18話 大賢者である私の華麗なる休日
拝啓、孤児院の皆様いかがお過ごしでしょうか?
わたくし、ミリーシアタこと、みんなのアイドル、ミリーちゃんは今日も大変美しいです。
それはそれとして、私は今、暇です。
それはもう、とてつもなく暇です。
冒険者2日目にして、長期バケーションに突入してしまいました。
冒険者ギルド史上初の快挙らしいです。
わーい! バカンスだー!
とはなりませぬ。
なぜなら調子にのって、オーディション参加冒険者を焚き付けた為、わたくし、ミリーは『グレートマム』として冒険者のむさいオッサン共に慕われてしまったのです。
なんてことでしょう。
おかげさまでわたくし、外を歩けない状況なのです。
丁寧語思考疲れるわー。
向いてないねやっぱり。
ということで、いつものミリーちゃんに戻ることにしよう。
あの後、朝食を食べて、依頼の完了報告とギルド内口座の開設手続きをしたけど依頼は受けさせて貰えなかった。
抜け駆け防止とか、逃亡防止とか、バディのセバっちゃんがお祭りの準備で忙しいとか、なんだかんだでクエスト契約を拒否られちゃったよ。
なんて日だ!!
町を歩けば、子供達にもグレートマムと言われる始末。
広まるの早すぎだろ!
それに今町は冒険者で溢れかえっている。
おかげで宿屋はどこも満室。
リリー達の滞在している高級宿屋も満室だ。
(ただしリリー達の滞在している階は相変わらずは貸し切りである)
問題なのは、冒険者達に会うと質問攻めにあってしまうことだ。
オッサンにマムとか言われるしー!
オッサンを息子に持った覚えはない!
あとサイン責にもあう。
有名人は辛いよ。
そんな訳で冒険者2日目の午後にして、高級宿にて軟禁状態なのだ。
もう他の国に逃げようかしらん。
そんな時、ドアがノックされた。
「開いてるよー。覚悟があるならどうぞー」
扉は開かない。
これはあれかな、フェルたんかな?
きっとあれだ! おやつ持ってきてくれたに違いない!
透視魔法『浴場では使用禁止』を使ってもいいけど、なんかもうメンドイなー。
この魔法は扉や壁は透明にできるけど服は出来ないからね。
ざんねーん!
「覚悟なくてもいいからどうぞー」
ようやく扉が開く。
「ミリー。覚悟ってなんの覚悟なの?」
案の定入ってきたのはフェルたんだった。
ちなみに高級宿の扉は防音である。
(外からのノックは聞こえる工夫が扉にされている)
私の魔法で扉を通過させ、外のフェルたんに聞こえるようにしたのだ。
フェルたんはその事に気づいてない。
音声伝達魔法『届けこの想い』
あらゆる障害物を通過して声が届く魔法であるが、音は案外と進むのが遅いので、あまりに相手が遠くにいるとタイムラグが生じる。
部屋に入ってきたフェルたんは私を見るなり固まった。
みるみる顔が赤くなっていく。
可愛いのう。ウブじゃのう。
「ねぇ、ミリー」
「どったの?フェルたん」
やっとの思いで言葉を絞りだしているようだ。
しかし顔は赤いまま視線は私に釘付け。
「その、何やってるの?」
まあ、不思議に思うだろう。
フェルたん、いやこの世界の人間からすると、今私は変なポーズを取っているようにしか見えないでしょうな。
前世の私もそうだったですよ。
今私は『ヨガ』なる瞑想体操のポーズの一つ『踊り神のポーズ』で静止中。
片足立ちをし、もう一方の足を後方に頭以上の高さに上げて、背中を反らしながら上げた足と同じ方の手で上げた足の指を持つ。
また立ち足側の手も上に上げる。
そんなポーズである。
『ヨガ』を私に教えたのはアヤメである。
体の内側に意識を向けるには丁度いいので、今生でも私はちょくちょくヨガを行っている。
おかげで私の体は柔らかい。
師匠アヤメによればヨガを行う為の衣装というものがあり、それは『水着』または『れおたーど』なる衣装で水着は泳ぐための衣装だけどヨガでも用いられるのだという。
私は水着派なので、今日も水着に着替えた。
アヤメによれば この水着は『ビキニ』というタイプらしい。
なお、水着はアヤメに形状を教えてもらい自分で作った。
いやーフェルたん鼻血が出てきたよ。
刺激が強いかなー。
フェルたんは私を側面から見ている。
露出も多いし、体のラインもしっかり出ているであろう。
惜しむらくは折角上体を反らせているけど、胸の辺りの突き出し量が少ないことだろうか。
私の名誉の為にいえば絶壁じゃないからね。
とりあえずフェルたんが気づかないように回復魔法を使う。
鼻血の跡も綺麗に消しとこう。
「質問に答えるならば『ヨガ』中なのよ。やっぱ覚悟は必要だったかなー。あまり見つめられると恥ずかしー。フェルたんのえっちー!」
「その ゴメンなさい!」
と言いつつもやはり視線が離せずにいるようだ。
仕方がない、意識を内に向けるどころじゃないのでポーズを解く。
「からかっただけだよ。ごめんね。フェルたん、それで何か用?もしかしておやつの時間?」
「それは先程食べたよ。ミリー忘れちゃったの?」
「あれーそうだった?」
「ミリーは食いしん坊だね」
どうもこれという用事はないようだ。
「フェルたんさぁ、私が聖女らしいって、リリーから聞いてる?」
聞いてない筈がないので聞いてみる。
「う、うん。一応ね。それで昨日のお礼を言いにきたんだけど」
「お礼なんていいよ。友達でしょ」
「リリーありがとう!」
ぱぁと眩しい笑顔を見せるフェルたん。
本当に眩しすぎるわぁ。
「じゃあさ、ちょっと一緒に出かけない?」
「え? 外は冒険者でいっぱいだよ?」
「大丈夫。この町じゃないから。今から行くのは 海ですよー。せっかくのバケーション。楽しまないとね」
「どういうこと??」
「まぁ、神の奇跡を信じてくださいな」
「うん」
結構大魔法を使うし、魔法の展開後に維持もするからそれなりに魔力を使うけど、ま、いっか。
ではいくぞー!
空間接続魔法『どこでも魔法陣!』
私達の前に大きな魔法陣が出現。
「凄い!」
「驚くのはこれからだよ」
魔法陣の中心から徐々に別の場所空間が接続されていく。
やがて魔法陣は完全に他の空間と繋がった。
魔法陣の向こうは別の景色が見えている。
「海岸?」
「そだよー。バケーションと言えば、ビーチでしょ!」
フェルたんはただただ 驚きのあまりポカーンとしてしまっている。
「いくよー」
フェルたんの手を取り、魔法陣をくぐる。
向こうの世界は無人島のビーチだ。
ここは前世の私の隠れ家の一つ。
空間隠蔽されているから500年経っても発見されていないようだ。
当然魔物もいない。
常夏の島であるここは日差しも強く暑いので、取り敢えず砂浜境に生えている木の下に行く。
「ミリー! 凄いよ!」
「神様が私達に豪華な休日をってさ。でもこれは二人の秘密だよ」
「うん。二人の秘密」
「そうそう、日焼けしないようにしないとね。乙女の肌に日焼けは厳禁。フェルたんも困るでしょ」
「そうだね。でも日焼け防止クリームなんて持ってないよ?」
「ノープロブレム!」
日焼け防止魔法『日焼けの原因を99.999999%カットしかもムラができません。』を起動
私達の頭上に金色の粉が振ってくる。
体に当たると染み込むように光って消えていく。
みればフェルたんがこっちをみている。
またも顔が赤い。
「惚れちまったかい?」
「そ、そんな事無いよ! いや、ゴメン。そうじゃなくて!」
混乱しておる。可愛いのう。
「まあいいよ、神様の慈悲で日焼けもしないし、折角きたんだし泳ごうよ」
「僕、泳げ無いし、服が濡れちゃうよ」
「下着になってくれればいいよ。水遊びだけでもしようよ。神の奇跡で服も乾かすことできるし」
「何でもできるんだね」
「慈愛の神様は至れり尽くせりなんだよー。さぁさぁ 男なんだから、脱いだ脱いだ!」
「わかったよ。先に行ってて」
「じゃあ先に行ってるからねー」
私は海に飛び込む。
うーん、気持ちいい!!
「さっきのミリー綺麗だったな」
フェルたんの小声のつぶやきは
波の音に掻き消され私の元には届かなかった。
ミリー(ロゼシアスタ)はアヤメに色々と遊ばれている模様。