70話 大賢者である私にはやっぱ攻めが似合う
ん? よく考えたらポーションを全部、不思議な光の精霊モードのオトプレちゃんに運ばせれば職質なんて受けなかったんじゃね?
と、思った。
今更なんだけどね。
私は回復班をサファたんに任せ、防壁の上に来ている。
防陣の方はといえば、ジリジリと押し返している最中。
オトプレちゃんの作った回復陣は、疲労も綺麗さっぱり回復してしまうからねー。
それが判ったからか、疲れが溜まった人も回復に向かっている様だ。
敵もだんだん強くなっているようだけど、こちらの殲滅速度も上がっている。
理由は簡単、宰相のお爺さんと、クーンがえせ薬を飲んだかららだね。
二人のところから大魔法がバンバン飛んでいく。
出どころを知らないとはいえ、私の魔力を遠慮無く使うね、全く。
まあ、あの程度の魔法なら1発あたり、私が1日に自然生成する魔力の1%くらいだけどね。
現在の私の魔力ストックは毎日魔力を自然生成した量の15年分だ。
だから、13人に魔力供与したところでビクともしませんよ。
彼女達の使用する蛇口は口が小さいからね。
そういえばさっきクーンの奇声が聞こえたけど、聞かなかったことにしておこう。
私の為にも、彼女の為にも。
これは封印されるべき記憶………のはず。
「聖女様」
話掛けられた。
この声は都市長さんかな?
今、大事なところなんだけどな。
「都市長さん、こんにちは」
顔が合うと都市長さんは少し困ったような表情をした。
なんだろうね。
「回復班の様子を上から見ておりました。聖女様のお力で一気に押し返す事が出来ました。有難うございます」
その声は嬉しそうだ。
悪い気はしないんだけどさ。
まだ先は長いよ?
「気を抜いちゃダメだよ。まだ始まったばかりだから」
「え…」
「忘れているの?まだ1個目のダンジョンだから4個分が残ってるよ?」
その言葉に都市長の顔は一気に真っ青になった。
「地震が立て続けに起こったと聞いたから、ほぼほぼ同時にスタンピード起こすからね。一気に今の4倍くるよ」
恐らく、そうなるだろう未来を話しておく。
それが向こうの意図だろうからね。
「聖女様には勝算がお有りでしょうか?」
恐る恐る都市長さんが聞いてきた。
私に勝算を聞いてどうするの?
指揮は将軍さんが採ってるんでしょうに。
まぁ親切な私は考えの一部を話しておくことにしようか。
逆に今は、それ以上の事は言えない。
「私が賭けに勝てば、かなぁ」
「掛け、ですか……」
「今は賭けに勝つことを祈っていて。あと今は大事なところだから少し集中させてね」
「判りました」
都市長さんは私に期待をしているようだけど、期待する相手は私ではないよ。
全ては彼女次第だ。
今の内にモンスターの群れの観察しておこう。
ふむふむ、悪魔族はいない。
やはり、悪魔族は魔王直属と見たほうがいいかな。
となると、このダンジョンのラスボスでも出てこないだろう。
このダンジョン本来のラスボスってなんだろうね。
その時モンスター群れの中にトカゲぽいのがいることに気付いた。
おや、あればヤバいヤツ、略してヤバツーだね。
『オトプレちゃん、魔法いくよー。こっそりねー』
『ふう、この面積やるつもり?』
『上端1.5mだけでいいよー』
コレだけで意思疎通が成立するのは便利だね。
やっぱ、回復ばっかじゃーね。
私は攻める方が性に合ってるよ。
そして案の定、奴らは来た。
防陣側でも気づいたみたいだけど、気づくのが遅いよね。
私がいなかったら詰んでたよ。
モンスターが外壁を登らないとは限らないでしょうに。
あと飛行、浮遊タイプもいるかも知れない。
そっちの備えはオトプレちゃんがしてるし、そこの弓部隊もいるから心配してないけどね。
幸い今回、飛んでくるのはいないようだ。
しかしトカゲ達が防陣がない側の壁を登って来た。
防陣の方でも騒いでいる。
まぁ、乗り越えられたら終わりだからね。
乗り越える事が出来た、ならね。
トカゲ達の一匹が外壁上端に手をかけた瞬間、オトプレちゃんは魔法を発動させた。
外壁上端1.5M区間に魔法陣が浮き出る。
そして魔法陣から突風が吹き出す。
トカゲなど一瞬で吹き飛ばす風力だ。
意にも介さず乗り越えようとし、強制で吹き飛ばされて次々に背中から地面に落下していくトカゲ達。
習性で動いているのでしょうがないけど、おバカさんだね。
自ら進んで罠に飛び込んでいくのだ。
トカゲの名前は正確にはイビルリザードだったかな。
名前に反して3悪属性では無いけど、天井に張り付いて居ると気づかない事があるし、背後から音も無く襲って来る事もある。
人間の手足なんか簡単に食いちぎる強靭な顎を持つ、素早くて割と危険な奴だ。
哀れトカゲ達は地面や他のモンスターに当たり光の粒となって消えていく。
オトプレちゃんが使ったのは、
防壁魔法『振り出しに戻る。いやむしろ地獄に進むかな?』
である。
歓声が上がった。
手を上げて応えておくことにしよう。
オトプレちゃんの手柄は私の手柄、私の手柄は私の手柄なのだ。
悪い気はしないけど、守りに専念してね。
私は気を良くしつつ、遠くを見た。
そして、モンスターの群れの最後端を確認した。
お!もうちょっとでダンジョン1個目終わるね。
他の階層のボスはクーンと宰相の魔法で殺ってしまってるのかな。
そして群れの後端のその向こうに、大きなのがいるのが見えた。
『オトプレちゃんさぁ、あれ何だと思う?』
『マスターの大好きな奴ね』
『あ、やっぱそう見える?』
『ええ、それ以外には見えないわね』
やっぱそうか。
オトプレちゃんは私の大好きな奴と言ったけど、私が大好きなのは天然の方なのであって、ダンジョンモンスターの方じゃないけどね。
ダンジョンモンスターって倒すと光の粒になって消えちゃうじゃないの。
折角ドラゴンは素材の宝庫なんだからさぁ、素材が入らないドラゴンなんて意味無いよ。
無駄にタフでメンドイだけじゃん。
ましてやドラゴンの中でも獰猛なレッドドラゴンなんて、なおさらメンドイだけだよね。
補足するならば、ミリーはほっかむりを被ったままである。




