27話 大賢者である私とパーティーを組むのは誰だ?
「これは予想外! G様、自ら場外!!」
「ええ、予想外ですね。この流れでは龍殺の2人が勝ちそうですが、ミリーはリーダーを吹き飛ばしてましたから入る気はないでしょう。どういうつもりなのか私にもわかりません」
「G様! 何故?」
会場は戸惑いの雰囲気が漂っている。
「え? え!」
ミリーに後を託され戸惑うリッキルト。
見れば、戦いは、リッキルトを無視してBランク3人の臨時チーム vs 龍殺2人チームになっている。
いつでも倒せるということだろうか?
それにしても、観客も、実況解説も全員、自分に気づいていない感じだ。
どういうことだろう?
いくら自分が弱いといってもここまでいないものとして無視するだろうか?
リッキルトは気づいていない。
ミリーいやミリミリに背中を叩かれた時、いくつかの魔法を仕込まれた事に。
リッキルトがパン食い競争で急にスパートしたのも、クイズで直感が冴えていたのも、ミリミリの声が聞こえた気がしたのも、全てミリーの仕込んだ魔法が起動した結果だ。
現在も起動している魔法がある。
最上位認識阻害魔法「モヤっとさん4号〜認識されない存在は存在していると言えるのか?〜」
皆に無視されているのはこの魔法が原因だが、彼の背中で魔法陣が発光していることに気付く者はいない。
そして リッキルトにはミリーが追加で仕込んだ魔法がまだ残っていた。
<Bクラスの方に味方すればひょっとしてまだまだ僕にもチャンスがあるんじゃ>
そう思った瞬間、Bランクの1人が龍殺しの1人に斬られた。
命に別状は無いが、これ以上の戦闘は無理だろう。
その瞬間残り二人も諦めた。
武器を捨てて場外に転がり逃げる。
「Bランクチーム、残り2人も場外です。これは龍殺の勝利でしょうか?」
「ええ、何か忘れている気がしますが、そのようですね」
実況、解説が龍殺の勝利を告げようとした時、ミリーはパチンと指を鳴らした。
その時、リッキルトに掛けられた認識阻害魔法が解けた。
「あ! いえ、まだです。もう一人、『ビフテの星』リッキルト君がいました」
「え、ええ、そうでした。なぜ気づかなかったのでしょう?」
「あー、居たな」的な感じの空気が会場に漂う。
「そういや居たな。逃げるなら今のうちだぞ。やるなら悪いが覚悟してもらおうか」
龍殺の内の一人がリッキルトに近づいてくる。
流石にEランクの超格下1人にAランク2人がかりはプライドが許さないし外聞も悪い。
まさか1vs1で負けるなど考えてもいないだろう。
<く、来る!>
リッキルトはショートソードを構える。
その時、ミリーはまたも指をパチンと鳴らす。
<あれ?なんだ?格上Aランク相手なのに相手の動きが判る気がする>
リッキルトは不思議な感覚に身を任せ走り出す。
<なぜ僕は走っているんだろう?でも何故だろう?負ける気がしない!>
「あの構え、あの走り方、懐かし」
ミリーはリッキルトを見て呟く。
<私と貴女とで作った魔法。大丈夫!負けはしない>
戦闘ナビゲート魔法『これであなたも勇者様。
手とり足取り教えます』
かつての自分が勇者アヤメと作った大魔法だ。
アヤメの戦闘センスと技術、経験が全て詰まっていると言っても過言ではない魔法。
あまりに複雑かつ条件分岐が多く、挫折しかけた魔法である。
もう二度と作ることは出来ないだろうし作りたくもない。
<自らの意志で動いている。でも動かされている様な気もする不思議な感覚だ!>
「Eランクのリッキルト君がAランクに挑む!大丈夫か?」
「実力差がありますから、って、え!? 何?」
リリーはリッキルトより凄まじい剣気の波動を感じ取った。
リリーが一流であるからこそであるが、他にその気配を感じた者は観戦していた『ソードマスター』ブレイドとセバだけである。
セバはこの試合が始まってから気配を消して審判に徹している。
ミリーの認識阻害魔法と同じ事を気配だけで行っているのだ。
<ミリー様が何か神の奇跡を与えましたな>
とセバは思った。流石にSランクは鋭い。
「いい度胸だ!」
龍殺の1人は迎え撃つ為、剣を構える。
リッキルトは構わず走る。
龍殺の方はロングソードに対してリッキルトの方はショートソード。
当然先にリッキルトの方が敵の間合いに入る。
龍殺側は殺さない様する為か、リッキルトのソフトレザーブレストを狙って、斬るではなく当てにいっている。
速度ものっていない。
いつものリッキルトであればそれで十分だったが、今、彼を動かしているのは勇者の戦闘術だ。
ショートソードで敵の剣を受け、滑らしながら攻撃を受け流しつつ、更に間合いを詰める。
今度は、リッキルトの間合いだ。
攻撃を受け流された事に驚き、龍殺の方は動きが一瞬遅れた。
完全に油断である。
龍殺の方も防具はブレストアーマー。
動きやすさを優先した装備だ。
ただし素材はリッキルトと違い、ミスリルだった。
リッキルトはショートソードの柄の先端で敵の鳩尾を突く。
「う!」
崩れ落ちる龍殺。
「勝ったのはリッキルト君だ!これ残りは2名。勝つのはどっちだ!」
「驚きました!何時の時代もヒーローは最初は無名。そのとおりですね。私の目が節穴だっと認めざるを得ません」
まさかの展開に会場が盛り上がる。
EランクがAランクに勝ったら快挙だ。
こうなったらEランクに勝ち残って欲しい、という空気になっている。
リッキルトはショートソードを捨て、龍殺の使っていたロングソードを拾う。
「まさか使い手とはね。本気で行かせて貰うぞ!」
最後に残った龍殺の1人はサブリーダーだった。
冷静な男でかつ剣の腕もソードマスターに匹敵するほどである。
リッキルトは今度はゆっくりと龍殺副長に近づく。
龍殺副長は剣を構え動かない。
互いに武器のリーチは同じ。
身長は龍殺副長のほうが高いが、互いの間合いに先程までの差は無い。
リッキルトが間合いに入る。
刹那、凄まじい剣戟の応酬が始まった。
「これは凄いぞ!剣戟の応酬だ!互角の攻防が繰り広げられています」
「こうなるとスタミナ勝負です。先に衰えた方が負けです」
<凄い。なぜか相手の動きが判る。自然に体が動く。それに全く息が上がらない!>
リッキルトの剣は何時まで経っても鈍らない。
それに対し、龍殺副長は疲れてきた。
<何なんだ!何で剣が鈍らないんだ!あり得ない、バケモノか!>
副長の剣は鈍りだし、防戦一方になっていく。
そしてついに決着の時が来た。
キーーーン !
剣が弾かれ回転しながら宙を舞い、やがて地面に突き刺さった。
龍殺副長の首元に突きつけられるリッキルトの剣。
「参った。降参する」
「そこまで!!」
セバが終了を告げる。
「ここで龍殺最後の一人が降参。なんてことでしょう!大番狂わせです!!勝ち残ったのは Eランクパーティー『ビフテの星』のリッキルト君だー!」
「おめでとうございます。私は感動しました」
ナルカラ、リリーが決着を宣言。
Eランクが勝ち残る結果に、会場の盛り上がりは最高潮に。
「すごかったぞ!兄ちゃん!!」
「G様を頼んだぞー!!」
<むふふ、私の計画通りだー!>
ミリーは結果に満足しニンマリとしていた。
ミリー、リッキーをゲッツ!




