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第47話

21

「神大寺2佐……ではなくて……しょ……所長……うまくいった様子ですね。

 全員無事なご帰還お見事でした……さらに米兵含めた多数の人々の救出、さすがですね……。


 太平洋上の未確認飛行物体は、2時間ほど前に一瞬だけ姿を現して、その後再びその姿を消しました。

 大気圏外へ飛び立ったと見て、よろしいのですよね?」

 甲板に出迎えに来た自衛隊員が、神大寺の姿を認め賛辞の言葉を贈る。


「ああ……うまくいったよ……今回も運がよかったということもあるが、なにより彼らのおかげだ。」

 神大寺は笑顔を見せながら、車体後方の夢幻たちを指さす。


「円盤の様子は、こちらからも視認できた……一瞬だけバリアーを解いて星系間航行用のエンジンを始動した後、次の目的地へ向けて飛び立ったとみて間違いはない。


 じゃあ、ちょっと艦長にあいさつに行ってくる。」

 神大寺はそう言って、巨大な甲板後方に突き出た見上げるほどの高さの艦橋入り口へ歩いて行った。


「この人たちは、強烈な暗示をかけられて催眠状態にあるようです……それでも安静にしていれば数日で回復するはずなので、とりあえず医務室に連れて行って、けがや病気など体調を確認して、あとは回復するまで勝手に動き回らないよう監視をつけて静養させておいてください。」


 白衣の研究員が、幸平たちと救出してきた人々のプローブ外しをしながら、一緒に手伝ってくれている甲板作業に従事していた自衛隊員に指示を出す。


 車体の外では救出された人々の体に巻き付けたプローブを外していっているのだが、催眠状態にある人々は、解放された喜びを表すこともなく、ただその場に立ち尽くしているのみだ。



 その後、艦長の計らいで作戦成功を祝って盛大な艦上祝典が催された。


「どうする?このままこの船に乗っていても2日もあれば日本に帰れるが、ヘリを借りて帰ることもできるぞ。

 日本の米軍基地からも、救出された米兵たちを迎えるヘリがすでにこっちに向かってきているらしい。

 車体は置いていかなければならんが……まあ緊急の出動などはないと思うから、大丈夫だ。」


 艦長挨拶に続き神大寺や研究員たちの報告発表など一通り終わったころ、神大寺がアルコールを控えてコーラを飲みながら夢幻たちに確認する。

 左手には祝福のたばこを持っているのだが、夢幻たちの手前、火はつけていないようだ。


「あたしは……早く帰りたいです……。」

 美愛が一番最初に口を開く。


「十分寝たから、とりあえず眠くはないし、ヘリでも大丈夫ですよ。」

 夢幻もすぐに答える。


「おにぃは寝たりなかったらしく、透明になってしまいましたけど、すぐに起こしますから帰りましょう。」

 美由が傍らの空間に向けて、勢いよくダイビングする。


「ぐぼっ……し……死ぬ……。」

 パイプ椅子を相向かいにしてその上で寝ていた夢双が、強烈なエルボードロップを食らって姿を現し悶絶する。


「行きましょう。」

 美由が笑顔で手を引き、夢双の大きな体を立ち上がらせた。


「じゃあ、一足先に帰るとするか……。」

 神大寺は火のついていないたばこを傍らのゴミ箱に捨てると、夢幻たちとともに歩き出した。



「ほう……これが師匠のSNSか……おお……確かにいいねをもらっとる……しかもコメントが女性っぽいな……。」

 翌朝、浮遊能力を弱めないと自宅に帰れない夢幻と、遠くから原因究明のために泊りがけで来ている夢双が、NJビルの1階応接で談笑していた。


「なあに……何を見ているの?」

 美愛が、2人が注視しているスマホ画面を覗き込む。


「これって……お兄ちゃんの……いいの?こんなこと書きこんで……国家機密だって言っていなかった?」

 美愛が驚いて夢幻に問いただす。


 スマホ画面には夢幻のSNSページが表示されていて、そこには夢幻の睡眠時浮遊の様子や、車体での浮遊実験の様子を撮影した写真や動画が掲載されているのだ。


「ああ……研究員さんにも確認したんだが、どうせ一般の人たちは睡眠時浮遊なんてこと信じるはずもないから、イリュージョンとして掲載するなら大丈夫だろって言っていた。

 だから毎日実験のたびにその様子の画像を研究員さんにもらって、今日も浮きましたとか、浮遊しまくっていますなんて書き込んでいたわけだ。


 すると、いいねをいくつももらって、中には熱烈なファンも付いたんだぞ……。」

 夢幻が自慢げにSNSページのコメントを表示させる。


「ななこ……ななこさんって人?」


「ああそうさ……彼女の名前からたどってみたけど、SNSページの自己紹介のところに若くてピッチピチの美少女って書いてあった……そんな美少女が、毎日コメントを送ってくれているわけだ。」

 夢幻がいとおしそうにスマホを胸に抱く。


「ばっかねー……そんな自己紹介なんて、書いてあるだけだから信用できないわよ。


 いくらでも、なりすましなんてできるんだから……中には詐称された人に貢いでしまい、訴えたりしている人もいるのよ……。」

 美愛があきれたとばかりにため息を漏らす。


「そんなことありませんよ……ななこちゃんはピッチピチの美少女ですよ……何せ、私の愛娘ですからね。


 夢幻君のSNSページは反響がなくてかわいそうだったから、妻に言っていいねを書き込んでもらっているのですよ……妻の名前だとまずいので、娘の名前を使ってね。」

 そこにやってきた白衣の研究員が笑顔で答える。


「ええっ……若いって……。」


「そりゃあ若いですよ……まだ生まれたばかりで1歳にもなっていませんからね。


 今はベビーベッドの中ばかりで動きがないためあきらめていますが、そろそろ散歩などに連れ出しますので、これからおいおい、画像などもアップしていくつもりでいます。」

 さらに胸を張って自慢げに告げる。


「は・は・は……そうか……じゃあこの琢磨っていうのは?」


「それは私ですね。」


「じゃあ剛三っていうのは?」


「それは神大寺さんだと思いますよ……一応報告しておきましたからね。」


「じゃあ……ウルフってのは……」


「それは僕だよ……僕が最初のいいねをつけたつもりだけど……。」

 幸平が申し訳なさそうに、小声で告げる。


「なんと……すべて身内のみということか……。」

 夢幻ががっくりと肩を落とす。


「まあイリュージョンとしたって、もう少し見たくなるような題目などつけないと厳しいかもしれないよ。

 動画サイトに画像を投稿するのもいいかもしれない。」

 幸平が夢幻を慰める。


「そ……そうだったのか……師匠に対してたくさんのいいねをつけてくれとったのは、全員身内だったということか……ううむ……だがまあええやん……今回の作戦で、師匠がいかに睡眠に関して熟練しているか学べた……師匠は眠りのプロや……。


 俺も師匠に負けへんよう、早くどんな状況下でもすぐに寝てまえるようにならねば……。」

 そんな夢幻の様子を眺めながら、夢双は決意を新たにする。


 夢幻からSNSのことを聞かされ、自分も同様に有名人になろうとしていたのか、夢双は少しショックを受けた様子だったが、それでも夢幻に対する尊敬の念は変わりがない様だ。


「何言っとりゃあすか……おにぃは、寝とるときに透明にならせんで済むよう、治してもらいてぁーてここへきとるんじゃなかったげな?

 いつでも寝られるように学ぶだなんて……今のまんまでええんか?」

 そんな夢双に対して、美由がつっこむ。


「まあ、そうやな……師匠の睡眠時浮遊も円盤潜入時に欠かせん能力やが、俺の睡眠時透明やって、敵円盤が透明でいる時には、潜入に必須の能力なわけやろ?

 だったら、このまんまでええさ……幸平君に聞いたが、まんだ敵円盤は百機以上おるわけや?


 中には透明でやってくる円盤もおるやろうから、俺の能力の出番が回ってくる可能性もあるやろ。

 そん時のために、いつでも自由自在に寝てまえるよう、日々鍛錬しよみゃあ思う……。」

 夢幻たちに、頼もしい仲間が増えたようだ。


「そういえば……そろそろ、敵円盤を追い払ったことと、さらわれた人々と拉致された米兵の一部救出を祝って、記念式典が日本の米軍基地内で行われるようですよ。


 今回は、衛星通信で全世界に中継されるようです。」

 白衣の研究員は、そう呟きながら応接のテレビのスイッチを入れる。


「えっ……そうなんですか?

 でも……あたしたちには、何の連絡もなかったけど……???」

 美愛が首をかしげる。


「ええ、そうですよ……NJからは神大寺所長が出席しています。

 それとソナー担当の自衛隊員ですかね……彼らに任せておけばいいですよ……。」

 研究員はそう告げながら、テレビの正面のソファに腰かけた。


<パーンパーンと空砲が鳴り響く中、華やかな式典が始まりました。

 米国大統領からの祝福のメッセージが、会場に特設された巨大スクリーンに映し出されております。>


 紙吹雪が舞い、白いハトが雲一つない青空に向けて飛び立っていき、盛大な式典が始まった。

 会場後方の巨大スクリーンには、がっしりした体格の中年男性が、こぶしを握り締めながら力強く演説する様子が映し出されている。


<米国艦隊が全滅してしまった時には、もうこの星は終わりだと思ってしまいましたが、起死回生の救出劇を演じたのは、なんと日本の方たちでした……。>


 カメラがターンして再びアナウンサーを映し出すと、その傍らにはスーツを着ていてもすぐにわかるほど、がっしりした筋肉質の男性2名が笑顔で立っていた。


「あっ……神大寺さんとソナー担当の自衛隊員……でもなんで軍服じゃないの?

 神大寺さんだって、元々は自衛隊員なんでしょ?」

 美愛が不思議そうに、テレビを覗き込む。


<お手柄でしたね……さらわれた人たちを発見したときの経緯をお伺いしたいのですが……>

 アナウンサーがマイクを神大寺に向ける。


<そうですね……自分と友人の2人で太平洋上を、カジキマグロを釣り上げようとボートをチャーターして3日ほど周遊していたのですが、その時に洋上を漂っているたくさんの人たちを発見したのです。


 これは一大事と思い、すぐに救難信号を発しまして……すると近くを航行していた日本の自衛隊の巡洋艦が駆け付けてくれまして、人々を救出したわけです。


 なにせ我々のボートはせいぜい数人しか乗れませんから、何百人もの人たちを救出することはできませんでしたので……焦りましたよ>

 すると神大寺が驚きのコメントを発する。


「ええっ……一体どういうこと?」

 美愛がソファから降りて、テレビの前に膝をつく。


<そうですか……その時人々は元気な様子でしたか?

 何か心配事はありませんでしたか?>


<はいそうですね……人々は無言で慌てた様子もなく、そのためこちらも落ち着いて対処できたわけですが……やはり海の上ということで、サメなど襲ってこないかと心配で……救出の船が来るまでは、船を彼らの周りを周回させて、外敵から守っていました。


 なにせ彼らは、何か大きな金属片の上に乗って浮いていただけでしたからね。>

 アナウンサーの質問に対して、神大寺はありもしないことを平然と述べ連ねる。


<そうですか……その金属片は……残念ながら回収できず、人々を救出した時点で太平洋の真ん中へと沈んで行ってしまったわけですよね……。

 専門家の推定では、その金属片というのは、人々をさらっていた円盤の破片ではなかったかということです。


 恐らく米軍艦隊との決戦により、巨大円盤も多大な被害を被っていて、空中爆発を起こして海底へ沈んでしまったものというのが、自衛隊及び米軍の見解です。

 巨大円盤は透明な状態であったために、そのダメージの程度を把握できていなかったということのようです。>


<そのようですね……何も知らない我々は、のんきに釣りをしようとしていたのが、お恥ずかしい限りです。>

 神大寺はそう言いながら、恥ずかしそうに頭を掻く。


<でも、あなたたちのおかげで、人々は無事保護されましたし、敵円盤が爆発したことも分かったわけです。

 お手柄といえますよ……では、祝典はまだまだ続きますが、一旦スタジオにお返しします。>

 アナウンサーの言葉とともに、テレビの画面が切り替わった。


「はあー……神大寺さんが出席したといっていたから、今度こそ日本の自衛隊員の活躍で円盤を追い払うことができたって、全世界に発表するのかと思っていたけど、まったく違ったね……。}

 幸平が、ソファに座ったまま天井を見上げて、大きくため息をつく。


「何なのよ……全くあたしたちの活躍が説明されていないじゃない……せめて円盤内に潜入して、敵円盤を追い返すことに命を懸けたチームがいたんだって……それくらい言ってくれたっていいんじゃないの?


 神大寺さんだって……命がけで任務を果たしたっていうのに……。」

 美愛が不満を漏らす。


「まあそうですけどね……ですが……我々はあくまでも表向きは官庁向けの事務用品の販売業者ですからね。

 神大寺さんが自衛隊から派遣されているとわかると、何かと都合が悪いわけですよ。」

 研究員が寂しそうに笑みを浮かべる。


「でも……誘拐されていた人たちや、自衛隊の船に乗っとった人たちは、あたしたちが乗っていた車体……ですか?人々を救出してきた様子を見とりゃあしたはずですよね……この発表を見て不思議に思わんのですかね?」

 今度は美由が首をかしげる。


「……あの艦隊の乗組員たちには、車体は自衛隊が極秘で開発した、最新鋭の飛行体であると説明しているようです……夢幻君の飛行能力という説明よりも、はるかにたやすく信じてくれたようです。


 その試運転を兼ねた極秘任務であったということで、箝口令を引いてあるようですし、誘拐された人たちは催眠状態にありましたから、救出された様子を語ることはないでしょう。」

 研究員が、仕方がないとばかりにつぶやく。


「はあ……お兄ちゃんの能力が世間に認知されることも、あたしたちの命がけの任務が公になることも、ありえないということなのね……。」

 美愛が悲しそうに首を振る。


「まあ、仕方がありません……もう少し超能力ということに関して、世間の理解が得られるようになるまでは、隠しておいたほうがいいと思います……。


 いずれ、その時はやってきますよ……なにせ、まだまだ百機の円盤たちが飛来してきかねないわけですからね。

 地球外生命体への理解が深まれば、超能力への理解も深まると私は考えております。」

 研究員が美愛を慰める。


「まあいいじゃないか……また海軍カレーがもらえるぞ……。」

 一人夢幻だけはご満悦な様子だ……。




今回で第2章完ということになります。また何か思いつきましたら、続編を掲載したいと考えております。

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