11話 大賢者である私の思惑、聖騎士姫リリーの思惑
「ありがとうございました」
「ほえ?」
「ミリー様には王子、いえ弟の命を助けて頂きました。私達だけでは弟はきっと助からなかったでしょう。それに、ミリー様は弟の命だけでなく心も救ってくれました。いえ、弟だけでなく私達青薔薇の戦乙女メンバーの心も、王家の面目も全て」
「呪いなんて無い、あれは聖剣の試練だった。私は依頼通りに回復させただけ。それでいいじゃない。目立ちたくないし、恥ずかしいからそのへんで」
「ミリー様は謙虚ですね。貴女を引き合わせて下さった神にも感謝致します」
ふう、私を神様でも見るかのような目でみるリリー王女。
今の彼女は王女としての偽りない本音なんだろうけど。
私には おーもーいー!
ヒーラーっぽさを演じただけでそんなつもり無かったし、なんというかノリ! ノリなんだよね。
あ、そうだ、折角リリー王女が私を神の様に崇めているので
まずはリリーに先程考えた作戦を仕掛けるとしよう。
『全ては神様の仕業大作戦』状況開始だ。
「感謝してくれるなら、まずはミリー様とか敬語はほんとに止めてよね。それに私が凄いんじゃなくて全て神様の御業だからね」
「やはり…」
<ん?やはり?>
なにか引っかかるが先に進めよう。
「実は私、孤児院を今日出てきたばかりで世間の事詳しくないんだけど、私ってそんなにヒーラーっぽく無いのかな?」
「そこまで嫌とおっしゃるなら、冒険者としてお話しますね」
「うん、そうして」
「ミリーはヒーラーとして、破格の能力を持っているのは確かね」
「そんなに?」
「ええ、私達の知らない呪いを解いたことも、瞬時に弟の傷を治した事も、聖剣の加護を短剣に付与したこともすべてね。ミルファでさえ足元にも及ばない高みに居るわ」
「え? ミルファたんは瞬時に傷を治せないの?」
「ええ、ミルファの回復の奇跡は他のヒーラーより治癒速度は早いけど、それでも瞬時とはいかないわ。でもミリーの回復なら戦闘中でも使える程よ」
なぬ。いまのヒーラーは戦闘後しか回復の奇跡を使えないのか。
まあ時間かかるなら戦闘中に悠長に祈ってられないよね。
なるほどーヒーラーの質も前世の時代よりかなーり劣化している模様。
500年の間に何かあったんだろうか?
歴史書に載せれないような何かが。
「私の使う奇跡は神様から直接授かったんだよね。孤児院で祈りを捧げていた時、天から声が聞こえてね。今日だって呪いの事を教えてくれたのも、聖剣の奇跡を与えたのも、神様の声に従っただけだよ」
「そうなんだ」
「あ、そうそう、王子は聖剣の持ち主になったけど、変に煽って勇者に仕立てないでね。勇者の責任はとてつもなく重いから」
アヤメの苦悩と努力の日々を思い出した。
懐かしいな。
彼女のような思いを王子に背負わせる訳にはいかないよね。
「それも神の?」
「うん。そうだよ。聖剣を与えた理由は私にはわからないけど、大いなる深慮があるんだよ。きっと」
本当は私のカルーイ気持ちだったけど、そんな事はこの流れで言えない。
このままずっとこの今後大きく膨らむであろう胸に、そっとしまっておこう。
「そうね。私達には伺い知れないことね。その辺もしっかり考慮するわ。弟に必要のない重荷を背負わせたくないのは私も同じだから」
納得してくれたようだ。
「うん、そうして」
「…」
なにかリリーは言いたそうにして、でも躊躇って、なんて感じを繰り返している。
なんなの?
「さっきから何か言いたそうだけど。言いたい事あるならカモン!」
私の言葉で意を決したのだろう、リリーの瞳に強い決意が宿ったのを感じた。
「ねえ、ミリーは聖女様なの?」
うん? せいじょさま?
What is this?
なんだそれ?質問の意味がわからない。
せいじょさま…セイジョサマ?
正女様? 整除様? 聖女様? 聖女様!
うん、やっぱり何だそれ?
新しいジョブか?
500年前に聖女なんて職業もロールも無かったし、名乗っている者もいなかったなぁ?
この500年で誕生したぽいね。
言いたいことってそれ?
躊躇するような内容なのだろうか?
聖なる女と書いて聖女なら、魔女と違って忌み嫌われはしないだろうけど。
「せいじょさま? 私が?」
「違うの?」
「いえ、そもそも聖女様って何?」
「ええと なんと言えば」
「私ってただ、孤児院で祈り捧げただけなんだけど」
「だからこそよ。聖女様は神に大いなる奇跡を与えられた、聖なる女性よ。ミリーの清らかな祈りが神様の御心に届いたのよ」
興奮気味のリリー。
ほほー聖女様か。
なかなか特別職っぽいね。
私の設定に適っているようだし、勘違いさせておいた方がいいかな。
たしかに私は孤児院の礼拝堂でよく祈っていた。
だけどそれは祈るふりなんだよね。
実は魔法で色々視覚をとばして外の世界を見てたり祈るふりして寝てただけだったりする。
何故そんな事してたのか、祈っていると邪魔されないからなんだよねー。
祈っていると仕事を押し付けられないし、いろいろ楽ちんだったのだ。
「私が聖女様かは判らないけど、神の声に従うだけだから。でも、今のところはあまり目立ちたくないんだよね」
変な話に巻き込まれたくないから冒険者として生活できるように話を持っていこう。
「そう、わかったわ。神の御心がそれをお望みなら私達も従うわ」
「うん。お願い」
「ただ、貴女は聖紋の聖女様ということだけは自覚してね」
ハイ出ました!謎設定。
聖紋とはナンゾや?
「聖紋って?」
「ミリーが先程、弟を助けてくれた時とか、短剣に聖剣の力を付与してくれた時に光る紋章出てたでしょう?あれはきっと神様の御技のシンボル。聖なる紋章よ」
「ほむ」
「私達王家の伝承に『聖紋の聖女様』が世界を救うとあるのよ。きっと貴女には『聖紋の聖女様』としての使命がある。その時はきっと私達も馳せ参じるわ」
あーーー、えーーーっと。
これはまたしても、やっちまったーーー!?
なんか盛大に変な設定に巻き込まれてるじゃん。
なんだその聖紋の聖女が世界を救うって。
私のお気楽ライフと正反対じゃん。
そういう勤勉さは前世に置いてきたよ。
まさか魔法陣をそういう目で見てたとは。
ということは魔法陣を知らないんだね。
Aランクでそのレベルということは
魔法陣を使える魔道士もいないという事?
どんなけ世界の魔導レベルは下がっているのやら。
そっちはさておき、問題は聖女だ。
今更設定変更は難しそうだ。
リリーはもう私を聖女と信じて疑わない感じだし。
更に問題なのはリリーが王女ということ。
影響力が強い存在に目をつけられてしまった。
リリーがただの冒険者だったら、戯言で済むかも知れないけど王女となればそうもいかない。
やっべ、とっとのこの国からオサラバしたほうがいいかな。
「そういうのは、軽々に言ってはダメだよ。私がそうだと決まったわけじゃないんだから」
「ふふ。ごめんなさい。そのとおりね」
にこやかに謝るリリー。
ダメだ、彼女の中で ミリー=聖紋の聖女となっている。
くう、寝てないで逃げだせば良かった。
うう、フカフカのベッドと豪華なご飯につられた私のバカバカ!
「まあ、私はタダのFランク冒険者でヒーラーのミリーだよ」
「ふふふ。今はそれでいいと思う。話が出来てよかった。夕食の時にまた会いましょう?」
リリーは部屋から出ていった。
私は鏡を見ずとも自分の顔がげっそりしていることがわかった。
リリーにしてヤラレタ!
リリーは私に聖女だと告げたかったに違いない。
私に聖女と自覚させ、その道を歩ませようとしている。
私を逃さない為に今日の食事を誘った。
つまり、タダ飯では無かったのだ!
く、くそう!
こうなったら、せめて食べまくってやる!
出された食事とスイーツは残さない!
そう、それが私、ミリーシアタの生き方。
最強聖女誕生!