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第66話

19

「いえ……あたしらも……なんかのお役に立てれば……うれしいですよ……ねえ……。」

「はい……。」


「役に立った……俺がみんなの役に立った……よかったべさ……。」

 美由が後方の美樹に振り向くと、美樹は大きく頷き、夢三は小さく呟きながら天を仰いだ。


「そうだね……恐らくそのボール状のものが、円盤の構造図内に青く表示されていたのだろうけど、僕たちがいた部屋に集まって来ていたところだったから、逃げ出さなかったらちょっと厄介なことになっていただろうね。」

 更に幸平も状況が緊迫していたことを告げる。


「保安システムね……考えてみれば、巨大円盤に潜入すると、同じルートを通って同じ部屋に入っているんだものね。そりゃあ警戒するわよ……確かに自動操縦で進めちゃうのは早いし楽でいいけど、やっぱり周囲を確認しながら安全なルートを進んだほうが、いいんじゃない?」

 美愛が突然口を開いた。


「いや……中間で立ち寄る部屋は……毎回変えているんだがね……。」

 すると神大寺が、俯き気味に答える。


「えっ……どう言う事ですか?」


「ああ……通路は幅も高さも車体に比べて十分な広さがある……だから、高さや壁からの位置を毎回変えながら、4隅の内のいずれかを進むようプログラムされている。


 その方が通路を宇宙人が通っていたとしても、ぶつからない可能性が高いからね。


 更に、中間地点で立ち寄る部屋も……最初に潜入した時の通路の映像から、このフロアは居住区だと判明しているから、入る部屋は毎回変えている。今回の部屋は最初に入った部屋の3つ向こう側に位置しているはずだ。

 さすがに毎回同じ部屋に入っては、警戒されるからね。


 中央制御室に至るルートも、最初の潜入時に幸平君が操作した3Dホログラムの円盤断面図と各階の図面から、毎回変えるようにしている。


 だからこその自動操縦プログラムのはずだったんだが……。」

 神大寺が何度も納得できないかのように首をひねる。


「前回と前々回の経緯から、警戒を強めているのは確かでしょうね。

 恐らく、3Dホログラムを使ったから……その確認に保安システムを向かわせたと考えたほうがいいですね。


 なにせ宇宙人が死滅してから、制御システムにアクセスする者は侵入者以外いないはずですから、巨大円盤のAIがそう判断したのでしょう。


 こうなると厄介ですね……中央制御室まで行って、攫われた人々を助け出すのは尤もですが、航行プログラムにアクセスして恒星へ突っ込ませたり、収穫プログラムにアクセスして収穫目標値を書き換えたりしていると、また保安システムが飛んできかねませんよ。


 今回はたまたま夢三が寝て時間が止まったから対応できたけど、3Dホログラムで僕が保安システムの青い点を確認してから部屋の中に侵入されるまで、ほんの一瞬でした。

 恐らく目視してからでは遅いでしょう……首と胴が生き別れなんて事に成りかねません。


 運よく間に合って時を止められたとしても、誘拐された人々を収納している最中では、夢幻を眠らせて体当たりなんて事も出来ないでしょうからね……。」

 幸平が推論を展開する。


「ううむ……それは困ったわね。万一を考えて攫われてきた人たちの救出を最優先にするとしても、円盤を追い返さない限りは、この星での収穫は続くはずだしね。中央制御室で操作しないわけにはいかないんじゃない?


 そう言えば前回は研究員さんが、収穫目標値は他の円盤でも同じく0に変更した方がいいですよって、操作しながら言っていたはずだけど、その情報は伝わっていないのかしらね。


 あたしたちの円盤内での行動は、モニターされているはずでしょ?」

 美愛も腕を組みながら呟く。


「そうだね……白衣の研究員さんが、最大も最低も収穫量を0に書き換えた後で、他円盤への展開を進言したけど、無視された訳だよね……すでに多くの人々をこの円盤は攫ってきた訳だから。


 確認してみなければわからないけど、直接システムに触って操作しない限り、収穫量のような重要項目は書き換えられないのだろうね。


 そうなると毎回毎回地球に収穫に来るたびに、プログラムの数値を書き換えて行かなければならないことになる……結構大変だね……確かまだ100機以上円盤がいるはずだったよね。」

 幸平が絶望的な事を口にする。


「中央操作室でのシステムへのアクセスに関しては、多少の準備はあるからいいとして……何にしても手早く進める必要性があるね。恒星へ突っ込ませることは難しそうだから、今回も収穫目標値を0にしてみることにするか。」

 神大寺が腕を組みながらうなる。


「そうですね……あまり時間をかけられないのであれば……収穫量の書き換えで行きましょう。それだったら何分もかかりませんよ。」

 幸平も大きく頷く。


“チンコンチンコン”不意に、車体内にアラームが鳴り響く。


「中央操作室脇の釜のある広い空間に出たのね……夢双さんに起きてもらって……。」

 美愛が操作レバーを手にしながら呟く。


「いや……夢双君は起こさなくていい……このままで待機してくれ……今は釜の上の中央操作室に通じる橋の切れ間に丁度挟まっているはずだ。前回の潜入時にリクエストされたので、自動プログラムに組み込んだ。


 攫われてきた人々が橋を渡って中央制御室へ誘導で来ているはずだから、確認させてくれ。」

 神大寺はそう言いながら、車体の上方に向けて聴診器の先を当てた。


「おお……足音が聞こえるぞ……やはり攫われた人たちがこの上を伝って行っているようだ……美愛君、この位置をキープするようにしていてくれ。」

 聴診器で天板の音を聞いていた神大寺が、嬉しそうに笑顔を見せる。


「はい、分りました。」

 美愛はレバーを操作してホバリングを始めた。



「絶え間なく足音が聞こえていたのが、もう10分以上何の音もしていない……恐らく全ての人たちが渡り切ってしまったと思える……ようし、夢双君を起こしてもらえるかい。」

 神大寺は聴診器を外し、美由に指示を出す。


「はいはい……任せてください……。」

 美由が急いで車体後部のカプセルへと駆け寄っていく。


「おにぃ……起きいやあ……起きいひんと……。」

「ふわっ……。」

 すぐに周囲が明るくなる……段々と起きるまでの速さが上がってきたように、誰もが感じていた。


「じゃあ……美愛君、車体を上昇させてくれ。」

「はい。」

 美愛が車体を上昇させると、前方の部屋に多くの人々が詰まっているのが見える……攫われてきた人々だろう。


「後ろの部屋には、だあれもおりませんね……。」

 後部カプセルそばにいる美由が、後方の確認をしてくれた。


「ようし……じゃあ、中央制御室の中に車体を入れてくれ。」

「はい。」

 美愛がレバーを操作し、ゆっくりと車体を橋の奥の部屋の中に進めて行く。


「じゃあ、お兄ちゃんを起こしてきます。」

 車体を神大寺の指示通り、部屋の入口付近に降ろした後で美愛は後方のカプセルへ向かう。


「お兄ちゃん起きて……お兄ちゃん……。」

「ふわっ……おお……終わったか?」


「まだよ……さっきは危なかったけど、何とか中央制御室まで来られたから、もう少しね……。」

 夢幻に進行状況を簡単に説明する。


「ふあーあ……まあ、順調という事だな……。」

 夢幻がカプセル内で起きあがり、大きく伸びをした。


“ガッゴーンッ……ゴンッ”その時、車体後方で大きな音が……また襲撃されたのだろうか?


「なになに?どうしたの?」

 美愛が慌てて振り返る。


「ああ……制御室の入り口を塞いだんだ。カーボンナノチューブ入りの厚さ2センチの特殊鋼板を、チタンの薄板でサンドイッチしたものだ……そう簡単には破れないはずだ。


 これまでの映像から、中央制御室の入口寸法を推測して、圧縮空気で射出してはめ込むようにしたのだが、ぴったりだ……これなら保安システムが来ても少しの時間なら耐えられるだろう。


 じゃあ、幸平君には収穫システムの書き換えをお願いするとして、美愛君……攫われてきた人たちを車体に乗せるのを指揮してくれるかい。かなり多くの人たちがいるようだが、恐らく詰めるだろう……俺は今回も万一のための爆弾をセットしておく。」


 神大寺が幸平と美愛に指示を出す。そう言えば今回はソナー担当の自衛隊員も白衣の研究員もいないのだ。

 そんな中で保安システムに囲まれてしまう前に、迅速に救出作戦を進行させなければならない……宇宙人の観察などと言っていられる場合ではないのだ。


「分りました……お兄ちゃんと夢双さんと夢三さんたちは、さっきの事もあるから、万一の為に車体に残った方がいいわね……美由ちゃんと美樹ちゃん……円盤の中は怖いだろうけど手伝ってくれない?


 攫われてきた人たちを、車体の周りに集めなければならないの。」

 美愛が美由と美樹にお願いする。


「ああ……前回来た時にやったやつですね。ええですよ……仰山の人を扱うのは普通は大変なんですが……ずいぶん皆素直やったから……簡単でしたよね……。」

 美由はそう言いながら、美樹を誘って立ち上がった。


「じゃあ……あたしは車体の右側を受け持つから、美由ちゃんたちは左側に人々を詰めて立たせてね。

 後から皆が乗り込むために、後方側を少し開けておくことを忘れないでね。」


「はい……分りました……。」

 美愛たちは車体の側板を広げた後手分けして、攫われてきた人たちを車体周りに集め始めた。



「どお……こっちは済んだけど……収穫量の設定は終わった?」

 十数分後、美愛が操作テーブルの前にいる幸平の所にやって来た。


「ああ……まずはこの星での収穫は終えたと設定してから、今後の目標数値も確認した。


 やはり収穫システムの数値は書き換わっていなかったよ。これが前回書き換え前の数値で、こっちが今回の数値……幾何学文字だから意味は分からないけど、同じ文字の羅列順のように見えるから今回も地球での目標値は同じだったようだね。」

 幸平が美愛にタブレットの画像を見せる。


「へえ……いちいち記録していたんだ……結構マメね……。」

 美愛が感心したように、その映像を見つめる。


「そりゃそうさ……こう言った細かな積み重ねが、プログラムの解析に繋がるのさ。気づきと言った方がいいかな……それでまあ……今回の収穫量は達成したことに書き換えて、今後の最大目標収穫量と最小目標収穫量の書き換えまで終ったところだ。


 念のために航行プログラムの書き換えができるかどうか確かめてみたけど、やっぱり駄目だったね……ちょっと無駄な時間がかかったけど、書き換えできれば一番いい訳だから確認は必要だ。


 後は……出発までの時間を入れる訳だけど……今回は神大寺さん一人だけだから……どうするかね……2時間か……3時間にするか……。」

 幸平が額に指を当てながら黙考する。


「出発までは1時間あればいいぞ……。」

 するとそこへ神大寺がやって来た……爆弾のセットはもう終わったのだろうか。


「1時間で良いんですか?……でも……また、神大寺さんを回収できなくなってしまうんじゃないかと……。」

 幸平が心配そうに、上目づかいで尋ねる。


「いや……床を爆破させる爆弾は、道具を持ってきたから簡単にセットできる。

 向こうの保安システムに取り囲まれてしまう前に脱出した方がいいだろう……1時間に設定してくれ。」

 神大寺が至極真面目な表情で訴える。


「分りました……この惑星の自転周期に……。」

 幸平が、再起動までの時間をセットし始めた。


「じゃあ準備ができ次第、車体に乗り込んで夢幻君に眠ってもらってくれ。

 車体が浮かび上がったら、その下に爆薬をセットするから、合図をしたら床に押し付けてくれ。」

 神宮寺が指示を出す……手には何か黒い大きな筒を持っているようだ。


「分りました……じゃあ行きましょ。」

 美愛と幸平が駆け足で車体へ向かい、後方から乗り込んで行った。


「お兄ちゃん……すぐに寝られる?」

「おお……大丈夫だ……。」

 夢幻はすぐにカプセル内に横たわる……と、美愛が操縦席に着く前に既に車体は浮かび始める。


「まずいまずい……。」

 美愛は急いで席に着くと、レバーを操作して、ホバリングを開始した。


“バシュッ”「ようし……もういいぞ……車体を床に押し付けてくれ。」

 すぐに神大寺から指示が出る。


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