51話 大賢者である私の思惑通りに事は運ぶ
ダンジョンでリリー達とエンカウントした私達。
リリー達の話によれば、ワトルーとミウリが孤児院に戻って来ない。
そこで、冒険者に捜索依頼を出すことになった。
と、いう事だった。
何故、それでダンジョンを捜索する事になったのか?
『ワトルーとダンジョンに行ってきます』
それはミウリが書き置きを残していたから。
書き置きが無かったら出奔か失踪として、放って置かれたかもしれないね。
「リリー先輩達が依頼受けたんだ」
「ええ、丁度別件の依頼もあってね」
Aランク冒険者のリリーが受けた理由は恐らく、依頼の金額の低さだろう。
受けてくれる冒険者がいなかったといった所か。
「リリー先輩って、ここ孤児院の院長と知り合いなの?」
「いえ、そんなことはないけど?依頼を受けたのは、まぁ私の問題よ」
「そか」
王女だから民を守る義務がある、そんなところだろう。
嫌いじゃないよ。そういうの。でも…
「何故そんな事を聞くのかしら?」
クーンが私に問う。
ぬふふ、決まってるじゃないの、わからないかなー?
「ワトルーと、ミウリは渡さないよ」
「ミリー!何を言って」
声を荒げたカリスの口を塞いだのはミルファだった。
ミルファは微笑んでいる。
「相変わらず優しいのですね。ミリー」
「はて、何のことかな?」
「構わないわ。その方がきっといいわね」
リリー先輩はあっさりと了承した。
「リリー先輩。ありがと」
「リリー、いいのか?」
カリスの言葉に
「何も無かった方がいいにきまってるわね」
クーンが答えた。その答えにリリー先輩も
「そういう事。私達にはもう一つの仕事もあるのだからこの子達はミリーに任せましょ」
「何も起きなかった、ね。了解」
カリスも納得したようだ。
「じゃあ、私達は行くわね。私達の来たほうが出口よ」
そう言い残してリリー先輩たちは行ってしまった。
私達は出口へ向かって歩き出した。
ワトルーとミウリは俯いている。
「で、どういう事だ?」
ムッツが今の会話を理解できないでいた。
やれやれだ。
「つまり、捜索依頼が達成されない内に子どもたちが戻れば依頼は取り消し。依頼登録手数料だけで済むってことですよ」
レトリーが説明してくれた。
孤児院の運営は非常に厳しい。
にも関わらず、お金を使って捜索依頼を出してくれた。
その事がワトルーとミウリが俯いている原因だ。
「お姉ちゃん…」
「なにも言わなくてもいいよ。分かってるから」
「でも…」
「ワトルーとミウリはひもじかったんだよね。大丈夫、一緒に謝ろ?」
「ミリー!」
ずっと俯いていたワトルーが顔をあげた。
私は不敵に笑う。
「いっそ、有耶無耶にしちゃおっか?唐揚げ一杯買って帰ってさ」
「ミリー様、唐揚げもいいですが、最近ではダンジョン肉まんも有名ですよ」
「それイイネ。リッキー手伝ってくれる?」
「ああ、いいとも。力がある所を見せるよ」
「俺も手伝うぜ!」
「私もお手伝いしましょう」
「お姉ちゃん、そんなにしてもらったら悪いよ」
ミウリが私の懐を心配しだした。
「私もこう見えて冒険者だからね。必要なら使う、笑って使う。コレが冒険者ってものよ」
ウィンクする私に呼応してムッツが盛り上げる。
「よーし、6時間説教記念パーティーだー!」
「その記念はちょっと」
私が難色を示すと、ワトルーとミウリが笑ってくれた。
この子達は賢い。
自分たちの行為が如何に周囲を心配させているのかしっかりと判っている。
もう周りを省みない様な無茶はしないだろう。
「じゃあ、ワトルーとミウリ、そして僕らの初ダンジョン記念で」
と、リッキーが言い直してくれた。
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「まさか、手紙にあったのがミリーだと思わなかったわ」
「私もここでユーノ姉に会うとは思ってもみなかったよ」
あの後、私達はダンジョンを出て、直ぐに都市に戻ってきた。
すでに夕暮れ時で、私とセバっちゃんとで食べ物をいろいろと買い、孤児院に向かった。
ワトルーとミウリを待っていたのは、ビフテの孤児院で幼い頃の私の面倒も見てくれたユーノ姉だった。
再開の喜びで、ワトルーとミウリの件も何となく有耶無耶になってしまった。
なんだかんだで人生は自己責任だからね。
ユーノ姉は5年前にビフテの孤児院を出た。
インチョーに散々シゴカれ、すっかり武闘家となって卒院したユーノ姉は冒険者になり、ダンジョンで一儲けしようと、ここウノユにやって来たらしい。
「私の旦那様は薬師なんだけど、教会の信用もあつく、この孤児院の運営も任されていてね。その人に見初められて3年前に結婚したの」
「そうだったんだ」
「ただここも運営が楽じゃなくて」
「不思議と教会ってお金無いよね。お布施とかいっぱい取ってそうじゃない?」
「布教活動と慈善事業がセットでの活動になるからよ。教会の炊き出しや、出張医療が頼りの村々も多いと聞くわ」
「やれやれ、国は何をやってるのやら」
「本当ね。せめてあの子達にもっと食べさせてあげたいけど」
「今日は泊まっていっていい?色々とお話したいな」
私は、話が新ポーション絡みになりそうな気がしたので、後で話そうと彼女に言った。
ここにはヤツ(セバ)がいるので不味いのだ。
「そうね、私もミリーの武勇伝を色々聞きたいわ。特にグレートマムのくだりをね」
「ぶふ!」
「ミリーってグレートマムなのか!?」
先程から私にまとわりついている子供たちが目を輝かせた!
出会って1時間足らずでここまで懐くとは、ほんと食べ物の力は偉大である。
あのセバっちゃんの周りにでさえ、子供たちがまとわりついている。
「ミリー様、『さえ』は余計でございます」
「思考読むな!」
相変わらず危険な男だ。
「ここウノユではグレートマムってどう伝わってるのさ?」
「大女でー、武術大会で相手を吹き飛ばしたり、Aランクの冒険者チームを壊滅させたりとかしたんだって」
「手下が1000人越してて、ビフテの支配者になったって」
まあ、グレートマムの噂は尾ひれが付き、女傑として広まっているようだ。
呆れると同時に、少しニンマリしてしまう。
よしよし、どう考えても人々のイメージとして、グレートマム=聖女とはならないだろう。
「どう? 私がそのグレートマムだぞー!」
「あははー。やっぱ嘘だー、ミリーは大女じゃないじゃないか!」
「ミリーちっとも強そうじゃないじゃん!」
「えー!、そこの牛男の頭みてよ!」
「それワトルーから説教くらったお情けだって聞いたよ!」
「ち!バレたか」
こうして子供たちに茶化されながら、パーティーの夜は更けていった。
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朝、ギルドに牛男の頭を持っていった。
ギルド前ではドワーフが土下座して待っていた。
ああ、すっかり忘れてたけど、禁酒魔法かけたんだったね。
「グレートマム様!お慈悲を!」
涙を流すドワーフに周囲がざわついている!
うへー! 悪目立ちするわー。
「きょうは機嫌が良いから特別だよ。次怒らせたら、本当に一生飲めなくするからね」
私は魔法を解除してあげた。
「有難うございます!有難うございます!」
そう言って泣きながら私に一礼すると、猛ダッシュで走り去った。
お酒を飲みに行ったんだろうね。きっと。
たっぷり飲むといいさ。
周囲がざわついている。
牛男のマスクを背負った私がドワーフに泣きながら土下座されているという光景は、周囲にどう映っただろう。
「あれがグレートマムか!」
とか、ちらほら聞こえてくる。
ふうやれやれだね。
ま、いいけどね。
もうすぐここともオサラバだからさ、旅の恥もかき捨てなのだ。
『牛ジジイのマスク』はギルド職員を困惑させた。
鑑定の結果、レア度SSS、でも価値は0G。
しかも牛男限定装備。
ギルドに持ち込まれた実績が過去に無く、ポイント計算が出来ないのだ。
引取れ、引き取れない、ですったもんだしたけど、セバっちゃんの口利きで結局ギルドが牛男の生態資料として引取ってくれることになった。
それなりにポイントも貰え、私はEランクになったのだった。
他のメンバーにもポイントは割り振られるけど、試験を受けなければDランクにはなれない。
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私達はその後、数日ウノユに滞在したけど、結局依頼は受ける事ができなかった。
ジっちゃんの準備も済み、ビフテに戻って来て一ヶ月。
ようやくビフテでも待ちに待った噂が耳に入るようになった。
『教会の開発した新ポーションが凄いらしい!』
私の思惑通りに事は運んでいるようだ。
さぁ、世界は変わっちゃうぞっと。
牛ジジイのマスクはその希少性からやがて王国へ献上され国宝になるのだった。




