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54話 大賢者である私は遺憾ながら真面目になる

 今日もビフテの星はお休みだ。

 ということで、仕方なく診療所にいた。

 そういう私の真面目なところは賞賛に値する。

 今回の人生ではもっと不真面目に生きたいと思ってたんだけどね。

 どうにも性格まではそうそう変えられない。

 あの日、受付にいたのがセバっちゃんじゃなかったら、もっと気楽に冒険者人生を謳歌できたかもしれないなーなんて思っていると、


「いえいえ、私と出会わずとも結果は同じでございましょう」



 とセバっちゃんから話しかけられた。

 もう、ツッコミ入れるのもメンドイ。

 独り言を言わせておこう。


「おや、そうですか、そう来ましたか」


 無視ね、無視。


「ふむ、話題を変えましょう。昨日、リッキルト様が……」


「………」


「………」


「………降参! リッキーがどうしたの?」


 くそう、セバめ!餌で釣りにくるとは、今日のところは()()()その手に乗ってあげようじゃないの。


「簡単に釣れすぎますな」


「うっさい。いいからリッキー情報カモン!」


「怖いので話を進めましょう。昨日のことです。リッキルト様とブレイド様が手合わせをしておりました。散々ブレイド様にシゴカれていましたよ」


「ブレイドってあの変態の?へぇ、ウノユでの約束守ってくれたんだ」


「変態は兎も角、彼は『ソードマスター』と呼ばれる程の剣の達人、その技術をリッキルト様にお教えしている様です」


「へぇ、そんなに凄かったんだ。じゃあリッキーも強くなれそうだね」


 うんうん、リッキーはイケメンなんだから もっともっと強くならないとね。


 などと話している内に診療所の開始時間になった。

 今日も長蛇の列となっている。

 最近では、ギルドのクエストボードに診療所の交通整理なんてギルドからの依頼も貼り出されるようになった。


 今日もいつもの変態のブレイドが並んでいる。

 リッキーを鍛えてくれているのは有難いが、平等に接するからね。特別扱いはしないから。

 そして、変態の番になった。

 相変わらず、怪我をしていない。

 もうそのままヒールをかけて帰したい。

 しかし、ギャラリーの期待がそれを許さない。


「さて、何度も何度も言っている事だけど……怪我もしてないのに並んでるんじゃねー!」


 上がる歓声!


 しかし、歓声の次にどよめきが上がる。


 え?何、躱された?

 私は躱された事に驚き、脚を振り上げたままの姿勢で止まってしまった。

 見れば変態は無傷で立っている。

 変態自身も驚いている模様。

 単調な攻撃だけに微妙にタイミングをずらしたりしてきたど、どうやら見えない攻撃を躱すことが出来るようになりつつあるようだ。


「へえ、やるね!」


「………どうも」


「じゃ、ブレイドさん。コレはどうかな?」


 刹那、ブレイドは鼻血を出した。

 何なんだ変態。

 蹴る前から血出すな!

 私は姿勢を戻すと取りえず、ヒールをかけてやる。


「ミリー様有難うございます」


「いえいえ、気になさらず。では改めて」


「……」


「怪我もしてないのに並んでるんじゃねー!」


 今度は綺麗に顎を捉えた。

 上がる歓声!


 コンゴー直伝『加速脚』


 達人クラスになると、攻撃をギリギリかつ最小限の動きで躱すようになる。

 そしてそれは技の出だしで判断する。

 例え、見えない速度の攻撃だとして、最初は速度0から始まるのだ。

 見えなくても躱せるのは技の出だしで見切るから。

 だから、刹那の攻防で攻撃中に速度が上がる攻撃があると躱しきれなくなる。


「じゃ、ヒールと蹴りで200Gお願いね」


「あざっす!ミリー様。今日も可憐でした!」


 変態に可憐と褒められてもなー。

 まあ、変態じゃなければ中々いい線いってるし悪い気はしない。

 リッキーに稽古もつけてくれてるし悪い奴じゃないよね。

 恍惚の表情でフラフラと支払いに向かう変態を横目で見ながら


<あれ?鼻血の治療でヒールかけたんじゃん。なら、蹴らなくても良かったんじゃね?>


 と思ったが、変態に蹴りを躱されたのがショックだったのかもしれない。

 なんだかんだで私ってば変態に見切りの極意を伝授してしまったのでは?

 だとすれば、私って凄すぎ!



===============



「えーっと、今のは治療なんですか?」


 ビフテの冒険者ギルドに着いて、サファ達が最初に見たのが今のブレイドとミリーのやり取りだ。


「あれは、グレートマム様と信者の心温まる交流でございます」


 いつの間にかギルド職員としてセバがいた。


「噂には聞いていたがあれがそうか。しかもあのブレイドが。にわかに信じがたいな」


「そうなんですね」


「はい、この交流が噂になり、いまでは名物になっております」


「それで、並んでおられる方々の他にも人が一杯いるんですね」


 冒険者の朝は早い。

 クエストの取り合いになるためだ。

 クエスト開示が朝7持、それに比べるとミリー出勤?は実に優雅なもである。


 サファ達の前で初めてまともな治療が始まった。

 その治療速度にサファは驚く!


「凄い!一度に何名もヒールしています。しかも発動が早い」


「直にかけられた者の話では、回復の速さだけでなく痛みも激減するそうです」


「本当に凄い…殿下の仰られた危惧が今なら判ります。あの力は破格です」


「ご理解頂き有難うございます」


 これだけの癒しの力を持つ者がいるなら これは国としては絶対に確保しておきたい。


「あ、安心して下さい。約束は守ります。神に誓っておりますから」


「有難うございます」


「それにしても、グレートマムというから どんな方かと思っていましたが、あんなに若い方だとは」


「見た目は少女ですが〝偉大な慈母〟ですよ彼女は」


 アレクシスの自慢げな表情をみて聖女サファは思う。


<これは慈母が国母になる可能性もありそうね>



===============



 午前の部の診療が終わった。

 さて気になっている事がある。

 先程からセバっちゃんがギルドの外にいて、隣にイケメン様がいる。

 そのイケメン様は私が知っているイケメン様だ。

 高級宿屋にいた給仕さん。


 なるほど、そういう事だったのか。

 よくみれば、フェルたんに似ている。

 フェルたんも大人になればあんな風になるのね。

 ぐへへ。将来が楽しみですなぁ。

 あれ待てよ? 筋肉爺さんにも似てるな。

 ということは果てはああなるのか……

 いや、そうとは限らない。

 ミリー。希望を捨ててはいけないわ。

 自分に言い聞かせる。


 さて 王太子の横にはあれ? ミルファ?

 いつもと衣装が違うがミルファたんがいる。

 ミルファたんの周囲には護衛と思われる者が数名。

 二人はそういう仲だったのかな?

 高級宿屋でそんな素振りは微塵も感じなかったけど。


 高級宿屋でのクーンの態度も恋心じゃなくて礼儀からかー。

 なるほど、よくよく考えると どちらかというとクーンの態度は焦りだったね。

 ミリーちゃん爆勘違い!てへ。

 まあ午後の部まで暇だし話かけに行くかなー、と思ったが向こうからやって来た。


「やっほー ミルファたん。今日はパーティーじゃないんだねー」


「え!」


 ミルファたんは固まってしまった。


「それに、殿下。宿屋ではヨーグルトを有難うございました」


「ああ、礼には及ばない。むしろこちらがお礼をすべき所。感謝してもしきれない」


「まぁ、わたしはヒールかけただけなので」


「そうだったな」


「それはそうと、今日はミルファたんを連れて一体?」


「あ、いやこの方はミルファではないんだ。しかし、言われてみれば似ているな」


「あ、そうなんだ。じゃあミルファの妹さん?」


「姉を、プレミルファイーエをご存知なのですか?」


「「は?」」


 私と王太子の声は揃っていた。

 

 場所をギルドの応接室に変え、改めて事情を聞いた。

 彼女は新ポーションのレシピを求めて聖王国からやって来た、聖女パレサファイール様。

 ミルファたんの妹さんだ。


 とは言え、ミルファたんの母は、ミルファたんが生まれた時に亡くなっていて、サファたんは後妻との子である。

 ミルファたんの上に姉が一人いるが、既に他国に嫁いでいた。

 多くは語られなかったが、恐らく癒しの力が弱かったのだろう。

 異母姉妹ではあるが姉妹の仲は良かったという。


 2人の仲を割いたのはサファ(ママ)の陰謀だった。

 サファ(ママ)はサファたんを聖女にしたかった。

 サファ(ママ)はサファたんの弟として聖王国待望の男児を生んでおり、発言力は強かった。

 結果、サファたんが聖女になり、ミルファたんは他国に養女として出されてしまったのだという。

 悲しい話じゃないの。


 こちらもミルファたんの近況を話してあげた。(王太子が)


「お姉さんには暫く会ってないなあ。最後に会ったのもウノユのダンジョンでかな」


「ああ、今もウノユのダンジョンだと思う。調査依頼をリリーにしているからな」


「姉はリリー王女様のパーティーメンバーとして今はダンジョンの調査中なのですね」


 姉の所在と元気でやっている事を知り、安堵したような表情をみせるサファたん。


「サファたんウノユに行くの?」


「え、サファたん?」


 目をぱちくりさせるサファたんはカワユイ。

 みれば殿下が苦笑している。

 あ、リリーにそっくりだね。その笑い。

 が、しかしだ。

 私は目を閉じた。

 今から重要な事を告げねばならない。


 目を開けた時、私の雰囲気が変わった事に皆驚く。

 が、私も真面目に成らざるを得ない。

 そうしないと信じて貰えないだろう。


「サファたん。いえ、聖女様は直ぐに国へ帰った方がいいでしょう」


「え?姉はウノユにいるのですよね」


「殿下、できれば直ぐにリリー達を引き上げさせて欲しい」


 私は思い出したくなかったが思い出していた。

 聖王国の名を聞いてしまったから。

 500年前、魔王を倒した勇者パーティーのヒーラーこそ聖王国の王女にして絶対勘の持ち主。

 凶暴かつ凶悪。

 リッキーの姉プレゼにそっくりであり、私の本名を知るこの世で最も恐ろしい人物。

 かつての私の実の姉だ。

 そして姉のヒールは実に瞬間で傷を癒やす。

 私の回復魔法は姉の立つ高みを目指していたのだ。


 そして強制的に姉を思い出すことになった為、姉に教わった事も同時に思い出した。

 ダンジョンのモンスターが減る現象についてだ。

 あれはスタンピードの前触れなのだ。


 ダンジョンの最奥が発見されない場合、未踏破エリアにモンスターがPOPが偏った時、やがてモンスターで溢れスタンピードが起きる。

 本来偶然には起きにくい。

 しかしダンジョンのボスが悪魔族なら話は別だ。

 意図的にPOP位置を偏らせることをするかも知れない。

 なにせウノユのダンジョンには間違いなく悪魔族がいる。

 おそらく最近ボスになったのだろう。

 悪魔族がボスになった理由。

 考えたく無いな。

 面倒な事になった。


「ミリー様、一体どういうことでしょう」


 セバっちゃんが聞いてきた。


「ダンジョンにモンスターが沸かなくなったのはいつから?」


「ミリー様のパーティー加入歓迎会の辺りにウノユ近辺で4回の地震があり、それからですな」


「結構立つわね。それに4回も……」


 深刻だ。

 もう時間は余り残されていないかもしれない。


「詳しく事情を説明してほしい」


 王太子の言葉に私は意を決して話し出す。


「重大な事を言います。心して聞いて欲しい」


 私の言葉使いが変わったことで深刻さが伝わった様だ。

 皆息を呑む。


「近く、ウノユのダンジョンにて大規模なスタンピードが起きます。それはもう避けられ無いと見ていいでしょう」


 私は説明を続ける。

 地震がダンジョンの分裂を示す事。

 それが4回、つまりウノユには5つのダンジョンが有る事。

 ウノユの元のダンジョンにはおそらく現行の最奥よりさらに隠された奥があり、その隠された奥でモンスターPOPがなされているだろうという事。

 既にモンスターハウスと化しているだろう。

 従ってダンジョンの隠された奥を遠征するのは危険すぎる事。

 さらに分裂したダンジョンの所在が不明で、そちらもスタンピードを起こすだろうという事。

 全てを同時に対応するには強者の数が足りない事。


 全てを話終えた時、最初に言葉を発したのは王太子だった。


「ダンジョンの更に奥にモンスターの発生が偏るというが、ありえる話だろうか?」


「確率の話ですか?今回の場合は意味がありません。確率ではなくて起こさせているのです」


「ミリー様が言っていた悪意に関係あるのでしょうか?」


 セバの言ったことは正しい。


「ええ、あのダンジョンのボスは最近悪魔族に変わったのでしょう。スタンピードを起こすため、意図的に操作していると考えていいかと」


「悪魔族!!」


「500年前、魔王が勇者に討たれた際、悪魔族は魔界に帰ったとされていましたが……」


「まだ何か有るのでしょうか?」


 聖女サファが恐る恐る訪ねてくる。


「魔王が復活、もしくは誕生した可能性があります」


 絶句する一同。


「そ、そんな所に姉が!」


「昨日の連絡では今日から潜っている筈だ」


「時間がありませんね。セバ一緒に来てもらえますか?」


「何時でも」


 気負いのない心地よい即答に満足すると、私は『どこでも魔法陣』を展開。

 3人は驚いているが今は緊急事態、故に気にしない。


 魔法陣の中にはウノユのダンジョンの入り口が見えている。


「オトプレ!」


 私の頭上に光の精霊に擬態したオトプレが出現する。


「先行し、リリーパーティーの位置を特定なさい」


『了解マスター。本気なのね』


 オトプレは先に魔法陣の中に入っていった。


「では私達は行きます。殿下は今からでも備えを」


「心得た」


「私も行きます!」


「聖女様は急ぎ国に帰られた方がいいでしょう。魔王が事を起こしたのは此処だけとは限りませんよ?お姉さんは大丈夫。私達が向かいますから」


「でも!」


「ではせめて、殿下と一緒にいて下さい。貴女になにかあると、貴国との戦争になる」


 私の正論に言葉をなくす聖女。

 立場がある身である事が恨めしそうだ。


「姉を頼みます」


「善処します」


 絶対は無い。

 魔王との戦いで失った仲間も多かったのだ。

 私はセバの手を取って魔法陣をくぐった。


「あれが、グレートマムの真の姿か…」


 殿下の声が魔法陣越しに聞こえてきた。

ブレイドが鼻血を出したのはミリーのモロパンを直視したからである。

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