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71話 大賢者である私では無く将軍さんの視点なのです

 私はラーボック・バラエ。

 アラバスタル王国の近衛騎士にして、将軍の職にある者だ。

 近衛騎士団長はアレク様であるが、政務に忙しい方なので副長でもある私が代理も努めている。

 本来、近衛騎士団の副長が将軍職を兼ねる事は無い。

 近衛の役割は王の護衛だが、『王の拳』として近衛騎士団小隊長6人の内より上位2人が将軍として近衛軍を率いる。

 副長、団長は将軍の上に立つ者で軍の指揮権も当然持つのだが、前任のブレイド様が辞められてしまった為、異例の措置ではあったが私が副長兼将軍となったのだった。


 この国は英雄王ティーバ王の時代より拳闘に重きが置かれている。

 だから近衛騎士に限らず、王国騎士、王国戦士に至るまで格闘が一番実力を発揮できるが、武器が使えない訳ではなく、一通の武器は扱える様に鍛錬を積んでいる。


 今回は王のウノユ視察の護衛として同行したのが、それは表向きの話。

 昨今の平和な時代、都市視察の護衛に近衛騎士300名は必要ない。

 アレク様からスタンピードの可能性ありと聞いていた。

 ウノユまであと2日というところで、早馬にてアレク様の書簡が王の元に届けられ、王よりその書簡と指示書を渡された。

 驚くべき内容だった。

 魔王の誕生もしくは復活。

 ダンジョン5つからなるのスタンピードによる王国への侵攻と、それが明日にでも起こりかねない現状。

 聖王国の聖女様と、未発表ながら王国の聖女になられるお方が既にウノユ入りしている事などが書かれていた。

 また、指示書にはウノユに急行し、防衛に任に当たる事、聖女様に万に一つの事故も無い様にと書かれていた。


 聖王国のパレサファイール聖女様にはこの度の訪問で既にお会いしていたが、我が国の聖女候補様にはウノユで初めてお会いした。

 初見での印象は、『小さく可愛らしいお嬢さん』だった。

 しかし、軍議の席にセバ殿にぐるぐる巻にされて担がれて来た時には、とんでもないじゃじゃ馬であると思い知らされた。 

 しかもその状態でリリー様と冗談を飛ばしあっていたのだ。


 軍議の中でリリー様が、殲滅力が高いからという理由でミリー様を前線に出す事を希望した時には肝を冷やした。

 古今東西、聖女様は癒やしの力に優れた存在であり、対3悪属性ならともかく、殲滅力に優れるとは聞いた事がない。

 それにアレク様の指示とも反してしまう。

 この時は、サファ聖女様の発言により、リリー様が折れてくれた。

 しかし、決戦の日、私はリリー様の発言の意味を理解させられる事になったのだった。


 戦闘開始後しばらくは順調だった。

 しかし、敵が強くなって行くに従い、回復ローテーションが鈍くなっていく。


 当然ではあるが、部下や戦士達が如何に歴戦の兵といえど、こうも休み無く、次々に襲いかかられては負傷し易くなっても仕方がない。

 しかも回復班の聖女様やヒーラー達も回復し続け、疲労が重なっていくし、魔力ポーションの数にも限りがある。

 なにより、回復を受けた者も疲労までは回復しない。

 戦力も回復力も低くなっていくばかりだ。


 スタンピードが恐ろしいものだとは頭では理解しているつもりだったが、ここまで精神を疲弊させ、絶望感がのしかかる物だとは思わなかった。

 敵は数も、勢いも衰えず、徐々に強くなっていく。

 皆、よく諦めること無く戦ってくれている。

 私は打開策を考えるが、何も思いつかなかった。

 もし、手立てがあったとしても余力など残っていないのだが。


 更に時間が過ぎ、私は考える事を放棄していた。

 ただただ、味方を鼓舞し、敵を屠ることに追われていた。

 この時の私は部下を鼓舞しながらも諦念に囚われていたのだと思う。

 セバ殿とブレイド様がボスを倒してくれた。

 異国の聖女様であられるサファ様が回復班に志願してくれた。

 王が、リリー様が、皆が必死に戦ってくれている。

 しかし、全てが無駄になるのも時間の問題だろう。

 ウノユに住む人々、ひいては王国を守りきる事が出来ないのは無念だが、限界の時は近い。

 既に回復ローテーションが機能しなくなっており、防陣は後退を続けている。

 この防陣が決壊した時、一気に都市内にモンスター共が流れ込み、蹂躙劇が始まるのだ。

 そしてこの都市を蹂躙した後、暴虐なるモンスターの群れは王都を目指し、この国は滅びる。


 その時はもうそこまで迫っている。

 滅びの始まり、その瞬間が。


 じきに防陣が崩れモンスター共がなだれ込む。

 セバ殿、ブレイド様が如何に強者と言えど、都市内へのモンスターの流入を何時までも留めてはおけないだろう。

 都市内になだれ込んだモンスター共はまず、一番近くにいる回復班や負傷者を襲う。

 抵抗はするだろうが、その抵抗は虚しい結果に終わるのだ。

 そうなれば、我々とて虚しく躯を晒すしかなくなる。


<神よ! 奇跡を!我々に奇跡を!>


 無能な私は、槍を振るいながら、只々神に祈るしか無かった。






 私の願いが通じたのだろうか!

 予想外の事が起きた。

 都市内より一気に戦士たちが出てきて、防陣を強化した。

 驚いた事に戻って来た者は元気になっていた。

 疲れも無く、気力がみなぎり、正に戦闘を開始する前の状態に戻っているのだ。


 回復して戻って来た部下の言葉が聞こえた。


「負傷したら早めに回復いってこい!G様スゲーぞ!」


 <G様? グレートマムか!>


 我が国の聖女候補、グレートマム。

 幼く見えるが15才だという彼女が、負傷者全員を全快させたというのだろうか?

 いくらなんで荒唐無稽な話だが、現実に負傷者達は全快して戻ってきた。



 不思議だ、回復に向かった者が直ぐに戻って来るようになった。

 しかも、負傷が全快しただけでなく、疲労も完全回復して戻ってきている。

 これも、ミリー聖女(候補)様の奇跡の力なのだろうか?


 防陣がじわじわと敵を押し返していた。

 通常では在り得る話ではない。

 宰相殿と、近衛魔道士のクーンが大魔法を出し惜しみ無く使い始め殲滅速度が上がったのもあるが、明らかに味方が徐々に強くなってきている。


 この嬉しい謎の原因は直ぐに判明した。

 防陣に余裕が出てくると、怪我をしていないが疲労した者が回復に向かうようになった。

 私も部下に勧められ、1度だけ回復に向かった。

 皆光る石畳の上を通って行くだけだ。

 それだけで、回復し、強化された。

 私の番になった。

 光る石畳はなにか模様が刻まれていて、その模様が光っていた。

 その模様の上を2つ通り過ぎると、蓄積した疲れが吹き飛び、

 やる気がみなぎってきた。

 それだけでなく、力、敏捷性、知覚力などパワーアップした感覚になった。

 この模様2つの上を通るだけで済むというのなら、この回復ローテーションの異常な速さも頷ける。


 サファ様に事情を聞くと、やはりこの模様を作ったのはミリー様だという。

 サファ様は興奮気味に、ここで起きたことの一部始終を語ってくれた。

 なんという事だろう。

 ミリー様は並んでいた負傷者全員を瞬時に回復し、この聖紋(と言うらしい)を作った。

 これまでの窮地をたった一人で押し返す奇跡の数々。

 正にアレク様やリリー様が気にかけるはずである。

 私の願った奇跡をミリー様が叶えてくれたのだ。

 ミリー様は状況確認する為に外壁の上に向かったらしく、会えなかったのだが。


 私も前線戻り、敵を屠る。

 不思議だった。

 あれほど苦戦した硬い敵すら問題にならない。

 急に弱くなった感じすら受けるのだ。


 しかし、私は、いや私達は最大の失敗をした事に気づいた。

 飛ぶ敵の存在は予測していたが、壁を登る存在は完全に失念していたのだ。

 最初にトカゲ型モンスターを発見した時、私はトカゲを突き殺しながらも自分たちの犯した失敗に愕然とした。

 防陣の無い側の外壁から登られてしまったら……

 ここで折角優勢に転じる事が出来たというのに何という事だ!



 しかし、再び奇跡が起きた。

 奇跡を起こしたのは、またもミリー様だ。

 そして、この奇跡を目の当たりにし、リリー様の言葉の意味がようやく理解できた。


 外壁の上端に何か光る模様のようなものが浮き出て、トカゲ達を吹き飛ばし出したのだ。

 巨大送風の奇跡と言うべきだろうか?

 都市を全体を覆う外壁全体から凄まじい風を吹かし続けるなど、魔道士の魔法では絶対に不可能だ。

 まさに神の御業だった。 

 モンスター達は都市を目指すことしか頭に無いため、待ち構える迎撃の風に自ら飛び込んでいく。


 自然と歓声が上がる。

 誰もがミリー様を讃えた。

 私は理解した、彼女は神の遣いである大聖女様なのだ。

 その破格な力は他の追随を許さない。

 この力を前にすれば聖王国のサファ聖女様も赤子のようなもの。

 神は我が国の民を救うため、ミリー様を遣わしてくれたのだ。

 大聖女ミリー様がいれば、この戦いも怖くは無い。

 例え、相手がドラゴンや魔神だったとしても。

ドラゴンが来る〜

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