ疑問を脳裏に浮かべ、唯一の例外である女子生徒、美術部・武久由美がクックックッと肩を揺らして笑い始めた。


「由紀、あんたさあ……」


 親友・平山がジト目で高橋を見る。


「ひょっとして、もう和井田くんと付き合ってる?」

「え、ええっ、ここで聞く? あとでじゃダメ?」


 もう答えたようなものである。

 愕然とするクラスメイトたち。そんな中、武久がとうとうこらえきれなくなり、声をあげて笑い出した。


「武久! お前知ってたな!?」


 新聞部・桜田が思わず声を上げる。


「いやいや、知らなかったよ。私が知ってるのは『私、告白する』て決意表明を聞いたところまで」

「知ってるようなものだろうが!」

「だーって、本当に告白するかどうかわからなかったし。いいじゃん、みんな楽しんだでしょ?」


 そうだよ、こういうやつだったよ、とクラス全員が天を仰いだ。

 なまじ美人でいつもニコニコしているから騙されるが、武久は「面白そう」と思ったらとことんやってしまう、かなりぶっ飛んだところのある性格なのだ。

 ほんと、タチが悪い。


「……んで、その決意表明を聞いたのは、いつ?」


 さすがのお嬢様・佐々岡も怒る気も失せているらしい。ため息をつきながら淡々と問いただした。


「おととい」

「はーん、そう。てことは、告白は昨日?」


 佐々岡の言葉に、クラスメイト全員が高橋を見た。

 ここまできて「教えない」は許さない。

 その無言の圧力に高橋は気圧され、モジモジとしながら和井田の背中に隠れるように下がってしまった。


「ん? どしたの高橋さん?」


 この状況でも和井田は平然としている。ひょっとして神経の繋がり方が普通の人間とは違うのではないだろうか。皆がそんなことを感じたときに、図書委員・山岡が和井田に尋ねた。


「和井田ぁ、お前、高橋さんと付き合ってるのか? いつからだ?」

「……答えていいですか?」


 和井田が振り返り尋ねると、高橋が真っ赤な顔をしながらコクコクとうなずいた。

 ああ、もう決まりだね、と全員が一斉に立ち上がる。そして静かに机の下に手をかけ、和井田の答えを待った。


「昨日の夕方、告白されて、です」


「だあーっ、こんちくしょー!」

「くそったれがー、オメデトウだゴラァッ!」

「ああもう、あとで詳しく聞くからね、由紀!」

「こんぐらちゅえーしょーん!」


 ドカドカドカァン!

 クラスメイトたちは机をひっくり返して苛立ちを発散させた。

 そして、二人に対し祝福の言葉を叫び、盛大な拍手を送った。


 ここに、新聞部・桜田が提案した議題は結論に至り、全てが解決したのであった。


大・団・円♪

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