58話 大賢者である私の流儀
「お姉様!」
「サファ?どうしてここに?」
私は皆をビフテの町のちょっと外れに転移させた。
いきなりギルドに飛ばしても周囲を驚かせるだけだし。
救出したリリー達と合流したところで皆でギルドに向かった。
そこで、姉妹感動の再会となったのだ。
そこにはアレク殿下も待ってくれていた。
そしてギルドの会議室に場を移して状況の確認会議が行われたのだった。
ただしセバっちゃんだけは、現在大混乱に陥っているだろうウノユの冒険者ギルドに行きたいとの事だったので、ウノユに転移させた。(オトプレちゃんが)
セバっちゃんには、現地の冒険者を指揮してもらうことになるだろう。
〝プニョンの鮫〟の腕の見せ所だ。
「ミリー殿。ダンジョンの状況は如何でした?」
「アレク王子様、ミリーで大丈夫です。私はEランクのしがないヒーラーに過ぎないので」
既に王太子の目の前で転移魔法まで使ったので、今更だけど、一応言っておく。
だけどもうその誤魔化しは効かないよね。
「ミリー、ダンジョンのあのボスは一体?」
リリー先輩は話を先に進めたいようだ。
「その前に、いつもだったら3階層のボスってどんなのが出るの?」
「ホブゴブリンとかオークね」
クーンが答えた。
なんか、普段のダンジョンぬるくね?
「なるほど、それでリリー先輩達が戦っていたのは悪魔族だね。あのダンジョンはもう悪魔族の管理下ってことかな」
「やはり悪魔族だったのね」
クーンは心当たりがあったのようだ。
「なんでミリーはそんな事知ってるんだ?」
カリスの疑問、それきっとくるだろうと思っていたよ。
私の能力については誤魔化すけど、聖女視されている事に関してはもう何を言っても無駄だよね。
寧ろ、その勘違いに乗っかった方が楽ちんだ。
それに、もう私の覚悟は決まっている。
折角皆と仲良くなれたのにね。
残念だな。
「それは、もちろん…教えてもらったのよ。過去の英霊にね」
「過去の英霊?」
「オトプレちゃんは只の光の精霊じゃないんだ。啓示は基本オトプレちゃんを通じて来るんだけど、過去の英霊から情報をもらえる事もあるんだ」
「その英霊はどなたです?」
ミルファが興味を持った様だ。
「今回の事を教えてくれたのは、かつて魔王を倒した勇者パーティーのヒーラーにして聖王国の王女、ミラメリフィーヌ様だよ」
「大聖女ミラ様!」
ご先祖様の名前が出てきて驚く、ミルファたんとサファたん。
まぁ、彼女から教わった知識に基づいての発言なので広義では嘘ではない。
私はダンジョンが恐らく悪魔族に乗っ取られ、その背後には魔王がいる可能性を告げる。
そして魔王の狙いはスタンピードであり、もうそれを止めれる段階では無いこと。
「3階層のボスが悪魔だったという事はその下層には行かせたくない。つまりモンスターハウス化しているよ。分裂した4つのダンジョンも似たようものかと」
「魔王が……」
「ダンジョンが5つスタンピードを起こす…」
リリー先輩、クーンが血の気の引いた表情で呟く。
「もう残された時間は少ないよ。具体的には判らないけど、今すぐ起こってもおかしくないかな」
「今、父上達がウノユに300騎程度の軍を進めている。あと2日後にはウノユに到着するだろう」
「騎兵ね。へえ、対応が早いね」
「一応スタンピードの可能性は考えていた。もっと集めたかったが、対外的に国内視察と言える人員数にせざるを得なかった。
急ぎの編成だったということもあるし、可能性の話で動いていたからな。その代わり近衛軍の騎士300名、精鋭中の精鋭だ」
「殿下のご賢察に感謝致します」
私は素直に頭を下げる。
出来るイケメンはやっぱひと味違うね。
しかし300名では対処はできないだろう。
あの国王様達やセバっちゃんがいたとしても、中級デビルを手下にできるヤツがダンジョンのボスだ。
最低でも上位デビルクラス。
最悪魔神の可能性もある。
「冒険者ギルドの魔導ネットも通じて各地の冒険者も出来る限り集めよう」
「最悪の事を考えれば、ここに集められるだけの最大戦力を集めるべきでは? モンスターの群れもバラける可能性もあるから各個撃破しやすいでしょ」
あえて冷酷な事をいった。
この作戦は道中の村や町を見殺しにする前提だ。
「そんな事は許されない!アラバスタル王家の誇りにかけて民を守るわ!」
リリーが叫ぶ。
その叫びに私は驚かされた。
リリーが一瞬アヤメに見えたのだ。
アヤメだったらこの様な下衆な提案は絶対に飲まない。
その叫びに私は満足する。
「では私は失礼します」
「ミリーどこに?」
「私はウノユに行くけど、その前にちょっとやることがあって」
「ミリー! 貴女……それでいいの?」
リリー先輩は賢い。
私の意図にきづいたようだ。
「巻き込むわけには行かないからね。筋を通したら戻ってくるから。私のいない間にいろいろ決めるといいよ。戻ってきたらウノユに行きたい人は転移するよ。じゃあね」
政治的な事にちょっかい出したくないし、私は会議室を後にした。
私は身勝手だけど伝えなければならない。
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ミリーが出ていった後の会議室にて。
「お兄様! 私はミリーと共にウノユに行きます!」
強い口調で決意を語るリリー王女。
「リリー、貴女は王女なのよ!これ以上危険に身を投じることは無いわ! 悔しいけど、私達はダンジョン3層のボスの手下にすら手を焼いた。私達には手に追えない」
クーンがリリーを諌めようとする。
「ああ、そうだ。ミリーはボスを手玉にとって、いとも簡単に倒した。悔しいけどミリーの足手まといにしかならない」
カリスもリリーをなだめる。
「例え足手まといでも私は聖騎士よ!だから死に事になっても守るわ!」
「ミリーが助けに来てくれなかったら私は、私達は……間違いなくあそこで命を落としていたでしょう」
「お姉様…」
リリーを諭す為だろうか?
ミルファが静かに言った。
「でも逆にミリーのお陰でこうしてサファに会えた。だから、私もウノユに行きます。私の力は微々たるものですが、けが人を少しは癒やすことが出来るから」
いや、その逆のようだ。
ミルファも参戦の意志を表明した。
「お姉様! 私も行きます。これは対岸の火事ではありません。魔王の脅威は全世界、全人類の脅威。その脅威に対し、聖王国聖女たる者が見過ごすわけには参りません。これもきっと神のお導きなのです」
「こうなると新ポーションが開発された後ってのはありがたいな。こうなったらとことん付き合うよ。私も青薔薇の戦乙女のメンバーだからね」
カリスが嬉しそうに言った。
こうなるのを判っていたようだ。
その言葉に驚いたのはミリーとミルファだった。
「ミリー、まさかこうなることを?」
「ミリーというか、きっと全て神の御心のまま」
二人の言葉でクーンは理解した。
「新ポーションはミリーが噛んでたのね。なるほど、あの子の行動と時期が合致するわね」
「ん?そういやそうだね…いやはやミリーの手の平の上か」
「神が聖紋の聖女を遣わした時から神の思惑で事が運んでいるのだろう」
此処までの会話をミリーが聞いていたら、あまりの解釈の飛躍にドン引きしたに違いない。
真に真実を知るのは、ミリーとオトプレ、そして神のみであろう。
「新ポーションは聖女様が……貴国には至高の聖女様がいらっしゃる。心強い限りです」
「聖王国の聖女様になにかあったら大問題だわ。近衛魔道士としては最悪の事態を避けるようにしないとね」
クーンもわざとらしい理由を作り出した。
「皆有難う」
「行けない私を許して欲しい」
「お兄様には国家を背負うお役目があります。それに、もしウノユで食い止めれなかった時、事態を収拾出来るのはお兄様だけです。フェルの事もよろしく頼みます」
「ああ、判った。だがくれぐれも無理はしてくれるなよ」
国を任されている者としては妹であろうが戦力である以上、送り出さねばならない。
だからせめてアレクは兄としての願いを言った。
しかしリリーは無茶をするだろう。
あとは妹の事を託せる唯一の人物に願うばかりだ。
<聖紋の聖女様、妹を守ってやってくれ>
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「こんちゃープレゼ」
「お!ミリーかこんな時間にどうかしたかい?」
「リーダー知らない?」
「リッキーなら広場だね。
なんか知らないけど、かのブレードマスターに
稽古つけて貰っているよ」
「そっかーありがと。
あとプレゼ、いろいろありがとね」
「ミリー、あんた…そっか」
ミリーがリッキーを名前でなくリーダーと呼んだ。
ミリーについては短い付き合いだが、信用出来るとプレゼは思っている。
何か事情があっての事なのだろう。
重大な事が起き、それに弟達を巻き込まない様にしようとしているとプレゼの女の勘が告げている。
野暮なことは言わない。
ただ、弟はショックを受けるだろうな。
姉としてはやけ酒に付きあってやるだけだ。
ミリーは手を振りながらいつものように出ていった。
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お! いたいた。
でも変態は一緒じゃないな。
一人で素振りか。
なんか一心不乱に剣を振っている時には話かけにくいな。
でも、時間は余り無い。
ふー、こういうのは性に合わない。
…………よし、行くか。
「リーダー。精が出るね」
私の声に素振りを止めたリッキー。
汗だくだ。
「ミリー今日は診療所じゃないの?それにリーダーって」
「うん、ちょっと用事ができてね」
「用事?」
「それで私、パーティー抜けてソロに戻りたいんだ」
下手な事を言うよりも、ストレートに真実を告げた方がいいのだろうね。
こういう時は。
「え?」
案の定固まってしまった。
「どうしても行かないとならない場所ができちゃった」
「相談してくれたら皆で……」
「詳しくは話せない。でも連れて行けないよ」
「何故?」
「言わせないで欲しいな」
「僕たちが」
「その先は言って欲しく無い。そういう風に思った訳じゃないよ。冒険者の皆に対して傲慢なのは判ってる。でも死んで欲しくないから」
「そんなに危険な所に一人で?」
「一人では無いよ。リリー先輩達もきっと来るね。他のAクラス冒険者も集められると思う」
「そんな事態が…」
「だから……」
「ミリー! 他言はしないから何が起こっているのか教えてほしい!」
「やれやれ、知ってどうするかはリーダー次第。どちらにせよ私は抜ける。その後私は旅に出ることになるから」
「僕にミリーの決意は止めれない。でも何か起こっているなら出来る事をしたんだ」
「そっか、リーダーいえリッキーいい男だね」
「え!?」
「ぬふふ。からかってるんじゃないよ。ホントにそう思っただけ」
「急に何を…」
リッキーの顔が赤い。
「ウノユのダンジョンでスタンピードが起こる。もう避けれない状態なんだ。だからウノユで迎え撃つ事になる」
「スタンピードが」
驚くリッキー。
「だから行くね」
「……ミリーはどうして行くの?神に従って?」
「私には大切な想いがある。その想いのために私は行く事に決めたんだ」
「そうか……」
「話したよ。どうするかは任せるけど漏らさないでね。国中がパニックになるから。じゃあリーダー今まで有難うね。楽しかったよ。皆によろしく伝えてね」
私はいつものように背を向けて歩きながら手のひらを降る。
リッキーの表情を見るのが辛かったから。
でも私は裏切る事ができない思いがある。
どのみちこの国に留まれない。
だから、バイバイ、リッキー。
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「ただいまー待たせちゃった?」
ギルドの受付でパーティー脱退の手続きを済ませた私は会議室に戻ってきた。
緊急事態であることを理解しているナルっちは、何も言わず手続きを済ませてくれた。
「大丈夫、こちらも話が纏まったわ」
リリーがスッキリした表情で答えてくれた。
「だいたい判った。行くのはリリー達、青薔薇の戦乙女とサファたん一行だね」
「そうよ」
やっぱりそうなったか。
覚悟を持って行く人を私も止める事はできない。
リッキー達の件はただの私の我儘だ。
彼らはもっと強くなれる。
だから今この場で無茶はしないで欲しいのだ。
それと後で聞いた話だけど、当然ながらサファたんのウノユ行は護衛の騎士団長に猛反対されたらしい。
まぁ、そりゃ当然だわね。
だけど、サファたんの決意は揺らがなかった。
聖王国の聖女である以上、魔王と戦う宿命にあるという事らしい。
「アレク殿下は?」
「色々と忙しくなったから早速王都に戻ったわ」
リリー先輩が答えた。
「ミリーによろしくってさ」
カリスが続く。
「うーん、私が何でもかんでもやる訳じゃないんだけど。むこうには王様が向かっているんでしょ?なら、その指揮下に入るだけだよ」
「あら、案外常識家なのね」
「クーンさんに褒められて大変嬉しいデスネ」
「ミリーお願いね」
「ミルファたんもよろしく」
「ミリー様よろしくお願いします」
「・・よろしく頼む」
「うん、よろしく サファたんと団長さん」
団長さんに睨まれた。
そんな様子をサファたんが面白そうに見ていた。
「じゃ、行くよー。落ちるから挫かない様に気をつけて」
「え? 落ちる?」
集団転移魔法『世界をつなぐ落とし穴』起動!
その瞬間、巨大な落とし穴が足元に出現。
床が急に無くなり、皆落とし穴に落ちたのだった。
決戦の日が迫る




