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第80話

11.

「よし……なんとか交渉成立の目途が立ったようだ。詳細を詰めたり代表者の選定は、我々の移動中と作戦中の時間を使って行われることになった。これからNo.10から順に出発していき、我々が一番最後だ。」


 2時間後に、ようやく通信が入り、神大寺が笑顔を見せた。こちらの要望が受け入れられなくて何が何でも巨大円盤を確保しろと命じられても、誰も受けることなどできなかったので、一同ほっと安どの息をついた。


「美由ちゃん、お願いね。」

 出発に先立ち美愛が美由を誘い、兄たちを寝かせに行くことを告げる。


「はいはい、分かってますよ。おにい、はよ寝てちょう!」

 美由が張り切って、車体後部へ小走りで駆けて行った。続いて美愛も後部に向かう。


「お兄ちゃん、色々と面倒な要求はされたけど、まあ何とかなりそうね。今すぐ眠れる?」


「まっかしてくれ。すぐに寝られるさ。」

 夢幻が笑顔でカプセル内に横たわった。


 美愛が操縦席へ戻る前に、すでに車体は浮きかけていて、美愛は焦って席についてレバーを操作し始めた。すると間もなく、前方の視界がゼロに……夢双も寝たようだ。


「おにいも夢幻さんに負けないくらい、素早く眠れるようになってきゃーしたでしょ?日々鍛えとりゃーす。しかも夢分さんが参加してくれたおかげで、何かあればおにいをたたき起こせりゃーすから……うーん、腕が鳴るでにゃー。チョーらっきいですわあ。」


 美由が笑顔で席につきながら、両腕を何度もパンパンと張った。



”ピピピピピピピピ”しばらくして、ひときわ長く電子音が鳴り響いた。


「美愛君、No。1の出撃合図だ。ゆっくりと上昇してくれ。」

「はい、わかりました。」


 神大寺に指示され、美愛がレバーを上昇へ向ける……と言っても周りが全く見えないので、ほぼ勘だ。


”カチッ”神大寺がフロントパネルのライトをつけると、高度計がゆっくりと上がっていくのが分かる。


「まっすぐ上昇して、高度2000mで待機してください。」

 後方から指示が出る。ソナー担当の自衛隊員の声だ。


「わかりました。1000m…………1500m…………2000m、この高度を維持します。」

 美愛がレバーを押したり引いたりして、車体をホバリングさせる。


「右2時方向へ500m進んでください。」


「了解!」

 すぐさま美愛が車体の向きをコントロールして進ませる。


「500m地点まで来ました。」


「よし……このまま待機して……指示を出したら、ゆっくりと上昇してください……はいっ、すぐに直進!」

「了解、直進します。」


「ようし……あと5秒で停止。ご、よん、さん、にい、いち、停止!」

「停止しました。」


「ちょっと待ってください、ピンを打つから。」

”コーンッ”甲高い電子音が鳴り響く。


「前方5m壁、右方向1m壁、左方向1.5m壁、後方3m壁。周囲に動く物体なし。ようし、輸送機内に着座できました。夢幻君と夢双君は起こしても大丈夫です。」


「わかりました、お兄ちゃんを起こしてきます。美由ちゃん、行こう。」


「おっけい……まっかせてください。」

 美愛と美由が車体後方へ向かった。


「おにい、起きいやあ、おきひんと……」

「ひぃっ!」

 美由の恐ろしさが身に染みているのか、相変わらず夢双の寝起きはいいようだ。


「お兄ちゃん起きて!お兄ちゃん。」

「うん?なんだ終わったか?」


「まだよ、今何処かの輸送機に乗り込んだところ。これから目的地までは、お兄ちゃんは眠れないからね。」


「ふあーあ……そうか……仕方がないな。」

 夢幻も夢双もカプセル内で、上半身だけ起き上がらせた。


「うん?自衛隊機ではないな……アメリカ向けではないのか?ちょっと、車体から出ないでこのまま待機していてくれ。他国の輸送機だと機密保持のために、この機の乗組員と接触できないから、食事もトイレも睡眠も車体内で済ませなければならない。


 かなり待たされたので弁当を配るから、狭いだろうがその場で食べるようにね。」


 神大寺から皆に、このまま待機の指示が出た。これまでのように輸送機の中の会議室で談笑したり、ベッドで眠るというわけにはいかないようだ。


「弁当を持ってきたよ、夢三と丁度4人だから、また団体戦でもやるかい?夢幻たちはカプセルの中のままだけど、ここの床に将棋盤を置けば、何とか上から見られるだろ?」

 幸平と夢三が、大量の弁当箱と将棋盤を持ってやってきた。


「じゃあ、あたしたちは前方の席でお弁当を食べましょう。美樹ちゃん達も前の席へ移ってね。」


 美樹と美見を誘って前席へ美愛たちがやってきてみると、いつの間にかフロントウインドウに真っ黒く塗られた板が置かれていた。格納庫には誰もいないことはいないようだが、用心のために塞いでおいたのだろう。


「美見ちゃんは関西なのよね。公立の中学校なの?制服かわいかったわね。」


「はい、オトンが亡くなって、公立の中学に行くことになりましたけど、確かに制服がかわいくって気に入っとるんですわ。」


「いいわね……美見ちゃんは小さくってかわいいから、もてるでしょ?」


「そんなことおまへん……ちょっとももてよらんですわあ。そない言うたら美愛さんはおきれいですし、美由さんも美樹ちゃんもかわいい系の美人さんで……もてはりますやろ?

 もてるこつっちゅうんを、教えていただきたいもんですよ。」


「そんなことありゃあすか、美見ちゃんのかわいらしさ言うたら……」

「そうですよー……。」


 温かい弁当をほおばりながら、女子トークに花が咲いているようだ。



「夢幻君の保護膜や夢双君の透明膜も解除されたので無線を傍受していたが、どうやらこの輸送機はロシアのモスクワ上空を目指しているようだ。あと16時間ほどで目的地に到着する予定なので、それまでに十分な睡眠と言っても、狭い車体で席についたままになるが我慢してくれ。


 どうやらアメリカだとお隣の国が承知しないため、ロシアが中立として名乗りを上げたということだろうね。それでも日本人が乗っているということは知っているようで、無線通信は日本語と英語を混ぜてくれているようだ。おかげで助かっている。日本のラジオの電波も、受信可能なようだ。


 世界中で巨大円盤が出現したが、数の脅威で抵抗をあきらめさせる目的と判断、大都市上空でしかも住民避難が困難であるため円盤への直接攻撃は躊躇われていたのだが、それでも誘拐されていく人々が後を絶たないために各国軍が戦闘機や爆撃機を飛ばして円盤へ攻撃を開始。地上部隊も加わった時に透明化へ移行。


 透明化したままで攻撃を仕掛けられる可能性があったため、爆撃機も地上部隊も即時撤退したようだ。


 その後、姿は見せないが光の束に包まれて人々が宙へ舞い上がるという異常事態が世界各国の主要都市で断続的に発生していて、透明化した小型円盤が人々を攫って行っていると推測しているようだ。


 到着次第、巨大円盤への潜入作戦が実行されるが、それまでは十分に休んで体力を温存してくれ。


 エコノミークラス症候群が怖いので水分を十分にとる事、寝付く前に立ち上がって十分屈伸運動をする事、目覚めた後にも十分な柔軟体操を行ってくれ。まあ君たちはまだ若いから問題はないだろうがね、念のためだ。


 洗面所はないから、歯磨きガムで代用してもらう。トイレはさっきも言ったが、夢幻君のカプセルの下だ。


 非接触型の充電装置をお願いしておいたから、電源は供給されている状態だ。だから電子レンジが使えて弁当を温めることが出来た。軍用輸送機の格納庫の中で、上空は冷えるのでヒーターも全開で入れておく。


 夢双君は寝ても構わないが、夢幻君と夢三君だけは起きていてくれ。毎度のことながら申し訳ないが、コーヒーをがぶ飲みして耐えていてくれ。」

 食事が終わって少したってから、神大寺から目的地への説明が行われた。


「自衛隊の輸送機ではなかったのが残念ですが、輸送機内にはX線解析装置などは設置しないようお願いしているから問題はないでしょう。線量計で常にモニターしてありますし、自然レベルを超えた時点で作戦中止と告げて徹底をお願いしてあります。


 解析されることよりも、皆さんが被ばくすることの方が恐ろしいですからね。

 じゃあ夢分君の栄養補給で、ビタミンとブドウ糖の点滴を……。」

 白衣の研究員が、夢分のカプセルのところへ向かっていった。


「ふあー……寝られないのは、まあ仕方がないか……毎度のことだ……。」

 夢幻は小さくため息をついた。


「まあ、そんくらいなら寝んでも問題ないべさ。」


「師匠が寝ないのだったら、俺も起きとりゃーすに。」

 夢三と夢双も起きているのは問題なさそうだ。


 美愛たちはヘッドホン型の耳栓とアイマスクをして眠り、夢双たちは言葉通りに眠らずに起き続けていた。



”ピピピピーピーピー……”突然格納庫内に、けたたましく電子音が鳴り響いた。


「どうやら巨大円盤間近まで来たようだね。」


「分離地点まで、およそ30分。敵巨大円盤は透明化して、同一円周上を移動している模様。周囲を取り囲むようにして配置された爆薬を積んだドローンの爆発音から位置を推察するのは、前回の作戦と同様ですね。


 光の束による誘拐が発生するたびに空軍による空爆が断続的に行われたため、ここでの誘拐事件はそれほど発生していないようです。今のところ攫われた人々の数は、それほど多くないようで安心しました。


 恐らく日本から近い地域になるのでしょうが、既に巨大円盤への潜入作戦が決行されている地域が、80か所近くもあるようですね。


 それでも……未だ成功地点はない様ですね、攫われた人々が解放された国は現時点ではなさそうです。

 我々は救出後にも一仕事ありそうですが、まあ頑張りましょう。


 では夢幻君、夢双君、夢三君の3人は、眠る準備をしておいてください。起きている皆さんは作戦中も携帯食を食べる時間はあるかもしれませんが、何が起きるかわかりませんので、なるべく今のうちに十分に食事をとって、トイレもすませておくようお願いいたします。」


 白衣の研究員が、格納庫内に響き渡ったスピーカーからのメッセージを意訳して説明してくれた。


「ふあーあ……ようやく眠れそうだね。じゃあ……将棋指しながらも食べていたけど、念のためもう少し食べておくか。」


 大量の弁当がらがカプセル下に落ちているにもかかわらず、夢幻はカプセル近くに積まれた弁当へ手を伸ばした。


「そうやな……俺ももう一個食っとくかにゃあ……。」

「俺も……食べておくべさ……。」


「まあだ食べるの?もう3日分は食べているわよ……。」

 夢幻たちの様子を見ながら、美愛はあきれ顔で弁当がらを片付け始めた。


「ふあーあ……チーム分けをいろいろと振り分けて行ったけど、どのチーム分けでもほぼ五分五分の勝率だった。実力は拮抗しているようだね。僕は食べるのはいいから、30分だけでも仮眠をとるよ。」

 幸平だけは弁当を取らずに席へ戻って行った。


「あたしたちも、少しは食べておいた方がいいわね。」

 片付けた後で美愛は、自分たち用の弁当を取り分けて座席へと戻って行った。


「はい……美由ちゃんと美樹ちゃんは、多分食べられるから大丈夫よね。美見ちゃんは緊張しているかもしれないけど、少しは食べておいた方がいいわよ。これから結構長丁場になるからね。」


「は……はあ……そりゃあまあ……でも……この狭い車ン中で……動かんと飯ばっか食うとるゆうんは……どうにも……。」

 美愛と美由は1個ずつ、美樹と美見は半分ほど弁当を食べた。



”ピピピピピピピピ”再び格納庫内に電子音が鳴り響く。


「どうやら出発の合図のようですね。夢幻君と夢双君は眠りについてください。夢三君はすいませんが、もう暫く眠るのは我慢していてくださいね。」

 白衣の研究員が夢幻たちに眠るよう指示を出す。


「ようやく眠れるか……だけどどうせすぐ起こされるんだから、覚悟しておかないとな。」


「俺はどうなんやろな……ちいっとで起こされるとなると、また美由の……ううむ……くわばらくわばら。」

 すぐに車体が浮かび始めたが、いつまで経っても視界は暗くならない。


「とりあえず、車体を180度反転させておきます。」

 車体は輸送機の中に入ったままの状態であったため、出ていくために美愛が向きを反転させた。


「おにい……ねむれんのか?じゃああたしが言って子守唄……。」


「美由ちゃん……子守歌は最終手段としておいてください。夢双君……この後は円盤表面に憑りついて小型円盤の発射を待つのですが、その間透明化を解除することはない予定です。当初は作戦決行中は全て透明化で進める予定でしたので、円盤内の居室に入るまでは寝ていられますから、安心して寝入ってください。」


 白衣の研究員が席を立って駆け出そうとする美由を押し止め、夢双に大声で声をかける。


「そうやったんかあ……だったら結構寝れりゃーすな……ちっとは安心……。」

 その言葉を聞いて安心したのか、すぐに視界は真っ暗に変わった。


「じゃあ出発だ。」

 神大寺がフロントパネルのバックライトのスイッチを押しながら、指示を出した。


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