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作者: K

「オジョウサマ、タイチョウハダイジョウブデスカ」 


 一見、背の高いタキシードを着た若い男性と間違うほど完璧に作られたロボット。そんなロボットが少女を気遣うような言葉を掛けた。

 少女は一人で寝るには大きく、細部には金の装飾が施されたベットに横たわっていた。


 「・・・・ねぇポチ、私はもう駄目なのかな?」


 一か月前、少女は肝臓ガンのステージ4の末期と診断、余命半年と宣告され、悲観ばかりしていた。まだ16才の少女が余命半年と宣告されたのだ、生きる気力が無くなるのが普通といえるだろう。

 ポチは、そんな少女に優しく諭すようにしかし、どこか無機質に励ましながらお薬を差し出す。


「アマリ、ヒカンバカリシテルト、カラダニドクデスヨ。カナラズ、ヨクナリマスヨ、ガンバッテクダサイ。コチラガ、キョウノオクスリデス。」


 少女は光が灯ってなく死んでいた目が次の瞬間、殺気に満ち溢れ、怒号がポチの鼓膜を叩いた。


 「良くなる?私はもう半年の命なんだよ、無責任なこと言わないで!」


  少女が怒りを表してるのを感知したポチは、慌てて謝罪したがポチは食い下がり悲観する事が身体を害するのか説き始めた。


 「モウシワケアリマセン。デスガ、オモイツメスギテイルト、ビョウキノ、シンコウガハヤマリ、ヨメイヨリハヤク、シボウスルコトガワカッテマス。ソレニ・・・・」


 ポチは途中で黙ってしまった。少女が声も出さずに身体を震わせ、涙を静かに流していたからだ。今まで、少なくともポチがこの家に来てからの10年間で少女が泣いているのを観測したことがなかった。

 少女の両親が事故で亡くなった時も、ガンが見つかり余命宣告を受けた時も八つ当たりや、怒りをぶつけられた事があっても涙だけは絶対に流さなかった。ポチはそういう人だと認識していた。


 今にも消えそうな声で独り言のように少女はポツリと言った。


 「ロボットのくせに人間ぶらないで。あなたにはわからないよ。私の気持ちも・・・・苦しみも。でていって、もう来なくていいから」


 「・・・・・・」





 ロボットは命令通りに部屋を出た。

 ロボットは繰り返しお嬢様の言った言葉を再生して数時間が経っていたが、お嬢様が怒った理由がわからない。

 プログラム通りに動いていた、どこも故障していない。ロボットは自分にはない人間特有の感情によるものだと断定し、感情のある人間に問題を解決してもらえる人を探しに街に出かける。


 少し歩いた所にブランコと砂場だけの小さな公園を見つけ、そこには一人の少女がいた。年はお嬢様と同じ16才ぐらいだろうか。一人で涙を流しながらブランコに腰を掛けていた。ロボットは少女にそっと近づき声を掛けた。


 「ダイジョウブデスカ、オジョウサン」


 「なに?大丈夫よ。ほっといて」


 少女は流していた涙を拭いながら眉間にしわをよせ、ロボットを睨み付けた。


 「アナタハ、ナイテイマス。ナイテイルヒトニハ、ホットクナト、プログラムサレテイマス」


 優しく微笑みながら少女の前にひざまずき、ポケットからハンカチを差し出した。少女はうんざりして何も言わず公園を出ようとしたが、背後にピタッと離れずについてくる。

 次の瞬間、少女の顔は一変した。呼吸は荒く興奮し目と口を大きく見開き鬼みたいな形相で振り向いて怒鳴りつけた。


 「何なの?ほっといてって言ってるでしょ。ついてこないで」


 「プログラム二ヨッテ、ナイテイルアナタカラハ、ハナレラレマセン」


 「・・・・そう。じゃあ私はこの通り大丈夫だからもう離れてもいいよ」


 少女は少し考え、直ぐに顔をあげた。にっこりと微笑んではいたが、笑顔がぎこちなく目だけが笑っていなかった。


「ダメデス。エガオノツクリカタガ、フシゼンデス。アナタハ、ウソヲツイテイマス。」


 少女は呆れたようにため息を漏らしながら、目をぐるりと一回転させる。


 「・・・・わかったわ。好きなだけいればいいでしょ。ていうかあなたの名前は?」


 「カタバンN-456デス。オジョウサマカラハ、ポチ ト ヨバレテイマス」


 「じゃあポチ?私の名前はアイ。隣にいて何もしないなら私の愚痴に付き合ってよ」


ポチは間髪入れずに頭を下げながら返事を返す。

 

 「リョウカイシマシタ。アイサマ、ドウゾオハナシクダサイ」


 「ちょっと、そんなに構えられたら喋りづらいじゃないの」


 アイは、淡々としたポチの様子に目を細めじとーっとした視線を送った。

 そんなアイの様子を不思議そうに見ていたポチは顎に手を当てて首をかしげている。ポチはその視線の意味がわからないようだ。


 「シャベリズライ?グチヲイイタイト、オッシャッタノハ、アイサマデスヨ」


 迫るように顔を近づけ、ポチは続けた。


 「ワタシ二、エンリョハイラナイデスヨ。オモウゾンブン、グチヲコボシテクダサイ。」

 

 ポチは、満面の笑みで両手を広げながらアイに問いかけた。


 「そこまで言われたらもう言えないじゃない!」


 アイは怒りを通り越してあきれて頭を抱えうなだれる。


 「・・・・はぁーポチはやっぱりロボットなんだね。よくお嬢様?・・とケンカしなかったわね」


 アイの皮肉にポチは気づかず、怒ってしまったと判断し、すぐに謝罪する。


 「モウシワケアリマセン。ワタシハ、ムイシキ二、ヒトヲオコラセテシマイマス。オジョウサマモ、オコラセテシマイマシタ。ヤハリ、コショウシテイルノデショウカ?」


 罰が悪そうに目線を逸らした。

 

 「えっと、なんかごめんね。・・・・故障とかじゃないと思うけどなぁー。ポチはさ、心ていうか感情がないよね。」


 「カンジョウガナイ?・・・・アリエマセン。ワタシハカンペキニ、セッケイサレタ、ロボットナノデスカラ。」


 誇らしげに胸を張ったポチは、先ほど謝罪した時の落ち込んだ雰囲気は既になかった。


 「それだよ。ポチはさ、心があるように振る舞うけど感情がちぐはぐというか相手に合わせているだけで、実際は何も感じてないよね」


 何を言っているか理解出来なかった。いや、理解はできるが感じることが出来ないでいた。

 一億桁の暗算を一秒でできる高性能な脳を持つポチをもってしても答えを出すことが出来なかった。


 「・・・・・」


 言葉に詰まり黙り込んでいるポチを見たアイは続けた。


 「ポチはすごい高性能で難しい計算も一瞬で解けて、どんな知識も知ってるけど人間なら誰でも持ってる一番大事なものをもってないんだよね。」

 

 「ダイジナモノ?」


 「うん。それを持ったときお嬢様が何で怒ったかわかると思うよ。・・・・でも自分でしか見つけられないわ。」


 ポチは脳をフル回転させて考え込んで、数時間たって気がつけば夜になっていた。しかし、どれだけ考えても自分に足りない大事なものは何かわからない。

 考えれば考えるほどわからなくなっていった。


 「うーん。そんなに考えなくても分かるものなんだけどね」

 

 眉間にしわをよせ深く考え込んでいるポチを眺めながら息が漏れるように言い、座っていたベンチから立ち上がった。


 「もう夜だから私は帰るね。最後にヒント!ポチはお嬢様が何で怒ったのか知りたいんだよね?なんで知りたいの?」


 「何で?ッテカンガエタコトモナカッタ。ソコニ、リユウナンテ、ナイデショウ?」


 「じゃあ質問を変えるね。ポチはお嬢様とどうなりたいの?」


 そう言い、アイは「門限があるから」っと笑顔で帰った。ポチは独り公園のベンチに座り俯いていた。


 「・・・・ドウナリタイ?ワタシハ・・・・俺は・・・仲直りしたい」


 そのときポチの中で何かが変わった。今まで感じた事のない、未知の得体も知れない何かが身体の中でふつふつと噴水の様に湧きあがり行動せずにはいられなかった。

 無意識の内に屋敷に向けて走っていた。湧きあがる何かのせいで正常な思考が出来なくなっていたが不思議と心地良かった。

 これが感情というものなんだろう。考えなくても、理解できなくてもポチにはわかっていた。自分に足りなかった何かも、あのときお嬢様が本当に言って欲しかった言葉も。


 そして屋敷の玄関の前を抜け、廊下を駆け抜けお嬢様の前にたっていた。


 「お嬢様、先ほどは無神経な事を言ってすいませんでした。」


 ポチは深々と頭を下げた。


 「・・・・」


 「お嬢様、病気は辛いですよね。必ず良くなるとは限りません。ですが戦わないと絶対に良くなりません。」


 「ですから”一緒に”頑張りませんか?いえ一緒に頑張らせてください。隣にいさせてください。」


 曇っていたお嬢様の表情が和らいでいった


 「・・・・もういいよ頭をあげて?」


 お嬢様は優しく話しかけた。


 「私もごめんね。戻ってくれてありがとう」


 ポチの頬を涙が流れ落ちた。

 お嬢様は両手でポチの涙を拭いながら優しく包み込む


 「泣かないで。男の子でしょ?早く今日の分の薬を取ってきてくれる?」


 「はい!」


 ポチは上機嫌になり笑顔で部屋を出た。





 

 一人部屋に残ったお嬢様はスマホを取り出し、誰かに電話を掛けた。


 「もしもし?ごめんねー手間かけさせたね」


 「ほんとだよー彼氏とのデートもすっぽかしちゃったし。今度何かおごってよ」


 「ごめんって。ご飯でもおごるよー。アイ」

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