表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/91

第77話

8.

「ええっ……じゃあ……おにいを起こす必要は……ないっちゅうこってすか?しょ……しょっく……。」

 夢双を過激に起こすことが生きがいの美由が茫然自失となって、その場に座り込んでしまった。


「そうはなりますが……これまでの皆さんの様子を見る限り、寝ている時でも家族の存在は必要としているようなので……申し訳ありませんが夢由ちゃんも……同行はお願いできませんか?」


「そりゃあ……おにい一人だけにはさせられませんから……あたしも行きますけど……。」

 白衣の研究員の言葉に、美由は複雑そうな表情で頷いた。


「円盤へ行くのはいいとして、ドローンはどうやって飛ばすの?」


「前々回の透明円盤の時で分かっていると思いますが、透明膜は物を通します。当初はレーザー光線やロケット弾など無機物のみと考えていたのですが、夢双君用の研究所の解析では、有機物……しかも能力者でなければ人間も通り抜け可能なようです。そのため、ドローンの放出は全く問題ありません。


 前回も一度失敗して2度目の出撃の時、当初は透明化したままでドローンを飛ばす計画でしたが、美愛さんご提案の夢三さんが参加する作戦に変更となり、実際には行われませんでしたが可能です。


 小型円盤の発着に関しましてはソナー担当者がいますから、ゲートを開ける音で認識するつもりです。


 透明円盤の時の後日解析で分かったのですが、巨大円盤の表面上ではあちらこちらで、音波を使った信号が出ていることが分かりました。恐らく透明化したままで小型円盤を透明保護膜内で飛行させる時の識別でしょうが、こちらも利用させてもらいます。


 このほうが透明化のままでも発着場脇に着艦できますし、攻撃を受ける心配もなくなります。」

 白衣の研究員が自信満々で、説明する。


「円盤に入ってしまえば……後は自動運転だものね……」


「そうですよ……窯の上の橋の切れ間にだって、自動運転で停止できます。後はソナー担当者が通っていく人々の足音を聞いて、人がいなくなってから中央操作室へ入って行けばいいのです。


 透明化の時に入っていなかったものも、当初の大きさを超えない範囲であれば追加で取り込むことが出来るようですし、中央操作室に入ることが出来れば、そこから幸平君たちが外へ出て円盤の操作プログラムの書き換えを行い、更に車体の幅を広げて誘拐された人々を膜内へ取り込むことも可能と考えております。」


「はあ……うまい事出来てるものよねえ……。」

 美愛が感心したように何度も頷く。


「へ?じゃあ……俺はほんまに用なしでっか?」

 夢分が自分を指して、目をむきながら問いかける。


「いえ、用なしというわけではありません。能力をお借りする必要がありますからね。じゃあ夢双君、夢分君と握手してください。」


「了解しやした……ほい……。」

「ちょ……ちょちょっと……待っとくれやす……」

 先ほどまで差し出していた右手を、夢分が焦ってひっこめた。


「ほっ……ほんまに……俺が行かんでも、問題は起こらへんのでっか?」


「はい……夢双君に能力を1時的に移していただければ、作戦計画上は問題がないはずです。ですので、早く握手をお願いいたします。」

 怪訝そうな夢分の問いかけに、白衣の研究員が自信たっぷりに答える。


「待て待て待ちいや……ほんまか?絶対か?この……夢双ちゅうお人に……俺の能力を移せる言うとりましたけど、1時的……1時的でんわなあ……その……1時的が切れたら……途中で分裂しなくなったら、どないなります?」


「そりゃあ……元に戻りますよ。分裂する前の姿……どの地域に派遣されるチームになるかはまだ分かりませんが、その1チームだけに戻ってしまいます。仮にその時までに誘拐された人々を救出できていたとしても、後から取り込んだ分は全て分裂が解けた時点で無効となりますから、その場に置き去りとなるでしょう。


 つまり……1チーム以外作戦失敗となります。ですが……以前の実験結果から考察いたしましても、夢双君の取り込み能力は、その後の睡眠時間中は継続しておりましたので、目覚めさえしなければ問題はないものと考えております。目覚めてしまうと大変なことになるのは、夢分君とご一緒出来たとしても同じことです。」


 白衣の研究員が、以前の実験結果をもとに淡々と答える。


「その時は、48時間も長い間寝とったんすか?」

 白衣の研究員にせかされても、なおも夢分は問いかけ続ける。


「いえ……ほんの30分……いえ1時間ほどでしたかねえ。夢双君の透明能力の初期確認だけでしたからね、そんなに長時間ではありませんでしたよ。」


「だったら……危ないんちゃいまっか?何時間かしたら突然……分裂が途切れてまうような事態が起こらんとも限りませんよね?そうなったら……どないします?」


「どないも何も……現時点で我々にできる最良の作戦は、これしかないのですよ。夢分君は同行を拒否されてますからね。確かに危険性はありますよ、夢双君の吸収能力の上限期間など、全く把握できておりませんからね。だからと言って、どうするのですか?代替え案はないのです。ですので……早急に握手!願います!」


「そやで……兄やん……ええ加減握手決めたりいや!」

 しつこい夢分に、白衣の研究員も美見もキレ気味だ。


「いやいやいや……だから……俺が一緒に行けばいいんですやろ?そうすれば、そんないらん心配しなくても済むわけですや?どうして俺に行くよう、言わへんのでっか?」


「それは兄やんが、銭払わんといかん言うてるからやろ!なにいうとるんや、腹立たしい!」

 美見が代わりに夢分を怒鳴りつける。誰もがいい加減、先へ進みたいと願っていた。


「だから……そら頼み方が悪いんやろが。今この時点でいくらくれ言うとるわけやないで!さっき言うとったやおまへんか……日本のチームが巨大円盤から救出しとるんやって、いずれは明らかにするかもしれへんって。


 そうなってからでもええんや……公になればそれなりの報奨金ちゅうもんが出せるわけでっしゃろ?そん時に何とかするて……約束できんもんでっか?」

 夢分は真顔で神大寺へ詰め寄る。


「いや……さすがにそんな不確定なことは、今ここでいうことはできない。なにせ日本の救出作戦のことを明らかにする時期も何も決まっていないし、どこまで明確にするかも現時点では不明だ。


 特殊工作チーム……とかにしてしまうと、自衛隊や警察の特殊チームというふうに捉えられるだろうし、そうなると報奨金なんていうものは、なかなか出せないだろう。彼らはそれが任務だからね。


 民間のチーム……ということにして初めて、報奨金などの話が出るだろうが、まさかそんな発表をしてしまったなら、どこのどんなチームかまで洗いざらい明かさなければならなくなる。


 そんなことは恐らくできないだろう。だから……無理だ。」

 神大寺は両手を小さく上げて、お手上げのポーズをとる。


「恐らく……恐らくできん……わけでっしゃろ?もしかすると明らかにするかもしれへん……これで円盤の襲来がおさまったと明らかになった場合とかやね。そうなった場合という前提でもええですよ……報奨金を検討するという約束は……出来まへんか?」


「だから……無理なんだ。俺だって、ここにいるみんなに負担をかけていることに対して、どれだけ報いたいと思っていることか……だから、OBなどのつてを頼ってレトルトカレーの試作品などを集めたりしているのだが、そんなもんが俺の限界だ。所長なんて言っても、なんの権限もないんだ。


 日本国内でも最重要機密扱いで、NJ以外で君たちの存在を知る人間は、ほんの一握りでしかない。両手程もいないだろう。未だって多くの自衛隊員が来てはいるが、球場内に入っているのはNJ関係者以外は連絡将校が一人か二人だけで、多くは外で物の搬入を行うだけだ。


 俺だって下手に動けば機密漏れに繋がるから、知り合いのつてを頼るにしても本当のことは一切話せないわけだ。心が痛むよ。だから……勘弁してくれ。」


 しつこくくいさがる夢分に対して神大寺が音を上げて、ただ頭を下げる。


「ですから……口約束だけでも構いません。おうたばかりですけど、神大寺さんは誠実な方とお見受けしました。例えば事情が変わって……ここにいる皆さんが、これまで巨大円盤が襲来するたびに、誘拐された人々を救出して、さらに巨大円盤を無効化して追い返していたことが、明らかになったとしたら……。


 たらればでっけど、もしそうなったら表彰されますわな?報奨金かて出るんちゃいまっか?」


「そ……そりゃあ……君たちの存在を、明らかにしても問題ないことが分かれば……という前提ではあるが、そうなれば隠し立てする理由なんかない。君たちの活躍の記録を公にして、恐らく君たちは世界中の国々から表彰されるだろう。報奨金だって……もしかすると……。」


 神大寺が小首をかしげながら、自信なさげに答える。


「でっしゃろ?それが分かればええんですよ。仕方あれへんなあ……俺も一緒に行きまっせ。」

「へっ?」


「行く言うとりますよ……行かん方がよろしいんでっか?」


「いやまさか……不慮の事態がないとは限らないから、そりゃあいくら能力を移せるにしたとしても、夢分君が同行してくれることは、大変にありがたい。」

 笑顔の夢分に、神大寺がゆっくりと歩み寄っていく。


「いやあの……後部座席は3人席に変更したのとカプセルを一つ増やしたので、定員は3名増えました。


 夢幻君と夢双君と夢三君それぞれカプセルで眠っていただく予定でして……。加えて美愛ちゃんに美由ちゃんに美樹ちゃんと所長のほかにソナー担当の自衛隊員と私が追加で……予備席はリクライニングのベッドで救護者用としていたのです。


 ですが……夢分君と美見ちゃんが加わるとなると……ソナー担当者は外せないでしょうから、私が乗る席が……なくなってしまうのですが……。」

 喜ぶ神大寺とは裏腹に、白衣の研究員が膝から崩れ落ちる。


「後部座席が3人掛けなら、前席も広くなっている訳でしょ?美由ちゃんか美樹ちゃんを、前に座らせれば研究員さんも乗り込めるんじゃない?たしかプローバーの接点は、前席分のは3ヶ所あったはずだけど?」

 困惑する白衣の研究員に、美愛が助け舟を出す。


「そっ……そうでした。3人掛けは前席もそうでしたね……よ……よかった……。」

 白衣の研究員は、半泣きの涙をぬぐいながらよろよろと立ちあがった。 


「なんや兄やん……結局行くんかいな。だったらなんで駄々こねとったんや?もったいぶりよって……。」

 美見があきれ顔で夢分の顔を覗き込む。


「あほか……聞いとったら、どうやら意外と成功確率が高そうな作戦のようやったからな。俺抜きで出撃して、それで成功してみいや……しかも俺の能力だけは使われるんやで!そんで事が治まって、みんなが表彰されるってことになったら、どうなる?俺だけつまはじきや。


 そんなことなったら、わややろ?権利は持っておかなあかんのや!」

 美見に対し、夢分は小声で耳打ちした。


「はあー……兄やんは……まあ、参加するだけで……ええとするか。パジャマは持って来とるんやろな?」


「そら勿論……ちゃあんと頂いた新品を持って来とるで……ぬかりあらへん。」

 夢分は手提げバックをポンっと軽くたたいた。



「えーと……では、夢双君用のカプセルには全身麻酔用のボンベのほかに心電図と呼吸、脈拍計をつけてありますが、ここに夢分君が寝てください。体型的には夢双君より随分小さめですから、問題ないでしょう。

 カプセル内に固定用のベルトがあるので、しっかりと締めてくださいね。


 長時間の睡眠が要求される夢双君は、こっちの夢三君用のカプセルで寝るようお願いします。体型的にさほど違いはなさそうですから、こっちもいいですね。ただ……各国の輸送機の中に滞在しているときも、基本的に透明化が望まれますが……頑張って寝ていられますか?」


 自分の座席が確保された白衣の研究員は、張り切って車体の席わりを始めた。広いグラウンドのど真ん中に小さな車体が一つ、ぽつんと置かれている。


「はあ……2日くらい寝とることになるっちゅう連絡が来とりゃーしたから、一昨日からコーヒーがぶ飲みで一睡もしとりゃーせんです。どんだけでもガーガー寝れる思っとりゃーす。」

 既にパジャマ姿の夢双は、自信満々で答えた。


「じゃあお願いします。トイレなどで起きる程度の短い時間であれば、問題ないとは考えております。輸送機の格納庫には、誰もいれないよう指示しておりますからね。行きは側板全体と天板部分にも爆薬を積んだドローンが何重にも収められておりますから、装置を仕掛けられていたとしてもX線解析できないと思ってます。


 解析装置を仕掛けておくのは禁止にしてありますから、輸送機に入るときと出る時だけは間違いなく透明でありさえすれば、まあ問題はないでしょう。


 夢三君は……大変申し訳ありませんが、またまたカプセルではなくシート座席で、寝るときはリクライニングを倒してお願いすることになります。」


「はあ……俺はどこでも寝れるから、問題ないべさ。」

 頭を下げる白衣の研究員に対して、夢三はぽつりと答えた。


「じゃあ、美樹ちゃんは夢三さんの隣の席がいいでしょうから、美由ちゃんが前に移って来た方がいいわね。

 美樹ちゃんの隣に美見ちゃんが座れば丁度いいわ。」

 美愛が美由を呼び寄せる。


「はーい……じゃあ、お邪魔します。」


「美見さん……こっちの席です。」

「ありがとさん。」


「りょ……両手に花……と思って喜んでいたのに……男に囲まれるとは……ショック……。」

 一人幸平だけが、つらそうに席へ着いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ