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おまけ

おまけ

「夢三君の第二の能力に関してですが、分って来ましたよ。」

 白衣の研究員が、NJ事務所の会議室でスクリーンを背に話しはじめる。


「夢三さんの第二の能力?」


「そうです……先の巨大円盤襲来時の潜入作戦で、保安システムのマシンが皆さんを排除しようとやってくるたびに、夢三君が時を止めたおかげで対処できたという事でしたが、彼が持つ時を止める以外の能力の片りんが垣間見えてきました。」

 白衣の研究員はプロジェクターのスイッチを入れ、スクリーンにどこか地方の学校の校門が映し出される。


「ここは夢三君が通っていた中学……現在は美樹さんが通っている学校です……そうですよね?」

 白衣の研究員が、会議室後方の席に座る美樹に同意を求める。


「そっ……そうです……あたし……と、あんちゃんが通っていた学校だべ。」

 美樹が突然学校が引き合いに出されたことに、少し動揺している様子だ。


「この中学……現在はさほどでもありませんが、3年前までは柔道の名門校として地域では有名な学校だったのです……その理由は……ご存知ですよね……?美樹さん……。」

 白衣の研究員が、美樹に再度尋ねる。


「そっ……それは……あんちゃんの代の柔道部が強くて、地域の大会で優勝したから……だべさ。」

 美樹が、最後の方は小さくて聞き取れないような小声で答える。


「へえー……夢三の学校って、そんな有名な中学だったんだ……。

 そう言えば夢三は、中学の時には柔道部だったって言っていたような気が……。」

 夢幻が幸平たちへと振り返る。


「そうですよね……夢三君が入っていた柔道部は、団体でも二年連続して全国大会出場しましたが、どちらも1回戦負けでしたね?


 たしか夢三君は全国大会には出場していない……地方大会ではレギュラーだったのに……。」


「は……はい……そうです……あんちゃんが……あんちゃんは神経質だから……家から離れた遠くでは家族が一緒にいないと、夜寝つけないもので……中学の全国大会では、家族の帯同は禁止されていたから……。」

 美樹が小さく考え考え答える。


「それは、うちのおにぃも同じだから……あんま気にすることはにゃーでね……家族が一緒じゃにゃーと、よそではよう眠れんからねー……。」

 少々気落ち気味の美樹に、美由が助け舟を出す。


「何言っとりゃーすか……兄ちゃんはそんな弱虫じゃにゃーといつもいっとろーが……。」

 ところが夢双は、そんな美由に対して不満顔だ。


「そうですね……夢三君を欠いた柔道部は、折角出られた全国大会も二度とも1回戦負けでした。夢三君がいたからと言って上位まで行けたとは申しませんが……もし彼が居たら……と考えると惜しいですよね。」

 白衣の研究員が、地方大会の優勝時の夢三達柔道部員の写真を映し出す。


「でも……それが、あんちゃんが円盤の中で時を止めたのと何の関係があるんだべか?

 あんちゃんは別にズルして勝ってたわけじゃないべさ……時を止めて相手倒してなんかいなかったべさ……はんかくさい……。」


 美樹の声は当初、蚊の泣くように小さなものだったが、興奮したのか途中からは大きな声で強く反論した。


「あっ……いえいえいえ……決して夢三君が時を止めて、その隙に相手を投げ飛ばしていたなんて、申しあげている訳ではありません……すいません、ちょっと回りくどい説明で申し訳ありませんでした。


 そもそも柔道の投げ技というのは、相手が仕掛けてきた反動を利用するもので、相手が動きを止めている時にかけてもきれいには決まりません。それに夢三君と接触している相手は同じ次元に存在するはずなので、周りの時は止まっていても相手の時は止まらないのです。


 ですが……少々確認しながら説明して行く必要性がございますので……なにせ地方での出来事の為、情報量に限りがあるため……大変申し訳ありませんが、もう少しだけ我慢願います。決して夢三君がズルしていたなんて考えている訳ではありませんから、ご安心を……。


 ここで確認なのですが……夢三君は小学校の時からずっと柔道を習っていましたね?」

 白衣の研究員は、美樹を何とかなだめて話を進めようとする。


「はあ……あんちゃんは父ちゃんの影響で、小学校の時からずっと柔道を習ってましたけど、部活に入ったのは中学からです。」

 美樹が何の事か分らず、とりあえず答える。


「その時のお兄さんは全国クラスの選手でしたか?」


「いえ……あんちゃんが道場に通っていた辺りは平凡で……性格がやさしいから試合でも負けばっかりで……でも中学に入って学校の部活で本格的に始めたらぐんぐん伸びたって……柔道部の顧問の先生も言ってました……。」

 美樹が小さく首を振りながら答える。


「夢三君が伸びたのは中学一年の時の大会で、地区大会の個人戦に優勝してからですね……残念ながら地方大会はその時は離れた場所で行われたもので、辞退したようですが……。


 それで2年からは団体戦にしか出場しなくなり、2年共に近場で地方大会があったため、夢三君も参加して優勝できたという事のようです。」


「そ……そうです……でも……全国大会までは……あんちゃんはとても無理だからと言って、断りました……表立っては家の事情ということで……学校には父ちゃんが伝えました。


 あんちゃんは家族や友達の前では平気なんですが、環境が変わるとすぐに体調を崩したり、眠れなくなったりするもので……顧問の先生もあきらめていたようです。」

 美樹がうなだれながら答える。


「その様ですね……ところが夢三君の評判を聞いた高校が、是非ともわが高に……と言うことで学費免除という条件でスカウトに来た訳ですね。

 通学圏内にあるし柔道部もしっかりしているので、家族みんなで応援した。」


「はい……勿論、全国大会には出られないことは最初から断っておいた上で、それでもいいからと言う条件で入学したんです。」


「ところが……高校の新人王戦の初戦で、無名の高校の……しかも柔道初心者にあっさりと負けてしまった。

 勿論……その相手は2回戦で敗退……と言うありさまで……鳴り物入りでスポーツ入学したのになんだということになったようですね……。」


「はあ……兄は普段の練習は真面目なんですが、乱取りなんかは投げられてばかりで……それでも試合になると強いというのが中学からの評判だったのですが……真剣に練習しないからだとか、合宿にも参加しないでサボってばかりいるからだとか、総スカンを食らってしまって……。


 でも……あんちゃんはなんもズルをしてないいべさ……時を止めて勝っていた訳ではないべさ……。」

 しまいに美樹が泣きだしてしまった……白衣の研究員に対して皆の冷たい視線が注がれる。


「ああ、ああ……そうですよ……夢三君は、何もやましい事はしていません。」

 白衣の研究員が必死で美樹をなだめようとする。


「たとえ……たとえ……ですよ……仮に夢三君が時を止める能力を、寝ているとき以外でも好きなときに実行できたとして、それを使って試合に勝っていたとしても……先ほども申し上げた通りに、接触している相手の時を止めることはできないはずではありますが……それでももし可能であったとするならば……ということですが……。


 それは夢三君自身の能力であり、己が持つ能力を最大限に使って勝つということは、決して卑怯な事でも何でもありません。


 しかし、どうやら彼の時を止める能力の発動は、寝ている時に限られるようです……起きている時には使用できません。」


「えっ……じゃあ……あんちゃんはどうしとるんだべ……?」

 美樹が涙を指先で拭いながら顔を上げる。


「中学一年の初戦……いえ……初戦は相手の都合で不戦勝だったようですね……2回戦ですが、これがまた優勝候補のシード選手だったようですね……ところが夢三君の返し技が決まって、あっさりと勝ってしまった。


 そのまま地区の個人戦優勝……団体戦ではその実績から、大将を任されていたようです。その技の鋭さから、ツバメ返しの名手と言われていたようですね。いわゆる相手が技をかけてきた時に、それを躱して反動を利用して返し技をかけて仕留めるという高度な技です。


 恐らく夢三君は非常に感がいいというか、危険予知能力があるという事と推定しております。」


「危険予知能力?」


「そうです……本人の自覚は現在の所ない様子なのですが、そう考えると諸事情の納得がいきます。


 つまり相手が技を仕掛けてくるのを察知して、体が自然とそれに対処しようとして返し技をかけることにより、試合に勝つことができていた。

 一度勝つと中学の頃はシードされるので、強い相手にしか出会わなかった。


 ところが高校に入って新人戦ではシードがなかった……もともと団体戦しか出ていなかったこともあり、一回戦から出場して、弱い相手と当たってしまった。


 恐らく夢三君の危険予知能力は、ある程度命にかかわるような危機に直面しないと、働かないのでしょう。高校の新人戦で対戦した時に、初心者の技程度では能力が働かず、そのまま投げられてしまったのではないでしょうか。


 その為、すぐに負けてしまった……別に彼がサボっていた訳でも怠慢だったわけでもないのでしょうね。


 そうして今回の潜入作戦では……彼の役割は寝て時を止める事だったので、危険を察知する度にスイッチが入り、寝ることにより時を止めたと……おかげで保安システムの対処ができたのだと……こう考えれば納得がいきます。


 自らの身だけではなく、仲間の……単独行動をとっていた所長の危機に際しても働くということは、恐らく一度プローブを介して接続された対象に関しては、プローブを外していてもある一定程度の期間中は、わが身同様に危険予知の対象範囲となるのでしょうね。」


 白衣の研究員は、笑顔で続ける。


「あんちゃんは……あんちゃんは別にズルしてたわけでも、さぼってたわけでもなかったんだ……こっ……このことはもうあんちゃんに……?」

 美樹が周りを確認する……なぜか夢三の姿だけがないのだ。


「いえ……夢三君には時を止める能力の発動状況を確認するという名目で、座禅など精神統一状態でどうなるのかなど、体調変化での能力確認を追加で行なってもらっております。


 このことを果たして夢三君に説明すべきかどうか悩みましてね……まずは皆さんに聞いていただき伝えるべきかどうか、判断頂こうかと……。」


「伝えてください……あんちゃんにはっきりと……あんちゃんのせいではなかったんだと……だって……あんちゃんは、おかげで不登校に……。」

 美樹の目にまた涙が貯まり始めたが、今度は同時に笑みもこぼれてきたようだ。


これで時任兄妹編は終了です。円盤側の警戒レベルが上がっていくのに対して、次々と出現する能力者。次章もまた、能力者が出現します。ご期待ください。

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