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45話 大賢者である私とダンジョン騒動1

「腹減ったなー」


「今日は残念だったね」


 男の子と女の子が並んで歩いている。

 リッキルトから財布を盗んだものの、ミリーの防犯魔法により

 取り返されてしまった子達だ。

 今は夕暮れ時。

 孤児院に戻れば夕飯は貰える。

 でもお腹いっぱいにはならない。


「ダンジョン目当てでこんなにいっぱい冒険者がいて潤ってるのに、なんで孤児院は貧乏なんだろうな」


「寄付してくれてもいいのにね」


 ダンジョンは多くの資源や宝を排出し、一攫千金を狙う冒険者で都市は溢れかえっている。

 しかし、財を成す冒険者はほんの一握りだ。

 圧倒的にその日の暮らしに追われる者が多いので寄付する余裕は無い。

 そんな事は2人もわかっている。

 孤児院に寄付するメリットがあれば別だが、そんな魅力が孤児院に無いことも。


 二人は孤児院に帰る途中だったが、すれ違った冒険者の一言が男の子の耳に止まった。


「モンスターの湧きが少なくなって助かるよなー」


「ホントホント!ほとんどいないから、その分宝探しに専念出来るよね」


<夜に忍び込めれば、俺でも宝を手に入れるチャンスがあるかも!そうしたら、旨い物をミウリと腹いっぱい食べれる>


「ねえワトルー」


「ん?ミウリどうした?」


「ダンジョン行こうとか考えてないよね?ダメだからね」


「心配しなくても大丈夫だって」


 ワトルーは誤魔化しながらも

 ミウリの相変わらずの勘の良さを実感していた。

 ミウリの勘は絶対だ。

 今までスリで捕まらなかったのは、彼女の勘のおかげだった。

 その事を1番よく知っているのは何度も彼女の勘に助けられたワトルーである。


 ワトルーには夢がある。

 15歳になって孤児院を出たら冒険者になってダンジョンで財を成す。

 そして毎日ミウリと美味しいものを腹いっぱい食べるのだ。


 実はワトルーはダンジョンに少しだけ内緒で入ってみた事がある。

 ダンジョンに入れるのは冒険者だけと決まりがあるが、別に見張りがいるわけでは無い。

 一歩だけ入って見たけど、特に魔法などの結界とかで出入りを制限している様子も無かった。

 少しだけ中に進むとダンジョン内は何故か明るく、松明なども必要ないことがわかった。

 その時は冒険者が戻ってくる気配がしたので急ぎダンジョンから出たのだった。


<今日は満月。夜道も明るいし、今夜早速一人で行こう!>



ーーーーーーーーーーーーーーー



「ここが最下層かしら?」


 ダンジョンの最奥と思われる地点にリリー達「青薔薇の戦乙女」はたどり着いた。

 大きな広間だ。

 ここには先程までこのダンジョンのボスらしき、戦斧を持った身の丈3mはあろう牛男達がいた。

 が、彼女たちの敵では無かった様だ。


「特に抜け道や隠し通路も無いな」


 周囲を調べていたカリスが告げた。


「モンスターがほとんど沸かない意外には不審な点も無いわね。文献にも無い事象だけど、そういう時期があるのかも知れないわ」


 ダンジョンの仕組みを解明出来た者はいない。

 魔道士クーンも明確な原因を探り出せなかった以上、そういうものと言うしかなかった。

 ダンジョンは不思議でいっぱいなのだ。


「まだ奥がある気がするのよね」


 リリーはダンジョンの壁を剣で小突くが、石壁に当たる感触があるだけだった。


「どちらにせよ、一端戻った方がいいのではないでしょうか?」


 ヒーラーのミルファが提案する。


「ミルファに賛成。お風呂に入りたい」


 カリスがミルファに賛同する。


「そうね。此処に居ても時間の無駄ね」


 リリーは撤収を決めた。

 結論から言えば此処は最下層では無い。

 しかし、魔法で隠蔽された次の層への道を発見することは出来ないだろう。


<ミリー、貴女がいたら何か発見出来たかしら>


 ミリーシアタ。

 神の寵愛を受ける聖女の中でも群を抜く力を持つ。

 他国に聖女は何人かいるが、ミリーこそ、その頂点にいる大聖女だろう。

 彼女は神より数多くの破格の奇跡を授かる『聖紋の聖女』なのだ。


 彼女に接した人は、彼女の幼い外見とフランクな性格に惑わされて聖女らしく無いと言うだろう。

 しかし彼女は慈愛に満ち溢れている。

 その事をリリーは誰よりも知っている。

 弟を私達を王国の名誉を、慈愛に満ちた優しい嘘で救ってくれたのだ。


「ミリーがいたら即座に外に出れるのかな?」


「あの娘の奇跡はずるいわ。魔道士の私でも転移なんて使えないのに」


「そうですね。ミリーがいたらきっと素敵ですね」


 リリー意外の3人もミリーの事を考えていたようだ。


<ミリー、貴女ってほんとに人たらしね>


 リリーは苦笑するのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 日も暮れたがこの日、ブレイドは依頼人に会えなかった。

 それでも待ってみたがやはり依頼人は現れなかった。

 月もだいぶ高くなったので、ブレイドは待ち合わせ場所から去った。

 真面目な男である。

 そして今は大衆酒場にいる。

 ブレイドは高級酒場よりこちらの方が気楽で好きだった。

 依頼人がダンジョンより戻って来ていない。

 指定された日は今日で間違いはない。

 しかし、ダンジョンの中では時間感覚が狂うので、仕方がない事もわかっていた。


<わざわざこの都市を指定して呼び出して置きながら、すっぽかすとはな。ま、王女様のご指名なら待つしかないか>


 依頼の内容はわからないが、すっぽかされたし、本来なら帰ってもいい。(この時点でリリーは完全に忘れており、ブレイドは本当にすっぽかされた)

 しかし帰るなんて事は考えない。

 今この都市にはミリー様がいるのだ。

 名前で呼んでいいという、これ以上ない名誉を授かった。

 同志たちには悪いが黙っているつもりだった。

 それにしても今日のミリー様は神秘的だった。

   

 そう考えつつ、ブレイドがニンマリしながらビールを流しこんでいると一人の男に目が止まった。


<お、タルビアがいるな>


 ミリーに喧嘩を売った哀れな男だ。

 ミリーが男に与えた罰を思い出し、ブレイドはその効果が気になった。


「よお、タルビア 酒は飲めてるか!」


 タルビアはブレイドの呼びかけにも応えず、ビールを飲もうとしている。

 その様子は鬼気迫るものがあった。


 一気にビールを口の中に流しこもうとするのだが、口の中に入る直前にビールは消えてしまう。

 二人にはわからないが、消えたビールは魔力に変換されミリーの魔力ストックに貯蔵される。

 無駄のない魔法設計だった。


「おおー!見事に飲めてない!でもビールはしっかり消費している。実に恐ろしい罰だな」


「うおお!飲めん!ビールは無くなる!でも儂の口には入っていかないのじゃ!」


 タルビアは努力した。

 ストローを使ってみたり、洗面器にお酒をつぎ顔面ごとお酒に浸かりにいったり、鼻から飲もうとしたり、食べ物にお酒を染み込ませてみたりと、考えつく限りのことを試し、いずれも成功しなかった。

 ミリーが言ったとおり、100%お酒だけがタルビアの体内に入るのを防がれた。

 ミリーの言葉を思い出すタルビア。


「あなたは今後一切お酒が飲めません。一生ね」


 一生である。

 タルビアは後悔した。

 喧嘩を売るべきではない相手に喧嘩を売った。

 代償は一生の禁酒。

 地獄だ。

 彼女の言うとおり、拷問を通り越して地獄だ。


「うおおおお!」


 涙を流すタルビア。

 完全に無視されてたが罰の威力はわかった。

 最大の急所を効果的に突く。

 ミリーの恐ろしさを改めてブレイドは実感した。


<やれやれ、哀れすぎてかける言葉がみつからん>


 その時ブレイドは声を掛けられた。


「お久しぶりね、ブレイド」


 見れば、その場にいたのはリリエナスタ王女、その人とそのパーティーメンバー達だった。

タルビアは果たして許されるのか?

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