その9 本題・告白の方法 ~ 田島の主張
必要なのは、愛と勇気。
「では二つ目に戻ろう」
来賀の発言に、クラスメイトが姿勢を正した。
「『お互いに告らせて恋人と認め合う』ための方法、要するに、彼らに告白させる方法となる。意見のある者は?」
すぐさま数人の男子が挙手した。
「では、田島」
「はい」
指名されたのは田島浩志。お笑い大好き人間であり、将来は芸人を目指している男子だ。
「この件、俺はそんなに難しくないと思う」
いきなりの発言に、教室内がざわついた。
「なんでそう言えるのー?」「告白って大変なんだぞ?」「そうだそうだ、したことあるのか?」「お前適当なこと言うなよ!」「簡単ならとっくにお付き合いしてると愚考いたす」
たちまちあちこちからヤジが飛び、来賀が「静粛に!」と注意を促した。しかし、当の本人は動じていない。まるでつかみはOK、と言わんばかりに、余裕の表情で咳払いをした。
──田島の主張。
まあみんな落ち着け。これから順を追って話そうじゃないか。
これまでの話から、高橋さんが和井田を好きだということは間違いない。そうだろ? 休憩時間はいつも話をしているし、時々お昼も一緒に食べている。
あ、平山、知らなかった? ああ、お前わりと部活の集まりで昼にいないもんな。文化祭以降、お前が部活の集まりに行っているとき高橋さんは和井田とお昼を食べていることが多いんだよ。
それに、放課後もよく一緒に帰っているからな。あれで付き合ってない、てのが驚きだが、二人とものんびりしてるからな、それはそれでいいと思う。
まあ、決定打はさっきの武久の話だ。「好きって言ったら迷惑かなあ」とつぶやいたというあれ。
うおっ、なんだよ海老澤、いきなり叫ぶなよ。びっくりするじゃないか。
ああ、まあ、確かにな、うん、尊いな。乙女心にビンビンくるな。俺乙女じゃないけど。
ああ、がんばって表現してくれ。
……こほん。
あー、つまりだ、高橋の気持ちはもう決まっている。ということは、和井田に告白させれば万事解決、高橋が断る理由はない。
それに和井田が告れば、最大の問題が一気に解決する。
そうだ、自分から告っておいて、フランスへ行くからさよなら、とはならないだろう。
夢を追いかけるにしても、あいつは自ら告白した高橋のことを真剣に考えるはずだ。三浦が言ったように、和井田が「迷わず」フランスへ行く、ということはなくなる。悩んだ挙句、高橋と別れるかもしれないが、それはもう本人たちの問題だ。人生がかかった決断で、女のために夢を捨てるのか、女を捨てて夢をとるのか、こんな究極の状況に正解はない。
俺たちはただ、二人が夢を実現し、愛も貫いてくれることを祈るだけだ。そうだろ?
──田島の主張、以上。
「……とまあそういうわけで、シンプルだろ?」
教室内がざわついた。
「むむっ、説得力ある」「確かにな。和井田が告れば万事解決か?」「自分から告っておいてあっさり捨てる、なんてないだろうしな」「そんなことする奴は別れた方がいいって」「夢を追う男を見送る女って素敵じゃない?」「悲しいけど、きゅんとくるね!」「なんかいきなり決着?」「やるな芸人志望」
「はいはい、静粛に!」
パンパン、と来賀が手を叩いた。しかしあちらこちらで議論が行われているようでなかなか静かにならない。
そのとき、無言で新聞部・桜田が前に出て、教卓にガベル──欧米の裁判所で「静粛に」と言いながら叩くあれ──をそっと置いた。
「……お前、準備よすぎだろ」
呆れつつも、そろそろ手と喉が痛くなっていた来賀は、ハンマーを手に取りガベルを叩いた。
ガンッ、ガンッ、ガンッ。
「静粛に」
お作法通りにガベルを叩き、叫ぶ来賀。教室内は一瞬で静まり返り、全員が来賀に注目した。
「議論が進まない。意見がある者は挙手してください」
「来賀ちゃん……ちょーかっこいいでやんす」
ビシリと言う来賀を見て、フランス人・桜田がぼそりとつぶやき、女子がうんうんとうなずいた。
「……ありがとよ」
ぶっきらぼうに答えつつも、まんざらでもない来賀。
来賀が将来裁判官を目指すことにしたのは、これがきっかけだったとか、そうでないとか。
それはまた別の話である。
アマ◯ンなら2,000円くらいです。




