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第70話

1.

「先日の北太平洋での巨大透明円盤による大規模誘拐事件の被害者救出成功式典の際に、中国の主席がおっしゃっていた、日本の神童……というのはどなたのことを指すのですか?明確な回答をお願いいたします。」


「現在調査中です。」


「調査中って……日本国として救出作戦を主導して行ったということではないのですか?」

「その件に関しましても、現在調査中であります。」


「いやいやいや……だから、現在世界中を巻き込んでいる巨大円盤事件に関して有効な対策を日本政府が持っていて、彼ら……中国主席が神童とおっしゃっていますから、彼ら……でいいですよね?その神童と称される彼らを日本政府が秘密兵器的に持っていて、円盤が出現するたびに派遣しているのではないのですか?」


「ですので……現在調査中で、今この場でお答えできることは何もありません。」


「待ってくださいよ、調査中調査中って……どうして日本政府がやったことを、調査しなければ答えられないのですか?総理はご存知の事柄なのですよね?」

「調査中です!」


「あらかじめ問い合わせたところ調査中というご回答でしたので、調査資料の開示を求めたところ、提出された資料がこれですよ……資料の一部ということで頂き、なんとA4用紙50Pにもわたる資料……これですが、表紙左の上隅に先週の日付が記載されているだけで後は全て黒塗りなんですよね。しかも全て両面。


 これが公開資料として恥ずかしくもなく提出される肝の太さに感服いたしましたが、一つだけわかったことがあります。片面でA4用紙100P分以上に相当する資料が出来上がっているということなんですよね?ところがいかなる事情があるのかわかりませんが、全て黒塗りで公開できないということですね?


 新型兵器ということでしょうか?軍事機密で公開はできないと……それにしては中国主席は神童……とおっしゃっていらした。新型兵器を使用しているのが神童……つまり青年たちということでしょうか?


 私が子供のころ少年が操縦するロボット兵器……みたいなアニメがありましたが、そのような解釈でよろしいのでしょうか?仮にそうだとすると、大問題ですよ!日本は永世中立国家で、防衛するだけの自衛隊は持ちますが、他国を脅かすような侵略兵器は持てないはずですよね?」


「えー……現在調査中ではありますが……中国主席に称賛いただきました神童という言葉の対象が、決して侵略兵器等でないことだけは、申し上げておきます。現日本には、そのような侵略兵器はございません。」


「侵略兵器ではないとおっしゃるのであれば、公開すべきですよ!どこの自衛隊基地に所属する、なんという部隊なのか、きちんとお答えください!」


「えー……ですから、現在調査中でありまして、お答えできる状況にございません。」


「総理はご存じない……そうおっしゃっているのですか?まさか……民間の機関がこんなすごいことを単独で行っているということですか?だから、ご存じないと?」


「ちょ……調査中です。」


 テレビの国会中継では追加予算案審議の真っ最中で、野党が総理大臣に対して透明巨大円盤による誘拐事件を解決した祝賀式典で、中国主席が発した日本の神童の存在に関して厳しく追及している様子が映し出されている。ところが首相の答えは一辺倒で、議論として進んでいかない様子だ。


「なあによこれ……調査中調査中って……我々は何にも知りませんって態度……むかつくんですけど!


 そのくせ対外的には、日本が主導となって巨大円盤に対処していくなんて言っているんでしょ?前回巨大円盤が現れた時に速攻で解決しますよって言っちゃってたから、、時を止めた状態で小型円盤を発着させた為に内部に侵入できずに失敗したときに、神大寺さんがボロカスに怒られたんだものね……。


 自分たちは何にもしないくせに手柄は横取りして、失敗したときは全ての責任を押っ付けてくるんだから……本当にあったま来ちゃうわよね!」


 NJビル1階応接室のソファに座り、美愛がテーブルの上に置かれたポテトチップスの袋に伸ばした手でテーブルを思い切り叩き、ポテトチップスがテーブル上に散らばる。


「そうですね……なしてほんとのこと言わないのか、分からんべさー。おかげでこっちは、転校迄させられてるのに……。」


 美愛の隣に座る美樹も、ポテトチップスをほおばりながら不満顔だ。睡眠時に時を止める能力を持つ夢三の治療が優先されるため、夢三と一緒にNJオフィス近くの学校へ転校してきたのだ。


 不登校の夢三は夢幻たちと同じ高校であれば登校可能と、編入試験を受けて転校。美樹は近くの公立中学へ転校することになった。友達と別れることになるので夢三だけ残ることも検討されたが、美樹は人と接触することを嫌う兄だけを残すことはできず、一緒に転校することを決めたようだ。


 夢三の病気というか能力が公になれば、地元の北海道でも大きな病院へ通院可能となり、そちらで研究できるはずなのだが、現時点では彼らの能力は国家機密であるため、NJ以外での調査研究は不可能であることに、半ば腹を立てている様子だ。


「まあまあ……二人とも……お怒りはごもっともだけど……夢幻たちの能力が公になってしまうと、学校でも奇異な目で見られることになって、通いにくくなってしまうだろ?


 夢幻の宙に浮く能力は直接イメージしにくいけど時を止める能力だったら、ちょっとした意見の食い違いで仲たがいしたときに、時を止めて変な事されるんじゃないかって思うと近寄りたくないってなってしまい、クラスで孤立してしまうよね?そうなると困るよね……。


 夢幻の空中浮遊だって、ネットに挙げた時にはあれだけマスコミが食いついたんだからね。幸い誰も信じなくって、画像処理技術にばかり話が行ったからよかったけど、本当だってわかったらやっぱり気味悪がられたんじゃないかな。なんせ普通の人には起こりえない事柄だからね。


 しかも普通に自分でコントロールできる事柄じゃなしに、寝ている時だけ……だから、実際にやって見せることも難しいわけだ。夢幻の睡眠時空中浮遊ならまだしも、夢三の睡眠時時空加速能力なんか、やって見せようとしてもその時に相手の時間が止まっているのだから、見せることもできない。


 せいぜい数人相手にプローブでつながって見せるにしても、止まっているときに見るだけだったら、だから何なの?っていう能力だよね。


 せめて本人が起きているときに自由に使うことが出来る能力であれば、それこそA国の能力者たちのように、空中を自由に駆けて世界中をめぐる……とか、あるいは交通事故に遭う直前に時を止めて救い出してみたりとか役に立てそうだけど……本人が寝ている時限定だからな……。


 下手に騒がれないことの方が、僕はいいんだと思っているけどね……。」


 国会中継を見もしないで、オフィス内のパソコン画面にあれこれ入力していた幸平が、美愛たちの背後から声をかけてきた。


「なによう……もう3回よ……失敗したときも数えると実質は5回だけど……地球的危機ともいえる状況……いえ全宇宙的危機ともいえる状況を、解決してきたんじゃない……しかもそれこそ命がけで……本当に命がけよ……特に前回の時は、警備ロボットみたいなものまで出現してきて危なかったわ。


 透明円盤が来たときだって、ろくに調べもせずに簡単に潜入可能だなんて判断されて、ぶっつけ本番で行ったら危うく死にかけたんですからね!そんな命がけの活動が、どうして何の評価もされないのよ!


 中国の主席があたしたちのことを言ってくれた時は……これであたしたちのことが公になると思っていたのよ。そりゃあ……実名は無理だろうし、どんな能力者かなんてことは伏せることになったでしょうけど、それでも日本にはこれまでの地球外生命体からの侵略行動を、対処していた高校生たちがいます……程度だけでも言ってもいいんじゃあないの?期待して見ていたっていうのに……。」


 美愛はなだめにかかる幸平の言葉を聞こうともしないで、持論をまくしたてる。


「だから……そりゃあ美愛ちゃんはいいよ……普通の人間だからね。だけど……夢幻たちの身にもなってみてくれ……眠ると浮いたり透明になったりしてしまうんだよ?夢三の時間を止める能力ははた目からは分からないからいいけど、空中浮遊や透明化は現実として確認可能だからね。


 周りから化け物扱いでもされたなら……美愛ちゃん達だって化け物の家族だという目で見られることになったら……人は自分にない能力を他人が持っていると、それを羨ましがるし、中には嫉んで誹謗中傷で攻撃する場合もあるようだ。そうならないために、夢幻たちは守られているのだと僕は思っているけどね。」


 毎度のことながら頑なに持論を繰り広げる美愛に対し、幸平が仕方なく立ち上がってソファへ歩いていく。


「そうは言ってもよ……毎回毎回救出された人たちだけが式典に参加して、あたしたちの活躍部分は全てなかったことにされるのは、どうかと思うのよ。


 お兄ちゃんたちを世間の目から守るためというのは納得できないでもないのだけど、だからと言って日本が中心になって巨大円盤と立ち向かっているんだってことぐらい、明らかにしてもいいんじゃあない?


 それこそ……自衛隊の特殊部隊……とかにしておけばいいんじゃないの?そうすれば……その活躍の褒章……なんて言って……勲章授与とか……そういった話になるんじゃあないかと……。」


 小さな頃から体は弱かったが成績優秀で、中学に入るころには体も健康体になりスポーツの面でも数々の才能を見せる美愛は、何かを成し遂げる都度周りから賛美されることが、当たり前と感じるようになっていた。


 多くの人々を救うという偉業を成し遂げたはずなのに、自分たちの活躍どころか、その存在さえも明らかにされないことに、腹を立てても仕方がないことなのかもしれない。


「自衛隊は軍隊ではないからね……公的機関だから、その組織内容は明らかでなければならない。最新兵器を購入したり開発したりする場合でも、予算を計上して内容詳細を明らかにしたうえで、国会の承認を得てから行うわけだ。友好国の軍事機密部分は極秘にできるが、それ以外の部分は難しい。


 だから自衛隊の部隊が……なんて事にした場合は、どの駐屯地のなんという部隊なのか迄、明確にする必要性が出てくる。下手をすると所属の部隊員の素性迄明らかにしなければならない場合もあり得る。


 特に巨大円盤に立ち向かう部隊の詳細なのだから、本来ならば隠すようなことではなく、公にしたうえで日本どころか全世界上げて応援するくらいであるべき事柄だ。


 ところがそんな部隊は存在しないわけだ……だけど日本政府が認めたわけだから、日本のどこかに必ず存在する……ということになるね。そうなると各マスコミのスクープ合戦になりかねない。


 激しい追及に逃れられなくなって、これまでの作戦行動が漏れたりすると……いずれは睡眠時空中浮遊の夢幻君や透明化の夢双君や時を止める夢三君たちに辿り着かないともいえない。


 そうならないためにも、知らぬ存ぜぬを貫くのがいいと思っているよ。」

 いつの間にか応接へやってきていた神大寺が、美愛の説得に加わって来た。


「ああ神大寺さん……戻っていたの……大阪出張だったわね?朝出て行って……もう帰ってきたの?

 誰かを迎えに行くっていう話だったけど……一人だけなの?」


「ああ……取り敢えず根回しだけ済ませて来た……来客は明日になりそうだ。」

 がっしりした体格の大男は、そのいかつい顔をほころばせながら返事する。


「へえ……第4の能力者……でしたよね?今日は能力の確認だけで終わりですか?」

「いや……能力の確認というよりも能力を発生させないための工作をして戻って来た。」


「えっ?どういうこと?」

 神大寺のなにげない言葉に、美愛が振り返る。


「まあ……もうすぐわかるさ……。」


「ああっ……そう言えば……もうすぐだわ……今日のアフタヌーンショーだったわね。睡眠時症候群最新能力……えーと今回は……」


「睡眠時分裂症候群……でいいのかな?寝ていると何人かに分裂してしまうっていう能力だよ。


 ふざけたことに寝ているベッドまで一緒に分裂するっていう代物……と言っても実際にその映像がネット上に上がっているわけではないから、僕にもコメントのしようがないけどね。」

 リモコンでチャンネルを民放へ切り替えている美愛の問いかけに幸平が答える。


「でも、どうして今回はテレビで特集を組む事になったの?あたしたちの時のように、ネットで問い合わせたら、テレビ局が解析してくれることになったとでもいうの?


 お兄ちゃんの時にもテレビ局が取材に来て特集番組を組むって言っていたけど、どう見ても興味本位でまじめに解析しそうになかったから、あたしは断ったのに……。」

 美愛が首をかしげ眉を顰め、いぶかしそうな表情を見せる。


「ああ……どうやらネットに挙げるというより、テレビ局へ直接売り込みに行ったようだ。


 しかも解析をお願いするのではなく、特番の出演料を要求したらしい。それも結構法外な……一流タレントの出演料よりもはるかに高額な要求をしたようだね。売り込んだテレビ局は複数社で、一番高いギャラを示したテレビ局に出演が決まったようだ。


 放送協会の知人からの情報を掴み、こちらで治療のための解析をするからテレビ出演は見合わせるように打診したところ、治療なんてもってのほかと回答されたよ。この能力でテレビ出演して稼ぐんだと言われた。


 せめてどのような症状なのか、解析させてくれと交渉したら、いくら出すのか?と聞かれた。どうやら彼は睡眠時の症状を自分の特殊能力と理解して、それに見合う対価を要求しているようだ。」

 神大寺は、至極残念そうにうつむき気味に小さく首を振った。


「それで……断られて手ぶらで、とんぼ返りで戻ってきたの?」

「いや……だから……工作だけはやって来た。」


「工作?」

「ああ……工作さ……見ていれば分る。」


 神大寺は不敵な笑みを浮かべながら、サーバーから自分のマグカップにコーヒーを注いだ。


「さあ、本日の特集は……あら不思議……眠るといくつにも分裂……こんなことあり得る?です。」

 応接のテレビ画面いっぱいにテロップが流れ、アナウンサーがもったいぶったようにコメントを読み上げる。


「ちょっとちょっと上さん……一体どういうことですか?寝ると分裂するって?」

 意味深なアナウンサーに対し、コメンテーターが台本通りに突っ込みを入れる。


「いやあ、ご覧になれば一目瞭然ですよ。別フロアーのスタジオに、何台ものテレビカメラを配置しておりまして、今か今かと待っていたわけです。これから世紀の実験が始まりますよ。では、第3スタジオどうぞ」


「はい、こちら第3スタジオです。見えますでしょうか広いスタジオの真ん中に置かれた、1台だけのベッド。


 その上にいる彼……彼がこの実験の主役と言いましょうか、彼によって不思議なことが目の当たりにされる予定です。えーと……名前は公表しない約束でしたよね……だからA君でいいかな?A君はいつから能力に気が付きましたか?」


「えー……そうですなー……先週あたりからですかなー……妹の(ピー)が……あれ?」


「A君……ダメですよ……妹さんの名前を言ってしまっては……これ生放送ですからね。今はうまいことスタッフが音をかぶせましたけど、何度もうまくいくとは限りませんから気を付けてください。」


 だだっ広いスタジオ中央にぽつんと置かれたベッドの上に胡坐をかいていた、ストライプ柄のパジャマ姿の青年に、やってきたアナウンサーがマイクを向けてインタビューが開始された。


「ああそうでっか……妹がなー……兄やんは寝とると2人に分かれるから、どっちを起こせばいいかわからせんって言いだしたんですわ。なんのこっちゃ……思いますやろ?ふざけんとちゃんと起こしやー、あんちゃん遅刻してまうやろ!言うて怒ったったんですが……翌日、スマホに映された映像見てたまげましたわ。


 一体どっちが本物やっちゅうねんってくらい、俺が2人……しかも布団ごと……取り敢えず同じんようなんがネットに何本も上がっとるようなんで、うちも出してみて……それからテレビ局各社に問い合わせたんですわ。そうしたら特版組んでくれるっちゅうもんで……ここにおるっちゅう訳ですわ。」


 生放送なので少しくらいは動いても大丈夫な配慮であろうか、顔部分を大きくモザイク処理された言葉尻は学生風の男の声は、合成音に自動変換されているので、大まかな年代も計れそうにない。


「ほお分裂……と言ってもそう聞いただけではどのようなことが起きるのか、イメージが難しいですね。今はお一人ですけど、どうすれば分裂するのでしょうか?」


「ですから……寝とると分裂するらしいんですて……俺が言っとるんやありませんで、妹の奴が……。」


「そうですか……すぐに眠れますか?」

「ええでっせ……今日のために昨晩から一睡もしとらんから。」


「わかりました……百聞は一見に如かず。まずは寝ていただいてどのような凄いことが起こるのか、テレビの前の皆さんに検証していただきましょう。では、お願いいたします。」

 アナウンサーはそういうと、一人残してスタジオを出て行った。


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