61話 大賢者である私の配属先
プレゼは驚いていた。
ミリーが抜けて、さぞかしションボリしたツラを見せられる事になると思っていた。
姉としては無言で酒を差し出すつもりだったのだが、予想に反しリッキーの表情は決意に満ちていた。
<へぇ、男のツラじゃないか>
「行くのかい?」
「うん」
その返事だけで十分だ。
ミリーは何か事情があってパーティーを抜けた。
弟達を巻き込まない為に。
よほど危険なのだろう。
それを知った上で弟は行こうとしている。
「じゃ、私も一時的に現役復帰するか。これでも元Aランク、まだまだ行ける」
「ブレイドさんもすぐ出立するって、皆に緊急招集を掛けた。強制は出来ないからね」
「ブレイドが…そんな事態になってるのか」
多額の予算を投じ、ミリーの動向を監視する為の作られたG様ネット。
実際の所、G様ことミリーはビフテにいることが多かったので、あまり役に立っていなかったがここに来てようやく役に立った。
108名の同志で結成されるG様親衛隊は高ランクの強者揃いだ。
彼らは自発的にG様ネットを活用するので現在G様がウノユに居る事と、ウノユに緊急招集が掛かっている事。
それらが数時間の内に全員に伝えられたのだ。
そしてG様親衛隊の面々は即日ウノユに旅立った。G様を文字通り守るためだ。
冒険者ギルド各支部も冒険者の派遣に全力を上げてた。
ビフテの星メンバーもウノユ行きに反対しなかった
リッキーからスタンピードの話を聞いた上での決断だ。
「ミリーのやつ、深刻が似合う柄かよ!」
「ええ、全くです」
ムッツとレトリーが憤りをあらわにする。
「ミリーは抜けてしまったけど、僕らは僕らで出来ることをする!」
その日、リッキー、ムッツ、レトリー、プレゼはウノユに向けて出発した
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私達がウノユに着いた翌日。
ウノユ都市長により緊急事態を発令させたウノユは現在慌ただしい状況真っ只中。
(ダンジョンのある都市は王家直轄につき領主がいない)
セバっちゃんもギルドの取り仕切りでとても忙しそうだ。
まだスタンピードは起こっていない。
そう考えると、案外ウノユのダンジョンのキャパは大きのかもしれないね。
現在市民の都市外への外出は原則禁止。
防壁門もダンジョン側の門は閉じられている。
そんな中、王様一行がウノユに到着した。
アレク王太子の話だと到着は明日のはずだけど
王太子の早馬の知らせを受け、急ぎ駆けてきた様だ。
出迎えたリリー王女や都市長に
「やれやれ老骨には堪えるわい」
と言いながらもこれから起こる事態に胸を高鳴らせているようだった。
ほんっと戦闘バカだね。
「聖女様もいらっしゃるとは心強いですな」
宰相さんもいた。
暇人なのかな?この二人。
私の事ももう完全に聖女扱いだし。
「王よ!緊急事態に付き、急ぎ軍議を」
私の知らない厳つい騎士が王に進言した。
んー、まぁ、一冒険者の私には関係ないか。
「まあ、軍議と指揮は将軍のお主に任せるわ。ワシは前線に出る」
やっぱりこのジジイはそうだろうね。
「承りました。リリー様、都市長お願いします」
将軍さんはそう言って、リリー達と都市長さんを連れて行った。
王様には何を言っても聞かないのを判ってるようだね。
私はさり気なく王様達の側に位置を移し、リリー達青薔薇の戦乙女の面々と、サファたんと団長ペアを見送った。
それはもう誰も気づかない様に、こっそりとさり気なくである。
「お主は行かんのか?」
王様が話しかけてくる。
「私はただのEランク冒険者だしー」
「まだそんな事を言っとるのか?」
「王様に言われなくないよ」
「わっはっは、こりゃ一本取られたワイ」
自分のことを棚に上げておいて、よくも言ったものだ。
その時、悪寒が走った。
私は自然に体をしゃがませ前方に転がった。
「ほう!やりますな」
私のいた所の背後にヤツがいた。
「私の首根っこ何時までも容易く取れると思わないでね」
「逃げのランクBに認定しましょう。しかし詰めが少々お甘い」
ナヌ?
立ち上がった時、脚にロープ巻きつけられている事に気づく。
しまった! いつの間に!
「それはフェイクで御座います」
私が脚のロープに気を取られた一瞬。
その一瞬で私はセバにロープでぐるぐる巻にされていた。
「くそう! 図ったな」
「Bランク程度ではまだまだ私から逃げられませんぞ」
「人さらい反対!王様ここに悪逆非道な人さらいがいますよー!助けてー!」
「はっはっは、何を仰る。以前この移動方法を気に入っていらしたはずですな」(無表情で)
そういってセバは王様に一礼した跡私を担いで歩きだした。
「お主ら、楽しそうじゃのう」
呆れたようにヒゲを撫でながら王様は呟きやがった。
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「遅れて申し訳ございません」
私はロープでぐるぐる巻にされたまま担がれて会議室に登場。
「おつかれ様セバ。ミリーなんか懐かしい光景ね」
「これが最先端のファッションらしいよ。リリー先輩もどう?」
「私には似合わないわね。それが似合うのは貴女だけよ」
このやり取りを都市長、サファたん、団長、将軍さんは目を点にして見ていた。
例えぐるぐる巻にされていようとも私の美貌は隠しきれないもの。
少々刺激が強かったかしらん。
「相変わらず羨ましい思考をしますな。そのままでいいと言うことでしょうか?」
「いいよー。そちらがこのセクシーさに耐えられるなら」
「はぁ。解いてやって頂戴」
リリー先輩が呆れたようにため息をつきながらセバっちゃんに言った。
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「ごほん、では改めて」
こうして退屈な会議が始まった。
はぁ、強制参加させられる羽目になった。
現在の戦力は冒険者400(Cのランク以上)
そして都市の衛士100
そして精鋭騎士300だ。
他の都市から増援や冒険者が間に合えば、もっと増えるだろう。
食料に関しては短期決戦になるだろうから都市の備蓄で何とかなりそうだった。
幸い今は季節もよく宿が足りなくても何とかなる。
特に冒険者は野宿慣れしている。
本当は決戦前に英気を養わせてあげたいが、そんな余裕は無いようだ。
私はただ黙って会議の行方を見守っていた。
私から指摘することは何も無い。
魔王に関しては、都市長さんがいるので秘密にした上でスタンピードに関してのみ説明をセバっちゃんとリリー先輩、クーンが行ってくれ、私は聞いているだけで良かった。
楽ちんだね。
「聖女様方に置かれましては、そうですな」
聖女様方ってサファたんと 私の事だよね。
やれやれ、将軍さんにも話してあるのか。
「都市内で治療班を受け持って頂きます」
やっぱぴ。
ま、サファたんは本来ここにいちゃダメだし、それでいいだろうけどね。
「待って、ミリーは私達と一緒に戦って貰いたいわ!」
将軍さんに反対したのはリリー先輩だ。
ま、私の戦闘力知ってるからそうなるわな。
「姫様の意見は尊重したいですが、アレク様より聖女様方に万が一の事が無い様、早馬にて申し使っております故」
将軍さんはそう言って、懐から紙を1枚取り出した。
早馬で伝えられた指示書かな。
リリー先輩はその指示書(仮)を受け取り目を通す。
「確かに、お兄様の字ね」
「お判り頂けたでしょうか?」
「頂ける訳ないじゃない。この子の凄さは回復の凄さじゃない、殲滅力の凄まじさよ!」
むむ、その点に気づいてしまったか!
ま、中級デビルを瞬殺したのを見られてるし、そりゃそうか。
魔王め!
折角の聖女の価値半減作戦が台無しじゃないか。
「私はどちらでもいいよ?」
リリー王女と将軍さんの議論は平行線をたどった。
あまり悠長なことしてられないんだけどね。
こうしてる間にも事は起こるかもしれないのだ。
「あの、ミリー様が討って出られるなら、同じ聖女の私もそうしたいのですが」
サファたんが決定的な一言を言った。
その一言でリリーは折れざるを得なくなった。
こうして私の受け持ちは回復班に決まった。
後世、聖女役の少女をロープでグルグル巻きにして、都市内を練り歩くというお祭りがウノユの伝統になるのだった。




