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第22話

第22話

「画面がタッチパネルみたいになっているのでしょう?

 あまり変なところを触っていると、自爆スイッチなんかが反応して、円盤が爆発なんてことにならない?

 そうでなくても、超強力な兵器で地球を攻撃する命令を発動させたりなんかして……。」

 何も判らないまま画面を触りまくっている幸平を、心配性な美愛は制しようとする。


「まあ、大丈夫だろう……こんな普通に出てくる操作画面には、自爆スイッチなんかはないよ。

 誤って別の操作中に触らないように、緊急時にのみ出てくるよう、通常は保護されているはずのものだ。

 兵器のスイッチだとしても、稼働する時には目標へのターゲットなんかも表示されるだろうし、それまでは平気だと思うよ。


 そう言った意味では目的となるバリアー機能の停止スイッチも、おいそれと簡単には出てこないと考えている。

 なんにしても、まずはこの円盤の内部情報を知りたいのだけどなあ……僕たちの位置情報とか……。」


「そんな発想は、あくまでも地球人の発想でしょう?それも、日本人的な……」

 どこかで聞いたようなことを美愛が言って、幸平をもう一度制しようとしたときに、映し出される画面が突然巨大円盤の断面図に切り替わった。しかもそのうちの1点が点滅している。


「えっ?画面が自然と切り替わった……この点滅している部分が、僕たちが今いる場所ってことかな?」

 幸平がそういいながら画面にタッチすると、その点滅部分がクローズアップされ、モニターに4つの点が表示された。


 更にその部分をタッチすると、部屋内部の俯瞰図に切り替わり、部屋中央部のテーブルと、部屋に入り込んだ車体が線で表示され、その周りに4つの点が赤く表示された。


「へ、へえ……どうやら、欲しい情報を思い浮かべながら画面をタッチすると、その情報が自動的に表示されるみたいだね。

 頭に思い描くだけだから言語も何も関係ない、イメージを取得して情報を返すシステムのようだ。


 これは簡単だ……地球のパソコンも、こうなればいいのに……では、中央操作室はどこかな?」

 幸平がそう言いながら画面をタッチすると、先ほどの円盤の断面図に切り替わり、中心部分の巨大な空間の横に配置された部屋が点滅を始めた。


「ほら見ろ、俺が言った通りだ……中央操作室だから、中央部にあるのだよ。」

 神大寺は誇らしげに微笑んだ。


「その様ですが、この巨大な空間はなんでしょうかね。

 しかもその空間の下部の丸い部分に、小さな赤い点が集中してうごめいています。


 点の大きさから推定すると、我々を示す点よりもはるかに小さいようですが、どうやら赤い点は生物を表している様子です。

 我々と同じくらいの大きさの点は、巨大な空間を挟んだ中央操作室の反対側にたくさん表示されています。


 もしかすると点の大きさよりも数が重要で、余りにたくさんいると表示する点が小さくなるのかも知れない。

 しかし、そうすると千や万といった数ではありませんよ……2メートル級の巨大宇宙人が無数にいることになります。」

 幸平がモニターを見つめながらため息を付いた。


「うーん……中央操作室に行くには、この赤い点が多数表示された部屋と、無数の赤い点が表示されている空間を通るルート以外にはないのかな?」


「幸いにも中央操作室には赤い点がないので今の所無人の様子ですが、残念ながらそこへ行くには多数の宇宙人がいるところを通らなくてはなりませんね……。」

 幸平は冷静に告げる。


「仕方がないな、夢幻君の能力に賭けよう。」


「大丈夫よ、お兄ちゃんのバリアーは攻撃を無力化するのでしょう?

 宇宙人に取り囲まれたって、敵の攻撃を受けることはないわ……逆に宇宙人を追い詰めて行って、どこかに閉じ込めるなんてことだって出来るかもしれない。」

 美愛が強気な発言をする。



「お兄ちゃん、もう一度寝られる?」

 車体に戻って来た美愛は、兄に尋ねる。


「ああ、まだまだ寝足りないくらいだよ……大丈夫さ。ふあー。」

 夢幻はあくびを噛み殺しながら、ベルトを装着してカプセルの中で横になった。


 美愛が操縦席に着くよりも早く、車体は浮き始めていた。

 急いでカプセルを前方に向けてから、大きく回してUターンをする。

 入ってきた入口は内開きのため、あらかじめ開いておいて、閉じ無いように下部に止め板を噛ませておいたのだ。


 最初の目標通り、巨大円盤の中央部を目指して進んで行く。

 しかし当初とは違い、やみくもに当てずっぽうで進んでいるのではなく、目標を認識して進んでいるのだ。

 この違いが、美愛の操作する気持ちを楽にさせていた。


 モニターに表示されていた通りに数階分下へと下り、更に中央部へ向けて直進する。

 美愛の感覚では、この先がモニターに多数の赤い点が表示された部屋に当たるはずであった。

 ところが、通路を抜けた先は巨大な吹き抜けの空間であった。


「あら?道を間違ったかしら。」

「もう少し下のようだね。」

 幸平が後部座席から指摘する。


 そう言われて下降を開始すると、すぐに巨大空間に橋渡された1本の通路が見えてきた。

 しかも、その通路にはぞろぞろと歩く人間たちの姿があった。


「あ、あれ?あれが宇宙人?どう見ても地球人にしか見えない。」

 美愛が歩いている人々を見て驚いて呟く。


「いや、地球人だろう……宇宙でも地球のファッションがそのまま取り入れられているとは到底思えない。

 あれは、誘拐された人々だろうね……意外と自由にさせてもらっているのかな?」

 幸平は人々が、拘束もされずに歩いていることに少し安堵した。


「そうではないようだぞ。」

 神大寺は真剣な面持ちで彼らが歩いている先を指さした。


 彼らが歩いている通路は中央操作室へと向かってはいるのだが、丁度その真ん中は途切れていて先は繋がっていないのだ。ところが、人々は構わずに通路を歩いて行き、次々と落下して行っている。


「大変……。」

 美愛は急いで歩いている人々に近づき、叫んだ。


「だめよ、この先は通路がないわ……落ちて怪我をするわよ。」

 ところが美愛の言葉に人々は何の反応もない。うつろな目をして、ただひたすら前を見つめて歩いて行く。


 車体が回り込むと切れた通路の下は大きな釜のような形状をしていて、上部が開いている。

 大きな口が開いていて、その中に人々は落下して行っている様子だ。


「どうやら彼らは操られていて、皆釜の中へと導かれているのだろう……悪いが助けられん。」

 神大寺は悔しそうな顔をした。


「駄目よ、助けるわ……。」

 美愛は切れた通路の先に回り込んで、人々をせき止めようとするが、人々は車体の脇から次々と釜の中へと落ちていく。


 仕方がないので、今度は通路が切れた先の下側に回り、人々が落ちてくるのを受け止めようとした。

 丁度、釜の口の真上に位置して、落ちてくる人々を受け止めようとする格好だ。しかし、人々は車体の上をそのまま歩いて進んで行く。


 見かねた神大寺が席の前方にあるレバーを引いた。

 すると車体の側面が開いて、大きな板状に広がった。


「救出する人々がいた時のための機能だ……底板は10メートル4方迄伸ばせるが、バリアーを張ったままではここまでだ……それでも、釜の口を塞ぐことは難しそうだがね。」


 人々は、バリアーで覆われた美愛たちの上を歩いて行く。その動きを止めることは難しそうだ。

 それでも美愛は何とか車体を傾けたりしながら、人々が釜の中に落ちるのを防ごうとしている。


「無理だ、美愛君……彼らは操られている。どうしようもない。

 それにバリアーに守られているとはいえ、あまり人を上に乗せると、夢幻君の浮遊能力にも限界がある。

 こっちまで釜の中に取り込まれてしまうぞ。」

 神大寺は美愛に、あきらめるよう説得する。


「でも……、このままではこの人たちは溶けて行ってしまいます。」

 美愛が言うとおり、釜の中に入った人は黒い無数の小さな粒に覆われ、着ている服ごと順に溶けて行っている様子だ。


 その姿はすぐに真っ白な骨だけになり、やがてその骨すらも黒い粒に覆われて形が無くなって行く。

 残酷なのは、それまで操られている人々が釜の中へ入った途端意識が戻るのか、絶叫の叫び声をあげてもがき苦しんでいることだ。美愛はどうしてもその姿を正視できずにいた。


「よし、分った……俺に考えがある。通路の高さまで浮上してくれ。」


「でも、この車体じゃ、通路の切れた部分には長さが足りないですよ。」

 美愛はその指示は納得できないようだった。


「いいから。」

 神大寺に促されて美愛は車体を上昇させた。

 丁度通路の切れた部分の中央に浮く格好だ。それぞれ通路までは2メートル程隔たりがある。


「よし、幸平君、一緒に来てくれ……君はこっち側の通路に飛びつくんだ。俺は向こう側に飛びつく。」

 神大寺はそういうと、人々が続々と押し寄せてくる通路へ向かってジャンプした。

 そして通路の端に両手でしがみつくと、そのまま頭を下げた。


 人々は神大寺の体を橋代わりにして歩き続けている。

 神大寺の体は夢幻の体とプローブで繋がれているため、車体からバリアーで繋がれている格好だ。

 状況を飲み込んだ幸平は、反対側の通路へとジャンプして、通路の橋へとしがみつき頭を下げた。


 そのまま車体の高さを橋の高さに水平になるまで下げていくと、既に車体の上に乗っていた人々も、歩いて行く通路が出来た途端にその方向へと歩き出した。

 無数の人々が神大寺たちの体を橋代わりに通路の向こう側へと渡って行き、しばらくすると、ようやく通過してくる人々の列が途切れた。


「ふうっ……終わったようだな。美愛君、我々を回収してくれ。」

 神大寺の言葉に従い、美愛は車体を前後に少しずつ動かして、神大寺たちを回収した。


 そうして、人々が進んで行った、彼らにとっても目的地である中央操作室へと車体を進めて行く。

 その先は大広間のような空間で人々がひしめいていた。

 しかし想像しているのと異なり、操作パネルなどはなく、中央部分に巨大なテーブルがある程度であった。


「ぎゃー!」

 夢幻を起こしてバリアーを解き、神大寺たちが車体を下りようとしたところ、部屋の奥から叫び声が聞こえた。

 その声を聞いた神大寺が、急いで駆けていく。


「救急セットを持ってきてくれ。」

 神大寺の指示を聞いて、美愛が急いでシートの下に備え付けてある救急箱を持って奥へと向かう。


 そこには苦しむ中年の男性の姿があった。

 男性のズボンは半分溶けかかっていて、黒い小さな粒が生き物のようにズボンを伝わり上方へと向かって行っている。


 神大寺はゴム手袋をしてから急いで男のズボンを脱がせると、応急セットから大きなガラス瓶を取出し、ズボンを入れた。ゴム手袋にも黒い粒が這ってきたため、手袋も一緒に入れる。

 そうして蓋をしっかりと閉めてから、それを金属製の箱に収めた。


「未知の微生物採集用のセットだ……ガラスの内側を特殊な樹脂でコーティングしてあり、更に酸に強いチタン製の箱だ……恐らくこれで大丈夫だろう。」

 美愛は叫んでいた男の足首に、消毒用スプレーを吹き付けてやった。

 どうやら服だけで体に異常はない様子だ。


「一旦釜に落ちて、這い上がってきたのでしょうね。」

 幸平がパンツ姿の男に、シーツのような大きな布を手渡した。


「ここはどこだ?俺は一体どうしたというのだ?」

 男は我に返ったのか、辺りを見回しながら神大寺たちに尋ねてきた。


「あなたは地球外生命体にさらわれて、カマの中で溶かされようとしていたのです。

 理由は判りませんが、地球の生命体の成分分析を行っていたのか、あるいはその成分に必要な要素があって抽出しているのかも知れない。」


 神大寺が男に、いきさつを概略説明する。

 男は自分の身に起きたことがいまだに信じられないと言った表情で、言葉を失っている。

 その他の人々は、未だに意識を取り戻さないのか、無言のままうつろな目をしたままだ。



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