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第33話

「じゃあ行こう……。」

 美愛への説得も一区切りついたと判断したのか、夢幻はそのまま事務所の玄関へと歩きだした……パジャマ姿のままで……。


「あっ待ってよう……あたしはまだユニフォームに着替えていないのよう……。」

 高校の制服姿の美愛が、あつらえてくれた皮つなぎを手に夢幻を追って行く。


「まあ輸送機内で時間があるから、その時に着替えられますよね……。」

 こちらも制服姿の幸平が、皮つなぎとヘルメットを手に後を追って行った。



 エヌジェイ事務所から自衛隊基地まで車で行き、そこで待ち受けていたヘリに乗り込む。


「今回は太平洋上なので、前回のようにジェット戦闘機は使用しません。

 航空自衛隊基地から輸送機で直接向かいます……12時間ほどのフライトの予定です……。」

 ヘリのオペレーターの指示に従い、航空自衛隊基地で輸送機へ乗り換え、太平洋上へと向かった。



「これが改造した新型車体です。」

 輸送機の格納庫の中で、白衣の研究員がRV車を模った金属製の張りぼてを見せてくれる。


「改造って……どこが変わったのよ……。」

 美愛が車体のドアを開け、中の操縦席へと座り様子をうかがう。


「基本操作は前回と変わりありません……2本の操作レバーを使って縦横方向へ夢幻君が入ったカプセルを回して操作します。


 改造したのは安全性に関してです……カプセル内の夢幻君の心拍や呼吸数など異常がないか、操縦席でモニターできるようになりました。


 以前は自動開傘のパラシュートがカプセルに付属しているだけでしたが、今回から発信機が取り付けられました。

 これにより万一の事故の際に、発見されやすくなります。

 もちろん皆さんが装着するパラシュートにも、ベルト部分に同様に発信機がつけられています。


 また、カプセルは防水仕様で、中に空気が満たされているため水に浮きますが、夢幻君が目を覚ました時のために、救命ボートも取り付けることにしました。

 海面に降下した場合は空気が送り込まれて、自動的にゴムボートが浮かび上がります。


 ボート上で救助を待てるので、皆さんもまずは夢幻君のカプセルを探してください。


 あとは日の丸ですね……フロント部分にミニ国旗を付けるといった意見もありましたが、そんなものでは足りないと、車体側面と天板に白地に赤丸の日の丸を描いてあります。


 それから操作レバーの脇にある大きな丸いボタンが、ドローン放出用のボタンです。

 天板部分と側板部分に折りたたんだドローンが仕込まれております。」

 研究員が胸を張って自慢げに車体の説明をしてくれる。


「ふうん……安全性を高めてくれたのはありがたいけど、なんだか失敗したときのことだから、ちょっと縁起が悪いわね……でもまあいいとしましょう。


 ドローンを収めるために今回は天板があるのね……でも……ドローンって千個って言っていたけど、こんな小さなスペースに千個もどうやって入っているの?」

 美愛が不思議そうに上方を見上げる……確かに車体はマイクロバス程度には大きいが、それでもたかが知れている。こんな中に千個ものドローンとはちょっと信じがたい。


「ドローンの大きさは10センチ角ほどです。重さもほとんどがバッテリーで5百グラム。

 それに5百グラムの高性能爆薬を積んであります……ダイナマイト10キロ分に相当する威力です。

 それが3百個ずつ天板と側板に収められていて、残り百個は車体前方から放出されます。


 そうして装甲の弱そうな部分を探し求めて飛び回り、そこにとりついて自爆するわけです。

 前回、円盤バリアー内に突入した戦闘機のガンカメラの映像から、装甲の弱そうな部分はおおよそ推定されています……その為、攻撃は速やかに行われるはずです。


 人が操縦する戦闘機のように、小型円盤からの攻撃を避けるようなプログラムも組まれてはいませんし、そんな飛行能力も有してはいませんが、物が小さいだけに、まあ敵の攻撃は当たらないと目されております。


 前回潜入したときの円盤内部の映像も利用して、敵円盤内部破壊するためのドローンのプログラムも開発中と聞いておりましたが、今回の作戦には間に合わなかったようです。」

 白衣の研究員が、自信満々に答える。


「では……透明保護膜の中に入ってさえしまえば、後はドローンたちが全て片付けてくれるはずだったという訳ですか?

 でも……前回と全く同じ円盤という事はないわけでしょう?なにせ、今回は透明なわけだし……。


 下手をすると、まったく違う種類の宇宙人といったことも……」

 するとここで幸平が、おもむろに口を開く。


「そうですね……そういった可能性もなきにしもありません……ですが、A国の超能力者が透明保護膜内に入った時のヘルメットカメラの映像では、外観上ではありますが、前回飛来した超巨大円盤と同型であることが確認されております。


 つまり……同じ種族の同じ種類の円盤ではないかといった推定が、大方の意見です。

 さらにですね……ついでに今回の作戦詳細もご説明いたしましょう……ちょっとこちらへ……。」

 格納庫を後にして、大きなテーブルが中央に備え付けてある部屋へと戻る……前回の時に作戦会議を行った部屋だ。


「これが前回の円盤の映像で、これが今回の映像……今回映像はA国の超能力者が透明保護膜に取り込まれた時の、わずかな時間だけの映像で、一方向からのしかもライトに照らされた部分だけはありますが、拡大して比較した限り、前回の円盤画像に合致するものがありました。


 恐らく同一設計の円盤と想定しております。」

 全員が席に着くと、研究員がプロジェクターで壁に円盤の画像を2つ写し、それらを重ね合わせて見せてくれる。


「ほおー……確かにぴったり一致するね……。」

 夢幻が感心したように頷く。

 作戦会議にまで出席するとは、夢幻にしてはずいぶんと珍しいことだ。


「だったら、なおさらそのドローンのプログラムとかいうのを急がせればいいんじゃないの?

 何も完璧じゃなくても、こっちも千機も飛ばせばいくつかは敵の急所で爆発させることが出来るんじゃない?


 そりゃあ……お兄ちゃんの能力で、透明保護膜を超える必要性はあるにしてもよ、でも敵円盤の上でドローンたちを放出さえしてしまえば、そのまま脱出できるわけでしょ……なにも危険な円盤内部に潜入することもない。


 そもそも同型の円盤という事はよ……前回飛来した円盤にも透明になる能力があったってことよ……それなのに透明にならずにいたという事は、こちら側にこれといった攻撃力がないと安易に考えていたというよりも、円盤内の宇宙人が全滅していたからって考えられるんじゃないの?


 今回は円盤内に宇宙人がいるから、安全のために透明になって地球の生物たちを捕獲しようと考えているんじゃあないの?」

 美愛がもっともらしい意見を述べる。


「その推定は、かなり正しいものであると考えます。

 ですが……その一方で、彼らの文明は成熟しきってしまい、逆に退行してしまったのではないかという見方が大半を占めております。」


「退行……?」

 美愛が怪訝そうな目を向ける。


「そうです……前回飛来した宇宙船では、宇宙人たちが全滅しておりました……しかもその死因が餓死です。

 進化した宇宙人はその科学力で宇宙中を飛び回り、遥かなる太古より食料となる生物たちを収穫して生活していたと考えられます。


 定住する星を持たず、狩猟民族として星々を転々としていた可能性もあると推定しております。


 そうしてその星々で収穫される様々な生命体から栄養素を抽出……中には自分たちにとっては有毒のものも含まれている可能性もあるでしょうが、そういった雑多な生命体から効率よく、しかも安全に栄養素を抽出するシステムが、あの微生物による分解であったのだろうと推測しております。


 そういったシステムを確立したのは、恐らくその種族の文明が進化の頂点に達した時期と言えるでしょうが、そこからは退化ともいえる退行が始まったものと考えております。


 そのため宇宙人たちの胃袋の中の胃酸ともいえる微生物たちの反乱……とでも申しましょうか、突然変異による栄養素供給停止に対して、的確な処置がとれなかったものと目されております。


 微生物の突然変異は今回の円盤には発生していないかもしれませんが、それでも彼らの知能レベルは恐らく大きくは変わらないでしょう。


 全てオートプログラムで、何もしなくても毎日生活に足るだけの栄養分が供給される、ぬるま湯のような生活にどっぷりとつかってしまい、知能が退化してしまって突然の事態に対処できない状態であると想定されております。


 攻撃を仕掛けてきたとしても、夢幻君のバリアー機能で守られていますし、危険はないものと考えます。

 そのまま中央制御室を占拠してしまえば、向こうは手出しできなくなってしまうでしょう。


 注意すべきは巨大円盤のAIによる自動防御機構だけであり、それ以外は恐れるに足らずといったところでしょうかね。


 そのため内部破壊用のドローンのプログラムの完成前ですが、作戦の実施には支障がないものと判断されております。」

 白衣の研究員が自信満々に答える。


「ふうんそう……まあ安全に実行できるのであれば、文句はないのだけど……。」

 美愛がようやく納得したように頷いた。


「それでは……美愛さんと幸平君は、食事をしてから一旦仮眠をとってください。

 神大寺さんも一緒に食事と仮眠をお願いいたします。


 夢幻君は……大変申し訳ありませんが、満腹になって眠気を催されると困るので、ここはゼリー状の栄養補給飲料だけで我慢していただき、コーヒーはどれだけ飲んでいただいても構いません。

 南米産のいい豆を仕入れておきましたので、お好みのブレンドでもストレートでもお楽しみください。」


 研究員が、美愛たちをさらに奥の部屋へと案内する。

 夢幻一人だけ会議室に残され、仕方なくコーヒーメーカーのポットから、カップにコーヒーを注いでゆっくりと飲み始めた。



「そろそろ、飛行禁止空域に近づいてきました。

 西側の危険空域は明確になっておりませんので、輸送機は百キロ圏内の飛行禁止区域内を飛行して極力円盤の推定地点まで近づくつもりではありますが、限界はあります。


 A国の超能力者たちが確認した、東側のGPS座標から25キロ地点までとさせていただきます。

 あまり近づきすぎると、円盤から攻撃を受ける可能性もありますからね。


 現在の夢幻君の飛行速度で行きますと、恐らく1時間ほどで円盤の透明保護膜地点まで到着すると考えておりますので、そのまま保護膜を通過して円盤上部の小型円盤発着場所付近で、一旦目覚めるのに丁度よいと言えます。」

 10時間後、白衣の研究員が作戦開始間近を告げる。


「お兄ちゃん……まだ食べているの?さっきからもう30分以上も食べ続けているじゃない……いくら何でも食べすぎよ……そのとんかつで、もう3枚目なのよ……。」

 大人の掌位のサイズがある、揚げたての分厚いとんかつに手を伸ばした夢幻を、美愛がたしなめる。


「そうはいってもだな……これから何十キロか飛行して円盤へ近づいていくわけだろ?そうして円盤の上でいったん目を覚ますわけだ……でもその時間は5分くらいで、すぐにまた寝なくちゃならないんだろ?

 だったら作戦中はずっと寝ていることになるし、食べることはできないってことだろ?


 起きているお前たちは、何かしながらでもそれなりに何か口にすることも可能だろうが、こっちは何も食べることもできずにひたすら寝ることを要求されるわけだ……腹がグーグーなっていたら寝ることもできないぞ。

 その分食いだめしておかなくちゃならんだろ?」

 夢幻はそういいながら、切り分けてある分厚いとんかつにソースをかけてうまそうに頬張る。


「そうだよ……作戦行動中は何が起きるかわからないわけだから、僕たちだって食いだめしておいた方がいい。

 このカツは本当においしいから、ご飯と一緒にパックして持って行ってもいいですかー?」

 夢幻の隣で幸平も、大量のキャベツととんかつを一気に頬張りながら、更にパック詰めも要求する。


「ああ……車体の座席の下側はクーラーボックスとなっているからな……ゼリーやチョコレートなどの携帯食は詰めてあるのだが、そんなに気に行ったのだったら、ご飯とカツをパックに詰めて持っていこう。

 腹が減っては戦が出来ぬというからね……。」

 お代わり飯を平らげた神大寺がそういいながら、透明なプラスチック容器に菜箸でカツとキャベツを詰めだした。


「ああ……じゃあ、あたしはご飯を詰めておきます……みんなが食べるのを見ていたら、あたしもなんだか食欲がわいてきたわ……。」

 その光景を見て美愛も一緒にご飯を炊飯ジャーからパックへと詰めた後、自分もカツを半分ほどとご飯とみそ汁を少し口にした。


 前回は緊張のあまり出発前は何ものどを通らなかった美愛だったが、今回は少しでも食べられたのがうれしかった。

 夢幻の能天気さもそうだが、幸平の食欲にもつられた感がある。


「ようし……みそ汁は保温ジャーに入れておいたからね……これでいつでも温かいのが頂ける。

 夢幻君も作戦行動中は起きているわけだから、いつでも食べられるよう、カプセルのそばにも折り詰めを入れたクーラーボックスを置いておくようにするからね。」


「ありがとうございます……腹さえ満たされていれば、いつでも眠れますからね!」

 夢幻が満面の笑みを見せる。


「なんだか、ごはんの心配ばっかりね……これから命がけの任務に出かけるというのに……緊張感のかけらも感じないわね……。」

 その様子に、美愛はあきれ顔だ。


「まあまあ……食事にまで気が回るという事は、リラックスできている証拠だからいいんだよ……緊張してがちがちだと、どんなに簡単な任務でも失敗してしまうこともあり得るからね。」

 幸平がそういいながら、ご飯とカツを詰めたパックを入れた大きな包みを持ち上げる。


「じゃあ俺はみそ汁を入れたジャーとお箸とお味噌汁用のお椀を持っていくから、夢幻君はこっちのクーラーボックスを持ってくれ。」


「はい、分かりました……。」


「じゃあ、あたしはウーロン茶とコーヒーのペットボトルにコップを持っていくわね……なんだかお花見にでも行くような格好になって来たわね……それにしても……何食分持っていくのかしら……まさか泊まり込み……?」

 美愛が首をかしげながら、みんなの後をついていく。



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