50話 大賢者である私は加護を与える
疲れたわー。
いやホントダンジョン疲れる。
説教6時間とかマジあり得ないしょ。
いや、しかしそれがダンジョン。
なにが起こるか判らない、油断が思いがけない事態を招く場所。
牛男からの責め苦に耐え、見事試練に打ち勝った私達は広間を後にした。
またもや一本道。
やがて小さな部屋にたどり着いた。
部屋にはまたもや宝箱が一個置いてある。
「これって、あれだよね」
「そうだよなー」
「しかし、他に道も無さそうですね」
「行くしか無いでしょうな」
「何でもいいや。もう行こうよ」
「zzzz」
「よし! 行こう!」
リッキーが決断を下す。
因みにミウリは説教が終わるとすぐ眠気を訴え、今はセバっちゃんにおぶわれている。
リッキーの決断を受け、ムッツが宝箱に触れる。
来た時と同じ様に部屋全体が光る。
光が収まった時、また別の場所に転移されたようだった。
転移先の部屋には扉と困った事にまた宝箱が置いてある。
「どうしよう?」
リッキーが皆に意見を求めてくる。
うーん、そうだだよね、迷うよね。
「どちらかはトラップかも知れません」
レトリーの意見も尤もではある。
まあ、そうだなー、宝箱は怪しい。
私の感知ではトラップが無いように思うけど、皆結論が出せないでいる。
「あ、宝箱!」
ミウリが起きたようだ。あ、そうだ!
「ねえ、ミウリ。あの宝箱は怪しい?」
「ううん。何かいいもの予感」
ミウリはセバっちゃんから降りると宝箱の元に走り、いきなり宝箱を開けた。
何も起きない。
凄いな絶対勘!本当に外さない。
ミウリは何の躊躇いも無く中の物を取り出した。
手に入れたのは指輪。
私は魔道士的分析を密かに行う。
マジックアイテムのようだ。
効果は能力強化(弱)。
実際どの程度の補正がかかるか、鑑定スキル持ちではないのではっきりとはしない。
けれど、この指輪にミウリが一番ふさわしい。
それは判る。
マジックアイテムなので、サイズもミウリの指に合わせて自動調整されるのだ。
しかし、ミウリは指輪をリッキーに渡そうとした。
「待って、リッキー」
「うん、ミリー大丈夫。分かってる」
「ミウリ、私たちは宝箱にまた転移のトラップがかかっているかもって開けれなかったんだ」
「そうなんだ」
「この宝箱を開けれたのはミウリだけ。だからその指輪の優先権はミウリだよ」
「え、いいの?」
「うん、ミウリが一番ふさわしいかな。僕たちは開ける勇気が無かった」
「ああ、そうだな」、「ええ、勿論ですとも」、「良かったですなミウリ」
皆賛成してくれた。
気の良いパーティーに入れて良かったと思った。
「兄ちゃん達有難う、良かったなミウリ」
「うん」
「なんと言っても俺たちは説教6時間の仲だからな」
「だな!」
ムッツとワトルーは何気に意気投合したようだ。
「ねぇ、ミウリちょっとだけ指輪を貸してくれない?」
「うん、いいよ」
ミウリは私に指輪を貸してくれた。
指輪を見るとまだ、魔法付与の許容量には達していないようだ。
よし、これならいけそうだ。
「え、何?綺麗!」
指輪を持つ私の手のひらに魔法陣が出現したのだから驚くのは無理もない。
私は指輪に付与をした。
かけたのは、防御魔法『守るのは性に合わないので反撃しちゃう♡でもたまには逃げるかも』である。
これは命の危険が迫った時に、全方位防壁を貼る魔法。
危機の種類によって反撃か、安全な場所への転移かを魔法が判断し実行するのだ。
因みに転移先は自動選別というスグレモノ。
攻撃は最大の防御というよね。
このような条件判断魔法回路や思考ルーチン回路を組み込んだ魔法陣エンチャントは500年前でも行使できたのは私だけ。
何気に凄い魔法なんだからね。
さらにワトルーも生体認識魔法の連動により、魔法の庇護化に入るように設定した。
この二人はまた危険に飛び込みそうだ。
という私の勘である。
コレだけの魔法付与を短時間でできたのは、オトプレちゃんのサポートがあってこそ。
何気に便利ちゃんだ。
「はい、ありがと」
私はミウリに指輪を返した。
「お姉ちゃん。ありがとう何か凄い指輪になった気がする」
さすが絶対勘だ。
「ちょっとしたおまじないを掛けただけだよ」
ミウリは指輪をはめて見せてくれた。
「さて、そうなると出来ることは扉を開けるだけだな」
ムッツは珍重に扉のノブに手をかける。
罠も鍵もかかっていないようだった。
扉を開ると正面は壁で左右に通路が伸びている。
どうやら一本道の側面壁にある扉の様だね。
さて 右か左か どちらに進むべきか。
扉から出たところで私達は足を止めた、皆ミウリを見る。
彼女の勘に頼てしまうのは仕方がない。
その時、右手側から足音が複数近づいてくるのに気づいた。
恐らく他の冒険者だろうから彼らから情報を得よう。
と思ったけど、こちらから声をかけるまでもなく
向こうから声を掛けられた。
「ミリー?」
「ん? この声はリリー先輩?」
通路は明るいが先が見通せる程でも無い。
しかも、こちらはオトプレちゃんが光の精霊に擬態している為、私達の周囲が明るくなりすぎている。
強い光が通路の奥を見通し難くしていたので、リリーを視認するのが直前まで判らなかったのだった。
「あなた達ダンジョンの入り口付近で立ち止まって何やってるの?」
「ほー。ここは入り口付近なのか。ありがとリリー先輩」
ということはリリー先輩達が来た方向が出口なのかな。
「僕たちはそこの扉から出てきたばかりなんですよ」
リッキーが説明してくれた。
「扉?どこにあるのさ?ああ、アンタ達ショートチャンレンジに行ってたのか」
リリーパーティーのメンバーで、レンジャー兼スカウトのカリスの言葉に驚き、私達が扉の方を見れば、今まであった筈の扉は消えていてあるのは通路の壁だった。
「え? あれ?確かにここに扉があって……」
「ショートチャレンジですか?」
「ああ、ダンジョンは時々通路を変化させるのは知ってるよな」
「ええ、存じております」
「たまに出現してすぐに消える通路があるんだ。その通路は大抵一本道で行く先にはボスがいるんだよ。ボスを倒すと元の場所に戻って来れるって訳だけど、それをショートチャレンジって言うのさ。で挑戦者が扉から全員出ると通路は消えてしまうんだ」
なるほど確かにカリスの説明通りの展開だった。
「誰も突っ込まないようだから私が突っ込むけど」
とツッコミ宣言をしてきたのはリリーパーティの魔道士、クーン。
ま、言いたい事は判っている。
「ミリー、貴女の背負っている牛の頭は何かしら?」
牛ジジイのマスク。
捨てたかったけど、ジジイがまた出てくるとイヤなのでロープで縛り背負ってきたのだった。
『エルオスの無限バッグ』に入れることは出来る。
しかしバッグの存在は秘密。
だから仕方なく背負っているのだ。
「これは牛男のマスクだよ。ある意味戦利品?」
「牛男のマスク?牛男ってマスクだったの?」
リリーが驚きの声を上げる。
「そうみたい、本人曰く『肩が凝るから嫌だけどこれもダンジョンの習い』だってさ」
「そ、そうなんだ」
「欲しければあげるよ?」
「いえ、遠慮しておくわ。それはミリーのものでしょ?悪いわ」
目が明後日方を向いているよ、リリー先輩。
そういえば リリーパーティーのヒーラー、ミルファは一言も発せずある1点を見つめている。
まあ、遭遇してしまったし誤魔化せないよね。
「ミルファたん質問カモン!」
「え、ええミリー、その光の精霊は一体?」
「オトプレちゃんと言う名前だよ。昔からの付き合いなんだ。明るくて便利だから出てきて貰ってるのよ。ヨロシクネ」
嘘は言ってない。
ただ昔が500年前を指すというだけの事。
ミルファは手を組み光の精霊に祈りを捧げた。
目には涙を浮かべている。
「光の精霊は神の使いとも言われています」
「そ、そうなんだ」
ミルファの大げさな態度にちょっと引く。
言えないわー。
実は魔導書ですなんて。
そんな私を見つめるリリー先輩は無言。
怖いよ?
「リリー様達もダンジョン探索ですか?」
お近づきになりたいムッツがリリーに話しかける。
丁寧な言葉遣い、似合わん。
「ええ、依頼を受けて子供を探しにね」
「それって私達?」
セバっちゃんの後ろに隠れていたワトルーとミウリが前に出てくる。
「あなた達ワトルー君とミウリちゃん?」
「ああ」、「うんそうだよ」
「あなた達!」
クーンが怒りそうになったとろをクーンに口に手を当て遮ったのは、今まで祈りを捧げていたミルファだった。
ミルファは二人に近づき二人を抱きしめた。
「二人が無事で本当に良かったわ」
抱きしめられた二人は
「「……ごめんなさい」」
しおらしく謝ったのだった。
果たして牛ジジイのマスクの行方は?




