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第23話

 第23話

「これからどうします?」

 幸平が神大寺に尋ねる。


「うーん……やはりバリアーの解除だな……それと巨大兵器の破壊。

 中央操作室だから出来るだろう?それが出来れば総攻撃を開始して円盤を破壊できる。」


「それなんですが……先ほどの断面図から言うと、さっきの釜の下が巨大な反応炉になっているようです。

 恐らくは核融合か何かだと思いますが、未知のものだとしても相当巨大なエネルギーを持っているでしょう。

 そんなものを破壊したら、大爆発が起きますよね……。


 ここは大西洋の真ん中ではありますが、この円盤の大きさから考えても、影響は地球全体へ及ぶでしょう。

 悪くすれば核の灰に覆われて、地球上の生物絶滅なんて事になりかねません。


 更に、反応炉の爆発は免れたとしても、釜の中の微生物なのか細菌なのか知らないけど、未知の生物が地球にばらまかれることになります……それらの地球環境への影響は計り知れないものがありますよね。」


「そうは言っても、彼らが素直に帰ってくれるとは限らんし……説得も出来んだろう?」

 幸平の言葉に、神大寺も困った様子だ。


「こっちへ来て。」

 美愛が部屋の奥から手を振っている。


 そこは少し小さなテーブルを挟んで、丸い平板が床から伸びている。

 椅子なのであろうか、その椅子には大きな布のような物が掛けられていた。


「これを見てください。」

 美愛が気味悪そうに顔をしかめながら、その布のような物体を指さした。


 それはどうやら布ではなく、座布団のような丸い扁平に、細長い布が垂れ下がっているような形である。

 よく見ると、丸い扁平の表面にはくぼみや突起があり、それは生き物の顔を想像させた。


「一寸、大きさや形は違うけど、目みたいな大きなくぼみに、その下に細長い切れ込みがあって、口じゃないですか?

 マスコット人形の着ぐるみの抜け殻みたいにも感じるけど、これが地球外生命体の宇宙服?」


 美愛に促されて、神大寺がその布のような物に触ってみた。

 ざらざらとした感触があり、強くこすると脆く崩れてしまうような薄い膜のように感じられる。


「宇宙服や着ぐるみといったものではなさそうだ……というより、これが宇宙人そのものだろう。」


『宇宙人?』

 幸平も美愛も同時に叫ぶ。


「そうだ……恐らく宇宙人の死体だろう。

 この表面の布のように見えるのは死後乾燥してミイラ化した皮膚で、触ると中に骨のようにごつごつとした堅いものがあるのが分る……骨格だろうな……筋肉や内臓は乾燥して細り、死後相当な年数が経過しているものと推定される。


 しかし一番重要と考えられる中央操作室に、仲間の宇宙人の死体をそのまま放置しておくとは、どうやらこの円盤の中ではとんでもないことが起こっていたようだ。」

 美愛の発見したそれはミイラ化した宇宙人と推定された。

 その大きさは1メートル20センチほどで、想像していた2メートルを超える巨人には程遠かった。

 

「だって、大きさが……ミイラ化して縮んだ?」

 幸平が驚いたように呟く。


「いや、そうではないな……着ている服からして、生前からこのサイズだろう。

 巨大な入口に巨大なベッドと言い、随分見栄っ張りな宇宙人と見える。」

 神大寺が冷ややかに分析する。


「でも、どうして……。」

 美愛が、誰に尋ねるでもなく呟いた。


「判らん。」

 神大寺も頭を抱える。


「いやあ、気持ちが悪い……。」

 幸平はそう叫びながら、美愛に飛びつこうとした。

 しかし美愛は苦も無く体をかわし、幸平はそのまま部屋の壁に激突した。


「円盤の中ではおとなしくしていると思っていたら……本当に油断も隙もない。

 大体、さっき橋渡しで誘拐された人たちを救った時も、若い女の人が通るときに上を見上げてスカートの中を覗いていたでしょう?本当にド変態よね……。」

 美愛は両足を肩幅より広げて立ち、腕組みをしてから床に伏している幸平を厳しい目つきで見下ろした。


「そんなこと、するわけが……・。」

「うそよ、運転席の前にいたから、はっきりと見えたわよ……。」

 否定する幸平に、尚も美愛が詰め寄る。


「い……いやあ……む……無意識の行動と言うか……自然と体が動いて……つい……。

 で……でも、逆光だったから、全く見えませんでした……本当です。」

 幸平は観念したように、目をつぶりながら顔を赤くして答えた。


「あんな切迫した状態で、そんなことを……。」

 神大寺もさすがに唖然として、幸平の顔をまじまじと見つめた。


「や……やっぱりそうだ……これを見てください。」

 まずいと思ったのか幸平は、何とか話をそらそうと立ち上がり、積極的に動き出した。


 幸平は部屋の中央部にある大きなテーブルに駆け足で移動し、その上に手を翳して画面を表示すると、先ほどの円盤の断面図を表示させた。

 そこには、今いる中央操作室が点滅していて、そこは無数の赤い点で埋め尽くされている。


「この赤い点は、我々を示しています……恐らく生物の存在を表しているのでしょう。

 そうして中央部にある無数の小さな赤い点は、先ほどの釜の中の微生物を指しているものと考えられますよね?」


「おう、そうだろうな……小さな点は多数の人の数を表すのかとも考えていたようだが、違った……。

 数だけではなく、どうやら生物のおおよその大きさをも表しているのだろう。」

 幸平の問いかけに、神大寺が頷いた。


「肝心なのは、円盤の他の地点には赤い点が全く表示されていないことです。

 今表示されているのは、ここ中央操作室に居る我々と誘拐された人々……それに釜の中の微生物だけです。

 つまり、この円盤の中にはほかに生き物はいないという事です。


 このミイラのように、地球外生命体は円盤の中で死に絶えてしまったのではないでしょうか……。」

 幸平の推測はもっともらしく聞こえ、それは現状を認識することを難しくさせた。


「どういうことだ?」


「あの釜の中の微生物が、地球外生命体本体という事はないと考えます……微生物に円盤が作れるとは思えませんしね。

 やはりここでミイラ化した生き物が、地球外生命体なのでしょう。


 ところが何か事情があって、この円盤の宇宙人は死滅してしまった。

 ところが円盤の操作はプログラム化されているので、宇宙人が居なくても色々な惑星へ行ってそこの生き物をさらい続けているのではないでしょうか?」


「道理で、誰とも遭遇しないと思ったわ……。

 運が強いんじゃないかとも思っていたけど、そうじゃなかったのね。」

 美愛がひとり言のように呟く。


「いや、運がいいだろう……宇宙人がいないのであれば、この円盤を貰ってしまえばいいのではないか?

 地球の文明の発達に大きく寄与できるぞ。」

 神大寺は思いがけない幸運に、興奮してきた。


「まあ、やってみましょう……着陸プログラム。」

 幸平はそう念じながら、画面に触れた。

 すると白く反転した後に、幾何学文字に埋め尽くされた画面へと切り替わる。


「エラー画面でしょうかね……うーん、駄目かあ……では、バリアーの解除プログラム。」

 幸平がそう念じながら画面に触れたが、やはりエラー画面へと切り替わってしまうようだ。


「駄目なようですね……多分、今は地球の生物を誘拐する収穫のプログラムが働いているので、それが完結するまでは、他のプログラムに移行できないのではないでしょうか。


 自動的に星々を渡り歩くようにセットされているので、効率的に回るようプログラムの割り込みが出来ないようになっている可能性があります……恐らくそれを解除するにはパスワードなど特別な操作が必要と考えます。」

 幸平は残念そうに答えた。


「うーん、そうかあ……着陸どころかバリアーの解除もだめでは、応援も呼べんし破壊も難しいだろう。

 打つ手なく、自動プログラムで人々が誘拐されてくるのを見ているだけしかないのか?」

 神大寺は頭を抱えてしまった。


「じゃあ、ここでの目的は完結したと入力すればいいのよ。」

 美愛が後ろから声を掛けた。


『完結?』


「そう……誘拐する人数のカウンターか、地球滞在日数のカウンターとかがあるはずよ。

 それで地球滞在の目的を完結したら、次の星へと向かう訳でしょう?

 そのカウンターをMAXにすればいいんじゃない?私ってあったまいいー。」

 美愛が嬉しそうに叫ぶ。


「そうか……奪取する獲物の数や滞在日数などで管理しなければ、いつまででも強奪し続けることになってしまうから、何らかの数値目標はあるはずだね……では、この星、地球での収穫数の目標と現在値表示。」

 幸平がそう念じながら画面に触れると、幾何学文字の羅列が2段表示された。


「ビンゴだねえ……上段が目標値で下段が現在値だろう……まあ、逆でも問題はないのだが……。

 上段の数値をコピーして、下段に貼り付け……。」

 幸平がそう念じると、後半部分の幾何学文字の羅列が上下段同じ文字の羅列に切り替わった。


「上書き保存。次のプログラム実行。」

 幸平がそう念じた途端、照明が点滅を開始し、サイレンのような警報が鳴り始めた。


「おい、誤って自爆スイッチを押したのではないだろうな。」

 神大寺が焦って幸平の胸ぐらをつかみ問い詰める。


「わ……、分りません……先ほど念じた着陸プログラムに切り替わるものだと思っていたのですが……。

 現在起動中のプログラムの目標は?」

 神大寺に胸ぐらをつかまれ苦しそうな幸平が、そう念じながらモニターを触ると、見たこともない星系が表示された。


 太陽系のように恒星を中心に惑星が並んでいるが、真ん中の恒星を挟んで同じ公転軌道上に2つの惑星があったり、2連星が互いに回転しながら公転している星系のようだ。

 そのうちの一つの惑星が点滅している。


「ど……どうやら……自動的に次の目標の星に侵攻するようですね。

 やはり細かなアクセスは可能でも、基本的な収穫プログラムから逸脱するのは難しそうです。」


「おお、いいではないか……他の星へと去ってくれるのであれば……円盤を手に入れられなかったのは残念だが、我々もすぐに脱出しよう。」

 神大寺は幸平を掴んでいた両手を離した。

 ようやく解放された幸平は、咳き込みながら告げる。


「ごほっ……いえ、それでは他の惑星の住民が収穫されるだけです……また地球に戻ってこないとも限りません。

 かといって円盤を地球上で破壊することも出来そうもありませんから、太陽へと突っ込ませましょう。」


「ふーむ……それはいい考えかも知れんな。しかし、どうやって突っ込ませるのだ?」


「行き先を太陽に変更してやれば大丈夫でしょう……次の目標は、この星系中央部の恒星に変更だ。」

 幸平がそう念じながら画面を触る。

 しかし画面は白く反転すると、次の瞬間幾何学的な記号の羅列で埋め尽くされた。


「うーん、うまく行かないか……恐らく、恒星などに誤って突っ込まないように、不適切な目標は自動的に拒否するのでしょうね。

 では、この円盤の航行を管理するプログラムはどこかな?」

 幸平がそう呟きながら画面にタッチすると、先ほどとは違った幾何学模様の羅列の画面に切り替わった。


「では、この中で、恒星など不適切な目標に進路が設定されないように制御している部分はどれかな?」

 すると、文字列の一部数十列が反転表示された。


「削除」

 幸平はそう呟いて、反転表示にタッチした。

 すると反転表示されていた部分が消えて、その部分が空白に切り替わる。



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