28話 大賢者である私流祭りの終り
「勝った!勝っちゃった!!」
リッキーが呆然としてる。
そりゃそうだ。
面白いから少しからかっちゃる。
「リッキーが私を貰ってくれるんだねー」
「え?、そ、それって」
「舅付きだけど宜しくね♡」
「え、ええ?」
リッキーは顔を赤くして戸惑っておる。
かわゆいのう。
「舅とは私の事ですか?私はミリー様の父親では御座いません」
いつものごとく無表情でセバがやってきた。
「私の保護者なんでしょ?似たようなものじゃない」
「ご冗談がお好きな方ですな。リッキルト様が困っておられる」
「あ、あぁそうか、冗談、冗談だよね」
「リッキーのパーティーに世話になるのは冗談じゃないよ」
「ミリー様、決定で宜しいのですね」
「うん、いいよ。リッキー宜しくね」
「う、うん 宜しくミリーさん。でも一つだけ聞いていい?」
「ミリーでいいよ、で何?」
「なんで僕らを選んでくれたの?他に条件がいいパーティーは山ほどいたのに」
「あら、支援してたの気づいてた?そりゃそうか」
「うん、本来の実力だったら絶対に最初のパン食い競争で終わってた」
「そうだねー、強いて言うなら私が求めているのは、強さじゃないからかな。あと最初に声をかけてくれたから」
<ぐふふ、リッキーはイケメン候補でもあるからなのさ。3年育てて収穫するよー。その頃には私もナイスバディ美女 (のはず)だ>
ドサ!
急に力が抜けたようにリッキーが座り込む。
始まったね。
ここからが試練だ。
頑張れリッキー。
「あれ、急に力が抜けて…」
「頑張ってねリッキー」
「………」
私の声が聞こえたか聞こえなかったかは判らないけど、リッキーは気を失ってしまった。
「何をなさったのです?」
「リッキーにはいろいろ奇跡を与えてたから。特に最後のは過去の英雄の魂との同化だったからね、体の負担も大きかったかな」
「なるほど、急に別人の様になったのはそういうことですか」
「むしろ試練はこれからだね。暫くは筋肉痛で動くことも出来ないよ」
「では、ナルカラに診療所に入院の手続きを取る様、言っておきましょう」
「セバっちゃん宜しく」
「承りました。しかし貴女がコンゴーの弟子だったとは」
「いんちょーはスパルタだったからね。だいぶシゴカれたよ」
「ミリー様はそれだけでは御座いますまい恐ろしい方だ」
「戦ってみたい?」
「そうですな。でもそれは本日ではございません」
「じゃ、機会があったらね」
「さて、ミリー様にはこの祭りの締めを手伝って頂きます」
「えー、メンドイよ」
私は逃げようとしたが、セバっちゃんに襟首を捕まれ引きずられていく。
<何故だ! 何故逃げれない!>
「こう見えて捕まえるのは得意なのですよ」
いつもの様にこちらの心を読むセバっちゃん。
<くそう、今後の課題だな>
「更なる研鑽を期待します。
ミリー様の逃げはCランク程度なので」
「今に見てろよ。セバ!」
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ミリーがセバに捕まる一部始終を見ていたリリー。
<流石セバね。ミリーが手も足も出ずに捕まったわ。それにしても、ミリーはわざとリッキルト君を勝たせた。何の為?それとも神のご意思かしら?>
ミリーにはセバが付く。
暫くは様子見するしかないだろう。
<ミリー貴女は嫌かもしれないけど、聖紋の聖女としての勤めを果たして貰うわよ>
リリー王女とミリーの頭脳戦は次のステージに進むようだ。
ただ、今回ミリーがリッケルトを勝たせた理由は単純だ。
しばらくすれば王子を救った報酬の100万Gが手に入る。
であれば、お金稼ぎに奔走しなくても良い。
だからイケメン(候補)のいる低ランクパーティーで気楽にまったりしようという、ただそれだけの魂胆なのだ。
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「ミリーの奴 なんで棄権したんだ?」
カリスは首をかしげる。
「近くで観てたけど、怪我をした様子も無かったわ。体術だけであれだけ戦えるなら全員倒せたと思うけど」
クーンも首をかしげる。
「ふふふ、ミリーはきっと神のご意思に従っているだけ。私達がその深慮を理解できないだけです」
ミルファはそう言って祈りを捧げた。
「ミリーはあそこのパーティーに入っちゃうのかな?もっと強いパーティーはいっぱいあるのに」
フェル王子が少しだけ不満そうな感じだ。
「でも、それをミリーが望んでいるみたいだね。クーンの誘いも断ったし」
「ミリーは一緒に王宮に来たらいいのに。僕の武芸師範なってほしいよ」
「フェル王子はミリーが気に入ったみたいですね」
「そうね。フェル王子はミリーの事を好きなのね」
ミルファ、クーンの言葉に、とたんに顔を赤くするフェル王子。
慌てて否定する。
「そ、そんなんじゃないよ!ミリーは友達だし、一緒にいると楽しいんだ」
「ま、フェル王子の初恋を応援するよ」
「だからそんなんじゃないってば」
必死なフェルを微笑ましくからかう3人だった。
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「お嬢ちゃん、参った。完敗じゃ」
「流石コンゴーの弟子ですな」
「お爺さん達も手荒なことしてごめんねー」
「なんの、久々にいい勝負じゃたわい。のう聖紋の聖女殿」
「なんだ、それ知ってるてことは…王様ってこと?」
「流石に察しがいいですな」
「それで私をどうするつもり?」
「どうもせんよ。儂はお飾りの王じゃからな。今日はお忍びじゃ。お嬢ちゃんの顔を見てみたくてのぅ」
「ふーん。どう美人でしょ?」
「お嬢ちゃんを入れてパーティー復活もいいのう」
「あーダメダメ、私はもう貰い手決まってるからね」
「そりゃ残念じゃわい。王都に来ることがあったら歓迎するぞい」
などとお爺さん達に懐かれているとセバっちゃんがこのオーディションの締めの為、指揮台の上に立った。
「お集まりの皆様、オーディションの結果、ミリー嬢をパーティーに迎えたのはEランクパーティー『ビフテの星』に決定いたしました。ミリー嬢も承諾しております。皆様盛大な拍手を」
盛大な拍手が起こる。
しかしリッキルトは昏睡中なので観衆の拍手を聞くことは出来なかった。
「最後に、ミリー嬢からのお言葉を頂きます」
途端にG様コールが起こる。
もう何も言う気が起きない。
仕方無しに台にあがる。
「今日はみんなーお疲れー!私は『ビフテの星』に加入するけど、今日ここに集まってくれた皆の手助けをちっとはするよー。冒険についてはいけないけど私のところに来たら、治療はするから気軽に声かけてねー」
ま、有料だけどね。
無料だと、診療所や教会が商売上がったりだよね。
しかし、ヒーラー不足の根本的な解決になっていない。
私のお気楽生活の為に何か更なる手を打たなければならないだろう。
「おおお!やっぱあんたは俺たちの女神だー!」
盛り上がる会場。
<自ら慈愛の心を世に示された?こちらとしてはミリーを聖女とする地盤づくりに利用させてもらうけど>
などとリリーなら考えていそうだ。
ぬふふ、上げて落とす。これ基本。
「たーだーしー!パーティーメンバーに危害を加えた者は確実に潰す!!野郎どもーーわかったかー!」
「「「「「イエス!マム!」」」」」
これでどーだ!リリー先輩。
暗黒面を見せることで、パーティーメンバーを守りつつ町のボス的イメージを植え付ける。
そのための実力も示した。
そんな私を聖女と言い出しても誰も信じないだろう。
最初の人生設計と変わってしまったがこれでお気楽ライフを送れるならそれくらいは我慢しよう。
ご満悦の私をセバは無表情に、リリーは微笑んで見つめていることに私は気づかなかった。
これにてオーディション編終了です。
よく考えたら、28話まで使って
ミリーはまだ冒険に出ていないですね。
次よりようやく冒険者としての
一歩を踏み出せるのか?




