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2話 大賢者である私は期待に胸を膨らませる

 かつて大賢者と讃えられた私は転生した。

 今生での名前はミリーシアタ。


 今日15歳になった。

 もうぴっちぴちである。


 ただし出自はよくわからない。

 ありがちな話だけど、ある夜、赤ん坊の私が孤児院の前に置き有りにされていたそうだ。

 わかっているのはミリーシアタという名前だけだ。


 両親を探そうとは思わないし、興味もない。

 それよりも、家の縛りがないのは私にとって好都合なのだ。

 私はただ転生しただけではない。

 当然、前世の記憶と知識、魔力も引き継いでいる。

 これらのおかげで虐められることも無く孤児院での生活も謳歌できた。


 とはいえ孤児院にいつまでもいられる訳でない。

 15歳になったら孤児院を出なければならない決まりになっていた。

 想像に難くない話だけど孤児院出の女の子に世の中は厳しいと言っておこう。


 だけど、それは普通の場合。

 私はなんと言っても大賢者と謳われた魔道士である。

 私にとって孤児院の卒院は祝うべき門出なのだ。


 何をしようか?自由で気ままに暮らすならやっぱ冒険者だよね。

 冒険者ギルドに登録できるのも15歳から。

 冒険者は当然危険も伴う命がけの仕事だ。

 でも、だからこそ報酬も多く、そして瞬間の生を謳歌する職業でもある。

 というのが前世の知識である。


<待ち遠しいわぁ>


 ということで、今日の朝、孤児院を出た。

 目指すは冒険者ギルドだ。

 今までは外から眺めるだけだけだったけど、やっと中に入れるのだ。


 手には孤児院発行の身分証明証。

 冒険者になるのに、本来身分証は必要がない。

 しかし、今のわたしは見た目が実年齢より若く見える。

 背が低いから。

 喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか複雑な心境だ。

 この証明書がなければ15歳と信じてもらえないだろう。

 逆にこれさえあれば、見た目が子供っぽくても冒険者になれる。

 冒険者になって、目立たない程度に稼ぎ、優雅な生活を満喫しよう。

 魔導の研究も道半ばだし、研究を再開するにしても元手が必要だ。


 さて、ギルド前に着いた。


「いざ!」


 私は冒険者の第一歩をこの町で踏み出すのだ!


 建物の中に入ると予想外にも清潔感あふれる感じだった。


<あれ? 本当に冒険者ギルド?>


 私のイメージではこうだ。

 もっと薄汚い酒場のような感じの場所でガラの悪い捻くれた無精髭の小汚い中年冒険者が気味の悪い笑いを浮かべて、こちらの様子を伺っているとか。

 受付嬢は若くて可愛く、アイドル的な存在だとか。

 登録を済ますと、早速


「子供は帰ってミルクでも飲んでな」


 とか言って突っかかってくるとか。


 うーん。 

 期待してたのにことごとく裏切らたわ。

 まず、胡散臭さい意地悪そうな中年冒険者がいない。

 皆、割と身なりが小綺麗だ。

 そして こちらの様子を伺うことも無く、いろいろな紙がの張り出されたボードを見ている。

 おそらくあれがクエストボードと呼ばれている物なのだろう。

 なによりもショックなのが、受付に立っているのはピシっとした姿勢で微動だにしない老紳士だ。

 名前もおそらくセバスチャンだろう。

 結構身構えて入ったのに肩透かしを食らってしまった。

 ともかくカウンターに近づき話しかける。


「おはようございます」


「おはよう御座います。冒険者ギルドにようこそいらっしゃいました。ご用件をお伺いしても宜しいでしょうか?」


 渋い!声が渋いよ!セバスちゃん。


「冒険者に登録しに来ました。これは身分証明です」


 身分証明証をセバっちゃんに手渡す。


「拝見いたします」


 証明証の内容を確認する、セバっちゃん。


「内容に間違いは無いようですな。ではこれより、登録に入らさせて頂きます。担当は私セバが致します。気軽にセバっちゃんとお呼び下さい」


<ほんとにセバっちゃんか!>


 突っ込みたい。

 そして自分のカンの良さが恐ろしい。


「セバっちゃん。よろしくね」


「こちらこそよろしくお願いします。では早速」


 ニコリともせず、カウンターの下から水晶を取り出す。


 ああ懐かしい、犯罪歴の確認用の魔道具だ。

 これは、前世の私が開発した商品だ。

 これで随分稼がせて貰ったものだ。


「まず、この水晶に手を当てて頂きます」


 言われるまま、手を当てる。

 当然何も起こらない。


 もし犯罪歴がある者が手を当てると水晶が光る。

 そして、その者に束縛魔法「バインド」がかかる仕掛けが施されている。

 登録出来る犯罪者は1万件で書き換えも可能だ。

 しかし、もしこの水晶に何の手も加えられていなければ、犯罪歴があったとしても私はごまかす事が出来る。


 試しに、水晶にマスターコードを魔力に乗せて流す。

 その瞬間、水晶は私のコントロール下に入った。

 なんだ、何の改良もなしか、とたんに水晶に興味を無くした。


「ふむ。 合格でございますね。では、登録作業に入らさせて頂きます」


 この後、セバっちゃんにいくつか簡単な質問をされたので

、どんどん答えていく。


「では最後の質問です。あなたの役割(ロール)はなんでしょう?」


 ここでいうロールとは 戦士、魔道士、レンジャー、ヒーラーなどのことだろう。

 どうやら、適正を見てくれるなどのサービスは無く、自己申告のようだ。


 さて、どうしようかな?

 この回答でその後の展開が変わってきそうな気がする。

 魔道士が一番楽だけど…


「じゃあ、ヒーラーで」


 私は回復魔法も使える。

 ただし、神官が使う神の奇跡ではなく、私が開発した魔術だけどね。

 魔道士になると、前世の二の舞になりそうだし、それではつまらない。


「わかりました。これで登録は完了です」


 そういうとセバっちゃんは私にタグを渡してきた。

 冒険者タグ、冒険者としての身分と実力をを示す。

 タグにはFと刻まれている。

 当然最下位だし、材質も磨かれた鉄だ。

 私はタグを受け取り首にかける。

 これで晴れて冒険者の仲間入りだ。


「セバっちゃん。これからよろしくね!」


「はい。よろしくお願い致します」


 セバっちゃんは表情を全く変えず一礼した。

 そういう人なのだろう。


 さぁ、前世からの私の新しい門出だ。

 私は自分の明るい未来を信じて疑わなかった。

「じゃあ、ヒーラーで」 


 全てはこの一言から始まった

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