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第83話

14.

「円盤が襲来する脅威はなくなっても、巨大円盤の脅威は消えないわ。このすごい科学力を何としても手に入れようとする限りはね。これから連れてくる人たちがあきらめが良くて、すぐに円盤を引き上げさせてくれればいいけど……。それにしてもプローブを付けたままだと歩きにくいわね。」


 これ以上巨大円盤が残っていないことが分かりはしゃぐ幸平とは対照的に、車体から降りて来た美愛が眉間にしわをよせたまま、ため息交じりに告げる。


「プローブを外して長く車体から離れていて、分裂が解消したら大変だから仕方がないね。それよりも、また夢幻たちは降りてこないのかい?入り口をふさいだから、ここは安全なはずだけど……。」


「お兄ちゃんも夢双さんも夢三さんもだけど……宇宙人には興味がないって。美由ちゃんも美樹ちゃんも美見ちゃんも、怖いのは苦手だから外に出たくないって言うし……地球外生命体の宇宙船なのよ。


 こんな機会はこれから生きていく中で、もう起こらないだろうって思うのに、どうして車体に籠っていられるのかしらね。」

 美愛が車体を振り返りながら、首をかしげる。


「まあ、人それぞれ興味の対象が異なりますからね。それよりも、この円盤の今後の収穫量をゼロに書き換えましょう。そうして今後の他の星での収穫予定量も全てゼロに切り替えるとしましょう。


 それから少しは円盤のバリアーを解いたり、どこかに着陸させたりできないか、足掻いてみましょうか。

 ちょっとやってみたい手順がありますからね。」

 幸平が白衣の研究員と相談しながら、操作テーブルへ色々と命じ始めた。


 幸平たちの作業の様子を確認していた美愛が振り返ると、神大寺とソナー担当の自衛隊員が車体後方から四角い箱を持ち出して制御室入り口近くへ置ていたので、神大寺の方へと歩いて行った。


「何をしているの?」


「ああ……本来ならこの高性能爆薬を人感センサーで起爆するようセットして置くのだが、この円盤にはこれから各国の頭脳ともいえる人たちを連れてくる予定だから、セットせずにただ置いておくだけだ。

 これから車体を広げるから、誘拐された人たちをまとめるのを手伝ってくれ。」


「じゃあ美由ちゃん達にも手伝ってもらいます。」

 すぐに美愛は車体の方へと小走りで駆けて行った。


 誘拐された人々は、ほとんど意識がなく立っているだけなので、手を引いたりして整列させておけば面倒がなく、今回もすぐに整列し終わった。


「どう?円盤は確保できそう?」


「いえ……管理者権限を持つユーザーを作れないかとか、収穫プログラムともいえる、この船が宇宙中を回って各星の生物を収穫していくメインプログラムを変更できる権限を持つユーザーだけでも作れないかとか、色々と試してみたのですが、結局ダメでした。


 前回もそうでしたが、この船にも食卓ともいえるへその緒をつなげて栄養を供給されるテーブルには、宇宙人のミイラはありませんでした。恐らく初回の時に宇宙人のミイラを回収したことも記録されていて、研究されないためにそれまでは放置してあったミイラをすべて処理したのでしょう。


 名札でもついていれば、読めなくても同じ記号を並べてユーザー名とすることも考えてみたのですが、そんなことすらできません。そもそもこの船には、居住区の部屋の入り口を見ても分かりますが、表札のような識別のための表示がないのです。


 各個人が持つIDを自動で識別して個人の部屋へ導くのか、若しくは誤った部屋を開けようとしたらアラームが鳴るなどするのかもしれません。ミイラの解析では、衣服にこれといった識別はありませんでしたから、生体認証を使っていると思われます。


 その為異物である我々が侵入した際に、当初はアラームが出ていたのかもしれませんね。我々には認識できない波長の光か音などでね……前回の潜入時には警備ロボットが、排除しにやってきましたからね。


 そうなると……この巨大円盤を作った宇宙人の……しかもそれなりの権限がある人個人にしか、巨大円盤を運航させている収穫プログラムを解除するのは難しいと、少なくとも私は考えます。


 収穫量は今後も含めてゼロに書き換えて、収穫量がゼロであれば次の目的地へ行かなくてもいいのではないかと問いかけて見ようかとも考えましたが、下手にゼロを意識させると、この円盤のAIが収穫プログラムの予定数量にゼロは無効とエラーを発生させる可能性があるので、取りやめました。


 収穫予定数量の差を計算させて、その値を代入させるというあくまでも計算結果としてだけ書き換えておくのがいいでしょう。


 やはり我々の力では、この円盤を手に入れるのはできそうもありませんね。」

 白衣の研究員がため息交じりに説明する。


「まあ、仕方がないわね。これまでだって、別にただ追い返せばいいって思って、何もしていなかったわけじゃあないものね。特に2番目の円盤から、恒星へ突っ込ませることが出来なくなったし、向こうも考えているけどこっちだってそれなりに知恵を絞っていたのだものね。


 誘拐された人々は全て車体の周りにまとめたから、いつでも出発できるわよ。


 この部屋は入り口をふさいだからいいとして、あの警備ロボットはまだ残っているのかしら?結構倒してきたつもりだけど……これから、神大寺さんたちは床を爆破させなければならないから、お兄ちゃんの保護膜の中にはいられないでしょ?全部処理できていればいいけど……。」


 美愛が振り返り、既に肩から長いロープの束を下げて準備している神大寺たちを見て、心配そうにつぶやく。


「ああ……あの球体はまだ12台残っているようだね。と言っても、恐らく故障したときのための予備というか、補修部品があって常にメンテナンスや更新が行われているのだろうけどね。


 とりあえず今現在は残り12台だ。そうだ……残りの12台がどこにあるか聞いてみよう。


 えーと……先ほど確認した我々異物を攻撃するための球体は、今どこに配置されているか?今現在稼働していない予備も含めて、この円盤の断面図で表示してくれ。」

 幸平が突然思いついたように、制御テーブルの上に手をかざした。


 すると、巨大円盤の下の方にいくつもの青白い点が出現した。


「ありゃりゃ……僕たちがいる中央制御室の真下に6台いて、さらにその下の階層に3台とそのまた下にも3台……動いていないところを見ると、息をひそめて待っているのだろうね。」


「窯のある広い空間に、残りの6台を配置しているということは、ここで何とか仕留めるつもりのようね。

 でもあらかじめ居場所が分かっていれば、準備できるわ。じゃあ……もう出発できる?」


「はい……取り敢えず、この星での収穫は終わったことにして、それでも待機時間は76時間としました。

 我々の脱出時間と、後から各国のプログラマーを連れてくる時間を考慮して、それでも3日間は残せるように設定しました。まあ……後から来る人達でも、待機時間は変更可能でしょうがね。」


 白衣の研究員が笑顔で答える。


「じゃあ……出発しましょう。神大寺さん……いいですか?」

「こっちはいつでもOKだ。」

 神大寺も笑顔で答えた。


「じゃあ、お兄ちゃん、寝れる?」

「ああ……いつでも眠れるぞ……。」


 夢幻は笑顔で答えて、カプセル内に横になった。美愛が急いで操縦席に戻るが、すでに車体は浮かび始めていた。


「では、これから帰路につきます。この床の下に、攻撃ロボットが待ち構えていることが分かったから、床を爆破して下に降りたらすぐに夢三さん、寝てもらえますか?球体を爆破しておかないと、神大寺さんたちが危ないから……6台もいるので、結構時間がかかりそうよ。更にその下2階ともに球体がいます。」


 美愛がレバーを操作しながら、後方の夢三へ声をかける。


「問題ないべ……俺はいつでもどんな時でも寝れるべさ。」

 夢三も自信満々だ。すぐにリクライニングを倒し、待機し始める。


「じゃあ行きますよ。」

 美愛は神大寺が大きく両手を使って指示する方向へ車体を進め、その位置で床へ押し付けた。


 すぐに下から少しこもった破裂音がして、周囲の視界が少し開ける。床が大きく吹き飛んだのだ。

 美愛はゆっくりと、車体を降下させる。


「では……夢三さん、寝てください。」

 美愛が声をかけ終わるかどうかのタイミングで、既に周囲が薄暗くなり始めた。秒で夢三が眠ったようだ。


「いたわね……危ない危ない。」

 既に神大寺たちはロープを垂らして階下へ降下を開始したところで、両側に鎌のような刃物を持った球体が、彼らの方を向いて宙に浮かんでいるのが見える。


 美愛は神大寺と自衛隊員たちの位置に注意しながら球体をゆっくりと押していき、壁へ押し付けて行った。



「ふう……この空間は結構広いから、手間取ったわね。何せ神大寺さんたちから、遠い方の壁へ追い込む必要性があったからね。でもまあ何とか……じゃあ美樹ちゃん。夢三さんを起こしてもらえる?」

 美愛がほっと息を吐きながら、後ろへ首だけ回して声をかける。


「はい、あんちゃん……起きるべ……あんちゃん……。」

「ふあ?」

 すぐに背後でいくつもの爆発音が鳴り響いた。


「これで残りは6台ね……。」

 美愛は一旦、背後の壁へ向きを変えて残った球体がいないか確認しておくことにした。



 美愛が中央制御室下へ戻ってきたときには、既に神大寺たちは準備を終えていたので、指示されるとおりの位置へ車体を導き床へ押し付けると、鈍い爆発音が響いてきた。


「じゃあ夢三さん、また眠っていただけますか?ここと、あとこの下で終わるはずです。」

 美愛の言葉が終わるか否やで、周囲が薄暗く変化する。


 美愛はゆっくりと降下し、周囲の様子をうかがうと、空間の上方隅に球体が潜んでいるのが見えた。あらかじめ知っていなければ、見逃してしまいそうな位置であり、球体位置を確認しておいたことに満足していた。


 3つ角に止まっていたので、長距離をゆっくりと押し続けなくてもよく、処理は楽だった。それぞれの球体を部屋上方の角に押し付けて回り、夢三に声をかける。これをもう1回繰り返した。



「後は2階分の床を爆破すればで脱出できるわね。意外と今回は楽勝だったわね。」

 美愛が一人満足そうに、神大寺の指示する方向へレバー操作しながら笑顔でつぶやく。


「いやあ……楽勝もなんも……皆さんようもこんだけ色々と動けますなあ。それぞれの役割をきちんとこなしているのがようわかります。それに比べて……兄やんは寝たままで……あたしはなあんもすることがのうて……ほんに申し訳ないですわ。ご一緒させてもろうとるんが、心苦しいですわ。」


 そんな美愛に対し、美見が後方から身を乗り出して声をかける。


「そんなことないのよ。夢分さんの分身能力のおかげで、128ヶ所もの巨大円盤を一度に処理できるのだから。そうでなければ、せいぜい2,3台の円盤を処理するのがやっとだったわよ。


 分身能力の夢分さんのおかげよね。夢双さんが能力だけ受け取って、透明化のままで作戦決行する予定だったみたいだけど、通路の障害のおかげで作戦失敗が目に見えていたわけだし、夢分さんが参加してくれたからこそ、地球が助かったともいえると思っているわ。


 それに……うちのお兄ちゃんもそうだけど、お気に入りのパジャマを着て、家族が一緒でなければぐっすりと眠ることなんてできないのよ。その点では美見ちゃんが参加してくれたのは、本当にありがたいのよ。」

 美愛が美見だって十分貢献していると、打ち明ける。


「そうでっか……そうならええんですけど……。」

 それでも美見は自信なさそうにうつむく。


「大丈夫だべ、美見さん。あたしだってあんちゃんを起こすだけで、他はなあんもしとらんもん。あんちゃんだってただ寝るだけだし、この中できちんと役に立ってるのは、NJの人たちを除いたら美愛さんだけだべ。

 それでもあたしがいなければ、あんちゃんが寝れないし……だから、それだけで役に立ってるんだべ。」


 そんな美見を隣に座る美樹が慰める。


「美樹よ……だから……あんちゃんは美樹がいなくても、ちゃあんと寝れるいうとるべさ。」


「だったらいいけど……ほんと……こっから先……大人になってあんちゃんが独立して、家を出て行ったり……恋人出来て結婚するなんてことさなって……そんでもあたしが新居に一緒に住まわねばならんなんてこと……なったら世間様から笑いもんだべ。


 あんちゃん……こんなこと許されるのは、せいぜい高校生までだべ。はよ大人にならな……。」

 美樹がつぶやいた言葉は、一緒に乗る兄妹たちの胸に深く突き刺さった。


「じゃあまあ……早いとこ片付けてしまいましょう。あと少しだからね。」


 美愛が神大寺の指示に従いレバーを動かして床に車体を押し付けると、床から鈍い破裂音がしたが先ほどまでよりも、上へ音が突き抜けて行ったように感じた。それでもいつものように、車体を降下させようとしたが一向に進んでいかない。


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