その13 本題・告白の方法 ~ 海老澤の補足
題は『羽ばたく君への愛の詩』
(by 海老澤 菜月)
「ほい、議長」
硬直した空気を和らげるかのように、どこか間の抜けた口調で、自分の世界から帰ってきた海老澤が手を挙げた。ちなみにその手元には、全四十ページにもなる堂々たる大作のネームが出来上がっている。なぜかその主人公は二人とも男である。果たしてどのようなストーリーとなったのであろうか。気になるところであるが、それはまた別のお話である。
「加賀っちはちょーっと心に傷を負ってるみたいだけど、でも、告白は男から、ていうのは賛成かな?」
「傷なんて負ってません、現実を知っただけです」という加賀の叫びはスルーし、海老澤はコホンと咳払いした。
──海老澤の補足
やっぱさ、女ってのは、男から告白されるっていうの、憧れてると思うよ。
そうでしょ?
まあ私が言うと説得力ないかもしれないけど……うーんと、そうだね、例えば……
(※海老澤、前に出てホワイトボードに頬を染めて向かい合う男女を描く)
こういう絵を見たときにはさ、大抵の女子は思っちゃうわけよ。
この女の子、いまからこのイケメンに告白されるんだ、てね。
いや、どっちともとれるよ? そういう風に描いたからね。
でも、パッと思うのは、やっぱり女の子が告白される、じゃないかな?
なんでだろうね?
恋愛においては女が主導権を持つ、てのは私も賛成だけど、それでも「選んでもらいたい」て願望があるのかな?
ちなみに男子はどう?
あ、女の子が告白すると思った? そっちが多いんだ。
へー、男と女で捉え方が違うんだね、いやマジで参考になります。
てことはあれかな、男女とも、相手に告白されたい、てことかな?
話がそれちゃったね。
私が言いたいのは、高橋さんも女の子だ、てこと。
やっぱ彼女も、好きな人に告白されたい、て思ってるんじゃないかな。
それに。
あれだけモテる高橋さんが、本当に好きになった人から告白されたらどんな顔すると思う?
それってさー……ちょっと、見たくない?
──海老澤の補足、終わり。
「「「見たーい!」」」
女子の声が一斉に上がり、教室の中は黄色い歓声で満たされた。
「いやいや、議論してるのは二人の恋を成就させるための方法だろ?」
「うるさい、それはそれ、これはこれ!」
最弱ヤンキー・藤原のツッコミに、隣にいた高橋の親友・平山が即座にツッコミ返した。
きゃあきゃあと騒ぐ女子にこめかみを押さえながら、来賀がガベルを叩く。
「論点がずれている気もするんだが……」
静かになった教室内に、来賀のため息が響く。
「それで、だ。つまり、告白は男子からすべき、なので高橋さんからというのはありえない、ということでいいのか?」
来賀が女子の意見をまとめると、女子の大半がうんうんとうなずいた。
「……ということだが、男子、反論は?」
来賀が尋ねると同時に、女子がジロリと男子をにらんだ。その迫力に男子一同がたじろぐ。
こんな圧力の中で、意見など出せるはずがないではないか。
男子の誰もがそう思った中、教室後方に陣取る三人の男が挙手をした。
男のコは負けない