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33話 大賢者である私が負けた日



 夢だ。これは夢。

 だって、もはや会うことは叶わない人が、勇者アヤメが私と戦っている。

 そう、これはあの日の記憶だ。

 アヤメを元の世界に返した日の記憶。

 何故アヤメの夢を今になって?

 きっと、寝る前にオトプレちゃんを呼び出したからだ。

 オトプレちゃんは以前の私、ロゼシアスタの姿で現れた。

 それにオトプレちゃんを取り出す時、私は大切に保管されているそれに気づいてしまった。

 勇者アヤメの装備一式。

 きっとだからだ。



 世界が魔王の脅威から救われて、世界の国々よる勇者争奪戦が実際の戦に発展する寸前にまでいってしまった情勢下のある日。

 私の隠れ家に付いてきていたアヤメは私にこう切り出した。


「ロゼたん。前に私を元の世界に帰す事できるって言ってたよね」


「ええ、勇者帰還の法も文献に載っているわ」


 私は古の文献の通りに勇者の召喚を行った。

 これは私の魔法ではない。

 古の大賢人達の魔法。

 その術式は私にも解らなかった。

 彼等からしてみれば、私などまだまだヒヨッコに違いない。

 その文献には勇者を元の世界の元の時間の元の場所に返す法も載っていた。


「じゃあさ、私、帰りたいな」


「え、?か、帰りたいの?」


 私は狼狽した。

 アヤメを帰したくない。

 アヤメは最高のパートナー。

 これ以上一緒にいて楽しい相手はいない。


「うん、ここでの私の役割は終わったでしょ。これ以上いるのは逆に害になると思うし」


 アヤメは優しい。

 自分が原因の争いが悲しいのだろう。

 命を懸けて、縁もない他所の世界を救い、その結果、自分が原因で国々が争う。

 それでは何の為に辛い戦いに身を投じたのか。


「そうね。そうかも知れないわ。でも、そのためには貴女を呼び出した私と戦って勝たなければならないわ。それでも挑戦する?」


 嘘だ。彼女を帰したくないからついた嘘だった。


「そっか。でも挑戦する。ロゼは強いから、全力でいくよ」


 こうして私はアヤメと戦った。

 アヤメは強かった。

 いやアヤメは強くなったのだ。

 私は終にはオトプレちゃんとの波状攻撃を仕掛けるまでに追い詰められていた。

 アヤメは剣一本だ。

 剣一本で魔法を弾き、私達の繰り出す魔法の弾幕をかいくぐり、接近してくる。

 接近されたら負け。

 私に肉弾戦は出来ない。

 隠し技にしていた無詠唱での攻撃魔法ですら、かすり傷一つ負わすことが出来ない。

 最上位魔法デバフも尽くレジストされた。


「チェックメイト!だね」


 首元に突きつけられるアヤメの剣。

 私は負けた。

 全力で阻止しようとして負けた。

 完敗だ。


 アヤメは戦う前、「全力で行く」と言っていたが、それは彼女の優しい嘘だ。

 アヤメは本気ではない。

 手加減をしている。


「降参よ。強くなったわね」


「ロゼたん、ありがと。手加減してくれて。極大殲滅魔法とかきたら、どうしようかと思ったよ」


 対個人にそんな物騒なもの使えるはずがない。

 だがしかし、本気で勝つつもりならそれしか無いのかも知れない。

 それほどに、アヤメは強すぎた。


「約束…よ。貴女を今から元の世界に返します」


「お? 今できるの?」


「ええ、実はアヤメは今でも元の世界に繋がっているのよ。呼ぶのは大変な時間と労力、複雑な儀式を必要とするけど帰すのは割と簡単なのよ。私に勝つ実力と(嘘だけど)私の魔力があれば(こっちは本当)、ね」


「へー、やっぱロゼたん凄いね。じゃあ、お願い」


「なにか、やり残した事、言い残した事は無い?」


 これは私の未練だ。


「うん。ダイジョブ」


 私は覚悟を決め、『勇者帰還の法』を発動させた。


 アヤメがこの世界から消える瞬間に何かを話した。


「ロゼたん。楽しかったよ」


 そう私には聞こえた。

 私は、彼女のいた場所を見つめる。


「私も楽しかったわ」


 そして既に居ない彼女に泣きながらそう言ったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目が覚めた。

 わたくしミリーシアタは泣いていた。

 ぼんやりとアヤメの居なくなった以降の日々を思い出していた。

 ロゼシアスタは研究三昧の日々に戻った。

 そして色々な魔法を開発した。

 魔法のネーミングなどは、アヤメのセンスの影響を受けるようになった。

 アヤメから聞いた向こうの世界の話は、私の想像の遥かに上を行くもので私の好奇心を刺激したし、魔法開発に大いに役にたった。

 しかし、虚しかった。

 実に空虚な日々だった。

 私は飽きていた。

 アヤメの居ないこの世界に。

 ティーバが私を探しているいう情報が入った時、私は転生を決意した。

 この世界から逃げ出すことにしたのだ。


 ティーバはアヤメを帰還させた私を恨んでいた。

 しかし私の方がアヤメを帰還させた私を、より強く恨んでいた。

 だからロゼシアスタが魔女の汚名を着せられるのを良しとしたのかもしれない。

 そしてついでにティーバの強すぎる野心を道連れにしたのだ。


 私は、私が死ぬ記念に花火を打ち上げた。

 新しい門出の祝でもあった。

 そして私は転生して姿を変え、この世界で私を満たす何かをきっと探すのだろう。


 アヤメとの日々は帰ってこない。

 だから、新しい何かを後世の世に求めたのだ。

 より発展した世界を夢見て。


 その世界で、グータラ過ごす。そう決めた。

 私を夢中にさせる何かに出会うまでは。


「やれやれだね。却って退化してるじゃん」


 独り言を呟きながら、背伸びをしベッドから降りる。

 退化した世界ではあるが、屈かといえばそうでもない。


 アラバスタル王国王女リリエナスタ。

 彼女との頭脳ゲームは少しだけ楽しい。

 私のグータラが目下、足を引っ張っている状況であるが、だからこそ楽しい。

 私はグータラのまま勝利するのだ。


 まだ日の出前、すこし眠い。

 だがしかし今日だけは、私は勝利の為の神の一手を打つ為、行動を起こすのだ。


 素早く着替え、簡単に身だしなみを整える。

 部屋を出る時、ドアノブを掴む手を見て思う。


<武術を極めた今の私だったら、負けないからねアヤメ!>

今回はすこし真面目に

勇者の帰還と

ロゼシアスタの思いについて書きました

勇者アヤメのセリフも初めてです。


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