その10 本題・告白の方法 ~ 植村の反論
意見あれば反論あり。
「議長!」
もうこれで結論じゃね、という雰囲気の中、男子生徒の一人が挙手をした。
「どうぞ」
「今の田島の主張だが、重大な問題点があると思われる」
いきなりそう切り込んだのは、植村啓介。副委員長である荻野の中学以来の友人であり、バスケ部のエースだ。ちなみに彼は体操部・岡部のことが好きなのだが、今のところ恋が成就する様子はない。
「問題点?」
植村の言葉に、田島が眉をひそめた。
植村は「そうだ」とうなずき、口を開いた。
──植村の反論。
さっきの田島の意見、なるほどもっとも、筋の通った意見であり、何の問題もないように思われる。
だが、田島の意見には大きな問題があり、その解決方法を別途検討する必要がある。
何が問題かって?
どうやって和井田に告らせるか、だ。
……おいおい、きょとんとした顔するなよ。
田島の意見は、和井田が高橋に告白する気がある、というのが前提になっている。
だがその前提が怪しくないか?
桜田、お前言ってたよな。和井田に高橋と付き合ってるのかと聞いたら『いやー、高橋さんが僕なんか相手にしないでしょ』と言った、と。
そう、それがすなわち、和井田の本心だ。
高橋があれだけ分かりやすいアピールをしているというのに、和井田はそのことにまるで気づいていない。
そんな和井田に告白しろと言っても「え、なんで?」て返されるかもしれないぞ?
そうしたらどうする?
「高橋はお前のことが好きなんだから、告白してやれ」とでも言うつもりか?
おいおい、待ってくれよ、それって本当に告白か?
俺たちに言われたから仕方なく、とかにならないか?
いや、和井田のことだから、告白する以上はちゃんと考えて告白するだろう。そこまでひどいやつじゃない。
だが、受け取る方はどうだ?
「みんなに言われたから仕方なく言ってくれただけじゃないか?」なんて高橋が思ったらアウトじゃないか?
女子のみんなに聞きたい。
告白されるなら、誰かに言われたからではなく、本当に自分のことを好きになってくれたから、であってほしいだろ?
それに、和井田は人形作家という夢に向かって日々研鑽を積んでいる。
フランスへ行くことを視野に入れているなら、たとえ和井田が高橋のことを好きだとしても、「すぐに別れることになるから告白はしない」なんて考えているかもしれない。
そう、田島の言う通り、和井田が告れば全てOK。
しかしそれは、想像以上に難問だと俺は考える。
──植村の反論、以上。
教室にどよめきが走った。
「た、確かに」「言われてみればその通り」「告白はやっぱり心からしてほしい」「フランス行くこと考えてるなら、自分からは告白しないよね」「ひょっとして和井田に告らせるのってチョー難問?」
高橋由紀のスキスキアピールを受け続けてなお泰然としている和井田健。そんな彼がそもそも告白をするのか、という大前提と根本を揺さぶられた反論に、田島も言い返すことができず、ううむとうなった。
「……植村の意見は、確かに盲点だったな」
来賀のつぶやきに誰もが頭を抱えた。全てが一気に解決される、和井田に告白させるという方法は、その大前提が最高の難問のようだ。
「ならば別の方法をとるしかないでしょう」
早くも議論は袋小路か、と思われたその時、一人の男子が発言を求めて挙手をした。
スキスキアピール♪




