29話 大賢者である私はついに念願を果たす
私は生まれて初めて冒険者として町の外で活動する依頼を受けた。
ズバリ!薬草採りである。
そう、長かった。長く辛い日々であった。
毎日毎日、食べて寝る!こんな生活ともオサラバだ。
と言うほど実は暇じゃなかった。
以下は私の回想だぞ!
私が加入したパーティー『ビフテの星』だけど、リーダーのリッキーことリッキルト君は筋肉痛で身動きがとれず一週間程、診療所で入院した。
魔法でささっと治療しても良かったんだけど、でもそれだとせっかくの筋肉痛が勿体ない。
これは一種の鍛錬だからね。
魔法で治すとそれらは全てリセットされてしまうのだ。
リッキーはこの苦痛を乗り切れば少しだけ強靭な肉体になるだろう。
ということで大オーディション大会の後、私はまたもお預けを食らってしまったのだ。
オーディションの翌日。
フェル王子やリリー達『青薔薇の戦乙女』の面々の見送りをし、ギルドに顔を出したら相変わらず冒険者が多い。
セバっちゃんの話ではビフテに拠点を移した冒険者が増えたのだという。
私の美しさに魅了(以下略)。
「セバっちゃんさぁ」
「何でございますかな。マイバディ」
「これは何かな?」
私はセバっちゃんのマイバディのところを無視してギルドのカウンターの隅っこを指差した。
そこには新たな看板が吊る下がっていて、『G様謁見所』と書かれていた。
見ればその部分だけ無駄に豪華に磨きこまれたカウンターと豪華な椅子が設置されている。
ちなみにお客さん誘導の為のレッドカーペットまで敷いてあった。
「喜んでいただけて何より。徹夜した甲斐がございましたな」
セバっちゃんはいつもどおり無表情だ。
「私って何時からギルドの職員になったのかしら?」
セバっちゃん相手に怒っては負けだ。
理性で勝負するのよミリー!
なんとか感情を抑えると敢えて大人っぽく聞いてみた。
「職員だ、などととんでもございません。ただミリー様は昨日、冒険者の皆様の治療をするとおっしゃいましたので。バディとして、その場を提供したまででございます」
「えー、つまり非番の時はここに詰めろと?」
「強要は致しませんとも。のーんびり、ぐーたら過ごされても結構でございます」
「ぐ、ぐぐ、まぁ冒険者たる者グータラなんてしないけどさ」
「流石ミリー様でございます。では早速席について下さい」
「んー治すのはいいんだけど。即効性のはやらないよ?目立つから。あと、無料もやだよ?教会と診療所を敵にしたくないし」
「奇跡の種類はおまかせします。もちろん、料金も頂くつもりです。1治療に付き100G、教会と同じ価格です。ポーションを買うよりは安いですからな。ミリー様に50G、ギルドに50Gでどうでしょう?」
「お主、なかなか悪よのう。7:3なら手を打とう」
「ご冗談を。せめて6:4で」
「ぐふふ、仕方あるまい。ではそれで手を打とう」
こうして取り敢えずリッキーが復活するまで新設されたギルドの治療コーナーで私は回復の奇跡を行いまくり、結構人気になっていた。
どんな時もで人気者になってしまう私。
罪な女ね。まったく。
あと回想はここまでね。
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ミリーが初めての薬草採りに出掛けていった頃、冒険者ギルドにはリリー王女が来ていた。
ミリーの治療コーナーのカウンターには「G様は主張中」と書かれた石が置いてあり、流石に並んでいるものはいない。
ミリーがいると長蛇の列ができるという。
ここ1,2日くらいでは冒険者以外に町人や子供、怪我もしてないG様の下僕も並んでいるようだった。
そういった時、ミリーは
「怪我もしてないのに並ぶんじゃねー!」
と言って、蹴飛ばすのだという。
(G様の下僕にはマゾが多いようだ。)
そして下僕はG様に蹴られたところの治療のため、また並ぶのだ。
余談だがG様はハイキックで蹴りを入れるので蹴られる瞬間、パンチラが発生する。
G様は意識してないのでバンバン、ハイキックをかます。
その点も怪我のない信者が並ぶ要因になっているのだが、信者同士の暗黙の了解になっており、彼等の熱い絆により、G様にバレることは無かった。
この日、セバはミリーと行動している為いなかった。
そこでリリー王女はナルカラからここ数日の状況を聞いた。
その話をきいてリリー王女はにっこりと微笑んだ。
<ミリー、やっぱりやらかしたわね。貴方はまだ貴方の奇跡の凄さをわかっていない。ミルファから詳しく回復の奇跡について聞いたようだけどね。あなたの奇跡はあまりに破格。私が何もしなくとも直ぐに貴方は皆に聖女と崇められるわ>
セバの作った回復コーナーにミリーが乗っかってしまったことでリリーの思惑通りに事は進んでいる。
王家の方の準備ができる頃には破格の奇跡の使い手の噂は更に広まっているだろう。
ミリーは3つの点を失念している。
ミリーは回復速度をミルファの使う奇跡の速度より若干遅くした。
それはいい。
しかし、術にかかる時間を失念していた。
ミリーは面倒なので1人の治療に掛ける時間を短くするため、5人づつ纏めて奇跡を使った。
しかも奇跡の行使にかかる時間が10秒足らずである。
(奇跡、いや回復の魔法自体は実は瞬間で発動しており、
ミリーがつけたエフェクトの終了までに数秒かかった)
ミルファの回復の奇跡でも1人最低1分は祈り、ヒドイ傷なら10分以上かかることもある。
さらに同時に5人だなんて、とんでもない話であり、どんなに傷が深くとも10秒で効果を発揮しだすなど、あり得ない話だった。
ミリーが失念している2つ目は痛みである。
回復の奇跡で治癒速度が向上してもある程度直るまで痛みはある。
ところが、ミリーの行う奇跡の場合流石に0にはならないが、深手を追って苦痛に顔を歪ませている者が笑顔で帰っていくくらいに痛みが緩和された。
これはミリー自身が痛いのが嫌いだからであり、500年前の回復の奇跡でも痛みを消すのは当然なので、当たり前と勘違いしている為だった。
今の時代の回復の奇跡がそこまで劣化しているとさすがに思わなかったのだ。
さらに3つ目の失念は治癒後にあった。
回復の奇跡は自然治癒を早める奇跡だ。
当然傷跡が残ったり、後遺症が出たりする。
ミリーの場合は全く傷跡が残らない。
そう、傷つく前に戻るのだ。
したがって後遺症も出ない。
この点はミルファの奇跡も同等に力を発揮し、傷跡や後遺症が残ることはない。
彼女たちのパーティーは無傷でいられるのもミルファの貢献による。
さて、こんな三拍子揃った破格の奇跡を見せられ、治療を受けた冒険者達はどう思うだろう。
事実、
G様の奇跡は特別だ。
さすがはG様。
G様はちび女神だ。
グレートマムはちびっ子だが本当にグレートだ!
G様の蹴りは痛気持ちいい!
さらに蹴られる瞬間、天国が待っている。
とミリーの気づかない間に
G様信者は増殖していったのだった。
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私は念願の薬草採りの依頼を受け、町の外に出ていた。
ビフテの星のメンバーの説明はまた後でしよう。
ただリッキー達ビフテの星はEランクパーティーなので薬草採りでは物足りないだろう。
これにも実は事情がある。
私がギルドで治療しまくった結果、G様効果により、ビフテに冒険者が増加。
しかも大量に治療したからリッキーが退院してきた時にはすでに常設の依頼しか無くなってしまったのだ。
これはこれで問題だね。
私としては小銭を儲けさせて貰ったので
あまり文句は言えない。
というかこの状況を作ったのは
百歩譲って私という見方もできるのだ。
<私は罪づくりな女。パーティーのみんな許してね。でも私もどうしていいかわからないの!>
などと考えている私を見てセバっちゃんはため息を付いた。
「全くもって羨ましい思考ですな」
またも人の思考を読んで言ったのである。
G様のハイキックはビフテ名物になるのだった




