第39話
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「おっもう攻撃は始まっている様子だな……前回と違い、今回は海軍艦隊が加わっての作戦だ。
言ってしまえば当初から計画されていた作戦が使えるということだ……航空機だけではなく艦隊も含めた集中攻撃で、どこまでの被害を敵円盤にもたらすことができるか見ものだね。
まあ少しでも敵の保護膜にダメージを与えるなりして、堪らずにバリアーを解いて反撃に転じようとさえしてくれれば、おそらくこちら側の勝利となるだろう。
この間の大統領のコメント通りだとすれば、敵円盤の内部破壊プログラムを組み込まれた何千機ものドローンが、透明保護膜の中に入り込んで、破壊活動を開始するはずだ。
2機目が来たということは3機目が飛来する可能性があるということだし、今後の安心のためにも圧倒的勝利を望むね……。」
意気揚々と1階の応接フロアのテレビのスイッチを入れ、神大寺は真ん前のソファに腰掛け、前かがみで画面に注目する。
画面上では撮影用のドローンを飛ばしているのか、ゆっくりと視点を変えながら戦闘機や艦隊の様子が映し出されている。
すでに戦闘は始まっているようで、上空には何もない空間に爆炎が発生していて、その部分が巨大円盤の透明保護膜に当たるのだろうと想像できる。
「ふうん……高度8千メートルとなっていますね……1時期国際線でも被害が発生し初めて、1万2千メートル付近まで上昇したものと推定していましたが、また戻ったようですね。
それとも飛行禁止高度設定を上げたから、元に戻ったのでしょうかね……。」
テレビ画面に表示されるテロップを見ながら、研究員がコメントする。
緯度と経度も一緒に表示されているのではあるが、地球儀があるわけでもなく、その場所が太平洋上のどのあたりかまでは、すぐには想像できない。
美愛たちも一度は巨大円盤に潜入を試みたわけではあるが、輸送機から大海原上空へ直接出たので、どのあたりになるかまではわかっていなかった。
「今回はすごいですね……A国の超能力者は見えませんが、それでも戦闘機編隊に加えて爆撃機と、これから艦隊攻撃が始まるわけですよね。
いくら透明保護膜が防御力に優れているといっても、集中攻撃を食らえばさすがにダメージは発生するでしょう。
かといって一瞬でも保護膜を解いて反撃を仕掛けようとすれば、ドローンを送り込まれることもありますが、何より艦隊からの直接攻撃だけでも、巨大円盤の被害は甚大となるのではないですかね……。
間違いなく勝てますよ……。」
幸平も自信満々に笑顔を見せる。
画面には5機編隊の戦闘機が直進していき、ミサイルを発射しては次々と反転していく様子が映し出されている。
後続が数百機はいるのだろうか、順繰りに戦闘機編隊が攻撃を仕掛けていき、透明保護膜の爆炎が途切れることはない。
さらにその上空では、爆撃機による爆弾投下が行われているようだ。
数十機ほどの爆撃機が小さな円を描くように周回しながら、透明保護膜の上側に爆弾を投下して行っているため、上方でも爆炎が発生しているのが、透明保護膜を透かして裏側から確認できる。
”ドーンドーン”とひときわ大きな音がして、艦隊からの砲撃が始まった。
イージス艦や駆逐艦などが一斉に砲撃を開始しているようだ。
「おそらく、弾頭も何種類か使い分けして効果確認を行っているだろう。
今後の戦闘のためにもデータ取りをしているはずだ。」
神大寺がじっと様子を見つめながらつぶやく。
イージス艦からは対空ミサイルも発射されているようで、時折ミサイル搭載カメラ映像なのか、はるか先の爆炎の中に高速で突っ込んでいき、何もない空間で突然爆炎が上がる映像が織り込まれる。
何もないはずの上空では、海上からと側方と上方3方からの攻撃で、真っ黒い巨大な雷雲でも発生したかの様子で、その部分だけは周りからの視界をはっきりと遮っていた。
だれもが巨大円盤側が耐え切れずに、一旦透明保護膜を解いて反撃に転じる瞬間を待ちわびていた。
”ガーンッガッガァーンッ”ところが予想に反して、ミサイル攻撃を仕掛けていた戦闘機の編隊が、反転前に空中爆発すると……後続の編隊もミサイル発射前の飛行中に空中爆発を起こした。
「爆煙の位置が戦闘機編隊に近づいて行っている……透明保護膜を利かせたままで移動しているんだ……これじゃあ、円盤の保護膜にぶつかって戦闘機は粉々だ……!」
幸平の言う通り、巨大円盤は透明を保ったまま位置を動かしているようで、先ほどまでと爆炎の位置が少しずつ手前側にずれてきているようだった。
たまらず戦闘機の後続の列は反転し逃げようとするが、それを追いかけるように追随して行っているのか、上空の爆撃機をも巻き込んで、飛行編隊の空中爆発は続いていく。
戦闘機と爆撃機の空中爆発の様子から、円盤は透明を保ったままでも高速飛行が可能……というよりも、その大きさ分までも動いてはしていないのかもしれないが、それでも上空に群がっていた戦闘機編隊と爆撃機編隊は1機も見えなくなった。
「艦隊からの攻撃だけでは、簡単に逃げられてしまいますね……。」
幸平が意気消沈しながらつぶやく。
「どうして……一体どうしてなの?」
美愛は、目の前の映像が信じられないといわんばかりに、両手で頭を抱えながら涙を流す。
”ドーンッドーンッ”それでもめげずに艦隊からは、移動先めがけて集中攻撃が再開された。
どこでも当たればいいというのではなく、1ヶ所を集中的に狙う作戦のようだ。
「そうだ……まだ透明保護膜を無効にさえすれば、ドローンを送り込む手立てはある……向こうだって戦闘機や爆撃機からの攻撃が響いていたからこそ、体当たり的な攻撃に転じたはずだ。
もう少しなんだ……。」
神大寺がもう一度気を取り直して画面を見つめる。
”ヒュンヒュンヒューン”すると次の瞬間、空から無数の光の粒が雨粒のように、艦隊周囲一面に降り注いできた。
”ガッガァーンドッガァーン”そうして次々と戦艦が大爆発を起こして沈んでいく。
”ヒュンヒュン……ガガガーンッ”光の粒は回避行動をとる艦隊に対し、移動しながら次々に襲い掛かっていき、やがて海上には1隻の船もいなくなってしまった。
そうしてしばらくして、その映像も途絶えた……おそらく制御を失ったドローンが墜落したのであろう。
「………………………………」
一同無言のまま、長い時間が流れた……テレビ画面も映像が途切れたまま、回復することはなかった。
<いったい何が起きたのでしょうか……映像の乱れを深くお詫びいたします。
太平洋上の作戦展開ですからね……通信上の問題もまあ出ますよ……しばらく待っていれば現地状況も見えてくるのではないですかね……。
そうですね……いったんCMとなります。>
突然画面が切り替わりスタジオの映像となって、アナウンサーと解説者の会話の後コマーシャルが流れ始めた。
「現地状況など、どれだけ待っても見えてくるはずがない……艦隊も戦闘機部隊も爆撃機部隊も全滅だ……。
見た通りだろうが……なぜ、素直にコメントできない……。」
神大寺が絶望の弁を発する。
「透明保護膜を張ったままでも円盤は飛行できるということを忘れていましたね……姿を全く見せずにいつの間にか飛来していたわけですからね……人々を誘拐する瞬間だけ透明保護膜を解かなければならないので、小型円盤が目撃されていたのです。
前回飛来した時には巨大円盤は透明化していませんでしたから、その状態で体当たりしようと動けば目視確認可能ですからね……簡単によけられたでしょう。
そのため、一旦バリアーを解いて反撃に転じるしかなかったのでしょうが、今回は透明化しているからそれだけで武器になるわけですよね。
さらに……透明保護膜を通して攻撃を仕掛けることまでできたということですから……これはもう脅威と言わざるを得ませんね……。」
白衣の研究員が難しい顔をして腕組みする。
<あっと……アメリカから艦隊からの通信で、別の映像が残っていたというコメントが入りました。
これがその映像のようです。>
コマーシャルが終わった後も、アナウンサーと解説者の一向に的を射ないコメントが続いていたのだが、突然画面が爆炎の隙間から見える青空の映像に切り替わる。
爆炎の炎が近づいてきたかと思うと、それを突き抜けて一瞬で別世界に切り替わり、無機質で光沢のある巨大な壁のようなものが目の前に現れたかと思った瞬間、猛烈な爆発が発生して画面が途切れる。
そう言った映像が、その後も何本も繰り返された。
「何ですかね……この映像は……。」
さすがの研究員も訳がわからずに首をかしげる。
<先ほどの映像は、イージス艦から発射された対空ミサイルに搭載されたカメラからの映像と分かりました。
アメリカ政府のコメントでは、超巨大円盤にわが軍のミサイルが達した証拠映像となっているようです。>
アナウンサーが、先ほどの映像の説明を付け足す。
「ああそうですか……ミサイルの着弾時の映像でしたか……透明保護膜を突き抜けて巨大円盤にまで達したということになりますね……。
そうなると透明保護膜として推定していたのは間違いで、透明化の膜と保護膜……つまりバリアーは別物ということになりますね。
バリアーを切って透明化のままでも攻撃を仕掛けることは可能だが、相手からの攻撃は受けてしまう……だから光の帯で艦隊攻撃を仕掛けていた時の対空ミサイルは、巨大円盤にまで達することができたのです。
ううむ……あの時にドローンを飛ばしておきさえすれば……。」
白衣の研究員が歯噛みして悔しがる。
「まあ仕方がないな……君の推測通りだとしても、透明化したままでいつバリアーが切れたのか、確認のしようがないわけだ。
前回の時はA国の超能力者と戦闘機の編隊が集中攻撃を仕掛け、その弾幕が消えて円盤に直接被弾するのが見えたからバリアーの消失を知ることができた。
しかし今回は透明化してバリアーを張ったままで飛行し、攻撃機をすべて抹消してからバリアーを解いている。
艦隊からの対空砲火では、距離がありすぎて着弾の判定を細かく行うことはできなかっただろう。
いくら巨大円盤とはいえ、海上8千メートル上空に浮いているわけだからね。」
神大寺がうなだれながら何度もうなずく。
あらゆる事態を想定して何十年も前から作戦を練っていたはずなのだが、その想定を超える現状に、再度作戦の練り直しが必要なことは、誰の目にも明らかであった。
その日の晩は誰も家に帰ろうとはせずに、エヌジェイビルに泊まり込みとなった。
美愛が家に電話すると、父が久しぶりに腕を振るうと張り切って夕食の支度を始めたようだ。
エヌジェイビルでは賄いの食事が出るため、ベッドの上に食卓を設置して、夢幻は上機嫌でおいしそうにとんかつ定食を平らげた。
美愛と幸平も夢幻の部屋で一緒に食事をしたのだが、口を開くのは夢幻一人だけで、いつもは騒がしい食事時も、この日ばかりは静まり返っていた。
うなだれて部屋に戻ってきた2人の様子を見て、夢幻はアメリカ軍の攻撃がうまくいかなかったことはある程度察していた……それでも自分だけは努めて明るくしようと、父親譲りのダジャレを何度も連発して、場を盛り上げようと必死だった。
“カチャッ”「はぁはぁはぁ……分かりましたよ……おそらく透明保護膜……というか透明化膜には、超能力を吸い取って1時的に自分のものにする特質があるのでしょう。
そのため巨大円盤への潜入を試みたときに、夢幻君はその力を吸い取られて衰弱したものと考えられます。
おそらくA国の超能力者たちも、同じく超能力を吸い取られかけたのでしょう……こちらは非常に短時間だけだったようですがね。
そうして夢幻君の浮遊能力を吸い取った巨大円盤がいつの間にか上昇し、国際線にまで被害が及んだと推定されます。
さらに夢双君の透明化ですが……2人が握手した時にも夢幻君の浮遊能力を吸い取ろうとしたのでしょうが、2人とも起きていたためなのか、もしくは夢幻君に何らかの保護機能が働いたせいなのかわかりませんが、ともかく弾かれる様に2人は離れたわけです。
それでも夢双君はその後の透明化実験で、浮遊するという症状も併発しております……これはその時の一回だけでしたし、バリアー機能までは獲得できなかったようですがね。
つまり夢双君の透明化能力は、巨大円盤の透明膜と同じ機能であると推察されます。
彼と一緒なら、安全に透明膜を超えられますよ……。」
ちょうどそこへ白衣姿の研究員が息せき切って駆け込んできた……手には数枚の映像を切り取ってプリントアウトした写真が……恐らく食事もせずにこれまでの映像を解析していたのだろう。
「そうはいっても、お兄ちゃんが……。」
美愛が悲しい顔でうなだれる……。
「大丈夫だよ……ここ2,3日は調子が悪いだけさ……。」
夢幻は一人元気に明るく答える。
「そうですね……夢幻君の能力は未だに戻っていないわけですよね……。」
それまでは笑顔を見せていた白衣の研究員の顔が曇る……もう5日も夢幻の空中浮遊が発現していないのだ。
「取り敢えず、神大寺所長にはこの旨を報告しておきます。
夢双君たち兄妹は家が遠いため、夏休み中はこの隣の部屋に宿泊予定です。
後で美愛ちゃん用にベッドを運び入れさせますので、すいませんが兄妹仲良くこの部屋で寝てください。
幸平君は……申し訳ないですが、1階の応接のソファに寝ていただくことになりそうです……もしくは私たちが使っている宿直室ならベッドがあるのですが……どうしますか?」
研究員が美愛たちの部屋割りを説明してくれる……いつもなら夢幻と幸平がキングサイズの夢幻のベッドで一緒に寝て、隣の部屋に美愛が寝ていたのだが、別客が来たためにレイアウト変更が必要となったのだ。
「僕はどちらでもいいですよ……夜も冷え込むことはないからソファで寝ても構いません……会社で徹夜する時はソファで寝ることはしょっちゅうですから平気です。」
幸平は明るく答え、研究員から枕とタオルケットを受け取り1階へ降りて行った。
”ギシギシギシギシ……”「お……お兄ちゃん……。」
その日の夜中、美愛の口から歓喜の声が漏れ出る……。(決していやらしい場面を想像しないでくださいね……)




