表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/91

第65話

18

「まあまあまあ、仲良く仲良く……幸平君だって、これまで円盤を追い返すのに功績を上げてきた訳なんだから。」

 見かねた神大寺が仲裁に入る。


「へえ……そうですかね……。」

 美由が頬を膨らませながらそっぽを向いた。


「うう……いじめだ……これはいじめだ……。」

 幸平はじっと耐えるように、小声で何度もつぶやいた。


「そう言えば、どうします?

 夢双さんもお兄ちゃんも既に1時間以上寝て、さらにこれからほとんど寝続けることになりますが、夢三さんが眠るタイミングは他にありませんでしたよね?


 このまま何時間か飛びつづけて、夢三さんが目覚めるのを待って、それから発着口へ入って行きますか?

 どうせ、時は止まっていますからね。」

 美愛が突然思いついたことを口にする。


「夢三君の睡眠に関しては、我々サイドでも検討をした。

 とりあえず輸送機に搭乗する寸前に十分寝てもらっているから、恐らく作戦行動中は起きていても大丈夫だと考えている。


 一旦少しだけ寝て、また起きていてもらうのは辛いだろうが、順調に進めば数時間で済む作戦だ。なんとか我慢してもらうさ……なにせ、この状態で時を止めている最中は、我々の時は動いているからね。


 皆の体力の心配もあるし、夢幻君が寝すぎて眠れなくなってしまったら、困ってしまうことになる。」

 神大寺が小さく頷きながら答える。


「ああ、そうですか……車で1時間半、ヘリコプターでもう30分かかって飛行場まで行って、そのまま急いで乗ったつもりだったけど、そう言えば時を止められるんですものね。飛行機に乗る寸前にでも十分睡眠をとることは出来たわけだ……だったら大丈夫かな?」


 美愛はそのまま開口した状態の発着口へ車体を降ろしていく……こんなことなら、無理して夢三さんを連れてくることを提案しない方がよかったかと、少し後悔していた。


 作戦行動中、出番がないということは、眠ることができないということに気づかないでいた自分が、間違っていたと反省もしていた。


「ようし、横穴の通路に到着した……美樹君、すまないが夢三君を起こしてくれ。夢双君、寝てくれるかい。」

 薄暗い縦穴内に、照明に照らされた横穴の通路が見えたので、神大寺が夢双に夢三と交替で眠るよう指示を出す。


「あんちゃん……起きるべ……あんちゃん……。」

 すぐに美樹が隣の席の夢三に声をかけながら、体をゆする。


「うん?ふあーあ……どうした?」

 夢三が眠そうに、仰向け状態のまま両手を頭上に伸ばし大きなあくびをする。


「もうお役目は終わったから、起きるべ……。」

「おっ……そうか……まだ寝足りんが、仕方ないな……。」

“カチャッ”夢三がシート横のレバーを引いて背もたれを起こすと同時に、周囲が一層真っ暗になった。


「じゃあ、美愛君……自動操縦に切り替えてくれ。」

「はい……分りました。」

 美愛が操作レバー脇の青く光るボタンを押すと、レバーが勝手に動き出した。



“チンコンチンコンチンコン”暫くして、車体内にアラームが鳴り響く。


「おっ、到着したようだな……ちょっと待っていてくれ……。」

“コーンッ……コーンッ”神大寺が膝の上の操作ボックスのボタンを押すと、甲高い金属音が鳴り響いた。


「前方……4m……壁……後方……3m……壁……周囲に動く物体なし……ようし、念のために夢双君、夢幻君の順で起こして見てくれ。」

 ちょっと自信がないのか、神大寺はまず先に夢双を起こすよう指示を出す。


「了解いたしました……ちゃっちゃっと起こしゃーすよ……。」

 美由が車体後部へ駆けて行く。


「おにぃ……起きぃやあー……起きいひんと……エルボー……。」

「はっ……。」

 すぐに夢双が跳ね起き、周囲が明るくなる。


「いつもの部屋のようですね……。」

 後方シートから身を乗り出す様にして前方を眺める幸平が呟く。そこはいつも立ち寄る中間地点の居室の様だった。


「周囲に宇宙人の人影なし……空気清浄、放射線なし……ようし……夢幻君を起こしてくれ。」

「はい、分りました。」

 神大寺に促され、美愛が後方カプセルまで夢幻を起こしに行く。


「お兄ちゃん、起きて……お兄ちゃん……。」

「うん?ふあーあ……終わったか?」

 夢幻がカプセル内で上半身を起こして、美愛に尋ねる。


「まだまだよ……とりあえず巨大円盤内に潜入は成功したわ。

 これからこの円盤内の様子を確認するはずよ……もしかすると、生きた宇宙人が生活しているかも知れないから、お兄ちゃんも出てみる?」


 美愛が夢幻を誘う。作戦中ずっとカプセル内に居続けるなどということは、いい加減止めた方がいいと考えているのだ。


「いや……お兄ちゃんはこのままでいいよ。宇宙人の姿なんか見たら、寝ている時にうなされそうだからな。」

 ところが夢幻は、そのままで出て行くつもりはない様子だ。


「夢双さんや夢三さんはどうですか?宇宙人の円盤の内部見学ですよ。美由ちゃんも美樹ちゃんも……どう?。」

 夢幻が気乗りしない様子なので、夢双や夢三を誘ってみる。


「いや……俺はいい……師匠と一緒にここに残る……美由……美由は行ってみやー……。」


「いや……あたしも、おそがいのは苦手だでね……遊園地のお化け屋敷とかならええけど……造りもんと分かっとりゃーすでね……こっちは本物やでね……あたしはええですわ……。」

 夢双も美由も速攻で断る。


「俺もいいべさー……宇宙人と戦いに来たんであって……見物に来た訳じゃあないべさ……。」

「あたしも……あんちゃんが行かないんなら、ここに残ります……。」

 夢三にも美樹にも断わられ、美愛はひとりさびしく車体外へ出て行った。



「あれ?みんなは、どうしたんだい?」

 部屋中央のテーブル前にいる神大寺が、美愛が一人だけで出てきたことに不思議そうに尋ねてきた。


「皆……出たくないって言って、そのまま残るそうです。


 宇宙人ですよ……宇宙人……地球外生命体っていった方がいいのか……そんな宇宙人に出会えるかもしれない瞬間なのに……どうして興味を示さないのか……あたしにはちょっとわかりません……。」

 皆が興味を示さないことに納得できないのか、美愛が不満そうに頬を膨らませる。


「まあ……人それぞれという事だな。特にこの宇宙人は……我々人類の……というか、宇宙中の生命体の……と言ってもいいが、敵とも言える訳だ。


 なにせ、人々をさらって行って食料にしてしまう訳だからな。友好的な目的でやって来てくれる宇宙人ならいざ知らず、完全に敵対している訳でしかも遥かに進んだ科学力を持っている訳だから、恐ろしい相手と言える。そんな相手を見たくないと考える訳だ。俺だって、作戦で必要なければ遭遇することは避けたいくらいだ。」


 神大寺が、残った皆の心境を説明してくれる。確かに美愛にとっても当初は恐怖の対象であったのだが、これまでの円盤では宇宙人が死滅していたこともあり、恐怖心を感じなくなっていることに今更ながら気づいた。


「この円盤内にも、恐らく宇宙人は存在していないのだろうね。中央制御室下の大きな釜の中の微生物と、制御室前の部屋の中にも大きな赤い点がいくつもあって、そこから微生物の釜に順送りで落とされて行っているのが分るが、円盤の他のスペースに赤い点が全く確認されない。」

 テーブル上で、3Dホログラムを操作している幸平が呟く。


「またなの?また無人の宇宙船が、微生物の為に各星から生物をさらって行っているということな訳?」

 その言葉に、美愛もあきれた様子だ。


「うん?待てよ……この青い点はなんだ?突然出現したが、青い点が動いているぞ……2つの青い点が……通路を進んできて……あれ?この通路は、この部屋のすぐ横の……。」

 幸平がホログラムを見ながら叫ぶ。


“ガッ……ガガーンッ”突然部屋中を爆音が鳴り響き、“ガッゴォーン”さらに大きな二つ目の爆発音が、連続して部屋中に響き渡る。


「ごほっ……ごほっ……すごい煙……一体どうしたというの?まさか……車体が爆発……?」

 すぐに美愛は先ほど車体を止めた場所を見るが、煙の合間からその場所には車体は見つけられない。


「えっ……どうしたっていうの?本当に爆発……?」

 美愛はパニックだった……兄を残したままの車体が、爆音とともに消えてしまったのだ。


「みっ……美愛さん……こっちです……急いで……。」

 すると部屋の奥の方から美由の声が……振り向くと、彼女の後ろ側に車体があった……。


「なんだか知らないがまずい……青い点がいくつも、この部屋を目指して集まってきているようだ……。」

 爆音をものともせずに3Dホログラムを操作していた幸平が叫ぶ。


「兎も角逃げましょう……車体はこっちの様です。」

 美愛が叫ぶと、幸平と神大寺が続いて駆けてきた。


「どうしたの?」

 美愛が操縦席に座り、シートベルトを装着しながら後方へ振り返る。


「まずは、こっから逃げたほうがええ……夢幻……寝れるか?」

「ああ……だいじょぶ……全然平気……。」

 夢幻がカプセルに横たわると、すぐに車体が浮きはじめる。


「俺も寝るから、透明化したまま移動した方がええで……ドアは爆発の勢いで吹き飛んどりゃーすから、そのまま出られるでね。」

 すぐに夢双もカプセルに横になると、周囲が真っ暗となる。


“カチッ”「じゃあ……自動操縦にしてくれ……中央制御室へ向かうはずだ。」

 操作パネルのライトを点灯させながら、神大寺が指示を出す。


「はい……分りました……。」

 ちょっとも事情が呑み込めないまま、とりあえず美愛は操作レバー脇の青く光るボタンを押した。



「それで……どうしたのかな?」

 オートパイロットで操作レバーが自動で動く中、神大寺が美由たちに振り返って尋ねる。


「はあ……それが……車体に残ってお話ししとったら……突然夢三さんが眠い言い出して……シート倒して眠ってしもうたんですわ……。


 飛行機の中でないからいいんじゃないかって夢幻さんも言っとりゃーしたんで、そのまま寝かせとりゃーしたんです。


 美樹ちゃんの学校の話とか、うちの学校の話ばっかりしとったら、おにぃが退屈だもんだで、カプセルから出て前の席へ行ってごそごそやっとりゃーしたんです……。


 美愛さんが操作しているのを真似てレバーを動かそうとしたらしく、夢幻さんのカプセルが突然回転して、夢幻さんが振り落とされそうになったんですわ……カプセルが裏返っても夢幻さんはシートベルトしとったんで助かりゃーしたけどな。」

 美由が状況を説明する。


「まさか……無茶な操作でカプセルが吹き飛んで車体が爆発……?」

 すぐに美愛が目を丸くして、美由に詰め寄る。


「まあまあ美愛ちゃん……さっき見たけどカプセルは何ともなってなくて、今だって自動操縦で車体は動いているよ……だから落ちついて……。」

 幸平が興奮する美愛をなだめる。


「そうして何とかカプセルを上向きに修正して、前を向いたおにぃがどえりゃー大変だっこっちきぃやーって叫びよったんです……呼ばれて前に行ったら、なんか丸いバスケットボールみたいのんが部屋の中に入ってきたところの様で、ドアのすぐ脇にぷかぷか浮いとりゃーしたんですわ……それも2個も……。」

 美由が当時の状況を、思い出し思い出し説明する。


「そうです……その玉……ただのボールでなく……左右にカマみたいな刃物がついた手を持っていて……それが美愛さんたちに襲い掛かる寸前のように見えました……光線銃じゃなかったので、ちょっとがっかりでしたけど。」

 すぐに美樹も補足する。


「これはこのまま夢三さんが起きてまうと、美愛さんたちが危険だっちゅうことで、おにぃが夢幻さんにお願いして寝てもらったちゅーわけですわ……そうして、おにぃが車体を操作して……でも……操作方法が全然わからんもんだで……まっすぐ前に進めんし……。


 美愛さんたちに触ったら大怪我してまうかもしれんって、時を止める実験の時に研究員さんがいっとりゃーしたもんでもうビクビクで、本当に少しずつ確認しいしい……おにぃが前方で、あたしが左右で、美樹ちゃんが後方を監視しながら、ゆっくりゆっくり動かして、なんとかドアの脇の玉に車体ごとぶつかっていったんですわ。


 多分……2時間以上かかったんちゃいますかね……でも、時を止めた状態でりゃーしたから……皆さんには一瞬だったんでしょうね……小型円盤ちゅうのんがドローンを破壊しまくったやり方のまねやーっておにぃが、さけんどりゃーしたけどな……夢三さんを起こして時を動かしたら、案の定……爆発しよりましたわ。」

 美由と美樹が当時の状況を説明する。


「はあ……おかげで助かったという事か……いや……ありがとう……恐らく巨大円盤内では火器は使用禁止なのだろう……円盤の内装を焦がしたり火事になったりする可能性もあるし、精密機械である操作パネルや、何より3Dホログラムのテーブルを破壊されては大変だからね。


 そのボール状のものが保安システムで、捕獲した生物が逃げ出したりした場合の為に、刃物で追い立てて処理するためのものだろうね……こっちは丸腰だし、刃物を持った飛行ロボット相手では敵うはずもないから助かったよ……いい判断だった……。」

 神大寺が振り向いて美樹たちに頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ