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第75話

今回は、お食事中の方は控えられた方がよろしいと思います。さほど過激な表現でもないのですが・・・まあ、念のために・・・。

6.

”ボコッ”「あいたー……。」

 タダでは動かないと豪語したが飛び跳ねた美見に後頭部を拳固で殴られ、夢分が頭を押さえて蹲る。


「すんまへんなあ……兄やんはいいやつなんですけど、どうにも銭にうるさくって。両親ともに事故で死んでもうた後に、引き取ってくれた親戚の人を変な目で見るわ、そこをおん出て二人だけで住む言い出すわ……もうわやですわ。何とか民生委員頼って、今は暮らしとりますけど……確かに楽な暮らしではありません。


 6畳一間のボロ屋暮らしで、しかも兄やんが変な病気で……一緒に寝れへんなって、あたしは狭い台所に布団敷いて寝とります。まあ家具ゆうても小さな食器棚と、布団が2組あるだけですから、それだけでも住めんことはないんですが……寝ると兄やんが分裂しよるもんですからね……。


 何とか治せんかあ思うとったら……兄やんがこれは銭になるって……馬鹿な事を……ほんまに……。」

 美見が深く息を吐いた。小さな肩がぶるぶる震えているように見える。


「………………………………」

「……ご両親は、事故で亡くなられたって……交通事故かなにか?」

 沈黙を破ろうと、美愛が恐る恐る夢分兄妹に尋ねた。


「はあ……自動車同士の正面衝突で、亡くなりました。2年程前のことですね。」


「遺産……とか言っていたようだけど、ご両親の遺産がどうかなってしまったのかな?」

 ため息交じりに答える美見に、幸平が問いかける。


「まあ、その……」

「幾らかはわからんですが、うちの親は輸入雑貨の卸の仕事をしとりまして、結構はぶりもよくて外車乗り回しとって、週一は高級フレンチで外食ちゅう生活やったんですが……両親ともに亡くなってからは奈落の底ですわ。速攻で親戚連中が出てきまして、一緒に住もう言うて住んどったマンション解約されるわ、わやですわ。


 挙句の果てに、両親は借金抱えとってしかも高額やー言い出す始末で、生活費たりいひんから働かな高校も行けへんで言い出しやがった。信用でけへんから親戚の家はおん出て、それでも未成年やから近所の民生委員のおっさんに頼み込んで後見人になってもろうて、そんで新聞社の仕事あてがってもろうたんですわ。


 いずれ大人になって、それなりに稼いだら弁護士雇って、親戚連中ギュウ言わせたる、思うてまんねん。

 せやから銭が必要でんねん、決してがめつい訳やおまへんで。」

 夢分が悲惨な現状を告白する。


「そ……そうだったのか……。」

 一同、何を言えばいいのか、言葉を失ってしまった。


「…………………………。」


「そっそういえば……なんだかお腹が空いたわね。あっ……もうお昼に近いじゃない。打ち合わせは後にして、お昼にしない?今日のお昼は……そうだ、折角関西からお客さんが見えたんだから、もんじゃ焼きにしない?関西はお好み焼きでしょ?関東はもんじゃ焼きよー……食べ比べてもらうのもいいんじゃない、かな?」


 静まり返った会議室の中で、美愛が立ち上がって明るく話しかける。


「あっそうだな……ようし……特性のもんじゃ焼きを作ってみるかな。」


「そうよそうよ……お兄ちゃんのもんじゃは最高だから。」

「そうだね、夢幻のもんじゃはうまいからなあ……。」

 美愛に続いて夢幻と幸平も笑顔で立ち上がった。


「そうですね……ではちょっと早い気もしますがお昼にしましょう。」

 白衣の研究員も笑顔で同調し、皆階下へ降りて行き昼食休憩となった。



「まあ、自由にこの鉄板の上で焼いて食べればいいんだろうけど、一般的にはこう……キャベツとか刻んだ野菜夜具材部分をすくってこうやって周りに……土手を作ってから、粉をようく溶かして味付けしたのを真ん中に一気に開けて……。」


「ほう……ジュウジュウいうとりまんなあ……。」


「で、段々と煮詰まってきたら土手を崩しながら一緒に……それから、この小さな鏝を使って食べていくの。」

 調理室脇の食卓用テーブルにホットプレートを置き、美見たちに夢幻と美愛がもんじゃの食べ方を、レクチャーしていく。


「なっ……なんやこの……きったないもん……汚物か?」

「何ゆうとるんや、兄やん!失礼やろ!」


「そやかてお前……こんなもんゲロ……みたいで、食われへんで。」

「馬鹿言うとったらあかんで……ちょっといただきます……あら、うまいでんなあ……。」


「おま……うまいわけあらへんやろ……べんちゃらつこうとったらあかん。まずいもんはまずい言わんとな。なんせゲロやで?」


「ゲロゲロうるさいなあ……兄やんはカエルか?ぐじぐじ言うとらんと、食ってみてから話せ!ほれ!」

 夢分のあまりな態度に切れたのか、美見は熱々のもんじゃを鏝ですくって、嫌がる兄の口へ無理やり運んだ。


「ああん?熱っ……はーはー……あれ?けっこううまいな。へえ……うまいゲロもあるゆうこっちゃな。」

 いやいやながらも一口食べると意外といけるので、夢分は自分の前に置かれた鏝で、もんじゃを掬って何度も口へ運んだ。


「ゲロゲロ言いな言うとんのや、失礼やで!」


「ああ……わるいわるい……結構うまいもんですわな……粉もん同士でも、お好みとは違った食いもんでんな。

 見た目で毛嫌いしてもうて、すんまへんでした。お詫びに今度……関西風お好みのやり方、伝授させていただきますわ。」

 夢分が素直に頭を下げた。


「へえ……それは楽しみだね……お好み焼き粉とかも買ってあるから、明日の昼飯はお好み焼きやな。」


「お兄ちゃん……何で関西弁?」

「あっ……あまりに楽しそうな会話だったので、聞き入ってしまってうつってもうた。あはははは。」


「ぷっ……兄やんのお好みは、ちょっと特殊でうまいんですよ。」

「へえ……そいつは楽しみだね。どんなお好みなの?」


「まあ……肉も魚介も入っとらん、キャベツだけのお好みですわ。粉と水は別容器に混ぜておいて、卵を白身と黄身に分けて黄身は先に入れて、白身だけメレンゲみたいに泡立ててから、ゆっくりと粉を溶かしたんを混ぜていくんですわ。空気も一緒に焼くいうんでっか?ふわふわに焼き上げるんですわ。」


「へえ……それはおいしそうね。」

「焼き上がりもふわーとして、とろける……まではいきませんけど、口当たりは最高ですよ。」


「粉も結構しますさかいに、少ない粉で少しでもボリュームを出そうっちゅう、貧乏人の発想ですわ。手間はなんぼかけてもタダですからね。」

 満面の笑顔で説明する美見とは対照的に、夢分が少し寂しそうな、ひきつった笑顔を見せる。


「ちょっと……何とかならないの?せめて、遺産がどれくらいあったか調べてあげるとか……。」

 美愛が小声で白衣の研究員に耳打ちする。


「夢分君から昨晩この話を聞きまして、法的な問題の可能性もありますので……ですが個人情報ですし、親戚の方のプライバシーに触れることになりかねませんので……慎重に慎重に……現在調査中です。ですから……ご安心ください。」


「そう……だったらよかった……。」

 美愛もほっと胸をなでおろした。


”プルルルルッ”「はい、神大寺。なにっ?テレビ?ちょっと待っていてくれ。」


 ホットプレート上のもんじゃもあらかた片付けられたころ携帯の着信音が鳴り、神大寺が急ぎ足で応接のソファの前のテレビのスイッチを入れた。


<アメリカニューヨーク上空に突如出現した巨大円盤ですが、今年の春から度々世界を騒がしている巨大円盤と同型のものと……えっ……はい……そうですか……今はいりましたニュースに寄りますと、巨大円盤はニューヨークだけではなく、フランスのパリ及びイギリスのロンドン……えっ……北京?>


<預金するならオカメ銀行、あらよっきんきんきん……>

 アナウンサーの言葉が途中のままで、中継画面が突然コマーシャル画面に切り替わった。


「どうなっているの?ニューヨークにパリにロンドン……北京まで?同時に円盤が来たってこと?」

「どうやらそのようですね……複数機……しかも透明化せずにそのまま姿を表しましたね。」


<大変失礼致しました。巨大円盤は北米ヨーロッパのみならず、中国・インド・タイ・フィリピンの主要都市……えっ……日本では東京、大阪にも出現した模様です。すでに小型円盤が四方へ飛び去っていきました。>


「ぶっ……げほっげほっ……東京も?だったら、ここからでも見えるのかい?」

 食後のコーヒーとばかりに、コーヒーサーバーからコップにコーヒーをなみなみ注いで、一口飲もうとほおばったのを吹きだしながら、夢幻はすぐさま窓へ駆け寄って行った。


「あっいた!ここからでも見えるよ。いよいよ……俺たちも小型円盤で収穫されていくことになるのか?」

 窓から身を乗り出して見上げると、はるか上空に丸い円盤が浮かんでいるのが見えた。


「窓を開けていると、それこそ吸い上げられちゃうかもしれないわよ。」

 美愛が窓に寄って行って、兄を窓際から引き離そうとする。


<こちらテレビ局屋上カメラの映像です。スクランブル交差点を横断しようとしていた人たちに眩いばかりの光が照射され、小型円盤へと連れ去られていくショッキングな映像が……皆さん!外を出歩かないでください。非常に危険です。今すぐ建屋の中へ避難してください。>


 テレビ画面には、重力がなくなったかのように地面を歩いていた人々が中空へと吸い上げられていく光景が映され、すぐさまアナウンサーが屋内へ避難するよう呼びかけた。


「大変……夢双さんたちを呼ばなくっちゃ……。」


「大丈夫です。昨日、夢分君たちが出現したことによって巨大円盤襲来が近いと予想して、すでに手配してあります。とはいっても学校を長期で休学することが予想されたため、ご両親と学校へ行って手続きしてからの出発だったので、恐らくこれから出発するくらいのタイミングでしょう。


 まさか、こんなに早く円盤が出現するとは……予想外でした。


 夢分君の能力と夢双君の能力の相性を見たかったところですが、状況が状況ですからね、仕方がありません。ぶっつけ本番ということになります。まあ今までの経緯から推察いたしますと、睡眠時発生の特殊能力同士の相性はどれもいいようですから問題ないでしょう。


 とりあえず分裂状態で夢幻君の飛行が可能なのを確認しましたし、夢三君の時を止める能力も確認できました。しかも一方で能力を使っていると同時に、分裂した側でも同様に夢幻君たちの能力を使うことが出来るのを確認できております。分裂した後は、個々で作戦展開が可能であることが分かりました。


 我々も大至急準備して、出発しましょう。」


『はいっ、分かりました。』

 全員がすぐさま階段へと駆け寄っていく。


「美樹ちゃんの革つなぎは、サイズを合わせたのが間に合ったのよね?予備があるはずだから、美見ちゃんに貸してあげてくれない?多分、サイズ的に一番近いと思うから。」


「はいっ、ロッカーに予備はビニール袋のまま保管してあるので、すぐに渡せるべ……こっちだべ。」

 美愛に促され、美樹が美見を連れてロッカー室へと案内する。


「まちいやあ!なんか聞いとると、俺たちが参加するのんが決まっとるみたいに言われとりましたけど、俺はさっきも言うたように、満足するだけの銭を頂かないと参加しまへんで!


 どうやら命がけの作戦のようやし、その代償を要求することは、ちっとも恥ずかしいことではない思うんやけど、俺の考えはまちごうとりまっか?」

 食卓で未だにもんじゃをつついていた夢分が、大声で皆の背中に呼び掛けた。


「そりゃあ……兄やんのいうことは、ちっともまちごうとらん……まちごうとらんのやけど……人としては最低や。兄やんしかやれんことなんやで!さっきのニュースを見ていたやろ?仰山の巨大円盤が、世界各地に出現しとるんや。間違いなくこれから、世界中の人たちをさらっていくんやで!


 それに対抗するんは、兄やんの分裂能力しかないんや。分裂して各円盤へ乗り込んでいって、攫われた人たちを救出して……円盤を使い物にならんようせなあかんのや。さっきの説明聞いて、そんくらいわかるやろ?」

 美見が悲しそうに顔をゆがめながら、夢分へ近寄っていく。


「分っとるわ……だから、いかんゆうとらんやろ?こわあていかん訳やないで、命がけの作戦に参加するだけの正当な報酬を要求しとるだけや、それがどうして悪い事なんや?人の道に外れるんや?」


「だから……今この窮地を救えるのんは……兄やんしか……いや……夢幻さんはじめ、たくさんのすごい能力を持ったお人達も一緒じゃなければ救えんのでしたな……でも兄やんの力が加わらなければあかんのや。


 一個一個円盤へ突入して、順次救っていくんか?そんなんしてたら、ほとんどの円盤でぎょうさん人々攫えたから満足言うて、帰っていくやろ?間に合わんのや!そのための兄やんの分裂能力なんやろ?


 ただ寝るときに場所ばっかくうて……寝にくい迷惑ばっかかけられた能力が……ようやく役に立つ時が来たんや。それを喜びもせんと……銭銭ばっか言いくさって……兄やんも自分がおらんかったら、みんなが困るいうの分っとって、銭を要求しとるやろ?人の足元ばっか見よって……ほんま最低やな!


 だから人の道外れとるいうとるんや!オトンがいつも言うとったやろ?人としての正義を貫かなあかんって、兄やんの正義は銭か?」

 美見が途中から涙声で、兄を叱りつけた。


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