表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/91

第79話

10.

『ガーガー……神大寺所長……残り全ての車体の神大寺所長、無線機のマイクを取って先ほどの周波数にセットしてください。』

 30分ほどして、スピーカーから呼びかけの応答があった。


「こちら車体No.1の神大寺、どうぞ。」

 すぐに神大寺が焦ってヘッドセットを付けなおして応答する。


「はい……はい……10台すべての車体から、同じように出撃を拒否すると連絡があったそうだ。今、各国当てにその旨のメッセージを発信しているらしい。このまま待機するよう、指示があった。」

 神大寺がヘッドセットのマイク部分を手で押さえながら、車体内に向かって説明してくれた。


「やったわね。これで出撃済みの車体からの報告を、待っていればいいということよね?それはそうと、さっき随分と気になることを言っていたわよね?分裂の回数がどうのとか……この車体No.1の夢分さんが全ての車体に影響するとか。


 車体No.1の誰かが怪我やもしかして死んでしまったりしたら、それは他の分裂にも影響するという事?」

 神大寺の様子を心配そうに見つめていた美愛が、ほっとするとともに、今度は大きく伸びをして後方の白衣の研究員に向かって問いかけた。


「いえ……全ての分裂に影響すると目されるのは、このNo.1車体にいる夢分君だけで、他の人たちは関係ありません。昨日の実験でも、A側の夢分君が目覚めるまでは、B側の夢分君は目覚めることはありませんでした。仮にB側の夢分君を起こさなくても、A側が起きれば分裂は収束すると考えております。


 つまりNo.1の夢分君に何かあれば……途中で目覚めてしまうようなことが起きれば、他の作戦メンバー全てが収束してしまい失敗に終わるのです。それが分岐の親ごとに発生するかどうかの見極めもできていないので、念のために最後の分岐の方から順に近場を選択して向かっております。


 ですが……円盤の確保を望まれる国が出てきたために、それも難しいと考えていたのですが、どうにかいかなくて済みそうですね。」

 白衣の研究員が、ほっと胸をなでおろす。


「どうだろうね……僕たちが行かないんじゃ、巨大円盤相手に手も足も出ないんじゃないの?多分、色々と理屈をつけて、なんとか僕たちを出撃させようとするはずだよ。」

 幸平が、このままではすまないだろうとつぶやく。


「その話はとりあえず置いておいて……それよりもNo.1が影響するのは、夢分さんだけというのが分かったのはいいわ。でも……こういった場合はどうかしら?例えばどれかの部隊が全滅してしまった場合。


 No.1以外のね。そういった場合、128分の1だけ記憶とか体の一部が欠けてしまうとかするの?

 だって、あたしたちの分身が死んでしまったら……その分本体にも影響があるはずでしょ?」

 美愛が、恐ろしい状況を想定して問いかける。


「うーん……今それを聞いちゃう?」

「なによ……聞いて置きたいでしょ?」


 美愛の問いかけに対して幸平が遮るが、それでも美愛は白衣の研究員に目を合わせて問いかけた。


「正直に申し上げますよ……嘘を言っても仕方がありませんからね。その場合は死んでしまいますね。」

 白衣の研究員は、意外とあっさりと答えた。


「えっ……No.1の夢分さんが死ぬのではなくて、それ以外の夢分さん含めて……例えばNo.128が全滅して全員死亡……とかいう場合よ?128分の1がどうにかなっても、本体まで死んでしまうことはないわよね?障害が残るかどうか、知りたいだけよ?」


 美愛は答えが答えになっていないとばかりに食い下がる。


「こう考えてごらんよ。今のように大量の巨大円盤が世界各地の上空に浮かんでいて、僕たちに救助要請が来た。でも僕たちは分裂能力者がいなくて分裂できないから、何日もかけて127台の巨大円盤を無効化して攫われた人々を救い出していった。ところが128番目の円盤でへまをして、全滅してしまった。


 僕たちはどうなったと思う?」

 幸平が白衣の研究員に代わって解説する。


「そんなの簡単でしょ?全滅ってことは……最期は全員死んでるじゃない!」

 美愛が声を大にして答える。これには隣に座る美由も同調して頷いた。


「そうだよ……分裂してもしなくても……同じこと、128分の1ではない。怪我をしても同じ事さ。ただ……全ての分裂に影響するタイミングが、いつになるのか……どの分裂でも死んでしまったならすぐに全ての分裂に反映されるのか、No.1の夢分君が目覚めて分裂を解消してからになるのかは、分からない。」

 幸平の言葉に、車体内が凍り付いた。


「……………………………………」


「でも……だからと言って、今回の作戦がこれまでと比べて難しいとかいうことではないから安心して。

 数が多いだけだし、どのチームも僕たちそのものだから、チーム間での優劣は存在しない。


 ただ心配なのは大挙して円盤が押し寄せたということは、そのうちのいくつかには本物の宇宙人が乗っている可能性がないことはない。そういった円盤に乗り込んだチームが、無事解決できるかどうか……にかかっているよね。宇宙人が全滅して自動プログラムだけで動かしている円盤でさえあれば、問題はないだろう。


 ただし……円盤を確保せずに無効化して送り返すという、これまでと同様の作戦でさえあればだけどね。」

 押し黙っている美愛たちに対し幸平は笑顔で、それほど心配はないと付け加えた。


「そっそうね……これまでだって何とか作戦は成功しているのだものね。その繰り返しだと思えば、なんとでもないわね。美由ちゃん達も安心してね。」

 美愛がほっと胸をなでおろした。


「どうやらそうもいかないようだぞ。やはり多くの国々が、日本だけが宇宙人の持つ未知の文明技術を独占するのはよろしくないと、あらためて主張してきている。なんとしてでも誘拐された人々を救出して、更に円盤を引き渡せと強く要求しているようだ。


 円盤を確保する手順に関しては当事者が一番詳しいはずで、現場に行ってもいない者が示すことが出来るはずもないことが分かっていて要求するのは、卑劣な手段であると一蹴されてしまった。


 返事次第では武力に訴える場合もありえるという、強硬姿勢のようだね。下手をすれば世界的な戦争にも発展しかねないだろう。しかも敵国は……日本……ただ一国だ。」

 インカムからの通信を聞いていた神大寺が、ため息交じりに告げる。


「そんな……だったら出発しないで拒否し続けましょう。」


「いや……無理だな。日本政府は善処すると回答したようだ。だから、直ちに出発しろとさ。上空にはすでに各国の輸送機が待機中ということだ。」

 神大寺があきれ顔で続ける。


『各号機に告ぐ。直ちに出発せよ。これは要望ではない、命令だ!直ちに出発せよ!』

 スピーカーから、すぐに出発するよう指示が流れて来た。


「ひどいわねえ……こっちの意見なんか聞く耳持たないといった感じね。そもそも……あたしたちが命がけで巨大円盤を無効化して送り返しているからこそ、世界中の国々の人々が助かっているというのにも拘らず、その恩義も感じずに武力に訴えるだなんて……人として恥ずかしくないのかしら?」


「それほど日本を脅威と感じているということでしょうね。


 今回大量の円盤が襲来したことに対して、夢分君の分裂能力を用いれば、同時に作戦実行も可能性ありと1時回答した途端に、世界各国に対して日本が主体となって今回の侵略行為に対抗すると、宣言をしたようです。同時に世界の主要都市上空に、自衛隊の輸送機を飛ばすための空域指定を打診したと先ほど聞きました。


 自衛隊機の派遣は速攻で拒否されたようで、じゃあ救出には向かえないだの何とかしろとかすったもんだあって、自国若しくは友軍の輸送機を日本上空に迎えに行かせることで決着がついたようです。


 多くの人々が攫われていくのを、そのまま放っておけとは言いませんが……もう少し……時を置いて、しかも各国の防衛隊と協力し合って救助作戦を決行するというような、話の持って行き方もあったと私は考えております。大量の巨大円盤でさえも日本だけで対処可能とする軍事力に、どこの国も警戒しているのでしょう。


 自衛隊とは申しませんが、せめて防衛相の幹部が絡んでいればよかったのでしょうが、防衛相の大臣の先走りが原因のようで、軍事力をひけらかす危険性ということに対して考慮が足りてなかったのでしょう。


 それが巨大円盤の未知なる文明の技術であるかどうかにかかわらず、日本だけに独占させておくわけにはいかないと考えているのでしょうね。日本の自衛隊を世界に認めていただく絶好の機会と考えたのでしょうが、逆効果でした。


 今回は何らかの成果を各国に配布しない限り巨大円盤の対処が終わった後に、日本が突き上げを食らうのは目に見えております。そうしてその矛先は、恐らくNJへ向けられることでしょう。」

 白衣の研究員が、大きく息を吐いた。


「だから……持たざる者のやっかみが、どれほど恐ろしいか……ということだよ。こんなんじゃあ、夢幻たちの能力なんて、絶対に公にしてはいけない。研究とか言われて寄ってたかってモルモットにされたり、ひどい目にあわされるのがおちだ……。」

 能力者の存在を公開すべきでないとする幸平が、納得とばかりに大きくうなずいた。

 

「さっきから断っているんだが、ともかく出発して各国の攫われた人々だけでも救い出せの一点張りだ。救出さえしておけば、とりあえず納得するだろうからとにかく出発しろと、しつこく言ってきている。」

 神大寺が、小さく首を振りながら告げる。


「でも……救い出すだけでは済まないですよね?しまいには僕たちの責任にされかねませんよ。取り敢えず、夢幻を眠らせましょう。夢幻の保護膜があれば、ありえないとは思うけど万一拘束しようとされたりしても、守られるから……。


 もしそんなことにでもなれば夢分君が目覚めて、救出作戦が台無しになってしまうでしょうけどね。いっそのこと、夢分君を起こして分裂を解消しましょうか?救出作戦が失敗すれば、日本へのパッシングなんかしている暇はなくなるでしょう?そのあとで日本上空の円盤だけ処理してしまえば……。」


 幸平がまずは夢幻を眠らせることを提案し、作戦の中断も示唆する。


「そうもいかないだろ……いつまでも夢幻君を眠らせておくことはできない。夢分君だって48時間後には起こさなければならないし、それに何といっても我々がここに居続けるということは、巨大円盤は人々をさらい続けることになるわけだ。犠牲者を増やさないためにも、一旦は救出に向かうしかない。」


 神大寺があきらめたように、出発を提案する。


「だったら、こうすればいいんじゃない?


 うまく操作すれば円盤を確保できるって言うのなら、やってもらえばいいのよ。あたしたちが行く先には、救出した人々を引き渡すための着陸地点があるはずでしょ?そこに各国の代表者を集めておいてもらうのよ。10ヶ国ともに単独でやらせると失敗した国から不平が出るから、1ヶ所に集めておくのよ。


 2日とか3日とか巨大円盤を待機させておいて、救出した人達を置いたついでに今度はその人達を運んでいくの。そうして円盤の中に置いて後は勝手にどうぞってすればいいんじゃない?何もあたしたちが無い知恵を絞ることもないわ。それこそその国の頭脳なんて言うくらいの頭のいい人を送り込めば、いいんじゃない?」


 美愛がとんでもないことを提案する。


「そうか……何だったら、これから出る10ヶ国それぞれの円盤に、コンピューター操作に慣れた人たちを連れて行けば……。」


「いえ……美愛ちゃんが言うように、それだと他国をけん制するするあまりに、いつまでも円盤を出発させないとか、無茶な指示を入力して爆破させたりする可能性があります。何だったら新たな収穫場所として、敵対国の主要都市を指定すれば、強力な破壊兵器となり得ますからね。


 やってはいないけど恐らく地球内でさえあれば、他の国の主要都市を目的地に変更することは可能なはずです。攫うべき人がたくさんいて、収穫量が満たされる見込みがありさえすれば、エラー画面には切り替わらないはずですからね。それこそ未知なる文明兵器を使った、代理戦争になりかねません。


 そのような疑心暗鬼をもたらすようなやり方は、NGです。1ヶ所だけ……恐らくアメリカのロサンゼルス辺りは大都市ですから、そこなら巨大円盤が行っているでしょう?そこへNo.1の僕たちが向かうことにすれば、自衛隊機で向かうこともできる筈ですしね。


 ロスの野球場に、各国の頭脳ともいえる人たちを待機させておけばいいのです。各国頭脳の総意で1機だけでも円盤を確保できれば、それはこれから飛躍的な技術革新へとつながるでしょう。各国ともに名目は平和利用でしょうから、そう言っておけば1ヶ所だけでも文句はでないはずです。


 何だったら10ヶ国からこのような要求があったが、貴国はいかがいたしますかって世界中の国へ打診して希望者を募ってもいいと思いますよ。恐らくほとんどの国は自国の民の安全のために少しでも早く解決してもらうよう、無茶な要求などしなかったはずですからね。


 抜け駆け的な要求をしてきた国々は、自国内円盤に対してという主張を取り下げざるを得なくなるでしょうし、万一円盤が確保できた暁には、それこそ世界中の国々で協力し合って解析が行えるわけです。それに……そうでもしなければ、まともな解析チームを組むなんて無理だと僕は思ってますよ。


 何せ未知なる文明ですからね。地球人の常識など通用しないわけですよ。帰ってこられなくなる確率の方がはるかに高いのに、そんな決死隊ともいえるような任務に名乗りを上げる人なんて……世界中から探しても数人いるかどうかではないですかね?」


 幸平が神大寺に、1ヶ所だけでなければいけない理由を告げる。そうして、世界中に向けて打診するよう提案した。


「なるほど……深いですねえ……さすが美愛さん……と幸平さんは、本当にベストマッチですね。所長、これならいける可能性が高いですよ。」

 提案を聞いて白衣の研究員が、笑顔を見せる。


「ちょ……ちょっと……何よ、ベストマッチって……この人とは何にもありませんからね!」


「そうかわかった……その線で交渉してみよう。」

 じっと目をつぶって幸平の意見を聞いていた神大寺は、美愛の反応は無視して大きくうなずいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ