53話 大賢者である私に異国の聖女様が会いたいんだってさ
アラバスタル王国の王都アラモンテを訪れたサンムーン聖王国の聖女パレサファイールその目的は新ポーションにあった。
「凄いわ!メル。人がこんなに大勢」
「ええ、姫様。流石はアラバスタル王国です」
「市場についたら姫様は止めてね」
「あ、申し訳ございません。以後気をつけます。お嬢様」
「宜しい」
大陸一の大国と言われているだけのことはある。
その人の数に圧倒された。
聖女サファはこの地に来るにあたり、王よりの親書を携えてきた。
正式に使節団としてやって来た聖女サファ。
護衛の騎士20名と侍女5名ほどが付き従ってきた。
今回の旅の真の目的を知っているのは長く聖女の侍女をしているメルと騎士団長の2人だ。
「それにしても、あっさり教えてくれましたね」
「ええ、驚きました」
実は王は地方視察中との事で王太子が対応してくれた。
こちらの目的を承知済みなのか話を始めて直ぐに王太子の方から新ポーションの話を振ってきたのだ。
レシピも教会で公開していると教えてくれた。
そして王太子の言うとおり教会であっさりレシピを教えてもらったのだった。
「とりあえず目的を達成しましたが今後は如何が致します?お嬢様」
騎士団長が聖女に訪ねてきた。
今は使節団を抜け出し、3人で行動中である。
「そうね、ポーションのレシピも手に入れてしまったし、市場でポーション買ったらどうしましょうか?」
「教会のポーションは品切れでしたし市場の方も急いだ方がいいかもしれません」
メルに言われ、一行は市場へ急いだ。
ポーションは人気だった。
とは言え、なんとか数本のポーションを買うことが出来た。
「お客さん達、何処の国からきたんだい?」
ポーションを買った店で店主に聞かれた。
「サムーンから観光に来たんだ。いいポーションがあると聞いて補充しておこうかと思って。教会ではもう売りきれだったから市場にきたのさ」
騎士団長が応対してくれた。
「ああ、教会のポーションは人気だからね。朝の販売開始時でないと手に入らないよ」
「同じポーションなのでしょう?何故人気なんです?」
メルが疑問を店主にぶつける。
「まあ、同じって言えば同じなんだが教会製のポーションは効果が安定していてね。教会以外のポーションは効果に少々バラつきがあるんだよ。教会で教えてもらった製法で作っているから同じ品質のはずなんだが」
「調べてはみたのかい?」
「そりゃ勿論 教会製のポーションを調べてみたさ。成分は同じだったよ」
隠し要素の毒草が微量すぎて、この世界の分析能力では発見することが出来ない。
しかもこの毒草は無味無臭なのだ。
その点はミリーの計算の内である。
「でも、何かあるんじゃないですか?」
メルも店主に食い下がる。
「俺に言われてもなぁ。教会が言うには神の祝福を受けているということだけどね」
「あ、ごめんなさい。たしかに教会を問い詰めるべきでした」
「おいおい、物騒なことは止めてくれよ?教会はこのレシピを無償で開示してくれたんだぜ?このポーションのお陰で俺らも旅人や冒険者もみんな助かってるんだ」
「無償でか!なかなか出来ることではないな」
騎士団長は感銘を受けたようだ。
「この国ではヒーラー不足は解消されているのですね」
この店に入ってから初めてサファお嬢様が口を開いた。
「ああ、だいぶ解消されたんじゃないかな」
「ヒーラーさん達は逆に困っているんじゃないかしら?」
「そんな事もないと思うよ。ポーションは飲めば無くなってしまうんだから。それにこの王都に近い町のビフテの冒険者ギルドには診療所があるんだけどね」
「ギルドに診療所?」
「ああ、そこでは不定期だがなんて言ったかな、有名なヒーラーが治療してくれんるんだけど、凄い行列ができるって話さ」
「帰りにでも寄ってみようかしら」
「今じゃビフテの名物らしい。あ、そうだ!思い出したグレートマムだ!G様とも呼ばれているね」
「グレートマム…」
その名をしっかり心に刻むサファお嬢様だった。
その後、晩餐会が催されたが、来賓が聖女様であるため、舞踏会は開かれなかった。
聖女を来賓として迎えることは非常に珍しく大変栄誉な事である。
聖女は外交員ではなく国のシンボルだ。
だから国外に出ることは稀なのだ。
その点を踏まえてアレクシスは聖女の目的を察したのだろう。
晩餐会はそれは豪勢なものだった。
その晩餐会の席中でのこと。
「パレサファイール様。折角おいでになられたのです。ごゆっくりご滞在下さい。なにかご要望がお有りでしたら気軽に仰って下さい」
「お心遣い感謝致します。アレクシス殿下。私の事はサファとお呼び下さい。それで、お言葉に甘えさせていただけるならポーションの件の他にもう一つお願いしたい事ができたのです。ご許可頂けないでしょうか?」
「では遠慮なくサファ様と呼ばさせて頂きましょう。それでお願いとはどのような?」
「大層な事ではないのですが、ビフテの町にいらっしゃるという有名なヒーラー様にお会いしたいのです」
「…ビフテですか。確かに有名なヒーラーがおります。ただ、彼女は冒険者ですので必ず居るという保証はありませんが」
アレクシスは笑顔の裏で考えを巡らす。
グレートマムことミリーはとても目立つ。
聖女が噂を聞いたとしてもおかしくはない。
以前に自分で言ったことだが隠し通すのは不可能だ。
ここで変に誤魔化すのは、却って逆効果になりかねない。
当たり障りのない情報は出すべきだろう。
正直を言えば会わせたくは無い。
引き抜きの可能性もある。
また、ミリーは予測のつかない事をするのでサファ様に何かあっても困る。
外交問題に発展してしまう可能性があるからだ。
ミリーがウノユでドワーフに禁酒の奇跡を使ったという報告も受けている。
禁酒の奇跡なんて今まで聞いたことも無い。
一体どれだけの奇跡を持っているのか?
ミリーは底が知れないのだった。
〝居る保証は無い〟というのは、その時、町に居ないで欲しいというアレクシスの願いが入っていた。
「アレクシス様はグレートマム様の本名をご存知ありませんか?」
サファはある期待を込めて訪ねた。
「彼女の名は、ミリーシアタ。ビフテの孤児院出身ですので正確な名前はわかりません」
「そうですか……」
<お姉様ではないのね>
サファは自分より強い力を持つ姉の可能性に期待していた。
違うと知って、興味がかなり薄くなってしまった。
しかしお願いした手前、もう結構とは言えない。
「お会いになられるのであれば、こちらからも一つお願いがあります」
「なんでしょう?」
「実は我が国には現在、聖女になられた方がいないのはご存知でしょう。それでグレートマムをいずれ正式に聖女に認定し内外に広く知らしめるつもりなのです」
アレクシスは手の内を晒してしまうことにした。
世に聖女と呼ばれる者は基本的に慈愛の精神の持ち主だ。
聖王国の聖女も慈愛に溢れた方と聞き及んでいる。
懐に入ってしまった方が協力を得られそうな気がしたのだ。
「皆まで仰らなくても大丈夫です。貴国の聖女様を奪ったり、他国に漏らすような真似は致しません。神に誓って宣言致します」
アレクシスの作戦は取り敢えずは成功した。
あとは2人の出会いが何をもたらすのかは出たとこ勝負だろう。
「では、ビフテには私もご一緒しましょう」
「え!?お忙しいのにそんな手間を取らせる訳には…」
「ビフテの治安は良いのでご安心下さい。私も彼女に聞きたい事がありますので丁度いい機会です。それに私もたまには……おっと王太子の身で言える内容ではありませんでした。失礼」
「ふふふ、貴国の治安の良さはここまでの道中で実感しております。アレクシス様もたまには息抜きなさってもいいでしょうね」
だいぶ打ち解けた二人はしばし談笑を楽しんだのだった。
アレクシスの元にはミリーがウノユのダンジョンに関し、〝思った以上に悪意に満ちた場所〟と言ったと報告が上がってきた。
アレクシスはその真意が気になっていたのだった。




