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第32話

「たった今、A国から全世界政府に向けて連絡が入りました。

 やはり太平洋上で航空機事故が多発していた原因は、超巨大円盤が原因のようで、円盤はステルス機能で太平洋上の上空8千メートル地点に浮いているようです。


 ステルス機能といっても、地球で開発されているレーダーには映らない形のステルス……レーダー波吸収塗料を塗った機体で、赤外線探知を防ぐために極力熱放出を防ぐ仕様と異なり、完全に不可視な状態です。

 全く見えないし、レーダー波も電磁波も赤外線や紫外線なども素通ししてしまうようです。


 それでも物理的には存在していて、これまで2週間以内に航空機が太平洋上で4機消息を絶っていますが、見えない円盤のバリアーに衝突したと目されております。


 また、A国の超能力軍団の攻撃も跳ね返すところを見ると、電磁波や熱線であっても大きなエネルギーは跳ね返すようです。

 つまりステルス障壁と申しましょうか、その障壁により敵円盤は姿が見えない状態にあります。


 更に、その障壁に触れようとしたA国の超能力者たちは、意識を失いかけ障壁の中にとらわれようとしましたが、辛くも脱出しております。

 味方から攻撃を受けて完全に意識を失い、超能力……飛行能力のようですが、が消失したことにより、障壁から放出されたものと推察しているようです。


 ここまでの解析では……動画サイトに投稿された透明能力の保護膜とは異なる性質のものと推定されます。

 こちらには防御機能や人を取り込む機能はないようですからね。


 ですが……超能力を発揮しているのであれば膜内に潜入できそうですので、まあ、何とかなるのではないでしょうか……。」

 上階で本部からの連絡を受けていたのであろうか、応接へとやってきた白衣の研究員が状況を説明してくれる。


「でも……中に入れるのがあたしたちだけだと……どうやって円盤の発射口をあけさせるのよ……前回は先に多くの戦闘機がバリアーの中に入っていたからよかったけど、今回はあたしたちだけなんでしょ?」

 安閑としている研究員に対して、美愛が問い詰める。


「ああ……そのことですか……前回は当初予定では戦闘機軍団がバリアーの中に潜入して内部で破壊工作を行う予定でしたが、夢幻君の能力により安全に敵円盤のコントロールを奪う手順が確立いたしました。


 そのため、人による特攻のような肉弾戦は実施する必要性はなくなりました。

 その代わり、自動運転のドローンを使用いたします。」

 研究員が笑顔で答える。


「ドローン?」


「そうです、自力飛行可能なドローンに爆弾を組み込んで、敵バリアー内に多数飛行させる予定です。

 千機のドローンを車体に積んで出発していただく予定です。

 1機1キロほどですのでちょうど1トンとなりますが、夢幻君の飛行能力であれば全く問題はありません。


 円盤の透明保護膜内に潜入した後に放出いたしますので、帰りに誘拐された人たちを救出する場合も問題ありません。

 ドローンには自動飛行用のAIを組み込み、画像認識により敵の外装の弱いところを集中的に攻撃を行います。


 その攻撃に業を煮やした宇宙人側が、小型円盤を放出するところを待つわけです。

 これにより人的被害を、ほぼ0にすることが可能となりました。」

 白衣の研究員が胸を張る。


「そんな……じゃあ、今度は本当にあたしたちだけで、敵円盤を攻略しようとするわけ?」


「はあまあ……申し訳ありませんが、そういう事になりますね……。」


「じゃあ……どうやってドローンを放出するというのよ……お兄ちゃんのバリアーが働いている間は、何物でも外へ出すことが出来ないのよ!」

 美愛が、目をむいて研究員を睨みつける。


「敵の透明保護膜内に潜入した後は、敵円盤上部にある小型円盤の発着口脇に一旦停泊し、夢幻君を目覚めさせてバリアーを解いた後、ドローンを放出します。


 そのまま待機して、小型円盤が放出されるときに再び夢幻君を眠らせて円盤内部へと潜入するのです。」

 研究員が自信満々に胸を張って答える。


「ええっ……どういう事……?敵円盤の上でお兄ちゃんを目覚めさせて、バリアーを解除してドローンを放出ですって?

 そんなことして、もし攻撃を受けたらどうするのよ……バリアーがないんじゃやられてしまうじゃないのよ!」

 ついに美愛が立ち上がり、立ったまま説明していた白衣の研究員に詰め寄って行く。


「そこは……それ……上手く立ち回っていただく……と言う事になっております。

 千機のドローンが一斉に飛び立つのに、恐らく5分もかかりません。


 ドローンを放出したら、すぐに夢幻君に眠りについていただければバリアーも回復しますし、浮遊能力で小型円盤発着口から潜入も可能となります。」

 白衣の研究員が、興奮する美愛を何とかなだめようと押しとどめる。


「馬鹿を言わないでよ……寝入ったばかりのお兄ちゃんを起こして、それから5分で眠らせるですって……?

 寝覚めの悪いお兄ちゃんは、途中で起こされると特に機嫌が悪くてぐずるのよ……それをあやすだけでも大変だというのに……すぐに寝かしつけるなんて、至難の業だわ。


 こんな命がけの作戦だというのに……あたしたちだけで行ってこいですって……?

 一体、地球の危機というものをどう考えているのよ……。」

 美愛は憤懣やるかたないとばかりに、悔しそうに地団駄を踏む。


「まあまあ……落ちついて……美愛ちゃん。

 S国の超能力者たちがステルス障壁に触れたときに意識を失いそうになってしまったけど、それでも内部に巨大円盤があることが確認された。


 そのステルス障壁は超能力者であれば通過できそうとなっているわけだから、夢幻の能力があれば問題なく通過できるはずだ……もちろん同行する僕たちも一緒にね。


 なにせ夢幻の超能力は寝ているときに発揮されるわけだから、最初から意識はないのだから問題ない。

 僕たちは安全にステルス障壁内に潜入して作戦を遂行できるさ……。」

 幸平がそんな美愛を制する。


「そっ……そうですよ……我々の推測もその通りで……国連軍からも、この作戦の承認を頂いております。」

 白衣の研究員も幸平の後ろに隠れながら、恐る恐る意見を述べた。


「それに……海軍カレーの副賞もあるしね……いいじゃないか……そんな任務であれば楽勝さ。」

 するとパジャマ姿の夢幻も降りてきたようだ。


「お兄ちゃん……もう大丈夫なの?」


「ああ……もう最大負荷にも耐えられるようになったようだ……今晩には実行可能だから、これから出発という事になった。」

 一緒に降りてきた神大寺は渋い表情のまま話す。


「今回は作戦上、敵円盤潜入前に一旦夢幻君を起こす必要性が出てきた、その為、作戦決行1時間前から夢幻君には寝てもらう事になっている。


 円盤の透明バリアーを通過して円盤上部に到達するのに30分かかるとして、そこでいったん起きてもらう……ノンレム睡眠からレム睡眠への以降の瞬間であれば、大きなストレスなく一旦目覚めることが出来るのではないかと想定している。


 寝ぼけ程度にまで覚醒しておいて、ドローン放出後に再び睡眠についてもらう。

 夢幻君の睡眠のコントロールを行う美愛君には苦労を掛けるかもしれないが、今のところ、この計画が一番実行可能と目されている。


 実をいうと……各国ともに有鬚なパイロットを失いたくないという思惑があるようだ。

 前回の円盤襲撃の際には、最早地球は地球外生命体に占領され、全生命体が死滅すると考えていたからこそ、最高クラスの人員を割いて、少しでも成功確率をあげようとしたわけだ。


 だからこそ、あの円盤とバリアーとの狭い空間の中を高速のジェット戦闘機で長時間飛行することもできたし、敵小型円盤の攻撃を避けて帰還することもできた。


 ところが、その命がけの特攻ともいえる作戦の中核は、何の訓練も受けていない普通の高校生グループが担い、いとも簡単に成功させてしまったわけだ……もちろん夢幻君の能力があってのことだったがね……。


 日本やA国はいいさ……超能力者が存在するからね……そういった人知を逸脱した存在がいない国々では、夢幻君たちの存在を疎ましく感じているのだろうね……。

 超能力者の活躍によって安全に実行できる作戦を立てたから、よろしく……とばかりに国連軍から指令書が送られてきた。


 しかもたった1枚の紙きれでだ……流石に怒りがこみあげてきて、こんな命令には従えないと断ったのだが、日本が被害を受けるまでは能力者を温存するのか……とか、他の国々が占領されても日本だけは助かるよう、超能力者を使って交渉しようとしているのかだとか揶揄され始めたらしい。


 しまいに政府から、今回だけは何とか夢幻君に協力を要請してくれと泣きつかれてしまった。


 その見返りとして、今度の車体には日の丸が描かれている……つまり日本代表として作戦を行うという事になった……だがなあ……だからと言って、君たちだけを危険な目に合わせるという事など……。」

 そう告げる神大寺の表情は、ますます渋くなっていく。


「はあ……なんという勝手で……しかも一介の市民にすぎないあたしたちの身の安全を全く無視したような作戦を……日本政府は受け入れたという訳なのね?

 自分たちはいいでしょうよ……安全な場所でただ見ているだけなんだから……。


 大体ねえ……前回安全に事が進んだのだって、宇宙人たちが勝手に絶滅していたからなんでしょ?

 自動運転でスケジュール通りに円盤が制御されていたからであって……今度の円盤も中身は空なんてことを、期待しているのじゃあないでしょうね?


 それに……たとえ敵円盤をうまく破壊したり追い返したところで、こっちにはせいぜい感謝状が1枚来るだけなのよ……そんな理不尽な扱いを受けてまで、どうしてやらなくちゃならないのよ……。」

 美愛の怒りは頂点に達しようとしていた。


「それはですねえ……言い訳に聞こえるからか公にはなっていませんが……前回のように多数の戦闘機を使って闇雲に円盤のバリアーに向かって攻撃を仕掛けて……といったことが、今回は難しくなっているのです。

 なにせ今回はステルスですから……円盤の姿は視認できないわけです。


 巨大円盤の姿を確認できるのであれば、そこからある程度の大きさのバリアー範囲を推測して、その外側から攻撃といったことも可能ですが、今回は全くその姿が見えません。


 A国の超能力者たちが攻撃を仕掛けてある程度の位置を確認することはできましたが、GPS情報だけを頼りに円盤のバリアー位置を推定して、その範囲を避けながら攻撃を仕掛けるというのは、熟練パイロットたちにとっても長時間にわたって繰り返し実行することは至難の業と言えます。


 だからこそ巨大円盤が浮かんでいると目されている空域は、直径百キロの範囲で上空1万メートルまでは飛行禁止区域に指定されています……なにせレーダーも何も探知できないのですからね。

 しかもA国の超能力者たちが明らかにしたのは、ステルス状態の超巨大円盤の東側のごく一部分だけでしかありません。


 恐らく直径10キロは優に超える超巨大円盤と目されていますから、その範囲を正確に割り出すためにはA国の超能力者たちに協力を仰いだとしても、何日もかかるでしょう。


 なにせ彼らも触れることはできないと分かったわけですから、ある程度距離を置きながらその周囲を探っていかなければなりませんからね……疲れたら休息も必要となりますし、簡単にはいかないでしょうね。」

 白衣の研究員が、以前と異なり戦闘機などのバックアップが行われない、真の理由を説明してくれる。


「だ……だからと言って……あたしたちだけで行け……だなんて、ひどくない?」

 美愛が深くため息をつく。


「まあまあ……美愛ちゃん落ち着いて……さっきも言ったように、敵円盤への潜入作戦は、誰かがやらなければならないんだ。

 その力を夢幻が持っているんだったら、そうして夢幻が行くと決めたんだったら、僕は最大限のサポートをしようと思っている。


 それによって少しでも成功の確率が上がるんだったらうれしいし、たとえうまくいかなくて犠牲になったとしても、それはそれで仕方がないことなのさ……今この瞬間にだって、突然円盤が出現して誘拐されて行っている人たちがいるはずだからね。


 その人たちを見殺しにして、安全な屋内に隠れているという事はできないさ。


 それに奇異の目で見られたり疎まれたりする危険性があるからこそ、夢幻の能力は極秘にされて、その活躍は公にされなかったわけだ。

 円盤を撃退した後も普通に生活していくことを考えれば、下手に騒がれない方がありたいと僕は思っているよ。


 だから勲章や表彰式なんかいらない……そう……夢幻とも話し合って決めていたんだ……。

 その上、作戦を聞いた限りでは、今回もかなり安全に遂行できる可能性がありそうだからね……。」

 こう言った事態を予想していたのか、幸平も夢幻も冷静に美愛をなだめてくる。


「分かったわよ……でも、本当に今回だけでしょうね?」


「ああ……前回の超巨大円盤襲来から、各国で地球外生命体による侵略に対しての対抗手段が練られているようだ。

 いかんせん期間がほとんどなかったので、大半が実現化してはいないようだが、そのうちでも今回使用する無数のドローンによる空爆などは、対抗手段として投与できる第1号ともいえるべきものだ。


 敵保護膜内では電磁波も通らないから、外部から通信はできないと想定されている……実際前回もそうだったからね……その為自動飛行可能なAIが組み込まれたドローンを開発して、攻撃を仕掛ける。


 むやみやたらと爆弾を落とすのではなく、その外観から想定される装甲の強度を計算し、一番効果がありそうな部分を集中攻撃仕掛けるようプログラムされている。


 しかも千機全体が画一のシーケンスではなく、数十機ごとに判定基準を微妙に変えているため、そのうちのいくつかは効果的な攻撃が仕掛けられるだろうという期待がある。


 それ以外にも……全ての内容は明らかにされていないが、日本でも新たな攻撃手段が開発されているようだし、今回は間に合わないとしても、いずれ夢幻君一人にだけ頼ると言ったことはなくなるはずだ。」

 渋い表情をずっと崩さずにいた神大寺だったが、この時ばかりは少し表情を緩め答えた。



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