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第81話

12.

「はいっ。」


 美愛が操作レバーを動かして車体を前に進め、徐々に下向きに下降させていく。輸送機から出発する操作は何度か経験しているし、風洞実験室内でも日常的にシミュレーション訓練をしているので、目隠し状態でも問題なく操作可能だ。


「車体は輸送機内から完全に出ました。すぐに180度反転。」

 ソナー担当の自衛隊員が風切り音の変化を読み取り、美愛に指示を出す。


「わかりました。」

 美愛がフロントパネルのジャイロメーターを頼りに、レバーを動かして車体の向きを変えていく。



”ドーンッ……ドーンッ”1時間ほど飛行していると、はるか遠くから爆発音が何度も聞こえてきた。


「爆発音までの距離およそ3000m。角度、左へ3度修正。2000m進んだら教えてください。」


「はいっ、分かりました。」

 美愛がソナー担当者の指示に従い、ジャイロメーターを見ながら方向を修正し始めた。



「2000mほど進みました。」


「じゃあ、ピンを打ちます。」

”コーン……コーン”甲高い金属音が断続的に発せられ、ソナー担当者がじっと意識を集中させている。


「円盤までの距離……およそ250m。」

 ソナー担当者が告げた直ぐ後で、暗闇の中を青白い光の帯が流れていく。


”コーン……コーン”なおも金属音が断続的に発射されていく。


「円盤の透明保護膜を越えました。円盤までの距離……およそ100m。角度上向きに10度修正。」

「了解しました。上昇します。」

 ジャイロメーター頼りに、美愛がレバーを操作する。


「右2時方向へ修正。」

「はい、右2度修正します。」

 ソナー担当者の指示を聞きながら、その後も美愛が車体を操作していった。


「はい、小型円盤発着場脇に到着。円盤表面までの距離約50m。ゆっくりと降下してください。」


「わかりました、降下開始します。」


”コーン……コーン”再び甲高い金属音が発せられる。ソナー担当者が位置を割り出すために信号を発射しているようだ。


「はい……降下をもっとゆっくりに……はいっ……着艦しました。」

 軽い衝撃音の後、ソナー担当者が告げる。


「では夢双君は寝たままで、夢幻君だけ起こしていただけますか?」

 白衣の研究員が指示を出した。


「わかりました。お兄ちゃん……起きる時間よ。お兄ちゃん。」

 美愛が声をかけながら、車体後方へ歩いていく。


「ふえー……お兄は起こされへんのか……チョー楽しみにしとりゃーしたに……。」

 美由は不貞腐れ気味にほほを膨らませた。


「ふあーあ……終わったか?」

「まだよ……今巨大円盤の上に降りたところ。これからドローンを飛ばすのよ。」


「そうか……いよいよだな。」

 夢幻は辺りを見回すが、周囲の視界はほとんどない。


「では、ドローンを飛ばすぞ。すぐに車体を小さく畳んで、夢幻君に寝てもらうことになるから、手伝ってくれ。幸平君……は寝たままか……夢幻君たちとずっと起きていたようだからな……寝かせておくか。」

 神大寺がフロントパネルのスイッチを押し、席を立って後方を覗き込んだ。


「幸平君は、小部屋につくまでは寝かせたままでいいでしょう。夢三君、いよいよ眠る順番になりそうです。ですが……タイミングがありますので、準備だけしておいてください。」

 ソナー担当の自衛隊員とともに席を立ちながら、白衣の研究員は最後尾席の夢三に寝る準備をお願いした。


「あんちゃん……だいじょうぶか?」

「だいじょぶだべ……すぐにでも眠れるべさ……。」

 既にパジャマに着替えた夢三は、リクライニングシートをゆっくりと倒した。



「ようしドローンも飛ばし終わったし、車体も折りたたんだ。後は小型円盤の出現を待つのみだ。夢幻君と夢三君は眠る準備をしておいてくれ。浮かび上がってしまうと、時を止める範囲外になってしまう可能性があるから、小型円盤の発射を確認してから、寝てもらうことになる。」


「ふあー……また眠れるー……。」

”ドーンッ……ドーンッ”夢幻は嬉しそうにカプセルのフードを閉じて横になるとすぐに、遠くからいくつもの爆発音が聞こえてきた。



「今、発着ゲートの開く音が聞こえました。夢幻君は眠ってOK……夢三君はもう少し待機。」

 ヘッドフォンに神経を集中する、ソナー担当者が指示を出す。


「了解しました。」

 夢幻が目をつぶる。


「小型円盤4機出発。その後の風切り音が絶えたので、恐らくこれで終わりでしょう。夢三君眠ってください。」

「ようやくか……眠れるべ。」


 夢三が目を閉じるとすぐに、周りから聞こえてきていた音が全く聞こえなくなった。


「では、美愛ちゃん……夢三君を寝てすぐに起こすのは気が引けるので、すいませんがこのまま1時間ほどはホバリングで待機してください。」


「了解しました。」

 美愛が車体をそのままの位置でホバリングさせる。



「では、1時間経過したので進みましょうか。夢双君を起こしてください。ソナー音を頼りにしてもいいのですが、起こせるのであれば夢双君を起こして視認しながら円盤内へ入っていく方がより安全でしょう。円盤内侵入に関しては、自動プログラムは作ってありませんからね。」


「了解……おにい……おきぃやあー……おにい……。」

 美由が張り切って小走りで、後部のカプセルへ寄って行った。


「おにい……いつまでも寝とったら……。」

「はっ。」”ゴンッ”


 カプセル横のマイクに向かって美由が呼びかけるとほぼ同時に夢双は飛び起き、カプセルフードにおでこをぶつけた。


 途端に視界が開け、前方下部に巨大な金属でできたオブジェが車体のライトに照らされて、どこまでも続いているのが見えた。


「では、空いている小型円盤の発着場内へ入って行ってください。」

「はい。」


 白衣の研究員の指示を受け美愛が車体を前進させた後、ゆっくりと降下を始めた。視界は非常に悪く、車体のライトに照らされた部分以外は、ほとんど何も見えない。



「前方に、分岐の横通路が見えてきましたね。では美愛さん、このままの位置に待機していてください。」


「わかりました。」

 美愛が通路を正面の位置で、車体をホバリングさせる。


「では夢双君、寝ていただけますか?」

「はいはい……直ぐに寝れりゃーすで……。」

 すぐに前方の視界もなく真っ暗となった。


「では、夢三君を起こしていただけますか?」

「わかりました。あんちゃん、起きるべさ。あんちゃん……。」


「ふあ?……ふあーあ……まだ眠いべさ……。」

 夢三が起きて、座席のリクライニングを起こした。


「では、ここからは自動プログラムで走行させます。美愛ちゃん、自動操縦に切り替えてください。」

「わかりました。」

 美愛が操作レバー脇の青く光るボタンを押すと、レバーが勝手に動き出した。



”ピーピーピーピー” 自動運転を開始してから10分も経たずに、車体内に電子音が鳴り響いた。


「変ですねえ……中継地点の居室までは、もう少し時間がかかると思っていたのですが……。」


「いや……到着音ではなく、これはアラームだ。何か異常事態が起きたのだろう。確認をする必要があるから、夢双君だけ起こしてもらえるか?美愛君、自動操縦を切ってホバリングしてくれ。」


 神大寺が美愛にこのままの位置で待機と、その隣の美由に夢双を起こすよう指示を出した。すぐに美愛は青く光るボタンを押して、レバーを操作し始めた。


「了解です……おにぃ……おきいや……起きいひんと……。」

「はっ。」”ゴンッ”


 またもや夢双がカプセルのフードにおでこをぶつけた。如何に美由に起こされる事に恐怖を抱いているか丸わかりで、美愛は夢双のことを気の毒に感じていた。


「な……何でしょうか……これは……。」

 夢双が目覚めて視界が開けると、フロントウインドウが格子状のものに覆われているのが視認できた。


「通路の右上に位置しているようだ。美愛君……このまま下降してもらえるかい?」

「はい、わかりました。」


 車体が下降すると、目の前の黒い格子がゆっくりと上昇していく。そうして最後は波打ちながら、はじけるようにして車体上方へ消えて行った。


「ふうむ……目の前には何もないが……通路上方……しかも右半分だけ、黒い格子状のものがピンと張られているのが見えるな。夢幻君の推進力では、突き破って進むのは無理か……。」

 神大寺が中腰になって、フロントウインドウから上を見上げながらつぶやく。


「外れた時の状況から推察するに、恐らく格子状のゴムネットか何かを張って障害としているのだろう。前方を見ると、遥か前方に今度は左上部に同様のネットが見える。


 我々が自動操縦で透明化したまま通路を上下左右に変えながら進んでいることは、既に捉えられているということだな。通路の上方……しかも半分だけ塞ぐのであれば、通路の機能は損なわずに我々の侵入を阻むことには使えそうだ。恐らく完全自動プログラムでの侵入を想定しているのだろう。


 これでは円盤内のドローンによる破壊活動は、無理があったことが予想されるね。


 仕方がない、ここからは透明化せずに目視で進んでいくことにしよう。夢分君が来てくれてよかったといえるな。完全透明化したままであれば、この障壁は分からなかっただろう。板状ではないから、ソナーでも確認はできなかっただろうからね。」


 仕方なく、ここからは目視によるマニュアル操縦で円盤内を進むこととなった。


「美愛さん、大丈夫ですか?」

 美由が心配そうに夢愛の顔色をうかがう。


「多分ね……最初に巨大円盤に入った時は、マニュアル操作で円盤内を進んだから。まあ、どの道適当だったから……ある程度進んだら、どこか小部屋に入ればいいんですよね?」


「いや……あの時は円盤の中央部を目指していたわけで……決して適当に指示を出していたわけではないんだが……。」

 美愛に振り向かれて、神大寺が複雑な表情を見せる。



”ガンッガンッ”しばらく進んでいくと、背後で大きな音がし始めた。


「大変だべさ……後ろで刃を持った丸いのが、攻撃してきてるべさ……。」

 美樹が座席から立ち上がって車体後ろの様子を確認すると、振り返って叫んだ。


「後方モニターを付けよう。」

 神大寺がフロントパネルのスイッチを押すと、リトラクタブル式にモニター画面が持ち上がり、後方の映像が映し出された。


「この前の時に小部屋の中や脱出の際にも襲い掛かってきていた、両手に鎌みたいな刃物を持った浮遊する丸い球体のようだ。美愛君……車体を操作して、壁に激突させることはできるかい?」

 神大寺がモニターを見ながら、美愛に尋ねる。


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