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79話 大賢者である私は提督になる

 それは奇跡だった。

 空から降ってきた光の筋がタルビアの眼前のモンスターを貫いた。

 それはとても細い線の様な白い光だった。

 光に貫かれたモンスターは動きを止める。

 そして一瞬で白い光の球に包まれ光の球が消えた時、光の筋に貫かれたモンスターも消えていた。

 まるで光の球に一瞬で焼かれてしまったかの様だった。


「奇跡じゃ!」


 タルビアは驚くが、驚いたのはタルビアに限った事では無かった。


 間髪を入れず、数多の光の筋が一直線に雨の様に降り注ぐ。

 光の筋はモンスターを外す事無く正確に貫いていく。

 無数の光の大輪が咲き、消える。

 瞬く間に防陣付近の敵は一掃された。

 それは幻想的で美しい光景だった。


 野次馬として崩れた防壁を見に来た人々は瓦礫に登り、その美しい花火をみた。

 ミウリとワトルーも空から降ってくる光の雨を見て理解した。


<ミリーお姉ちゃんだ!>


 二人も瓦礫に登り、光の雨がモンスターを消滅させていく様を見た。


「きれい!」


 先程までの恐怖は微塵も感じなくなった。

 感覚が麻痺し、勘が働いた訳ではないがミウリは安堵した。 

 やがて、防陣付近のモンスターがことごとく消滅させられ防陣とモンスターの距離が離れた。




 それを最初に見つけたのはミウリだった。

 あっ、と叫び天を指差す。

 周囲の人がその声につられ天を仰ぎ、そして見た。

 空からゆっくり降りてくる天使とその軍勢を。


 それはミリーだった。

 光の羽が生えたミリーがゆっくりと降臨してくる。

 その隣にはミリーの同じ形をした光るオトプレが控え、その背後に大きな光球が30程と数え切れない小さな光球がミリーに従って降りてくる。

 その光景は、神話でも見ているかの様だった。

 神の使いと光の軍勢が、魔の軍勢を蹴散らしているのだ。


「俺!皆を呼んでくる!」


 そう言って、一人の野次馬が瓦礫を降りて走り出した。

 その男こそビフテでミリーのヒーラー登録を叫んで回った健脚自慢の男だった。

 男は観光のため10日前からウノユに滞在していたのだ。

 かくして、都市の住人全員がこの光景を目の当たりにすることになるのだった。




「派手ですな」


 ミリー登場を見届けたセバが呟いた。


「ええ、呆れるくらいに派手ね」


 リリーも呟く。


「お姉様、ミリー様は神の軍勢を引き連れて来たのですね」


「ええ、ミリーならきっとそれも可能でしょう」


 サファとミルファも神々しいミリーとその一団に見惚れながら祈りを捧げるのだった。



 ミリーの生み出した2000の軍勢は光り輝き、周囲を明るく照らす。

 ミリーは将軍の頭上5m位の高さで降下を停止した。


「半円陣を敷いて!」


 その言葉の直後、ミリーの従えてきた光球が、ミリーの言葉の通りに隊列を整えながら移動ていく。

 20秒後には、防陣の更に前に整然とした半円陣となって整列している。

 光球の高度は1m位だ。


「ミリー様!」


 ミリーに話しかけたのは将軍ラーボック・バラエだ。

 ミリーはノリノリだった為ちょっと機嫌が悪くなったが、気を取り直して将軍の呼びかけに応じた。


「将軍さん何かな?」


「ミリー様の引き連れているそれは一体?」


「これは我が光の艦隊だよ。私の事はこれから提督と呼んで」


 バラエ将軍はミリーの言葉の意味が理解できなかったが、とりあえず頷いた。



 ミリーいや、ロゼシアスタには勇者アヤメから聞いた話で尤も衝撃を受けた概念があった。

 それは『宇宙』である。

 その概念はロゼシアスタを仰天させた。

 この世界でも天空をどこまでも昇っていけば宇宙に出る。

 その宇宙をどこまでも行けば、やがて他の星にたどり着く。

 ひょっとすると、この世界とアヤメの世界も繋がっているかも知れない。

 そう考え、ロゼシアスタを大興奮させたのだった。

 そしてアヤメから聞いた空想の物語の中に、宇宙を進む艦隊同士が艦隊戦を行うというものがあった。

 その壮大な物語に胸をトキめかせて超絶暇人ロゼシアスタが作った極大魔法。 

 それがたった今ミリーが使用中の魔法である。


 最終決戦艦隊魔法『常勝と不敗どちらを選ぶかが悩みどころだ』


 今、ミリーはノリノリで艦隊司令気分なのだ。

 そんな事情をバラエ将軍が知る由もなく、戸惑うばかりだった。


「それでミリー提督。我々に何か出来る事はありませぬか?」


「戦いづめで疲れたでしょ。ここは私に任せてこれから始まる殲滅ショーを見てて」



 先程開けた距離をモンスター達が詰めてくる。

 再び接触するまであと10m位に迫っていた。


「マスター」


「まだだよー」


 片手を上げながらミリーはモンスターの群れを引きつける。

 距離5m程となったその時、ミリーの手が動いた。


「全艦発射!」


 指示と共に上げた手を前に振り下ろす。


 一斉に光球(艦隊)から光線が発射され、モンスター達を光と共に無に帰していく。

 敵を引きつけた行為にほとんど意味は無い。

 光線の射程はおよそ300mでそれまでは威力が落ちない。

 5mまで引きつけたのは雰囲気をミリーが楽しんだ為だった。


「オトブレちゃん。2艦隊程連れて上空100mから、各階層ボスに集中砲火を浴びせてきて。あとステルスモードで」


「了解しました提督」


 オトブレはそう発すると姿を消した。


 今回ミリーは30枚、オトプレが1970枚の札を作った。

 『ミリー艦隊』の光球の正体はこの札だ。

 ミリーの作った札は人の頭程の大きさの光球に変化し、オトプレが作った分は握りこぶし程度の光球に変化した。

 大型球が指令中継役で、小型球65〜66体が各指揮下に入る。

 今回のミリー艦隊は、1隊67体×20と、66体×10による30部隊の編成だった。

 ミリーの作った大型球は高性能でミリーが指示すれば敵を同時に50匹狙って50本の光線を放つ事が出来るのだが、今はそこまでフル稼働はしていない。


 因みに30隊の内、ミリーのコントロールで1隊を都市外周、都市内防衛に当たらせていた。

 ミリーの作った大型球は索敵能力が高い。

 都市中央上空150mの位置に配置し、子機を等間隔で外壁沿いに配置していた。

 お陰で夜陰に紛れてこっそり都市内侵入しようとしたイビルリザード等の侵入を許すことは無かった。  


 程なくして、上空から集中砲火が起きた場所があった。

 階層ボスだったのだろう。

 オトプレは次々に階層ボスを狩っていく。

 上空から突如降ってくる光線にボス達は成す術がなかった。


 しかし、ミリーのこの魔法はとんでもない魔力を消費する。

 総数2000体の光球の維持費にミリーの魔力半年分と光線使用分で1年、計1年半分の魔力を消費する見積もりなのだ。

 ミリーが地上まで降りてきたのも、効率を上げる為だった。

 上空からの垂直射撃では、1回の攻撃で2000匹しか刈れないが、高度を下げて水平からの射撃に変えれば、射程一杯まで何匹も貫通するので、一回の攻撃で数千匹刈れる。



 ミリーはオトプレが集中砲火を浴びせた位置と距離、数で現在出現しているモンスターの階層を把握していた。

 オトプレはどんどん遠ざかって行く。


<各階層ボスは4匹づつだから現在19階層ボスを殲滅中ってことか>


 ミリーの側は射程300mまでのモンスターをあっという間に殲滅してしまうので、敵をひきつけて殲滅し、次が近づくまで休憩と休み休み戦っていた。


「斉射3連!」


 何回目かの殲滅戦だろうか。

 ミリーの雰囲気で言った意味の無い指令を受けて光球が3連で光線を放つ。

 光線は違わずモンスター達を貫いていく。

 リビングアーマーだろうが、動く魔像だろうが関係なく、等しく光線はモンスターを貫く。

 この光線は無属性だが、とんでもなく威力が高かった。


「提督、戻りました」


 オトプレがミリーの隣に戻ってきた。


「おかえり。20層のボスはドラゴンだった?」


「はい、ダークドラゴンでした」


 副官を演じているオトプレの回答にミリーは満足げに頷く。

 ミリーはスタンピードの終わりの位置を把握した。 


「じゃあ今度は10艦隊連れて一番後ろから挟み撃ちで。フレンドリーファイアにならない様、こちらの射程300m以内には入らないようにね」


「了解しましたが、提督そろそろ」


「ああ、そうだねー。リリーに伝えから行って」


「了解しました」


 アヤメに教わった敬礼してオトプレがまたも消えた。


 さて、フィナーレも近いね。

 腸が煮えくり返ったヤツがそろそろ動くだろう。

オトプレちゃんが甲斐甲斐しい。

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