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第41話

15

「こっ……こんなことが起きとったなんて……あの円盤は地球外生命体のものだったいうことですか?

 確かにテレビでは色々言われとりましたが、最後はどこかの国の秘密兵器で、人々を連れさらって行って、身代金を要求しているなんていう意見がほとんどでしたがね。


 だから米国の空母が出向いて行って、誘拐された人々の大半がようやく解放されたけど、戦って勝って連れ戻せたのでなく、身代金を払って開放してもらっただけだなんて言われとりましたげな?

 しかもその身代金が何十兆円とか、いやもっと天文学的な金額だったなんて、囁かれたりしとりましたね。


 今回の消える円盤騒動だって、前回で味を占めた国が今度はより進化した円盤兵器を持ち出してきたなんて、学校でも話題になっとったし、今のところはアメリカやヨーロッパでしか被害が発生していないから、その辺の敵対国によるものだと、俺だって思っとりました。


 それが……宇宙人?しかも、俺たちをエサにしているって……?俺たちは宇宙人たちの食糧だっていうんですか?みっ……美由……知っとりゃあしたか?」


「ううん……全然知っとりゃせんかった……学校での話題はアイドルのことだけだし……政治経済なんて、受験に関すること以外は興味がないもんだでね……。」


 その説明内容は夢双兄妹にとって驚愕であった……無理もない、人的被害の出ていない日本では、巨大円盤による人々の誘拐事件でさえも、対岸の火事でしかないのだ。


「そっ……そうだわな?俺たちだって、学校での話題といえばネットゲームか、女性アイドルのことばっかで……おっ……おみゃー……いや……皆さんは……この事実を知っとりゃ……知っとったんですか?」


 神大寺と白衣の研究員が、会議室のスクリーンに映し出される円盤の外観に加え、内部構造と宇宙人のミイラからの復元CGなどを用いて説明するのを驚愕な面持ちで聞いていた夢双だったが、美愛たちは極めて冷静にしているのを見て、目を丸くして問いただす。


「そりゃそうよ……だってあたしたちが行って円盤を追い返したんだもの……しかも、どこかの星系とかの太陽に突っ込ませたのよ……。」

 当事者であった美愛が、自慢げに胸を張ってこたえる。


「そうでりゃーしたか……。」


「へえ……すごいげな……あこがれてまう……。」

 夢双は意気消沈したかのようにうなだれ、美由は目をキラキラと輝かせて美愛を見つめる……。


「こんな大変なことが起きとったなんて……それなのに俺は、自分が寝とる時にその姿が見えなくなってまうから、俺の姿を見失ってしまった妹が毎朝エルボードロップを悔し紛れにベッドに炸裂させて、それが大抵の場合みぞおちに決まるから……苦しい思いをして大変なもんだで、何とかこの病気を治してくださいとネットで情報をお願いして、それを解決してもらえるもんだと考えとりました。


 しかし、そんな俺の悩みなんて実にとろくしゃあもんでした……地球規模の危機に比べりゃあ……大したことありゃあせん……そりゃ確かに美由のエルボードロップは強烈ですが、宇宙人のえさになってまうのに比べたら……ちっこい事です。


 それでさっきの実験は、今回もまた救出作戦に出発するにあたって、何かの研究をしとったわけなんですか?」

 夢双は自分のことだけ考えて、先ほどの実験の意味を問いただしていた自分が恥ずかしくなっていた。


 もしかすると、以前の円盤を追い返したメンバーたちの作戦に、必要な確認事項だったのかもしれないのだ。

 そんな世紀の大役の一助に自分がなれたのであれば、それは喜ばしいことなのだ……笑顔で神大寺たちに振り返る。


「もちろんですよ……十分に解析させていただきました。

 夢幻君の持つバリアー機能に夢双君の持つ透明機能……この2つが合体することにより、今度の円盤にも安全に潜入することができそうです。」

 白衣の研究員が嬉しそうに笑顔で答える。


「はあ……俺の透明機能……って、さっきの実験ですよね……美由の話ではなぜだかみんなを乗せた鉄板が浮かび上がったけど、そのちいと後に周り中真っ暗闇になっとったって……それと俺の姿が見えなくなることと、どんな関係があるのですか?


 俺は熟睡していたはずですが、美由の話では俺の姿は透明にはならずに、ずっと見えとったって言っとりました。

 ただ周りが真っ暗になっていただけだって……ところが俺の体の検査もせんと、前進だの後進だの指示されるままに美愛ちゃんが操作レバーをだだくさに動かしていたばっかだったって。


 せっかく寝ている俺の体をなぶることができたはずなのに、何の検査もしないなんてたーけだって美由は文句をたれとったのですが……だから、先ほど俺が状況確認をしたわけなのですが……。


 実はそうでなく、美愛ちゃんの動かす操作レバーで俺の体の検査をしていたということだったのですね?

 じゃあ、俺の病気は治るわけですね?」

 夢双は研究員の言葉に、興奮気味に目を輝かせる。


「いえいえいえ……夢幻君の体が寝ているときに浮遊することも、夢双君の体が寝ているときに見えなくなってしまうことも、原因や治療方法なんて全く分かっておりません。

 ただ一つ分かったことは、夢双君の持つ透明化能力は、巨大円盤が消える透明機能とほぼ同等であるということだけですよ。


 その透明化の機能を利用して、敵円盤内部に潜入するのです。」

 白衣の研究員が至極真面目な顔で答える。


「へっ……さっきまでの実験は……俺の体が寝とるときに、周りから見えなくなってしまう原因を見つけ出して、それと同じ装置を作り出して円盤へ潜入しようとしとるのだと理解しとりましたが、ところが原因はわかっとらんという……原因がわからんのだから、もちろん俺の病気も治らないんだということだきゃあは理解できたですが……だったらあの実験は何のために行われたのですか?


 実験したけど失敗だったということではないでしょう?皆さんの言葉から、あんばぃよう実験は成功って感じの印象を受けましたけど……。」

 研究員の言葉の意味が分からず、夢双は首をかしげる。


「うーん……どうにも話がかみ合っていないようだね……実はさっき美愛ちゃんが言ったように、前回巨大円盤が出現したときに、我々は夢幻君の能力を使って……というか、具体的には寝ているときに浮遊するという夢幻君を寝せたまま円盤内に一緒に潜入し、内部コントロールを操作して巨大円盤を追い返したわけだ。


 今回の透明円盤に対しても、全く同じことを行おうとしたのだが失敗してしまって、今度の円盤は透明保護膜に守られていて、その保護膜は夢幻君の能力を吸い取ってしまう効果があることがわかった。

 その効果は、夢双君……君の持つ透明膜の機能の一部でもあるわけだ。


 また、透明機能と円盤のバリアーは別物で、どちらか一方だけ切ったり入れたりできることも、米艦隊攻撃により明らかになった。

 だからこそ、先ほどの実験では2人の体をプローブでつなぎ合わせ、互いの保護膜が競合しあわないか、干渉しあって打ち消しあったりしないか確認したわけだ。


 今回の実験で2人の能力は、それぞれ独立しても働くが、同時に一つの膜としても機能することが分かったわけだ。

 つまり……君が夢幻君と一緒に来て寝てくれれば、また円盤内に安全に潜入できそうということだ、協力してくれるね?」


 どうにも話のかみ合わない夢双に対して、神大寺はホワイトボードに夢幻=睡眠時浮遊+バリアー、夢双=睡眠時透明+敵の能力を吸い取る……と書いたうえで、さらにそれぞれを丸で囲んで、間に大きく+の記号を挿入し、1段下に=巨大円盤の透明機能+バリアーと書き足した。


「はあー……つまり俺が寝ているときに姿が見えなくなるいうことは、その……透明膜に包まれているからで……さらにその透明膜は、あの巨大円盤に潜入するときに役に立つ……だもんだで、俺も一緒に巨大円盤の中に潜入しよみゃあと……こうおっしゃるわけですね……?」


 ようやく状況が呑み込めてきた夢双が、ため息交じりに神大寺の問いかけに質問で返す……無理もない……何せ自分が寝ているときに姿が見えなくなるという奇病を治したいがために、解析してくれるという団体を頼りにわざわざ遠くからやってきたわけだ。


 ところがその能力は地球外生命体と戦うのに役立つから、一緒に戦ってくれと言われたわけだ……病気を治すどころか、未知なる文明との戦いに命を懸けなければならなくなってしまったのだ。


 宿泊先を確保してくれて、さらには旅費まで向こう持ちという破格の待遇に違和感を覚えないこともなかったのだが、世界でも類を見ない奇病を解決して名を上げたいのだろうと考え、無理に疑おうともしていなかった。

 何せ相手は公的な研究機関を名乗ってきたわけだから……確かに公的な機関だった……地球規模の危機と、相対峙しようとしているわけだから……だがそれは、高校生である夢双に対してあまりにも重い言葉だった……。


「まあ……無理強いはできない……なにせ本当に命がけの任務だからね……前回の潜入時はとんとん拍子に事が進んで、無事帰れたことは、まさに奇跡的に運がよかったとしか言いようがない。

 何か一つでも違っていたなら、ああなっていなかっただろう……。」

 神大寺がしみじみつぶやく……無理もない……前回は完全に死を覚悟したのだから……。


「まあ、妹の美由ちゃんは……危険だから任務からは外れてもらうとしても、夢双君には協力をお願いしたいところだ……。」

 そうして神大寺は夢双に向かって大きく頭を下げる。


「無理です……おにぃはこう見えて神経がか細いもんだで、環境が変わったら眠ることは、まああかんですね……お気に入りのパジャマは必須ですが、それでも家族の誰かがちいとそばにいないと、眠ろうとせんでしょう。


 高校の修学旅行の時、九州の大分に行ったのですが、毎晩1時間以上もずっとあたしがスマホでお兄ちゃんに話しかけてやって、ようやく寝付いたくりゃあですから。


 家族間通話無料の契約をしていたので良かったのですが、今度の作戦では恐らく海外になってしまうでしょうから、電話代が……。」

 美由が難しそうな顔をして首を横に振る。


「そっ……そんなことあらーすか……お兄ちゃんはそんな弱虫じゃにゃーで……一人でだってあんばぃよう寝られるでね……。」

 夢双が美由の言葉を自信なさそうに否定する。


「へえ……俺よりも重症だな……。」

 その言葉を聞いて、夢幻が嬉しそうにほくそ笑む。


「お兄ちゃん……失礼でしょ!」

 そんな夢幻を美愛が肘で小突いた。


「でも……本当に地球規模の危機で、あたしたちがその力になれるのであれば、ぜひとも参加させてもらいたいです……夢幻さんや美愛さんたちは、あたしたちと年がほとんど変わらないというのに、前回も地球の危機を救いよったんですね?


 そうして今回も、その任務を果たそうと考えとらっしゃる……それならあたしたちも参加しよみゃあ思います。

 お兄ちゃんはあたしがいればすぐに寝付くことはできやーすし、起こすときも……任せてください。」

 美由は自信満々に不敵な笑みを漏らす。


「たーけたことぬかすな……命を懸けて戦ういうことが、どんなことかわかっとるか?

 失敗したら、死んでまうんだかんね!


 それに起こすって言って、どうせまたエルボードロップかまそうと考えとるわけやろ?あれはあかん……お兄ちゃんあれで起こされるたんびに、その日1日みぞおちの痛みを引きずっていなければならなくなってまう。


 わかってて技を食らうならまだしも、無防備な睡眠途中に強烈な一発を食ってまうもんだで……そりゃもうたまらんがや……やさーしく……やさーしく起こしてちょう……頼むわ……。」

 夢双はそう言いながら美由に向かって両手を合わせる。


「じゃあ……夢双君も参加してくれるということでいいのかな?」

 神大寺がやさしく確認する。


「いえいえいえ……とんでもありゃあしません……俺たち兄妹は不参加でお願いいたします。」

 夢双はかたくなに拒否をする。


「おにぃが参加を渋るのなら、あたし一人だけでも参加します……こう見えてもアマレスでは結構有名なんですよ、宇宙人とも戦えます。」

 美由はその場で立ち上がり、レスリングの構えをして見せる。


「おいおい……そんなこと許しとったら、うちに帰ってから俺が父さんたちにどえりゃあ怒られてまうやろ?

 やめとこみゃあ……なあ……宇宙人と戦うなんて、絶対危にゃーって……。」

 夢双は何とか美由を説得にかかるが、美由はそっぽを向いて返事もしない。


「ちょっとちょっと……。」

 そんな夢双を夢幻が呼び寄せて耳打ちする。


「えっ……なんだって……?美少女が……?しかも抜群のプロポ……」

 夢幻の言葉を聞くたび夢双が、怪しげな笑みを浮かべる。


「どうかな……夢双君……やっぱり難しいかね?」

 神大寺がじれて催促をする。


「はあ……まあ……美由がああいうのであれば、仕方がないですね……。」

 夢幻から何か聞かされた夢双は、突然180度転回し、美由の気持ちを優先するようだ……一体何があったというのか?


「でも……これだけは覚えておいたほうがいいわよ……命がけの任務を成功させても、その功績は公表されることはなく、前回だってたった1枚の感謝状とレトルトカレーがもらえただけ。

 おそらく今回もそう……見返りは期待しないほうがいいわよ。」

 美愛が、夢双兄妹に現実を告げる。


「えっ……?そうなんか?」

 その言葉に夢双は夢幻のほうへと振り返る……。


「ダイジョブダイジョブ……見る人が見れば、わかるものさ……。」

 夢幻は自信満々にピースサインを出す。


「ああそうか、ならええです……大丈夫です……お国のため、地球のために戦いますよ……。」

 夢双は、きっぱりと言い放った。


「そうと決まれば……まだ2,3確認しなければならないことがありますからね……。


 夢幻君のバリアーはプローブでつながった範囲内であれば、どこまでも広がることが確認されていますが、夢双君の透明保護膜はどうなのかということと、持続時間の確認ですね……夢幻君のように睡眠状態によって進行方向が変わるように、透明膜の機能に変化が現れるのかなど、これから確認させてください。


 これらは夢幻君と同期させなくても単独で確認可能ですから、これから再度風洞実験室に戻っていただきます。

 その間に、美由ちゃん用のつなぎ制作のための採寸もしましょうかね……夢双君にはお気に入りのパジャマを数点購入してあります……枕もありますからね……。」


 白衣の研究員は手持ちのタブレットにペンで文字を書き込むと同時に、メールで各所に指示を送付し、それから夢双たちと風洞実験室へ上がっていった。



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