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第52話

「その可能性もありますね。寝ている時に移動してしまう……睡眠時瞬間移動症候群とでも命名しましょうか?でも……その移動先はどのように選択されますかね?意識の有無にかかわらず、十数センチの瞬間移動能力など、何の役に立ちます?


 部屋の中と言うことを考慮する場合、家の壁などは通過できないと考えたほうが良いですよね?

 更に寝ている時に発動するのでしたら、そのままずっと眠り続けていたはずですよね?」

 白衣の研究員が、眼鏡のつるを持って位置を調節する。


「ああそうか……だったら、これはどうでしょうか?


 睡眠時時間停止症候群……寝ている時に周りの時を止めているから、自分が寝ている感覚はあるけど、時間が何分も経っていない……1フレームで寝姿が動いているのは、寝返りを打っていたせいと考えれば、これならつじつまが合いますね。


 でも……普通はベッドに横になっても眠りにつくにはそれなりに時間がかかるものだし、目覚めのときだって、ウトウトしている時間を考えれば、1分だけと言うのはどうにもやり過ぎのような気が……。」

 幸平が嬉しそうに笑顔で立ち上がるが、尻すぼみ気味で再度ソファーに腰かけ直した。


「そうですね。寝つくまでにある程度時間がかかりますよね。睡眠に関しては個人差が相当にあり、一般的にこうと言うのは難しいようですが……私もそうですが妻も同じくらいで、30分程度はかかる場合が多いようです。


 更に目覚めの瞬間も……人によっては1時間くらい前から半覚醒状態と言うような場合もあるようですね。その為、気持ちよく起きるためには朝部屋を明るくしておくというのが良いようですよ。明るさに慣れさせて目覚めの時を自覚させるわけですよね。


 私は学生の時に朝起きるのが辛いから、朝タイマーで照明が点いてから目覚ましが鳴るようにしていました。今は自動でブラインドを操作できるようですが、当時は自動でカーテンが開くなんて機能、ありませんでしたからね。


 まあ、この人物は寝つきがすごく良くて、更に目覚めも良いのでしょう。特に目覚めに関しましては、寝ている間時が止まっているというのであれば、あらゆる騒音……と言いましょうか音や光や振動など、体に感じる外的刺激すべてが止まっている訳ですからね。それこそ快適な睡眠が得られていると考えております。」

 白衣の研究員が笑顔で答える。


「はあー……うらやましい能力ですねー。こんなことできれば受験戦争なんて恐れるに足らずだ。なにせ人が寝ている時間までも使って勉強できるわけですから。」

 幸平が、天を仰ぐ。


「いえ……そうでもないのですよ。夢双君の透明能力自体は、他人に迷惑をかける危険性はありませんが、夢幻君の能力は、家を土台ごと持ち上げてしまったり、天井を破壊してしまう危険性がありますから、作戦が終了するごとに能力を軽減させる必要性があります。


 恐らく今回の時を止める能力自体も、周りに迷惑をかけることは少ないでしょう……ですが、彼は時間を止めた中でも活動……寝ているだけですが……している訳です。


 つまり、その分だけ人より余計に時間を過ごしていますから、その分早く老化してしまいます……睡眠時間を1日当たり8時間と想定しますと1/3日ですから、人より33%早く年を取る計算です。


 夢双君の能力の場合も意識がない時に透明になってしまうと、病気やけがをした際の治療に差し障りが生じるため、普段は能力を抑えるための治療の検討をしておりますが、こちらの場合の方が緊急性は高そうです。」

 白衣の研究員が、初めて渋い顔をする。


「確かに……病気になったり、万一の事故とかで意識不明になった場合……透明になってしまったんじゃあ、治療どころか検査も出来ないわね。夢双さんの病状は、そんな不都合があった訳だ。でも……美由ちゃんたちはもう帰ってしまったけど、出張研究員が近くに滞在して病状研究を続けるという事?」

 美愛が、白衣の研究員に確認する。


「そうですね……夢双君たちの地元にメンバーを派遣していますが、検査結果を用いた治療のための研究は、こちらで続けています……勿論夢幻君の治療研究も引き続き行われています……円盤の襲来がなければ、ないに越したことはない能力ですし、大病を患った場合に全身麻酔を使った手術が出来ませんからね。


 意識を失って夢幻君のバリアーが機能すると、メスも何もかも通じませんから……まあ万一の場合は、プローブをお医者さんにもつなげて、一緒にバリアー内に入るということになるのでしょうがね……夢幻君の症状の場合は全く対応できないわけではございません。


 夢双君たちは学校が始まってしまったため、一旦帰宅していただきました。親御さんも向こうにお住まいですし転校させるわけにもいきませんから、仕方がなかったのです……また冬休みにでもなれば、こちらに来ていただく予定です。


 夢双君は体が丈夫そうですから……早急に入院と言ったことはないでしょうし、最悪の場合はこちらも一旦意識を回復させてから、一緒に透明膜の中にお医者さんごと入ることになるでしょうが、夢双君の場合は苦しんでいるかどうかも透明化したままでは分かりませんから、夢幻君より厄介と言えます。


 特に寝ていて強い衝撃を受けて、意識が混濁化した場合などですね……。

 それがなければ時を止める病状の方が深刻で……早急な対応が必要と考えております。」

 白衣の研究員が小さく頷く。


「ああそうだったの……お兄ちゃんの病状は敵円盤と戦うために必要だから、そのままにしておくのかと思っていたわ……治療も考えてくれていたのね……。」

 美愛が小さく首をかしげる。夢双の寝ている時の強い衝撃に関しては、思い当たる点があったがここでは言わないで置いた。


「確かに、敵円盤へ潜入作戦を試みるには必須な能力ではあるのだが……夢幻君一人に人類の存亡を背負わせるわけにはいかないと、治療研究は当然ながら続けている……これだけは信じてくれ。」

 神大寺も加わって、真剣なまなざしで訴えかける。


「俺の能力は、確かに家を破壊してしまいそうだから、円盤に潜入するとき以外は能力をセーブしておきたいけど、持っていたからと言って困る能力ではないから、治療は一番後でもいいですよ。


 人より早く年を持ってしまったり、病状が悪化して突然意識不明になった時に透明になってしまったりする彼らの治療を優先してください……。」

 すると突然夢幻が告げる。


「まあ……夢双君の透明能力も敵円盤の状況によっては必要となる場合もあり得るから、敵円盤の脅威がなくなってからの治療となりそうだがね。今回の時を止める症状に関しては、事情が事情だけに治療研究優先と決まった。」

 神大寺が少し言いづらそうに補足する。


「確かに……お兄ちゃんの治療が最後になりそうね。まあこれらの病状の中で緊急性は一番低そうだから仕方がないわ。でも……この時を止める人たちは、いつやって来るの?」


「ああ……明日には到着予定だ。遠距離なので飛行機での移動を当初考えたのだが、時を止める影響範囲がどの程度か不明なため、安全を考慮して列車と決めた。万一搭乗中に寝てしまったら大変なことになりかねないからね。」

 神大寺が、腕を組んで厳しい表情をする。


「えっ……影響範囲って……寝ている時に体に直接触れている部分だけじゃないんですか?

 お兄ちゃんはそうじゃないですか……夢双さんも同じみたいだったし……。」

 神大寺の言葉に、美愛が不思議そうに首をひねる。


「そうですね……時を止める訳だから……その影響範囲がどの程度なのか……まさか銀河系どころか、この宇宙全体にまで影響しているなんて壮大な事は……考えにくいですよね……。」

 ところが幸平は、その言葉の意味が分かっているかのように頷く。


「えっ……どういう事?どうして銀河系とか宇宙なんて発想になるの?」

 美愛はますます訳が分からなくなり、幸平にくってかかろうとする。


「時を止める訳だから……どの範囲まで時を止めているのかが重要な訳だ……自分の部屋の中だけしか影響が及ばなければ、周りから見れば時を止めていても変わりはない訳だ……せいぜい机の上の目覚まし時計の時刻が狂うくらいの影響だ。


 ところが彼の映像を見る限り、寝ている時に周りの時間も動いてはいない……1分間で夜が明けることもなく、その後数時間かけてゆっくりと夜が明けて行っていた。試験勉強だって、おかげではかどって試験はバッチリだったというコメントも付いていたようだし……彼の周囲時間にまで影響しているといえる。


 つまり彼の時を止める影響範囲は、少なくともこの星中に影響している……寝ている間は地球の自転ですら止めているといえるわけだ……そうでなければ、あの部屋の中と外で時の進み方が異なってしまうはずだ。


 凄まじいまでの能力と言えるのだが……それが地上にいて地面と……まあ家の中で地表にいるといえるわけではあるのだが……それが高度何千メートルもの上空の場合にどう影響するのか……。


 航空機のエンジンも止まってしまう訳だから、墜落してしまうのか?そうでなくても地球の自転が止まらなければ、上空を飛んでいる航空機の位置が大きく変わってしまうことになる。


 万一彼が飛行機内で寝てしまった場合に、大事故につながりかねない可能性がある。

 その為、地表を進む列車にしたという訳だな……。」

 神大寺が代わりに美愛に説明してくれた。


「ふうん……なんだか……良く判らないけど……すごい能力と言う事なのね……?」

 美愛は1人感心したように、大きく頷く。


「能力の査定が終わるまでは、彼らに事情を説明するわけにもいきませんからね。飛行機内で絶対寝ないでコーヒーをがぶ飲みしてくださいなんて、強制も出来ません。まさか自衛隊の輸送機で……と言う訳にも参りませんから、その為時間はかかりますが、安全性を考慮して列車での移動となりました。」

 研究員が、ボソッと小声で告げる。


「でも……時を止めるんでしょ……?時が止まった世界って一体どんな風なんだろう?誰かがキャッチボールしていたとして、そのボールが空中に止まったままなんでしょ?

 ジャンプしている人もそのまま浮いたままだし……見てみたいなあ……そんな世界……。」

 美愛が夢見心地で中空を見つめる。


「時を止めている時って……本人は眠っているから何も覚えてはいないだろ。影響範囲がこの星中と言う事を考えると、そこから逃れることはまず無理だな……誰にも時が止まった世界を見ることは出来ないだろ。」

 ところが夢幻は、難しい顔をして首を横に振る。


「いえ……そうでもないようですよ……正常版映像送付の際にコメントが追加されていて、2日目の夜に妹さんがお兄さんのベッドで先に寝ていて、その後お兄さんが同じベッドで寝ようとしたようなのですが、この時は妹さんも一緒に目覚めたのだそうです。


 つまりお兄さんが寝ついた1分後……妹さんが寝たのは11時ころで、お兄さんが寝ようとしたのが1時ですから、たったの2時間ほどで一晩分の眠りを消化したものと言えます。


 つまり体を接していれば、時を止める影響範囲から免れることは可能と考えております。

 まあ、この辺りも実際に確認して見ないといけませんがね。」

 白衣の研究員が穏やかに説明してくれる。


「へえ……もし時を止めることができれば……敵円盤内での行動もずいぶんと楽になるのではないですか?

 宇宙人が生存している円盤がやってこないとは限りませんよ。」

 すると突然幸平が、至極当たり前の提案をする。


「そうですね……円盤内での行動を記録していたことからも、確かに時を止める能力は有効と考えます。

 ですが……時が止まっている間は、当然の事ですが円盤内のコンピューターは使えませんし、自動ドアなども開閉しないでしょう。途中で部屋に入った際は自動感知で照明が点いていましたが、それも叶いません。


 更に先ほども申し上げた通り、上空での行動時にどのように空間に影響を与えるか分っていないものですから、作戦行動に使用可能かどうかは、今後の評価によって変わってきます。


 でも……それよりも普段寝るたびに歳をとって行ってしまう訳ですから、早急な治療が必要と考えております。」

 研究員が、時を止める能力活用のむずかしさを示唆する。


“プルルルル……プルルルル”するとそこに電話の呼び出し音が。


「はい、神大寺です。えっ……テレビを見る……ですか?おいちょっと、テレビをつけてくれ……どのチャンネルでも同じようだ……。」

 突然応接のテーブルの電話が鳴り、テレビをつけるよう指示が来たようだ。


「はいはい……何か嫌な予感がしますね……前回は確か円盤が……。」

“カチッ”白衣の研究員が、渋い顔をしながら応接のテレビのスイッチを入れる。


「な……なによー……これ……。」

 そこに映された映像は、脅威的だった。


 屋外の球場と思われる場所で、突然上方から光の束が照射されたかと思うと、人々が宙へと重力を感じさせずに舞い上がって行く。その光の束が、小型円盤で人々をさらって行くためのビームであろうことは、誰の目にも明白だった。


 そのような光の束が、間断なく連続して球場中に照射された後、辺りは静寂に包まれた。

 恐らくその場にいた人々は、一人も残ってはいないだろう。


 その後のテロップには、メジャーリーグの球場で観客消失……のテロップが流され、更には前回の透明円盤は、まだ地球上に存在していたとのコメントまで続いて表示された。


「何よーこれ……小型円盤が何機も編隊で飛んできて、野球場の観客たちを攫って行ったっていう事?


 しかも円盤の姿が見えなかったから、透明になっていたって事よね。透明になったままでも編隊を組んで飛べるのかしら……ぶつかったりしないのかしらね。外の様子をどうやって確認しているかしら。」

 美愛が、首をかしげる。


「うーむ……前回の円盤ではなく、新たな円盤が現れたとみて間違いないでしょう。

 人々を誘拐する時にもステルスモードを切らないようにしていることから、またもや警戒レベルのバージョンが上がっているものと考えられます。より慎重になって来ているといえますね。


 しかも1ヶ所に長くとどまらないですむ様、編隊を組んでいる可能性もあります。前回と同じ轍を踏まないといった感じでしょうかね……厄介なプログラムシステムと言えますね。


 どこかに本体の円盤がいるのは間違いありません、ちょっと調べてみますか……。」

 そう言い残して、白衣の研究員は事務室奥のドアから階段を上がって行った。


「また、美由ちゃんたちを呼びもどさなければならなくなりそうね。」

 美愛が顔をしかめながらつぶやく。


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