15話 大賢者である私は目立ちたくない2
「先輩冒険者Rに簀巻きにされ攫われてしまった超絶美少女冒険者ミリーの運命や如何に!?一体どこへ連れ去るつもりなのか!ミリーがあまりに美しすぎるのが悪いのか。美しさは罪。そして、このまま貞操を奪われてしまうのか?」
「心の声がダダ漏れよ。ナレーションのつもりにしても酷いわね」
わたくしミリーシアタは現在移動中である。
身動きは取れないが、運ばれているので楽チンではある。
これは修行!
私は今、楽チンの修行をしているのよ!
と思えば、この状況も少しは納得できるというもの。
ナビゲーション魔法『あんたここどこさ?』はすでに起動している。
私の視界にはこの町の地図が半透明になって浮かんでいる。
どうやらギルドには向かっていない様だ。
私はこの町ビフテで育ったけど、この町の地理を知り尽くしている訳じゃない。
この町は王都から半日ほどの距離にあり、高級宿屋がある程の中々に大きな町だからね。
この魔法があるんだから覚えるのメンドーなのだ。
ちなみに教会に関しては王都が近く王都の教会直轄になるため、神官が1人しか配属されていない。
インチョーはもう帰ったかな?
そういえば、かつてアヤメにこの魔法を使ったことがあった。
アヤメはまるでゲームのキャラになった気分だと言っていたっけ。
言っている事の意味は分からなかったけど、彼女は楽しげだった。
懐かしいなー、アヤメとの冒険は楽しかった。
「お二人は仲が良いんですね」
私を現実に引き戻したのはナルカラこと、ナルっちだった。
「そーなのよ。簀巻きにされて攫われる程に仲が良いのよ」
「昨日知り合ったばかりよ」
テキトーに返した私の皮肉にリリーは苦笑しながら答える。
「とてもリリエナスタ様と昨日知り合った様には見えませんでした」
「それはミリーが物怖じしないで話してくれるからよ」
「私は冒険者の先輩として敬意は払ってイマスヨ」
再び苦笑するリリー、苦労症なのかしらん?
「やっぱり仲がいいです」
そう思うよね、リリーは私に対して距離感近いから。
あと私を聖女道のレールに乗せようとしておる。
そうはいくまじ、必ず逃げちゃる。
そう、これは私とリリーの頭脳戦でもあるのだ。
これまでは互角の勝負をしている(?)が、此処からが本番。
しかし最終的に勝つのは私だ。
ふふふ。覚悟していなさいな、リリー先輩様。
「ところでどこに向かってるの?こっちはギルドじゃないでしょ」
「ギルドは今、冒険者さん達で溢れかえっています。リリエナスタ様のとりなしで、兵士さん達の練兵場をお借りしましたので、そちらに向かっています。セバ様がいらっしゃいますのでセバ様にご質問下さい」
「セバっちゃんに? ふーん」
嫌な予感しかしない。
「ミリー様は凄いです。恐れ多くもセバ様をセバっちゃんて呼べるのは、一部の限られた方々だけなのに」
「本人がそう呼べって言ってたよ。てかセバっちゃんって受付じゃなかったんだね。なんか偉そー」
「呼べと言われたからって、セバを前にして言えるものではないわ。この娘はちょっと特殊な感性してるのよ」
「褒めすぎだって」
「私はミリーが羨ましいわ」
私の言葉に三度目の苦笑をするリリー先輩。
そんな会話をしている内に練兵場に着きましたよっと。
そこではセバっちゃんが待ち構えていた。
「暫く見ない間にすっかり立派になられましたな」
「中々楽な移動方法だったよ。ギルドで正式採用を検討したらイイんじゃない?」
「検討しておきましょう」
「セバ様と互角に…ミリー様ほんとに凄い!」
ナルカラの小声は無視ね。
「もう逃げないよ。だからそろそろおろしてくれない?美少女が台無しだからさー」
「ハイハイ。わかったわ」
ふう、やっと自由な身になった。
さて逃げるか。
と思ったが、
セバっちゃんの目が怪しく光るので止めた。
「で、なんの騒ぎなの?私のファンになりたい人が世界規模で集結してるの?」
「当たらずとも遠からず、ですな。貴女様をパーティーに入れたい冒険者達が集まって来ているのですよ」
「ほほー。私の美しさが広く知られてしまったと」
「私は貴女の思考が羨ましいですな。この町の冒険者のみならず、他の町や王都を拠点にする冒険者も集まって来ており、城門では朝から列をなしております」
相変わらず無表情でセバっちゃんは説明してくれた。
「昨日登録したばかりなのに何故こんなに早く広まったのさ?」
「ご尤もな質問ですな。昨日貴女様がヒーラーで登録した時、この町にヒーラー登録者が出たと走って叫ぶ男がいたのですが」
いた、そんな変態が、いたね。
「ほむ。それで?」
「その男は健脚自慢の男でして。そのまま王都まで走り、日の在るうちに王都の中央広場でも叫んだようです。その情報は冒険者ギルドの『魔導情報ネット』に乗り、近隣の冒険者ギルドに知られてしまったのです。私はそうならない様、祈っていたのですが、意味は無かったですな」
無表情のセバっちゃん。
変態が超絶おせっかいなのはわかった。
でも祈ったあたりのくだりは嘘くさい。
「祈ったのは本当ですとも」
「思考を読むのは止めて、怖いから。で、冒険者達をこんなところで集めてどうするつもり?私が一曲歌うからそれで帰ってもらう?」
「どこからその発想がでてくるの?」
リリーが不思議がってるが、私は声に魔力をのせて人心を多少なら操作できる。
戦闘時に士気を高める戦士系スキル『ウォークライ』や、吟遊詩人の『バードソング』などと似たようなものだ。
私ならそれで満足するよう仕向けることは可能なのだ。
「いえ、この場はわたくしにお任せ下さい」
「およ? ギルドはメンバー勧誘には関知しないんじゃないの?」
「ここまでの騒ぎになったのはギルドの責任でもありますので、正式に対応することになりました」
「ふーん。じゃあ任せるよ。ここで見てればいいんだね?」
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かくして1時間後までに冒険者達は練兵所に集められた。
異様な状況に、無関係の野次馬も集まってきている。
練兵所が開放されている為である。
「なんか凄い騒ぎになってるね。兄さん」
「ヒーラー登録の冒険者はそれだけ貴重だからな」
「昨日より増えてるわね」
「セバさんが何かしたのでしょうか?集まりすぎです」
「まぁ、どうなるか面白ろそうじゃないか。ミリーのヤツがどこのパーティーに入るのか」
「引き込んだパーティーは苦労するわね」
「パーティーのお金分、全部食べちゃいそうだね」
王子様御一行と青薔薇の面々も野次馬に来ていた。
練兵所には教官が指示を出すための指揮台があり、台に上がっているセバはいつもの直立不動だ。
ナルカラが拡声魔道具をセバに手渡す。
セバは拡声器を構える。
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「皆様、今日はお集まり頂きありがとうございます」
ん? 何この出だし。
嫌な予感しかしない。
何が始まるのかとざわめく冒険者達。
「皆様 ご静粛に!」
セバっちゃんの眼光の鋭さに、場は忽ちシーンとなる。
セバっちゃんは満足げに頷くと大声で叫んだ。
「これより、Fランク冒険者のヒーラー、ミリー嬢争奪!大オーディション大会の事前説明会を開催致します!!」
ミリー伝説の幕開け!