その11 本題・告白の方法 ~ 松井の意見
目指すは明石トーカロ球場
挙手したのは、軟式野球部所属の松井真斗だった。甲子園を目指して汗にまみれる高校生活を夢見たものの、残念ながら本校に硬式野球部はなく、泣く泣く軟式野球部に入った野球少年である。
進学先の部活動ぐらい調べておくべき。それが彼が高校入試で得た教訓だ。
「はい、松井」
「どうもです」
松井は静かに立ち上がると、注目するクラスメイトに軽く会釈した。
──松井の意見。
田島、植村の意見、とても興味深く聞かせてもらった。
どちらの言い分にも説得力があるけど、植村の意見は非常に的を得ていると思う。これを論破するのは至難の技だ。いや、論破しようとすれば議論のための議論になると思う。
そこで、僕は発想の転換を提案する。
発想の転換なんて言ったけど、そんなに大げさなことじゃない。
田島、植村の意見の大前提を変えるだけだ。
そう、和井田が高橋にではなく、高橋が和井田に告ればいい。
ああ、そうだな、うん、高橋は和井田に告るのを躊躇していた。その通りだ。
でも、胸に秘めておくには気持ちが大きすぎて、誰かに聞いてもらいたかったのではないか、武久はそう言っていたよな。
だったら高橋を励まして、和井田に告らせるのはそう難しいことじゃない。
それで断られたらどうするんだ、て?
それについて僕は心配ないと思う。
『高橋さんが僕なんか相手にしないでしょ』というのは、和井田の勝手な自己評価だ。
そしてその自己評価はすでに崩れている。高橋はどう見たって、和井田が好きなんだからな。
それに、和井田も高橋が好きなんだよ。
確証はない?
いやいや、さっき田島が言っていたじゃないか。一緒にお昼ご飯を食べ、放課後も一緒に帰っていると。
嫌いな女の子とそんなことするか?
ひょっとしたら恋愛感情なんてなかったのかもしれないけど、あれだけ仲良くしていたら意識するだろ?
忘れるなよ、和井田だって思春期の男子だ。
体のサイズを測ってそっくりな人形を作った、そんな女子を全く意識しないなんてありえないよ。
そうだろ、男子。僕たちは、男子ってのは単純なんだよ。
だったらここは、高橋の背中を押してやり、和井田に告白させればいい。
それこそシンプルで簡単な方法だと、僕は思うよ。
──松井の意見、終わり。
「フランスへ行くつもりだから断るんじゃないか、ていう問題はどうなるの?」
松井の意見に対し、お嬢様佐々岡がすぐにツッコミを入れた。
「それは、問題ではないと思う」
ざわめきを横目に、松井は一呼吸置き続けた。
「田島が言った通り、和井田が真剣に考えた結果であれば、受け入れるしかない。僕たちが納得いかないのは、和井田が高橋の気持ちを全く考慮せずにフランス行きを決めることだ。高橋の告白に対し真剣に考えた結果であれば、受け入れるしかないと思う」
「冷たいじゃないか」
「これは和井田と高橋の問題だ。我々がやっているのはあくまでおせっかい。気持ちを伝えた後のことは、当人たちの結論が全てだ。それこそが本当の意味で二人を見守ることだと僕は思う」
その言葉で締めた松井は、静かに腰を下ろした。
「ちょ、最後の言葉、なんか重くね?」「まあ言う通りだけどね」「でもちょっとドライな感じ?」「でも私らが付き合ってくれ、ていっても当人次第だしね」「うーん、むずかしいね」「私は松井の意見がしっくりくるな」
しばらくざわめくままに任せていた来賀だが、頃合いを見てガベルを叩き、「静粛に」と告げた。
ざわめいていた教室が一瞬で静まる。
それを見て、来賀が次の言葉を発しようとしたその時、一人の女子の力強い叫びが教室に響いた。
力強い叫び……まさか




