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第60話

13

「作戦っていったって……向こうは時間を止めて小型円盤を発着させているのだったら、こっちだって夢三さんを連れて行って、時を止めて待っていればいいんじゃないの?


 そうすれば小型円盤が出てくるから、その隙に巨大円盤へ潜入すればいいのよ。」

 美愛がすかさず立ち上がって提案する。


「いや……それは無理だよ。時を止めている最中は、周りの時が止まっているというよりは、僕らの周りの時間が高速で流れていることになるんだけど、再び時を動かした時に周囲は時間が全く経過していないわけだ。


 次の瞬間、巨大円盤が時を止めたとしても、僕らへの影響は皆無なはずだ。つまり時を止めるタイミングがコンマ何秒か異なるだけでシンクロ出来なければ、同じ時を過ごす事は出来ない。


 夢幻の保護膜や夢双の透明膜とは性質が異なる訳だ……恐らく、同時に時を止めればいいという訳でもないだろう。巨大円盤と小型円盤間ではシンクロが取れるのかもしれないが、それは制御機構が共通であるからで、夢三君の能力でシンクロすることは、まず無理と考えている。」

 今度は幸平が立ち上がり、美愛の提案を否定する。


「えー……だって……だったらどうすればいいのよ……。」

 幸平の説明をある程度理解できたのか、美愛が頬を膨らませる。


「そ……そこまでは……まだ考えついてはいない。」

 幸平はそのまま俯き気味に席に座る。


「そうですね……夢三君の能力の解析である程度のめどはつきました。敵巨大円盤が時を止める時に、巨大円盤に極力接近していればいいと考えております。


 どの程度まで近づく必要があるのかは実験を繰り返す必要性がありますが、巨大円盤へ潜入を試みた時は、小型円盤をやり過ごすために空中へ浮いていましたからね……あのくらい距離が離れていれば、影響範囲から除外されるという事なのでしょう。


 やはり夢幻君のバリアーや夢双君の透明膜と異なり一定範囲を囲うのではなく、接触する程度の近々の距離範囲に影響が及ぼされるという風に考えております。


 なにせ時を止めている……高速で時が流れている最中も移動可能ですから……影響範囲は流動的と言える訳です……なので、最低限の効果範囲に限定しているのでしょうね。


 その為、次は小型円盤発着口脇で停車していればいいと、考えております。」

 白衣の研究員が、幸平に代わって答える。


「へえ……浮いていたのがまずかったんだ。でも、それじゃあお兄ちゃんを寝かせずに、停船しているって事なの?それはちょっと危険なんじゃない?見つかって攻撃されたらひとたまりもないわよ。なにせ小型円盤の発着口すぐ脇に停船している訳だから。


 ドローンを放出しているときだって怖いのに、でもその時はまだ巨大円盤への攻撃が仕掛けられる前で、小型円盤も出てこないから、まだ大丈夫と考えていたわ。


 でも小型円盤放出後もお兄ちゃんを起こしたままということは、バリアーが機能していないわけだから、小型円盤に見つかって攻撃されたら、一巻の終わりって事じゃない。」

 すぐに美愛がダメ出しをする。


「それはそうなのですが……かといって発着口から離れた地点で停車している場合は、発着口が開いたタイミングに間に合わず潜入できなくなる可能性が高いですし、何が何でもあの場所に停車する必要性があります。


 その為……待機時は、夢双君の透明化を施すつもりです。更に万全を期する為、ドローン放出時も夢双君の透明化したままで、行う予定です。


 前回の襲来時に、透明化したままで米国艦隊を敵円盤が攻撃したこともありますし、勿論、夢双君の能力で透明化したままでの放出が可能かどうか確認は必要となりますが、恐らく問題はないものと考えております。

 これにより、より安全にドローンの放出が行なわれ、待機時も発見されにくいと考えております。」

 白衣の研究員が、今回作戦のあらすじを説明する。


「透明化したままでも時を止める効果範囲に入れるかどうか、分らないじゃないですか……。


 時を止めるということが、夢幻や夢双の能力と異なるのであれば、透明化したままだと、効果範囲から除外される可能性も……巨大円盤と一緒に透明化しているのであれば別ですがね……。」

 すぐに幸平が指摘する。


「そうですね……透明膜でのドローン放出の外に、透明化と時を止める能力との相性も確認する必要性があります。夢三君が出現したことは大変ありがたいのですね。」

 白衣の研究員が答える。


「ちょっと待って……そう言えば、夢三さんや美樹ちゃんがいないけど、どう言う事なの?」

 美愛が、会議室の中を見回しながら怪訝そうに尋ねる。いつも余り参加したがらない夢幻ですら参加しているというのに、わざわざ遠くから出向いたはずの二人がこの場にいないのだ。


「先日申し上げた通り、彼らはあくまでも治療目的で、こちらに来ているのです。


 まあ夢三君の能力解析で、様々な事が分って来て大変助かっておりますし、透明化との相性などの確認も行う予定ですが、時を止める能力自体は潜入作戦時に必要となることはありえません。その理由は、先ほど幸平君がおっしゃった通りです。


 その為、彼らは潜入作戦に参加はしない……わざわざ危険な場所に行く必要性もないですからね。彼らは一般の高校生ですから。


 その為、我々の活動の詳細も話してはおりません。まあ、超常現象に関しての研究をしているとは説明しておりますし、夢幻君や夢双君の能力に関しても、隠すつもりはございません。


 そう言った能力者が存在するという事を承知した上で、ご自身の能力を認識頂き、今後の治療方法を検討して行く計画であります。なにせ、人より早く年を取ってしまうということは、寿命も短いという事ですからね。


 治療の必要性があります。」

 白衣の研究員が、穏やかに説明する。


「それはおかしいんじゃない?だって、お兄ちゃんや夢双さんの能力もそうだけど、夢三さんの能力だって神様が与えてくれた能力だって……そう考えているって言っていたじゃない。

 だったら、それはその人に対してもそうだけど、我々人類に対しても必要不可欠な能力のはずよ。


 最初の円盤の襲来のときは、お兄ちゃんの能力だけで解決できたけど、2回目の時は夢双さんの能力がなければ解決できなかった。お兄ちゃんだけで出発してひどい失敗をして、お兄ちゃんが死にかけたくらいだったから。

 だから今回だって、夢三さんの能力が不可欠のはずよ!」

 美愛が立ち上がって力説する。


「そっ……それは確かに……そう言えないことはないのですが……すでにご承知のとおり、時を止めるという機能に関しては、その能力を持っているからと言って、相手が時を止めている状態の中に入って行けるようなものではないのです。その為、作戦上の利用価値は見いだせておりません。


 しかも……すぐに治療しなければならない病状と言えるのですよ。なにせ人より早く歳を取ってしまう訳ですから。」

 白衣の研究員が、残念そうに目を伏せながら首を横に振る。


「治療法はあるのですか?」

 すぐに幸平が確認する。


「いえ……今のところはまだ……夢幻君や夢双君同様、睡眠時症候群の一部と目されておりますが、症例が彼らに限定されておりますからね。


 ですが夢三君の場合は早急な治療が必要ということで、治療目的の解析を続けて行く予定です。MRIやCTなども数日中に導入される予定ですから。」


 白衣の研究員が、夢三の治療の緊急性を主張する。その為に高価な医療設備をNJに導入するのだ。確かに夢三だけではなく夢双や夢幻の症状確認は、一般の病院ではできるはずもないことは、誰もが承知の上だ。


「でも……こうは考えられない?昨日あたしたちが夢三さんの時を止める能力の中に入ったけど、その時には確かに6時間の時が流れたわ。色々と解析をしたし、お腹もペコペコになったわ。


 その間夢三さんは寝ていて、目覚めた時には頭がすっきりしていたけど、周囲時間では1分も経っていなかった……目覚まし時計は2分経過していたけど、実際時間は1秒も経過していなかったはずよね。


 つまり、傍から見れば一瞬の出来事だけど、その間夢三さんは、ちゃんと時を過ごしているのよ。その分早く年を取ったからと言って、損をしているとは言えないんじゃない?


 なにせ本当なら寝ている時間を勉強に当てられるんだから、受験勉強は有利だし、大学へ行ってからだって研究の時間とか多くとれるから、有利に過ごせるはずよ。


 睡眠時間分……人より1/3早く歳を取ってしまうから、3年間で4年分歳をとる事になるけど、その時間はちゃんと過ごしている訳だし、別にかまわないんじゃない?」

 すると美愛が、早急な治療の必要性はないと主張する。


「そうですよ……今は学校だって飛び級制度があるところが増えていますから、その分勉強して飛び級すれば、実質年齢と変わらなく対外的にも成長して行けると思いますし、彼の神様から与えられた能力を有効利用することを、検討するのがいいと僕も考えますよ。」

 幸平が間髪入れずに補足する。


「おお……そうやそうや。俺の能力もなんやうっとおしいだけの……美由のやつがおにぃの姿が見えんいうて、過激な攻撃仕掛けてくるだけで、はよ治って欲しいって祈っとりゃーしたが、その能力で世界を救う事が出来て感激しとりゃーす……うちの両親からもめっちゃ褒められましたわ……。


 夢三言う奴の能力かて、俺の能力同様、世界を救う能力でありゃーすから……一緒に行って敵宇宙人を倒すんがええ思いますよー……。」

 更に夢双も加わって来た。皆、夢三が不登校であることは知らないのだ。


『そうだそうだ……』皆声を合わせて、夢三の参加を呼び掛ける。


「そっ……そうはおっしゃられましても……」

 白衣の研究員がポケットからハンカチを取り出して、額の汗を拭う。


「うーむ……言われてみればもっともだな。これまで都度出現する能力者に協力いただいて、敵円盤内への潜入作戦を成功させてきた訳だ。そうであれば今回の能力者夢三君の能力が、必要ということになる。


 彼の能力を加味して作戦を検討し直す必要性があるな……と言っても、夢三君たちに事情を説明して理解いただき、その上で協力してもらえればということになりそうだが。」

 神大寺が腕を組んで、うなり始める。


「敵円盤の中で宇宙人に囲まれた時に、時を止めて逃げ出すなんて事も出来るのではないですか?

 前回も前々回も宇宙人は全滅していましたが、今回はさすがに存在している可能性もありますからね。」

 すぐに幸平が提案する。


「いえ……前回作戦時同様、敵円盤内では常に透明化して移動するつもりですし、宇宙人が生存していたとしても、発見される可能性は低いと考えております。センサーなど、全て透過してしまいますからね。


 たとえ見つかったとしても夢幻君のバリアー機能があれば攻撃されても平気ですし、時を止める能力の利用価値は……今のところ見出せそうもありません。


 更に…………本日中に作戦内容を報告して、明日には出発する必要性があるのですが……分りました、少々お時間を頂いて、再度作戦を練り直しましょう。」

 白衣の研究員が、会議室を出てパタパタと駆けて行った。


「じゃあ夢三君を呼んできて、急いで現況を説明する必要性があるな……。」

 神大寺も続いて会議室を出て行った。



「はわわわわ……こんな事が行われていたなんて、とても信じられんしょー……。

 歴史の教科書にも載ってないし……テレビのニュースでも、ネットでもこんなこと報道されてませんよー。」


 夢三と美樹を会議室に連れてきて、まずは遥かなる太古から地球の生物たちが、宇宙人により略奪され続けていたことを説明すると、2人とも到底信じられないと目を丸くする。


「これは各年代の地層を掘り返し、生物の化石などから当時の生態系を観察することにより導き出された紛れもない事実だ。


 と言っても我々だってつい最近までは単なる偶然と、ある意味期待していた訳だが、巨大円盤の出現で、やはり事実であったことが証明された訳だ。


 そうしてその円盤は……夢幻君や夢双君の能力を使って、追い返す事が出来た。彼らに続いて、夢三君……君が第三の能力者ということになる。

 ぜひとも、敵円盤を追い返す作戦に協力してもらいたい。」

 そう言って神大寺が頭を下げる。


「へっ……能力……者……ですか……?」

 ところが夢三は話が飲み込めず、小さな声で呟く……きょとんとした表情だ。


「うん……?昨日実験して夢三君の能力を確認して、その説明を行ったのではなかったのか?」

 昨日の実験に参加していない神大寺が、部屋に詰めている皆に確認する。


「いえ……実験終了まで6時間……と言っても、それは一緒にいたあたしたちだけで、実際には時が止まっていた訳だから周囲時間は何も経過していなかったわ。


 それでも皆お腹が空いていたから食事ということになって、白衣の研究員さんは急いでレポートをまとめなければならないといってすぐに出て行ってしまって、簡単には時を止める能力の事は説明したけど、詳細はまだ……だって……あたしだってよくわかっていないもの。」

 美愛が申し訳なさそうに、うつむき気味に答える。


「そっそうか……そのレポートのおかげでこちらは助かったんだし……仕方がないか。

 では仕方がない。夢三君の能力について、昨日提出されたレポートがあるから、それを使って説明しよう。」

 神大寺が、自分のカバンから数枚のA4の用紙を取り出した。


「時を止める能力……と言うのは状況を説明をしやすくしているだけで、実際には能力者とその接触者たちは、ものすごいスピードで活動している。その為、能力者たちの時間が早く経過するのだが、能力を止めると周囲時間は全く経過していない……つまり時が止まっていることになる……と書かれている。」

 神大寺がレポートに記載されている内容を、かいつまんでわかりやすく説明してくれる。


「へっ?昨日の実験の事ですよね……?


 あんちゃんは6時間しっかりと寝てましたが、確かに実験が終わってスマホを見てみたら、実験前と全く同じ時間でとっても不思議でした。その説明の事だと思いますが……あんちゃんは寝ていただけで、すごいスピードでは動いてませんでしたよ。あたしだって……ただ座ってただけで、1歩も動いてませんでした。」

 美樹が首を横に振って反論する。


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