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第26話

 第26話

 アメリカ ニューヨーク

 パーンパーンと華やかに空砲が鳴り響く祝賀会場に、救出された人々とその家族が詰めかけていた。

 彼らを無事に送り届けた米国空母の艦長たちと、そして円盤への潜入計画の一翼を担った戦闘機パイロットの栄誉をたたえるセレモニーが最大に始まった。

 その中継は全米のみならず、世界中で放映された。


 一方こちらはA国首都近郊の空軍基地。

 こちらでも、アメリカほどではなかったが、今回の作戦で活躍した超能力者部隊の表彰式が始まっていた。

 それまで国家機密として陰の存在であり続け、今でも科学的な証明は一切ない超能力部隊が対象である為に、全世界放送どころか、国内中継さえもない小規模なセレモニーであった。


「ヒュー……少佐に昇格だってさ。

 更に、王室から勲章まで頂いて、こりゃ老後の生活に困ることはなさそうだな。」

 勲章と花束を両手に抱え、コードネーム サイキックA……ブロッガー大尉改めブロッガー少佐は満面の笑みを讃えていた。


「我々も中尉に昇格です。

 勲章と言い、超能力部隊で一般の軍人とは別格扱いですが、20そこそこの年齢でなにか申し訳ないくらいです。」

 サイキックC……ジミー・マクミラン中尉が恥ずかしそうに頭を掻いた。


「それだけの活躍をしたって事さ……なにせ、人類存亡の危機を救う作戦に参加したのだからな。

 実際に敵の円盤を追い返したのはジャパニーズボーイたちのグループだったかもしれないけど、我々の存在があってこそ、あの作戦が立てられて、そうして実行されたわけだからな。


 遠慮することはない、堂々と頂くさ……。」

 ブロッガー少佐は、笑顔でマクミラン中尉に耳打ちする。


 華やかな式典の中、彼は会場に訪れた人々の中に、懐かしい姿を確認した。

 それは、どれだけ離れていたとしても見間違う事のない、愛する家族の姿であった。


「ローラ、ヘンリーそしてジャネット。」

 予想外の出来事に、ブロッガーは茫然と立ち尽くして、ひとり言のように呟く。


 視界の中の3人は表彰台の方に駆け寄ってくる。

 我に返ったブロッガーは台を飛び降りて両手を広げてそれを迎える……数年ぶりの家族の再開だ。

 ブロッガーは3人を思いっきり抱きしめた。


「どうだ?父さんの活躍をテレビ中継で見ていたろう?かっこよかったか?」

 ブロッガーは目に大粒の涙を溜めながら、最愛の息子に尋ねた。


「ううん、知らない。」

 ところが、6歳の息子は大きく首を振った。


「私たちを探しにきた情報部の人たちは、巨大な円盤との戦闘シーンに居た、小さな人影の内の一人をあなただって言っていたけど、何かの冗談よね。あれは特撮でしょう?

 でも、何か世の中の為になることをしたのは間違いがないわよね……こんな風に表彰されているのだもの。


 今更私たちが戻るなんてって情報部の人には断ったけど、あなたがまだ私たちが戻ってくることを望んでいるって言ってくれたから……。」

 妻のローラは、冷静に答えた。


「そ……、そうか……やはり、あのフルフェイスの酸素マスクが良くなかったかね。

 色男が台無しだったからな……でもいいや、それでもお前たちが戻って来てくれたのだから……。」

 ブロッガーは改めて、戻って来た家族をゆっくりと抱きしめた。


 巨大円盤との激しい戦闘はライブ放送されていたが、当然のことながら遠距離からの撮影のみであり、戦闘機でさえも小さくしかとらえられてはいなかった。

 その為、ブロッガー達超能力者部隊の姿は豆粒ほどの大きさであり、美愛たち直接作戦に関わっていた人たち以外の、事情を知らない世界中の人たちはその姿を認識すらしていなかった。


 見つけた人でも、大半が特撮映像を重ねているとしか考えていなかったようだ。

 美愛たちの乗った車型の車体に至っては、どこかのメーカーのCMとしか考えていない人々が大半であった。


「私たちの家族は……今さら会いたくもないわ。」

 ヘレンはブロッガー達家族の再会に、少し涙を誘われながらも強がって言った。


「なにか、事情があるんだよ……きっと何か事情が……。」

 ジミーがやさしく彼女の肩を叩く。


 そう、超能力者部隊のいないアメリカやカナダなど諸外国のみならず、超能力者の協力で作戦を指揮した当事国であるA国でさえ、超能力者の存在が公に騒がれることが無かったことを幸いに、その存在を公言して彼らを讃えることを取り止めたのである。


 それは、最大の殊勲者である彼ら超能力者が、その能力を世間から異端とみなされ、虐げられることが無い様にとの配慮もあったであろうが、それ以上に世間の動揺を誘いたくないという気持ちが大きいのだろう。

 超能力に関して公になるのは、当分先の事と考えられる。


 どうやら、その考え方は日本でも同様となりそうである。

 その為、夢幻たちの活躍を報じられることは期待できず、夢幻がヒーローとして登校できるようになるのは、まだもう少し先になりそうだ。


「明日は、私たちの表彰ね……確か、勲章がもらえるって言っていたわよね。」

 美愛が華々しいアメリカでの祝賀セレモニーの中継をテレビで見ながら、食卓の向かい側の夢幻の方に振り返った。


「ああ、そう言っていたなあ……でも、俺はどうしようかなあ……辞退するかなあ。

 華々しい席は苦手だしなあ。」

 夢幻はご飯茶碗を左手に、右手の箸で目の前のオムレツをつまみながら、難しそうな顔をして答えた。


「駄目よ……お兄ちゃんが主役なんだから……。

 あたしたちなんか、ほんの脇役で、誰でも良かったのに……ただ一緒に行っただけで表彰されるのだから。


 そりゃ、お兄ちゃんを一人で危険な所へ行かせるわけには行かないって、思ってはいたけど……。」

 美愛はオムレツの付け合せの、ポテトサラダを頬張りながら懸命にフォローする。


「そうだよ……美愛たちがいるおかげで、どれだけ心強かったか。

 どれだけ緊迫した事態でも安心して眠れたし……やっぱり家族と友達はありがたいなあって、ずっと思っていたよ。


 だから、お前たちは十分に称賛される値があるよ……それに比べてただ眠っていただけの俺なんて……やっぱりお前だけ行って来い。」

 夢幻はそういうと、茶碗一杯のご飯を掻き込んだ。


「だから……駄目だって。お兄ちゃんがいないと、出来ない作戦だったんだから。

 あたしたちは、そのおまけなの……お兄ちゃんが行かないのだったら、あたしもやめる。」

 美愛は怒って頬を膨らませる。


「そうは言ってもだなあ……お前たちは良いよ、表彰される時に、天皇陛下に『円盤への潜入には、ご苦労なされましたか?』なんて聞かれても、『はい、敵の目をかいくぐっての潜入でした』……なんて事答えられるから。


 俺なんか、『いえ、作戦中はずっと眠っていたので状況は判りません。』なんて答えるのかい?……そんな間抜けな事出来ないよ。」

 夢幻は不機嫌そうにしながら、食べ終わった食器を片づけ始めた。


「でも、お兄ちゃんの超能力は寝ていないと発揮されないのだから、仕方がないじゃない。

 それに、その力が地球の危機を救ったのだから、もっと堂々としていていいんだよ。」

 美愛も食器を片づけて、流し台へと運び始めた。


「でもなあ……その能力のおかげで、当面はエヌジェイで生活しなければならないのだからなあ……。」

 夢幻は大きくため息を付いた。


 夢幻の能力は今や十トンもの重さを一緒に浮上させるだけの、浮遊能力に達していた。

 その為、エヌジェイビルの風洞実験室内に天井付きの仮小屋を作成して、その中で寝ているのである。


 普通の家であれば、天井ごと浮かび上がりかねないので、大変危険な状態なのだが、それでも眠る前から体と直接接触する負荷を与えなければ、浮上能力は減少して行く事が確認されており、半年もすれば普通に就寝が可能になるという事であった。


 夢幻の超能力に関することの他に、研究員から地球外生命体について分ったことについても、今日の昼間に説明を受けていたのであった。


---------------

「円盤の中の釜の中に居た黒い粒粒ですが、あれは想像通りでんぷんやたんぱく質・脂質といった、生体細胞を溶かして分解する細菌の一種でした……勿論、地球上にいる細菌とは全く異質のものです。


 宇宙人のミイラの体を解剖して確認しましたが、食道や胃などの消化器官は確認されませんでした……恐らくは、この細菌に生物分解させて、自分たちはその栄養素だけを体内に取り込むことで、効率よく吸収していたのでしょう……その為、消化器官は退化して無くなっていったものと推定されます。」


 研究員が持ち帰った細菌サンプルの顕微鏡写真や、宇宙人のミイラの写真などをスクリーンに映し出しながら説明をしている。


「では、巨大な釜が宇宙人たちの胃袋代わりといったところか……いやあ、見て見たかったなあ。」

 夢幻が今更ながら、感心したように頷いた。


 対する美愛たちの表情は複雑であった。

 自分たちが釜に取り込まれそうになったこともあるのだが、何よりもその釜の中で消化されていく犠牲者を目の当たりにしたからであろう。


「まさにそうです。

 そこで消化されたもののうち、生命維持に必要な栄養素だけを取り込むような生活システムを構築していたようです。

 その為、彼らの体にはへその緒がそのまま残されていました。」


「へその緒?」

 美愛が驚いて聞き返す。


「そうです、哺乳類特有の母体内に居る時に栄養を受け取る器官ですが、彼らは生まれ出た後にもその器官を利用して、栄養素を体内に取り込んでいたものと考えられます。

 栄養素を偏りなく、短時間に吸収できるシステムを構築していたと推定しています。


 あくまでも報告内容からの想像ですが、宇宙人たちのミイラがあった中央操作室の小さいテーブルと言うのは、彼らが栄養補給をするためのステーション、つまり食卓のような物ではなかったかと考えております。」

 研究員が宇宙人の体から伸びた、細長い管のような物のスライドを示しながら説明を続けた。


「へえ……じゃあその食卓からへその緒を使って、栄養素の供給を受けていたってことか。

 でも食事と言うには味気ないよね……この料理の味付けはおいしいだの、まずいだのと言った感覚はない訳だろう?宇宙人は食卓を囲んでどんな会話していたんだろうね……。」

 夢幻が宇宙人の食事シーンを想像しているのか、遠い目をしながらつぶやく。


「でも、そんな進んだ科学力の宇宙人がどうして死んじゃったの?

 しかも、円盤の中の宇宙人全員が死んでしまったのでしょう?」

 美愛が立ち上がって質問をする。


「いい質問ですね……これには色々と原因が考えられるでしょう。

 一つ分かったことは、細菌の株は2種類存在していたという事です。

 一つ目は分裂しない細菌……つまり成長しても分裂して数が増えて行く事はない細菌の株です。


 これは遺伝子操作されたようで、恐らく宇宙人が自分たちの胃酸ともいえる消化用の細菌を、管理する為に作り出したものと考えられます。

 必要以上に細菌が増殖して、栄養素を消費してしまわないよう、コントロールしていたのでしょう。


 二つ目の株は、自然に分裂を続けることが出来る株です。

 当初はこの株を操作して、増殖しない株を作ったと考えていましたが、どうやら違うようです。

 増殖しないはずであった株の内の一部が突然変異をして、増殖型に変化したものと解析されました。」

 研究員が細菌のDNA解析を示しながら説明を続ける。


「それは、どういった事ですか?」

 幸平が質問をした。


「どうやら細菌のコントロールに失敗した模様です……持ち帰ったサンプルの内の90%が増殖タイプの株でした。

 しかも消化エネルギー代謝の効率が悪く、与えた生物の栄養分のうち70%は細菌自体が消費していました。


 更にその上、残りの30%は自らが分裂して増殖するのに使われてしまい、エネルギーを取り出すことは出来なくなっているようです。

 元の増殖しないタイプは10%ほどの消費だけで、残りの90%を栄養分として取り出せるほど効率が良かったにも関わらずにです。


 ここからは推測の域を出ませんが、恐らく何世代も前からこのようなシステムが完成していて、自動プログラムで円盤の運行から収穫までが実行されていたのでしょう。

 円盤の住人は、只取り込まれる栄養の供与を受けているだけで良かった。


 ところが、ある時に細菌のコントロールに失敗して、胃袋ともいえる消化器官の釜から、自分たち用の栄養を受け取ることが出来なくなったのでしょう。

 長い年月の間、ただただ供与されることに慣れてしまう事により知能も退化していき、その時には既に自分たちで直接、細菌をコントロールできる知識も行動力もなくなっていたのかも知れません。


 そうして、次第にやせ細って死んでいく……いわゆる餓死ですね。」


「ふーん、そうだったの……それでも円盤自体の航行は続けられて、組みこんだプログラム通りに地球へやってきて、地球人たちを誘拐して行ったという訳ね。」

 美愛は納得して頷いた。


「でも、悔しいですよね……そんな宇宙人も乗っていない自動プログラムの円盤に侵略されかけたなんて……いわば、細菌たちのための餌としてさらわれて行ったという訳でしょう?」

 幸平が納得のいかないと言った表情をする。


「まあ、相手の宇宙人が死滅していなければ地球の文明を見て、高等生物と感じて侵略しなかった可能性もあることはありますが、それでも侵略を受けた可能性も否定できないわけです……相手が2本足で立って歩く宇宙人であっても、黒い粒粒の細菌であっても……地球外生命体であることに変わりはありません。


 細菌に地球侵略の意志があったかどうかは確かめようもありませんが、とにもかくにも地球の危機であったことに違いはありません……なにせ、圧倒的な科学力の差があった訳ですから。」

 研究員が話をしめるように答えた。


「まあ、運が良かったってことだよなあ……幸平の話なんか聞いていると、敵のコンピュータープログラムだって、思い描くだけで操作可能なんて、随分と都合のいい……。」

 夢幻が幸平の報告を聞いていて、とても普通では考えられない運の良さとばかりに感想を述べる。


「そうだね……まあ、理想のコンピューターの進化系ではあったのだけれども、何にしても敵のコンピューターに侵入してやろうと意気込んで、道具はある程度揃えて行ったけど、文明や考え方も異なるし、そもそも指でキーボードを叩いているのかどうかも分かりはしない。


 結構自信はなかったし、案の定一筋縄ではいかない状況だったよ……ところが、意外と簡単にコンピューターの操作が出来たので、予想以上にうまく行ったと思っている。」

 幸平は恥ずかしそうに笑った。


 皆思いは同じだったのであろう、その笑顔に全員がつられて微笑んだが、次もこのように展開するかどうかは、保証されてはいないのであった。

-------------------


「明日は、お兄ちゃんも一緒に行く。」

「行かない。」

 夢幻たち兄妹の、表彰式参加の問答はその晩遅くまで続いた。


 完



これで完結です。ご愛読ありがとうございました。

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