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第62話

15

「さて……そろそろ起こしてもいいかな?」

 神大寺が腕時計で時間経過を確認する。


「じゃあ……おにぃをおこしゃーすでね。」

 すぐに美由が夢双の元へと駆け寄る。


「じゃあ……あたしも……。」

 美樹も夢三のカプセルへ駆けて行く。


「おにぃ、起きいやぁー……起きいひんと……エルボー……。」

「はっ……」

 すぐに夢双が跳ね起きる。


「あんちゃん……起きるべ……あんちゃん……。」

「ふあー……?うん?俺……寝てたか?なんか、いつもと違って寝たりないような。」

 辺りの視界が明るくなり、はっきりとする中で夢三は寝ぼけ眼で、まぶたを指で何度も擦る。


「じゃあ申し訳ないが夢双君は起きてもらって、そのカプセルに夢三君が移動して寝てもらえるかな……。」

 神大寺が夢三に移動を促す。


「ふあー……あ……眠い眠い。」

 生あくびを繰り返し小声で呟きながら、夢三はステップを伝って降りて夢双用のカプセルに移動する。


「おお、こっちの方が少し広めでいいべさ。」

 プローブを装着した夢三は満足そうに横たわると、途端に周囲がうす暗くなる。


「おお……すぐに寝たようだね。じゃあ夢幻君、こっちのカプセルで寝てもらえるかい?」

 神大寺が夢幻を呼び寄せる。


「はい……大丈夫ですよ。」

 準備万端の夢幻は、すぐにカプセル内に横たわると、すぐに実験装置は浮かび始めた。


「おお……時を止めながらでも夢幻君の飛行能力は使えるようだね。

 美愛君、すぐで悪いが、降りてもらえるかい?」

 数メートルほど浮かび上がった時点で、神大寺が飛行中止を命じる。


「えっ?どうしてですか?時を止めたまま、飛行実験するんじゃあないのですか?」

 美愛は怪訝そうに首をかしげる。


「いや……時を止めたまま飛行して、何かに接触すると危険だ……と言っても相手が……だがね。


 時が動いていれば低速で飛行してさえいれば、接触してもそれほどの衝撃にはならない……少し押される程度で、研究員なら避けるだろうし、照明などは少し押されて動く程度で済む。


 しかし時が止まっているということは、相対速度は∞とも言える訳だ……こちらには夢幻君のバリアー機能があるが、相手が溜まらない。

 小型円盤がドローンを瞬く間に破壊しつくしたように、簡単に壊れてしまうだろう。


 ある程度接近すれば影響範囲が遷移して向こうも同じ時空に存在するようになるわけだが、よほどゆっくり接触する必要性があるはずだ……それを夢幻君の飛行能力で加減するのは難しいだろう。


 時を止めた状態で飛行するときは、よほど繊細な注意が必要となる……敵円盤は様々なセンサーを積んでいるのだろうがね。


 とりあえず、問題なく夢幻君の飛行能力が機能することが分ればいい。実際に作戦に使用することはないはずだからね。」

 神大寺に促され、美愛は実験装置をゆっくりと床に降ろした。

 そうしてそのまま1時間半経過した後、2人を起こす事にした。



「ふあー……なんだか寝たりないな。」

「うーん、やはりいつもと違って寝たりないような。」

「俺も……途中で起こされてから、眠くて眠くて。」

 3人とも寝たりない様子で、ぶちぶちと文句を言っているようだ。


「とりあえず実験は終了したので、後は自由に寝てくれても構わない。


 明日には作戦が決行されるだろうから、移動中に眠くならない様、充分な睡眠をとっておいてくれ。

 今回の実験結果を、すぐにまとめてもらえるかな?」


 白衣の研究員がいないため、他の研究員たちにレポートをまとめるよう指示をだし、神大寺は眠そうな3人を解放してあげると、夢双と夢三は風洞実験室隅に設置されたテントへ入って行く。


「へえ……キャンプみたいで楽しそうだね。」

 夢幻も一緒に、テントに入って行こうとする……中にはマットと寝袋が用意されているようだ。


「お兄ちゃんは、負荷をかけて寝ないとテントごと浮いてしまうから、ここでは寝られないでしょ。

 下の部屋で寝ないと駄目よ。」


「うーん、やはり俺はキャンプの寝泊りができない体になってしまったのか。」

 美愛に駄目だしされ、1人夢幻だけは別部屋で就寝となった。



「ふあーあ、良く寝た。すいません、朝飯はまだですか?」

 事務室まで降りて行くと、何分も経たずに夢三が降りてきた。パジャマを着替えた様子で学生服姿だ。


「おっおお……こっちのドアの先が食堂になっていて、持ち回り担当の職員がいるから、頼めば何か簡単なものを作ってもらえるだろう……行って頼んでみてくれ。」

 神大寺が階段わきのドアを指さすと、夢三はそのままぐずぐずと立ち尽くしたままだ。


「あっ……あたしも一緒に行くべー。」

 すぐに美樹が、夢三と一緒に奥へと入って行った。


「寝たと思ったら、すぐに起きちゃうんですもんね。便利と言えば便利なんだけどなあ……。」

 美愛が小首をかしげながら呟く。



「潜入チームの安全性を高めるために、夢三君の時を止める能力を使った状態で、ドローンを放出することに決まりました。


 ドローン放出時は透明化の必要性もありません。放出後に透明化してから時を動かして、今度は小型円盤を放出する為に、巨大円盤側が時を止めるのを待てばいいのです。


 この作戦計画でようやく承認を頂きました……明日の早朝に出発となります。」

 それから暫くして、今度は白衣の研究員が降りてきた。


「えっ……でも……ドローン放出の際は、着艦して居る訳ですよね。巨大円盤に接触しているから、夢三君の時を止める機能が、巨大円盤側にも作用してしまうのではないのですか?


 そうでなければ車体を巨大円盤に着艦させただけでは、巨大円盤側が時を止めた時にその影響下に入れないのではないですか?


 それとも夢三君一人だけなら、あの巨大円盤の一部までしか影響されないとかなんでしょうか?」

 その作戦を聞いた幸平が、不思議そうに尋ねる。


「そうですね……夢三君の能力の影響範囲はどこまでなのか、判っておりません。接触さえしていればどこまでも行くのか……というか、接触している物同士を次々と伝って行くのかどうかという事ですよね。


 実験装置を風洞実験室内で床に降ろした状態で時を止めても、隣に置いてあった机の上の目覚まし時計は止まっていました。私が持ち上げると動き出しましたがね。つまり、接触しているもの同士を伝ってどこまでも伝搬していくものではないと考えております。対象物が動くと、効果範囲が伝搬して行くのではないかと現時点は推察しております。


 浮遊能力や透明化など、影響範囲を視認可能な能力であればいいのですが、時を止める能力の場合は影響範囲が分りにくいですからね。ベッドや布団など、時が止まっているかどうか見た目では判りませんから。」

 白衣の研究員が、時を止める能力の効果範囲の確認の困難さを強調する。


「生体や稼働物で今後継続して実験を行い確認して行く必要性があると考えますが、とりあえず夢三君やその影響下にある者と接触することにより伝播していく事だけは分りました。向こうが時を止めている場合、時を止めているのは巨大円盤となりますからね、円盤の上に乗って接触さえしていれば、恐らく問題ないでしょう。


 何よりも考慮しなければならないのは、巨大円盤が動いているという事です。時を止めている最中も巨大円盤は移動していますから、着艦している車体側も同時に時が動いていなければならないと考察しております。


 夢三君の能力が巨大円盤のような大きな物体にまで効果範囲が及ぶかという事は、今後の調査が必要です。


 着艦したままで時を止める能力を使えば、巨大円盤側にも何らかの影響を与える可能性は大です。一緒に時が止まってしまったなら、我々にとって何のメリットもない事になりますし、部分的に効果が及ぶことになった場合、その影響まで考慮する必要性があります。


 その為、実際にはドローン放出時に時を止めるなどと言ったことは行いません、あくまでも透明化してドローンを放出します。

 夢三君を連れて行くための、いわばダミー作戦となります。


 先ほども申し上げました通り、夢三君の能力は敵円盤の機能を想定する為に解析は必要ですが、作戦遂行上必要な能力とは想定しておりません。


 できれば、連れて行かない方が良いのではないかとすら考えております。」

 白衣の研究員は、未だに夢三を連れて行くことに反対している様子だ。


「はあ……ダミー作戦ですか……時を止める能力を使用する作戦が立たないという事ですかね?」

 幸平が念を押すように尋ねる。


「そうですね、夢幻君の浮遊能力とバリアー能力及び夢双君の透明化能力は、透明化した敵円盤の透明保護膜内に入り込むためには必須となります。同時に、巨大円盤内での行動中も必要ですけれどね。


 ですが……時を止める能力を作戦上使用することは、現状では困難と言えます。なにせ時を止めながら移動することは、周囲への影響を考慮する限り、極力避けたほうがよいといえるでしょう。


 もう少し、この能力に関して詳細な確認をする必要性があります。一朝一夕の解析では全容を明らかにすることは出来ません。」


 時を止めながら移動するということは、周囲が確認しづらくなることの外に、移動する度に周囲環境も少しずつ時が動かされていくのだが、その効果の程度が分っていない。

 時を止める機能を自らの円盤に加えている敵宇宙人のように、能力を知り尽くしている訳ではないのだ。


「でも……例えばよ……お兄ちゃんが寝て夢双さんも寝た状態で飛行して、巨大円盤の透明保護膜を越える訳でしょ。透明保護膜を越えたらすぐに夢双さんには起きてもらって、着艦場所を確認して小型円盤発着場脇に着艦するわけよね?」

 美愛が突然発言を始めた。


「はあ……この辺はいつもと変わりませんから、そうなりますね。

 着艦したら夢幻君に起きてもらって、今度は夢双君に眠ってもらいます。


 そうして透明化したままでドローンを放出……その後車体を組み立て直してそのまま待機……その後ドローンの攻撃が始まりますから、敵は時を止めた状態で小型円盤を発艦させるはずです。


 その様子を確認したら、すかさず夢双君には起きてもらって、夢幻君に寝てもらいます。ここでぐずぐずしていると、発着口から内部潜入できなくなってしまいますからね。」

 すぐに白衣の研究員が、何の事かと思いながらも巨大円盤潜入手順を続ける。


「そこよ……そこが問題……。」

 すぐに美愛が指摘する。


「へっ……時間をかけて何度もシミュレーションして、一番安全な手順を計画したつもりですがね。確かに透明化しただけでは敵小型円盤から攻撃を受けてしまう可能性はありますが、夢幻君の飛行能力で宙空に浮いている場合は、巨大円盤の時を止める能力の効果範囲内に入り込めない恐れがあるので已むを得ません。


 前回も前々回も、そのまま発着口脇に姿を現した状態で浮いていたのですが、発艦したばかりの小型円盤には見つかりませんでした。なにせ、我々が乗っている車体は小型円盤に比べて非常に小さいですからね。


 前回の様子をモニターしていて、ある程度発着口脇を警戒している可能性はありますが、透明化していれば恐らく問題ないでしょう。母艦である巨大円盤をも破壊してしまうことになるため、車体の姿をはっきりと確認せずにむやみやたらと火器を使用してくることは、あり得ないと考えております。」


 白衣の研究員は充分に安全性は検討されていると、自信を持って答える。


「そうじゃなくて……これまでの作戦では、小型円盤が発艦するのはお兄ちゃんが眠った状態で待っていたでしょ?浮いていたから、巨大円盤が時を止めた時にその効果範囲に入れなかった。


 ところが今度の作戦では、着艦したまま発着口が開くのを待って……と言うより透明化している訳だから、小型円盤が発艦して行くところをソナーで何とか確認して、それから車体を浮かせ、更に透明化を解いてから発着口へ入って行かなければならないのよ。


 この間どれだけの時間があるかしら……気づくタイミングにもよるけど、恐らく1分もないんじゃない?

 そんな短時間で、お兄ちゃんを寝かせて夢双さんを起こして周囲確認をして、更に発着口内へ入っていくなんて事、とても出来ないわ。」


 美愛が真剣な表情で、計画の不備を指摘する。


「確かに……おっしゃることはごもっともなのですが、他に良い手順がないのですよ。


 巨大円盤に接触していなければ、時を止める効果範囲に入り込むことは不可能です。ここに夢三君の能力が関与できる余地はありません。」

 白衣の研究員は以前から何度も説明していることと、辟易しながら答える。


「そうじゃなくて……発着口が開いて小型円盤が発艦したら、すぐにお兄ちゃんに寝てもらうけど、同時に夢三さんに寝てもらって時を止めてもらうのよ……そうしてそのまま発着口へ入って行く。


 ある程度奥まで入りこんだら、時を動かせばいいのよ。横穴に入ることができたら夢双さんに眠ってもらえばいい……そうすることによって、姿を現したままでも発着口内に安全に入って行くことができるわ。発着口は車体に比べれば十分すぎる位大きいから、接触の恐れなんかないでしょ?


 小型円盤が発艦した後で慌ててバタバタしなくても済むわ。小型円盤が発艦したことが分ればいいのだから、着艦場所は発着口すぐ脇でなくても良くなるし、その方がより安全でしょ?


 夢三さんは、すごく寝つきがいいから、きっとうまく行くわ。」

 美愛が笑顔で提案する。


「はあ……その手がありましたか……こっちはこっちで時を止めて、手順を稼ぐと言う訳ですね。名案ですね……早速、その手順で作戦を練り直して、提出致しましょう。」

 すぐに白衣の研究員は、あわただしく事務所奥のドアから階段を駆け上がって行った。


「はあー……美愛さんにはほんと……まじ尊敬するッす……。」

 美由の美愛を見つめる目に、ますます熱がこもってきたようだ。


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