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第56話

「うわっ、なになに?一体どうしたの?」

 美愛がまぶしそうに目を細めながら周囲を見回すが、何も見えない。


「どうやら攻撃されているようです。小型円盤からの攻撃ですかね。巨大円盤にはバリアーを張ったままで、自分の表層部分を攻撃するような武器はないと目されていますからね。


 ステルス状態で攻撃を仕掛けて来ているのでしょう。夢幻君の保護膜があるので簡単にはやられないでしょうが、逃げたほうがいいでしょう。夢幻君のカプセルのフードはある程度遮光しますが、ここまで明るいと目が覚めないとも限りません。そうなると、お陀仏です。」

 白衣の研究員が顔をしかめる。


「分りました。」

 美愛がレバーを操作して車体を発進させるが、“ピカーッ”“ピカーッ”それでも車体が眩いばかりの光に何度も包まれる。


「うーん……夢幻君の飛行速度では逃げ切れそうもありませんね。夢双君……すぐに眠れますか?


 こちらもステルスになった方がよいでしょう。敵から見えなくなることもそうですが、透明幕内であれば攻撃が当たっても、大きな音も閃光も届くことは無くなります。」

 白衣の研究員が夢双にも指示を出した。


「了解……寝いりっぱなを起こされたもんだで、すぐに眠りゃーすよ。」

 車体後方から、夢双が元気よく返事をする。


“ピカーッ”“ピカーッ”ところがそれから数分経過しても、一向に攻撃が止むことがない。夢双が寝ついていないのだ。


「おにぃー……眠れんの?あたしが子守歌しよみゃあか?」

 美由がシートから立ち上がって、車体後部へと移動する。


「いらんいらん、おそがいこと言うなやー、お兄ちゃんは生身の体やで。

 でも参ったにゃー、こうもチカチカと暗くなったり明るくなったりすると、流石に寝りゃーせんでねー。」

 夢双の悲鳴にも似た叫びが、車体内に響き渡る。


「だったら僕のアイマスクを貸すよ。飛行機で寝る時は常に持ってきているからね。」

 すぐに幸平が車体後部へ駆けていった。


「おお、こりゃあ、あんばぃええわぁ、ありがとう。」

 夢双がアイマスクを着用して、カプセル内に横たわる。


 遮光フードつきのカプセルではあるのだが、半透明程度の遮光では、まばゆい光を完全に遮断することは出来そうもない。その為、夢幻が目覚めないか一同肝を冷やしている状態だ。

 アイマスクを渡してすぐに、間断なく続く閃光のきらめきが無くなった。


「アイマスクの効果か、夢双君は寝ついたようですね。まずは一安心……として参りましたねー小型円盤での対処をしなくなったのではなくて、小型円盤を保護膜内に待機させていたという事でしょうか。


 確かにそうすれば、いちいち小型円盤の発着口を開けずに済みますから、内部へ潜入される危険性は無くなります。しかし、この狭い保護膜内の空間に常時小型円盤を飛行させておくのも、なんだか無駄なような気がいたしますがね。母船と接触事故でも起こせば、お互い無事では済まないでしょうに。


 とりあえず、今回は引き上げましょうか……ここで待っていれば、いずれは小型円盤を回収する可能性もありますが、いかんせん長期間滞在するための準備をしておりません。


 ここは脱出しましょう。出直しとなりますね……もう少し作戦の吟味が必要となります。」

 白衣の研究員が、脱出を指示する。


「分りました……でも、このままただ帰るのも悔しいわね。小型円盤の位置と、巨大円盤までの距離は分りますか?」

 美愛が後方へ振り返る。


「ああ……ちょっと待ってください……。」

“コーンッ……コーンッ”甲高い金属音が、車体内に響き渡る。


「小型円盤は車体左斜め後方、ほぼ水平位置に浮いています。距離は100m。現在、巨大円盤の上方50mほどの高さにいます。」

 ソナー担当者が敵との距離を読み上げる。


「分ったわ……。」

 美愛はそう言うと、操作レバーを大きく動かした。


「あれっ?脱出するのだから、そのまま上昇すればいいのですよ。どうして反転など?」

 白衣の研究員が、その様子をとがめる。


「そうなんだけど……ちょっとだけ……。」

 美愛はそう言いながら、今度は右レバーを前に倒すと……“ドスンッ”暫くして、前方下部から鈍い衝撃音が聞こえてきた。


「ようしっ。」

 更にそのレバーを前に倒したまま、左レバーも前に倒す。


“ヒュー……ヒュー……”車体前方下部から、甲高い回転音が伝わってくる。


「逃がすもんですか……えいっ。」

 美愛は尚も各レバーを前方に倒し続ける。


「一体何をしているのでしょうか?」

 白衣の研究員のみならず、全員が美愛に注視していた。


「こんなもんでしょう……とりゃあっ!」

 そう呟きながら美愛が、今度は左レバーを思いきり手前に引っ張った。

 するとすぐに青白い光の帯が、車体前方上部から後方下部へと勢いよく流れて行く。


“ガーン……ズザザザザッ……ドッゴォーンッ”同時に下方から鈍い破裂音が聞こえてきた。


「うんっ……丁度真下……距離100mほど……接触音と爆発音がしました……。」

 ソナー担当者が、その位置関係を読み上げる。


「えへへ……あんまり悔しいから、小型円盤の端に車体を押し付けて、ずっと圧力を加えてからこっちは上昇したの……おかげですぐに透明保護膜を越えられたし、その反動でバランスを崩した小型円盤が、巨大円盤に衝突したんだと思うわ。先程研究員さんが母船と接触したら大変だって言っていたでしょ?」

 美愛が笑顔で振り返る。


「なんともまあ無謀な事を……小型円盤がフルレンジで加速しようとしたら、どうするつもりだったのですか?

 この小さな車体など、弾き飛ばされていたかもしれませんよ。」

 白衣の研究員があきれ顔でたしなめる。


「それは出来ないでしょ……巨大円盤とその周囲の保護膜との距離は大体百m程度。小型円盤というけど厚みは40mほどもあるのでしょ?


 保護膜との隙間は60m……ちょうど真ん中を飛行しても上下に30mずつしかないわ。巨大円盤は近くで見ると表面にアンテナや換気口など突起がいくつもあるし、そこを避けて飛び続けるには低速しか出せないのは、皆知っているでしょ。


 こっちを攻撃する為に透明化はしていたけど保護膜は切っていたはずだから、高出力で向こうが上昇しても、こっちは透明保護膜を越えて外に突き抜けられたけど、向こうは保護膜に衝突したはずよ。


 だから、こっちがやや上方から小型円盤の端を押し付けてやっても、向こうはそれに反発する程度の出力しか出せないと読んでいたのよ。そうしてある程度押しつけてから突然上昇に切り替える……。


 こっちはその反動で透明保護膜を越えて脱出……だけど小型円盤は膜を越えられないから急降下しようとしてバランスを崩して墜落……と言った算段ね……。」

 美愛が鼻高々に宣言する。


「うーん……すごいね。そこまで考えていたとは……相手どころか周りもなにも見えない中で、距離計とレバーの反動だけで、そこまでの操作をやってのけるとは。」

 これには神大寺も脱帽の様子だ。


「すこいでかんわー……まじ、尊敬するッす……。」

 美由も後部座席から身を乗り出して、羨望の眼差しで美愛を見つめる。


「はっはあ……そうでしたか。対小型円盤の戦闘戦略として、参考にさせていただきます。」

 白衣の研究員がメモを取り始めた。


「でも、どうするんですか?これから……。あまりに早い時間に撤退してしまったし、作戦失敗だから発信器も何もセットしていないですよね?」


 幸平が、後部座席から質問する。

 夢幻が目覚めたら墜落してしまうので、何十時間も飛び続けることは出来ないのだ。


「おおそうだね……美由君……悪いが、夢双君を起こしてくれないか?


 ドローンを操作して巨大円盤の位置確認をしている飛行船が周辺を飛行しているはずだから、車体を視認できれば基地へ連絡してくれるはずだ。」

 神大寺が美由に指示を出す。


「分りました。ちゃっと起こしてきやーす。」

 美由がすぐに車体後部へと移動する。


「おにぃー……起きいや……起きいひんと……エルボー……。」

「ぐわっ!」


 すぐに夢双が跳ね起きて、周囲が明るくなった……効果絶大だ……。

 太陽の位置を把握しながら、飛行方向を決定した。



「おお、迎えの輸送機が来たようだぞ。恐らく途中で連絡を受けて引き返してくれたのだろう。後部ハッチから格納庫へ入れてくれ。」


「はいはい……任せてください。」

「ふう……ようやく帰れそうだね。」

「助かりましたねー……でら心配でしたわ……。」


 2時間ほど西へ向かって飛んでいると、輸送機がこちらに向かってくるのが遥か遠くに見えてきた。同時に皆に安どの空気が流れる……通信も何も出来ない状況で、皆不安を募らせていたのだ。



「お兄ちゃん起きて……。」

 無事に輸送機に回収され、美愛が夢幻を起こそうとする。


「うん……?どうした?円盤の中で休憩か?

 それにしてはうるさいな。前はほとんど音がしていなかったような……。」

 夢幻が不思議そうに辺りを見回す。静寂の円盤内と違って輸送機内はエンジン音がかなりうるさいのだ。


「潜入作戦が失敗したのよ。小型円盤に攻撃されて、逃げ帰って来たの。小型円盤が保護膜の中で待機していたようなのね。だから巨大円盤に潜入することも出来ず標的になりそうだったから、逃げてきたのよ。悔しかったから、ちょっとは仕返ししたけどね……。」

 美愛が作戦失敗を告げる。


「ふうん……そうか……敵もそれなりに考えているという事だな。まあ仕方がないだろ……お互いの命運がかかっている訳だからな。向こうも必死な訳だ……。」

 失敗の報告に夢幻はそれほど悔しそうにはしない。こういった状況も想定済みという事だろうか。


「では、皆さんお疲れでしょうが……今回作戦の状況を洗い直したいと考えます。急いでデータ解析しますから、30分後に会議室に集合してください。」


 白衣の研究員が車体からデータディスクを取出し、ソナー担当の自衛隊員と一緒に格納庫から会議室へ入って行った。これから記録データを解析するのだろう。


「うーん……まだ寝たりないんだが、仕方がない……。コーヒーをがぶ飲みするか……。」

 夢幻は眠そうに目を擦りながらカプセルから起き上がり、コーヒーサーバーへ向かった。


「あたしも……フルーツジュースでも頂こうかな。」

 緊張のあまりのどがカラカラだったことを思い出した美愛も、冷蔵庫へ向かった。



「えー戻りましたところ、A国のエージェントたちが我々の潜入作戦に先立ち巨大円盤に向かい、潜入に失敗したとの報告が入っておりました。我々より数時間前の事だったようですね。


 どうやって透明保護膜の中に入れたのか詳細は不明ではありますが、敵円盤の外観画像が送信されて来ていて、これまでと同型の円盤であると報告されております。


 更に注意事項として、保護膜内での新たな防衛システムに攻撃されたと報告されております。恐らくステルスモードの小型円盤からの攻撃を指しているのでしょう。姿は確認できませんでしたが、美愛さんが攻撃を仕掛けて敵小型円盤に何らかの損失を与えたはずですから、間違いはないでしょう。


 まあ、この情報が我々の出発前に到着していたとしたなら、新たなという警戒システムというのを気にするあまり、余計な確認事項が増えるだけで、ステルス状態の小型円盤の存在に気づけなかった可能性もありますので、よかったとは言えますね。


 ここからは我々サイドのデータ解析結果ですが、我々が放出したドローンの巨大円盤攻撃画像を確認したところ、およそ半数以上のドローンが巨大円盤へ突撃前に、空中で爆破されていたことが判明しました。


 ドローンは円盤に突撃して爆発する直前に、その地点の画像を送信して、その後続のドローンが爆破後の画像を送信すると言った、連携プログラムがインストールされておりますが、千機のドローンの内、突撃地点の映像を送信してきたドローンは483機で、爆破後の映像を送信してきたドローンは460機です。


 この数値は重複しますので、合計で千を越えても問題はありません……と言うより本来なら千と900程度になるはずなのです。グループ最後のドローンが衝突した後の映像は確認できませんのでね。


 つまり巨大円盤上に分散したドローンの攻撃が半数ほど進んだ時点で、後続のドローンを破壊されてしまったと考えられます。ドローンは連携しているとは言いながら、各自で判断して爆破地点を見出しますので、指定位置に到達すれば、後は連続的に突撃して行くはずでした。


 それが半数のみで防がれたということは、それだけ敵の対処が速くて正確だったという事です。

 しかし如何に敵小型円盤が透明化したまま保護膜内に潜んでいたとしても、ドローンの姿は見えませんから、爆破が始まって初めてその存在に気が付いたはずです。


 その時点では巨大円盤の隅々に散っているはずのドローンを、少数の小型円盤で短時間内に一網打尽にすることは困難なはずなのです……更に驚くべきことに小型円盤は透明化したままで、車体のすぐ近辺を通過して散って行ったことが分りました。」


 白衣の研究員がホワイトボード前に立って説明し、すぐ脇の自衛官を促した。


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