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第31話

<臨時ニュースを申し上げます。

 太平洋上を飛行中の30人乗り小型ジェット機が、突然消息を絶ちました。


 ロサンゼルスから成田空港を目指していたものと見られていますが、太平洋上で連絡が途絶え消息が分かっておりません……乗員乗客の安否が気づかれております。

 なお、日本人の乗客はいない模様です……繰り返します。>


 夏休み中も相変わらずエヌジェイ事務所で過ごす夢幻たちが、昼休憩しているときにテレビで臨時ニュースが報じられた……休憩といっても他の時間に特に何もしているわけではなく、負荷を与えて飛行能力を増強している夢幻は家に帰れないため、エヌジェイで寝泊まりするしかないのだ。


 その付き添いで幸平と美愛が一緒に居るだけで、彼らが昼間にしていることと言えば、夏休みの宿題とバイト代わりに始めたエヌジェイの事務仕事の手伝い位だ。


「いやあねえ……このところ毎日のように、突然現れる円盤にさらわれていく人たちのニュースが報じられるけど、普通の事故とかで犠牲になる人たちもいるってことよね……無事でいてほしいわね……。」

 美愛が、痛ましい事故の報道に心を痛めている様子だ。


「いや……事故とは限らないさ……どうやら太平洋上に見えない壁があるようだ。」

 テレビ報道を確認しようとしたのか、事務室から隣の応接へとやってきた神大寺が渋い顔をする。


「見えない壁?」

 この言葉は美愛たちには何のことか、想像もできなかった。


「ああ……つい先日から太平洋上では不可思議な事故が多発している。

 個人所有のセスナ機が突然連絡を絶ってみたり、米軍の輸送機が空中爆発したりと……調査を進めようとしていた矢先の出来事のようだ。


 とりあえず事故が多発している空域は封鎖される……太平洋上のアメリカと日本のちょうど真ん中あたりの海域で、高度が8千メートル付近……国際線の場合はもう少し高度が高いから、影響はなかったようだね。」

 神大寺は依然として渋い顔つきのまま、テレビの前のソファの空きに腰かける。


「事故じゃないと言いますと……まさか異星人の円盤がかかわっているとか……ですか?」

 幸平が恐る恐る聞いてみる。


「ああ……そのように考えられている……人々を誘拐して行っている小型円盤……小型とはいえ直径百メートルを超え、直径十キロを優に超える超巨大円盤に比べて小型というだけなのだが……前回の小型円盤は飛行速度はマッハを越えてはいたが、上空の飛行時は視認可能だった。


 しかし今回は突然出現して突然消え去っている……マッハどころか光速で移動しているとも囁かれていたのだが、地球上のように空気の密度の濃い場所で光速飛行は物理的に困難であろうと目されている。

 強靭なバリアーをもってしても空気抵抗はバカにならないし、可能だとしてもそんな効率の悪い飛行などするはずもないというのだな……。


 恐らくステルス技術……つまりその姿を見えなくして飛行しているのだろうというのが、大方の予想だ。


 円盤は神出鬼没なので、あまり解析は進んでいないのだが、空港周辺や港近くなどレーダー基地が近くにあるところを襲撃された際に、円盤が出現した時と消え去った時のレーダーの反応を見ても、襲撃の際に姿を現した時の一瞬しかレーダーは感知していない……その先のビル群や山などの反応も欠けることはなかった。


 つまり円盤の透明バリアーは、レーダー波を素通ししてしまうものと考えている。

 他にも電磁波なども素通ししてしまうだろう……赤外線探知も行ってみたが、探知できていない。

 可視光線や赤外線なども含めて、そのまま通過してしまうから透明に見えているようだが、それがどのような原理なのか解明されてはいない。


 ところが太平洋上に透明な壁が現れた……当然、レーダーにも映らないのだが、その空間に突っ込んでいった航空機が大破しているところを見ると、物理的には存在していると言える……見えないだけだ。

 今、各国から研究チームが、その見えない壁に行って調査を始めようとしているところだ。


 我がエヌジェイとしても夢幻君の浮遊能力が回復次第、向かうつもりでいる……夢幻君、申し訳ないが負荷をかけて昼寝をしてもらえないだろうか……。

 まあ太平洋上だから、何日間もかからないとは考えている……。」


 神大寺はいまだに渋い表情のままだ……つい先日、夢幻たちに巨大円盤への潜入作戦参加を依頼して快諾してもらったというのに……心の底ではそれが実現しないことを願っていたのかもしれない。


「分かりました……午前中は歴史の年表を暗記していたので、随分と眠くなってきたから行けるでしょう。

 じゃあパジャマに着替えて……。」


 夢幻はそういうと、事務所奥のドアから階段を上がっていった。

 夢幻と幸平は受験を控えているので、夏休みの宿題というよりは受験勉強をしているのだ。


「うーん……いいよか……なんだか、ちょっと震えが……美愛ちゃん大丈夫かい……ちょっと寒くないか……?」

 そう言いながら幸平は、すぐ隣に腰かけている美愛へ唇をすぼませながらすり寄っていく……“ボスッ”が、すぐに鳩尾へきつい一発を食らってしまった。


「懲りない人よね……あたしに言い寄ってきても無駄だって言っているでしょ?

 あたしはあなたみたいにエッチい人は、好きじゃありませんから……。」

 幸平は薄れ行く意識の中で、美愛の言葉をかすかに聞いていた……。



「サイキックA、十分に気を付けてください……見えない壁の有効範囲は、いまだ不明です。」

 何もない上空を、3人の人間が遥か彼方から駆け寄ってきた。

 夜も明けていない闇の中を、ヘルメットにとり付けたライトを照らしながら進んで行く。


「ああ、大丈夫だ……俺たちの飛行能力だけで、アメリカ大陸を横断するには時間がかかりすぎるからって、西海岸の米軍基地までジェット機で送ってくれたのはいいが、そこから洋上に駆逐艦で出てから飛び上がったので1日がかりだ……。


 以前、本国から北極周りでジャパンボーイたちに会いに行った時並みに時間がかかっている。

 あの時は輸送機から直接上空に出たのだが、それでも結構時間を食った……今では家に俺の帰りを待ちわびている家族がいるんだ……GPSの位置情報では、事故多発空域からまだ数キロは離れているが、早々に用事を済ませて帰らせていただくよ。


 こっちはジェット戦闘機ほどのスピードはないが、ヘリのように空中にホバリング可能なんだ、じっくりと観察させていただくさ……。」

 サイキックAがヘルメット内に仕込まれた、インカムを通じて本部と通信する。


 海上遥か上空で空気が薄いため、彼らは大きな酸素ボンベを背負っているのだが、その重さも感じさせない位、優雅に何もない空間をかけてきた。


 濃紺に赤と白のストライプが入ったジャンバーに真っ黒な皮ズボンにブーツ、薄グレー色の風防で覆われたフルフェイスヘルメット姿は、日本のアニメの戦隊ヒーローを彷彿とさせる。

 戦隊ヒーローとの違いと言えば、それぞれのヘルメットが赤や青などに色分けされているのではなく、3人ともに黒ヘルメットという点位だ。


「じゃあ、ちょっと遠いが腕試しだ……そらっ……。」

 サイキックAが右手を軽く上げてから振り下ろすと、手の先から白い光の玉が発せられ、真直ぐ前へ飛んでいくと、遥か先で音もなく消滅した。


「ほら……見えるかい……まだ見えない壁まで結構距離があるようだ……もうちょっと近づいてみよう。」

 サイキックAは、一緒に浮かんでいる2人に振り返ってから、一緒に小走りで前進していった。

 どうやら、ヘルメットにはカメラも内蔵されている様子だ。


「では……今度は私が……サイキックC攻撃を仕掛けます……。」

 サイキックAの右隣をかけていた男が、5分ほど駆けた先で立ち止まり、右手を横手からスナップを効かせて勢いよく振った……すると……真っ赤な炎の玉が一直線に高速で飛んでいき、少し先で消滅する。


「もう少し先のようですね……あと1キロほどでしょうか……。」


「どうやらそのようだな……見えない壁は近づきもせず遠ざかりもせず、一定の場所にそのまま漂っているという感じかな……念のため攻撃を続けながら近づいて行ってみよう……そうすれば距離感がつかみやすい。」

 そう言いながらサイキックAは両手を交互に振り下ろし、光の玉を発しながら進んでいく。


「任せてください……サイキックB、攻撃を開始します。」

 フルフェイスのヘルメットから、ブロンドの長い髪の毛がはみ出している……3人目は女性のようだ。


 サイキックBが両手を天につきあげると、はるか先にいくつもの稲光が発生し始めた。

 無数の閃光は休むことなく発生し、次々と消滅していくが……その閃光と消滅が繰り返されることによって、段々と見えない壁が可視化されてきた。


 彼らの目の前に、大きく湾曲した壁が確かに存在しているようだ。


 駆けるようにして前進していく2人と異なり、サイキックBは両手を天に突き上げたまま、足も動かさずにゆっくりと彼らの後についていく。

 どうやら中空を駆けていく動作自体に、大きな意味はなさそうだ。


「オーケィ……サイキックB、攻撃をやめてくれ……あまり近くに君の攻撃がさく裂すると、こっちにまで影響が及ぶ危険がある。

 これまでのサイキックBの雷攻撃により多少は見えてきた……広範囲にわたって攻撃できる天候型能力の成せる技だな……。


 視認可能な部分限定ではあるが、恐らく壁は高さ方向で2キロ近くに渡っていると推定される……横方向は延々と続いているので計測不能……だが、その形状は少し丸みを帯びているように感じられる。


 この位置で壁までの距離がおよそ百メートルほどだろう……見えない壁の影響範囲を全て調べるのもいいが……触ってみるのもいい経験だ……なにせ動画サイトの透明能力では、透明時にもその肉体に直接触れられるそうだから……もしかするとすぐ目の前が超巨大円盤なんてことも……。」


 サイキックAは自分の掌の中で小さな光の玉を発生させると、小刻みに発射させながらゆっくりと前進していく。

 そうして、光の玉がすぐ目の前で消滅する位置で止まった。


「前回の調査の時には、ひたすら攻撃を仕掛けるのみで接触は禁じられていたのだが……敵バリアーに触るとどうなるものか……ちょっと興味がわくね……。」

 サイキックAはゆっくりと右手を伸ばす……。


「敵バリアーに触れるとどのような影響があるのか、分かっておりません……さらに今回の敵はステルスモードを併用していると考えております……くれぐれも慎重にお願いいたし……ガガガガ……」

 本部から慎重に行動するようにとのお達しの最中に、サイキックAへの通信に障害が発生……。


「サイキックA……ご無事でしょうか?サイキックA……。」

 百メートルほど後方に浮いているサイキックBが慌てて呼びかける……見えない壁に向かって手を伸ばしただけのはずのサイキックAの上半身が消滅してしまったのだ……。


 それでも彼の足だけは、何かに反応しているのか小刻みに動いているのだが、腰から下にかけてもゆっくりと消え始めているようだ。


 それを見て、すぐ横に浮いていたサイキックCが慌てて彼の両足に飛びついた……がしかし、彼の頭も一緒に消え始める……どうやら見えない空間に引きずりこまれている様子だ。


「サイキックA……お許しください……。」

 そこから駆けて行っても間に合わないと踏んだサイキックBは、両手を高く天に突き上げた。


 すると巨大な閃光が、サイキックAとサイキックBの体にふりそそぐ……どうやら仲間たちを包み込もうとしている見えない壁への攻撃を再開したのだが、距離が近すぎてその攻撃は、見えている仲間達2人にも容赦なく影響している様子だ。


“バリバリバリバリッ……”すさまじいまでの閃光と衝撃音の中、消えかかっていた2人の体が青白い光に包まれながら吐き出されるように浮き出てきて、そのまま下へと落ちて行った……。


「大変……サイキックA……サイキックC……無事でしょうか?聞こえますか?

 ジミーッ!大丈夫?起きて!……」


 すぐにサイキックBもその後を追って行く……が、呼びかけても2人は何の反応もせずに、ひたすら自由落下していく。

 やがて設定高度に達したのか、2人の背中のパラシュートが自動で開き、ゆっくりとした降下に切り変わった。


「ふう……よかった……サイキックA……ご無事でしょうか?サイキックC……大丈夫?」

 パラシュートが開いて落下スピードは落ちたが、2人とも意識を失っており、依然として危険な状態だ。


「あっああ……大丈夫だ……パラシュートが開く衝撃で目が覚めたよ……。

 見えない壁に触ろうとした瞬間、なぜか全身の力が抜けていくような感触で、何もできなくなってしまった。


 一瞬で意識が遠のいてしまい……それでもなぜか悪い気はしなかった……なんだか暖かな雰囲気に包まれているような……懐かしい田舎に帰ったようなそんな感じがした。


 それでも一瞬だけだったが巨大な円盤が見えたよ……やはり敵の超巨大円盤が、ステルスモードで太平洋上に浮いているという事のようだ。


 ところで、どうやって俺は助かったんだい?」

 サイキックAは開傘のショックで意識を取り戻したのか、降下するパラシュートを操りながら返事を返す。


「サイキックAの体が消えかかったので、焦って自分が飛びついたのですが……自分もすぐに意識を失ってしまい……何が起きたものか……。」

 サイキックBも意識を取り戻したのか、パラシュートを操りバランスを取り始める。


「すいません……何とか2人が吸収されるのを防ごうと……壁に向かって攻撃を仕掛けたのですが……恐らくあまりに近すぎたので2人にもあたしの攻撃が……。」

 サイキックBは申し訳なさそうに、2人の皮ズボンの焼け焦げを指さす。


「ああそうか……確かに下半身に衝撃を受けたような気はしたのだが……そうか……もしかするとあの見えない壁……敵宇宙船のバリアーだが、超能力攻撃を吸収してしまうばかりか、超能力者をも吸収してしまうのかもしれないな……。


 サイキックBの攻撃で意識を失い超能力が一瞬なくなったから、吸収されずに吐き出されたのかもしれない。

 そう考えるとジャパニーズボーイたちが、以前の作戦でバリアーを通過できたことも頷ける。


 だが……バリアーを超えるときに意識を失うのでは、俺たちが中に入って行動するのは困難だな……。

 彼らはどうして平気なのだ?」

 サイキックAが首をひねる。


「まあいいさ……今日のところはここまでだ……一旦米軍基地まで戻ろう……と思うのだが……飛べない……。」


「1時的なショックでしょう……私が2人をかかえて飛んでいきます。」

 パラシュートを外したサイキックAとCを両脇に抱え、サイキックBは来たルートをゆっくりと引き返していった。



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