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56話 大賢者である私の真面目モード2とその持続力

 目の前に迫る巨大な火球。

 唯一人立っていたミルファは皆を庇うように一歩前に出て手を広げる。


「ミルファ!」


 リリーは叫ぶが、実際に声になったかはリリー自身もわからなかった。

 ミルファは神に祈った。

 せめて自らの命だけで済む様にと。


 ミルファは迫る火球への恐怖と熱気で目を瞑ってしまう。

 しかし、何時まで経っても焼かれる事はない。

 それに先程までの熱気も感じなくなった。

 苦しむ間もなく一瞬で焼かれ、既に死んでしまったのだろうか?

 ミルファは恐る恐る目を開く。

 そこには予想もしなかった光景があった。

 驚き、そしてミルファは理解した。

 自分達が守られた事に。


 光の精霊。


 ミルファの目の前には光の精霊がいた。

 その光の精霊が巨大な火球の前に立ち塞がり、その炎と熱を防いでいた。

 正確には光の精霊の前には光る紋様が浮かんおり、それが炎と熱を遮断していたのだ。

 ミリーが使う聖紋。

 これは聖紋だとミルファは気づく。

 聖紋は円錐状に展開し、回転して火球を分散させていく。

 やがて火球は完全に消滅した。


「…す、すごい!」


 ミルファはただただ驚く。

 なんと強い聖なる力だろうか。

 そして、次に安心感が膨らんでいく。


「ミリー………」


 自然にその名が出た。

 目の前にいる光の精霊は彼女と一緒にいたオトプレと名付けられた精霊だろうから。

 その名を聞いた他のメンバーも、自分たちが生きている事に気づき目を開く。


「なんです?その光の精霊の様なものは?」


 ボスは不機嫌になった。

 自らの火球が突然現れた光の精霊もどきに防がれたのだから。

 あれが何なのかは判らないが、光の精霊に擬態した何かだ。

 光の精霊は炎を防げたりはしない。


「あなた雑魚なんだから知らなくて当然ね」


 どこからとも無く声が聞こえてきた。


「何者です?」


 声はすれども姿は見えない。


「ミリー?」


 リリー達にはその声がミリーのものであることは直ぐに判った。

 ミリーが言いそうな発言でもあった。

 そして、その内容に不思議と鼓舞された。

 何故か絶対の安心感あるのだ。


 天井に光の円盤が浮きでた。

 そして光の円盤に乗ったミリーとセバがゆっくりと円盤ごと降りて来たのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーー


(少し時間は遡る)


「お待たせしました」


 立ち止まっていたミリーはそう言うと、通路の斜め右42°方向に向きを変え、魔法陣(聖紋と呼ばれている)を展開。


 穴掘魔法『穴掘りミミズの行進』


 トンネルを作成する為の魔法だ。

 何の為に作ったのか?

 今となっては不明の魔法だ。

 魔法陣は直径2mの円盤状で大きい。

 光る円盤は回転しながら前進を開始した。

 円盤に触れた壁や石や土は消えてしまう。

 例によって魔力に変換されて、ミリーの魔力ストックになるのだが、消費魔力のほうが大きいのでこれによる魔力補給は出来ない。


「そんな奇跡までお持ちとは」


「神様は至れり尽くせりなのよ。行きましょう」


 作った理由を思い出せなかったミリーは、まあ、そんな魔法はいっぱい有るけどね、と思いながら誤魔化したのだった。

 トンネルを進むミリー達。

 不意にセバが話しかけてきた。


「落盤とかはしないでしょうな?」


「掘りながら固めているから大丈夫」


 ダンジョン以外の場所を進む為、本来は明かりはない筈なのだが

 掘られた穴がぼんやりと光っていて明かりに困ることは無かった。


「本当に至れり尽くせりですな」


 セバは呆れるように言った。

 掘り、固め、光る。

 セバは魔法に詳しい訳ではないが、それでもこれらの複座な作業を同時に進めていく聖紋の、魔法ではあり得ない仕事に感嘆したのだった。

 やがて行き止まりになった。


「この下が3層のボスの間よ。ということで行くわ」


 先程トンネルを作った魔法陣が、今度はミリーを中心に足元に出現した。

 セバは無言で頷き、その魔法陣の上に乗った。


「安心して。乗っている側は削られないから」


「聖紋の上に乗れるとは思いませんでした」


「言ったでしょ、至れり尽くせりだと」


「そうでしたな」


 魔法が垂直に穴を掘り始めた。


 もうすぐ3層ボスの間の天井を突き抜けるという所でオトプレより状況を聞いたミリーは、音声伝達魔法で挑発を入れるのを忘れない。

 これで注意をこちらに向ける事が出来る筈だ。



ーーーーーーーーーーーーーーー


 天井にぽっかり円形の穴が開き、光る聖紋に乗ってミリーとセバがゆっくり降りてくる。

 そしてボスとリリー達の中間地点に降り立った。

(魔法陣は地面に当たると消えた)


「どうやって此処へ?」


 ボスは驚いているようだ。


「見て判らない?穴を掘ってよ」


 ダンジョンのボスの間は閉鎖空間であり、ボス対戦中に助太刀に入ることは出来ない。

 ボスの質問はそういう意味だったが、ミリーはこのダンジョンのボスの間が物理閉鎖だけだったのを逆手に取って、天井をぶち破った。

 それがミリーの回答だ。


「面白い事を考えつきますね」


「随分余裕ね()()()()()()さん」


 セバは無言だが殺意をボスに向ける。


「おやおや怖い怖い。ふむ生贄が2人増えましたか、軽く遊んであげましょうかね」


 一斉に手下のレッサーデーモンが襲いかか……

 れなかった。

 ボスを含めレッサーデーモンの足元になにやら粘つく何かがまとわりつき、歩くことも飛ぶことも出来ない。


 ミリーは悪魔族が生理的に嫌いだった。

 だから、アヤメから聞いた〝あるもの〟をヒントにこの魔法を作った。

 それがこの悪魔生捕魔法『悪魔ホイホイ』だった。

 悪魔だけ粘つく光で行動を封じる魔法だ。


 ボスは中級デビルだ。

 本来人間が太刀打ちできる存在ではなかった。

 それがいつの間にか自身も知らない方法で移動を封じられてしまったのだ。

 しかし、ボスは焦りはしない。

 忌々しく思っただけだ。

 こんな空間なぞ軽く吹き飛ばす魔法が使えるのだ。

 しかし、中級デビルである自分を虚仮にした乱入者のあの小娘は、自ら死を願うまでいたぶらないと気が済まない。

 そんなボスをミリーは無視してリリー達に向き合った。

 なんとか無事の4人を見て安堵する。


 そして何を思ったのか即時回復の魔法を全員にかけながら、なんとも返事のし難いセリフを言った。


「や、こんなところで奇遇だね」


最後の最後、真面目に徹しきれないミリー

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