第19話
第19話
「その……彼の能力を使って敵円盤へ潜入する計画があるようだが……、進捗はどうなっている?」
「し……進捗ですか?あの作戦は、あくまでも夢幻君のバリアー機能を拡大解釈して、宇宙人が持っていると想定されるバリアーと同じ機能であれば、潜入時に役立つ可能性があるとした、机上の作戦です。
実現性は非常に低いものです。
それに比べてA国の超能力者部隊による作戦は実現性が高く、作戦としての価値は数段上と考えております。」
神大寺は、夢幻の能力による作戦を真っ向から否定した。
「いや……あまり他国に多大な期待を寄せるのは、どうかと思うなあ……。
地球規模の危機なのだぞ……例え今は大西洋上の1機だけであるかもしれんが、今後敵の円盤が増えんとも限らんし、増えなくても日本上空へと飛来してくる可能性もあるわけだ……その時ただ指をくわえて救援を待っているという訳にはいかないだろ?
とりあえずバリアー機能など確認しなければいけない項目は並行して進めるとして、大至急準備して現地へと向かうのもありだよね……これは日本の防衛組織として、その活躍を世界へアピールできる絶好の機会だから……そのチャンスを逃すわけには行かないと思うのだが……どうかね?」
「し……しかし……彼は一般人であり、しかもまだ学生です。
彼の能力を想定した作戦は、机上の想定上では他の作戦よりも成功確率は高いのですが、確実に安全と言えるものではありません。
その様な場に、彼のような若者を参加させるのはどうかと……我々エ・・ゴホン!所員たちは、これまで数々の作戦を評価してきました。
その為、我々だけでも現地へと赴き、指揮系統の一助となることでお役に立ちたいと考えております。」
神大寺は深く頭を下げ、高円寺の願いをとりあえず断ろうとする。
「お前たちだけで行って何が出来る……優秀な飛行技術を持ったパイロットとして、うちの部隊の精鋭たちが愛機と共に既に出発しているが、あくまでも専守防衛が原則だから武装した戦闘機を日本国外で飛行させることなど持ってのほかだと野党の猛反対に会い、国連軍の補佐として日の丸も塗りつぶし、国連旗に書き換えて参加しているのだぞ。
お国のため……地球のために命を懸けて任務についているはずが、その存在すら公にはできないのだ。
それでは一体、何をもって我々がこの星のお役に立っているとアピールできるのだ?
日本の優秀さを知らしめるためにも、我が国の超能力者による作戦は不可欠だとは感じないかね?
但し……確かに学生と言うのは厄介だ。後でもめなくてもいいように、本人直筆の承諾書を取っておくのがいい……なあに、地球上の全ての人類の為になる事なのだから、嫌がるはずもないだろう……よろしく頼むよ。
この事は、君の将来の為にもなることだから、しっかりやってくれ。」
最後まで神大寺の方に向き直ることはなく、高円寺は話しを終えた。
神大寺はもう一度深々と頭を下げてから、なにも注文することもなく席を離れた。
不本意ではあるが、夢幻たちを連れて現場へ向かうしかないだろう。神大寺は携帯電話を取り出して、各所へと連絡を始めた……。
急きょ仕立てられた自衛隊の輸送機は、大西洋上を目指してを飛んでいた。
既に現地時間では夜を迎えていて、美愛や幸平は時差に慣れるために仮眠をとっていたが、眠ることを許されない夢幻の所に、おもむろに神大寺が訪ねてきた。
「やあ、調子はどうだい。」
神大寺は明るく笑って、学生服姿の夢幻に話しかけた。
「いやあ、どうも……調子も何も……どうしてここへ連れてこられたかも分らないし、自分がこれから何をすればいいのかも、想像もできません。
ただ自衛隊機で円盤の近くまで行って眺めているだけなんてことは……、ないのでしょう?」
夢幻としても、この状況を案じているのだろう。
かといって自分に何が出来るはずもないので、手をこまねいているしかないのである。
「まだ確実ではないのだが、君の能力が敵円盤に潜入する時に役立つ可能性があるんだ。」
神大寺はおもむろに話を切り出した。
「円盤に潜入?」
「そうだ……敵円盤内に潜入して、円盤の飛行機能やバリアー機能を破壊してしまうという作戦なのだが、その際に君のバリアー機能があれば、敵からの攻撃を防げるし、想定通りなら敵のバリアーも通り抜けられるかもしれない……成功確率がぐっと上がるわけだ……。
その為には君が一緒に作戦に参加してもらわなければならないのだが、どうだろう参加してくれるかい?」
神大寺は神妙な面持ちで、夢幻の目を見つめた。
「俺のバリアー機能?……何のことか判りませんが、寝ている時に浮いてしまうことと関係するのですか?
そうすると、作戦は俺が寝ている時に実施されるわけですよね。
相手から攻撃されたりしたときに、寝たままじゃあ逃げることも出来ないし、そのまま死んじゃうなんてこともあり得ますよね?……ちょっと怖いなあ。」
夢幻は少し恥ずかしそうに、苦笑いをした……意外と余裕の反応は、本気で作戦に誘われているとは考えていないのだろう。
「そうか、そうだろう……我々としても強制は出来ん。
ただしかし、先ほど君の妹の美愛君にそれとなく確認したら、君の参加に関わらず、地球規模の危機なのだから自分は絶対に作戦に参加すると言っている。
こちらとしては高校生の美愛君一人を参加させるわけにもいかなくて、弱っている……どうだろう、君から作戦は危険だから、止めるように説得してくれないか?」
「えーっ?……美愛がそんなことを言っているのですか?
あいつは頑固だから、一度言い出したことは絶対に変えませんよ。
確かに地球の危機なんて言えば、俺が居なくても一人で作戦に参加しようとするだろうし……だったら俺も参加します……美愛一人だけを危険な所に向かわすわけには行かないから……。
でも……この作戦に俺が参加すれば、本当に成功する確率が上がるわけですよね?大丈夫なんですよね?」
夢幻は必死な面持ちで神大寺の目を見つめて、真意を確かめようとしていた。
対する神大寺は、少し目をそらせながら答える。
「ああ……君が参加してくれれば、成功確率は格段に跳ね上がるのは間違いない。
2,3確認が必要だが、想定通りなら安全に敵の円盤近くまで辿りつけるはずだ。」
「判りました……仕方がありませんね。
まあ、地球の危機を救うなんて大それたことをする器でもないですが、こんな俺でも何かお役に立てるのであれば参加しましょう。」
夢幻としても、地球の危機回避に役立ったという情報が広がれば、学校で一躍人気者になれるあろうという目論見もあった。
なにせ地球の危機を救ったヒーローとなれるかもしれないのだ……ややミーハーな夢幻にとっては、絶好のアピールの機会ともいえる。
「そうか、ありがとう。
そこでなんだが、後で何かあった時に証拠となる様に、君が自分の意志で作戦に参加したのだという念書を作成して欲しい。
なあに、これは私も署名しているし、作戦に参加する全員がサインするものだから、安心してくれ……あくまでも形式上のものだ。」
物事を疑わない夢幻は、言われた通りに念書にサインをした。
この時に神大寺の口元が緩むのに気づくことはなかった。
もちろん、この後に美愛たちを説得して、2人からも念書にサインをもらったことは言うまでもない。
「サイキックA、作戦J進行中……貴公たちは一旦引き揚げて後方での待機をお願いいたします。
戦闘機部隊は、引き続き陽動作戦の攻撃を続けてください。」
日本からの連絡が入ったのだろう。
凄まじいばかりの攻撃を継続していた超能力者部隊と、精密爆撃を続けていた戦闘機チームに新たな指示が下った。
「作戦Jか……ボーイたちがやってくるのだな……オーケィ。
でも、このままお役御免という訳にはいかないよ……なにせ、彼らが出現する前までは、我々が地球として最高の切り札だったわけだからな。
まあ、でも作戦の邪魔をするつもりはない……彼らが安全に円盤へ潜入できるよう、陽動作戦に協力させていただくよ。」
サイキックAはそういうと、サイキックB,C兄妹に目配せをする。
彼らは少し広がってから、今度は広範囲に超能力攻撃を仕掛けて行った。
彼らの攻撃は全てバリアーで消し止められ効果のほどは感じられなかったが、その凄まじいまでの攻撃は、その部分の視界を完全に奪っていった。
その戦法に賛同して、戦闘機たちも広範囲にミサイル攻撃や爆撃を加えていく。
彼らが攻撃を続けている部分は円盤上面の4分の1には満たない部分だが、その部分の視界はほとんどなくなってしまった。
その攻撃に業を煮やしたのか、突然巨大円盤からレーザー光線のような光による攻撃が始まった。
と同時に、彼らの攻撃も円盤表面にまで達するようになった。
それでも1撃当たった程度では、円盤の外壁はへこむようなこともない様子である。
円盤のバリアーが解除されたのは明白だった。
それでも超能力者部隊は巨大円盤から比べると米粒ほどの大きさであり、円盤からの攻撃はなかなか彼らに当たることはなかった。
3人はそれぞれバラバラに動いて敵の攻撃目標をかく乱し続ける。
「へっへーい……そんな攻撃に当たるかい。
大体、レーザー砲か何か知らないが、砲身を向けて発射していたら、こちらを狙っていることは一目瞭然。
威力がどれだけあるかは知らないが、当たらなければ意味はないさ……。」
サイキックAたちは余裕の表情であった。
相手は巨大であるがゆえに、それだけで脅威ではあるが、その分小回りが利かずに小さな目標は相手にしづらいのだ。後は、小さな円盤を繰り出してくるかどうかにだけ、気を付けていればいいと考えていた。
しかし、どうやら彼らに向けた攻撃は計算されつくしたものだったようだ。
3人とも離れて逃げ回っているはずであったのが、光の照射に追い立てられ、やがて1ヶ所に3人がまとまってしまった。
円盤のその部分は、丁度半球状に窪んだ形をしていて、一見してパラボラアンテナ内面形状を想像させていたが、すぐにその半球は中央から開き、次の瞬間巨大な光の柱が昇った。
それは瞬間的に彼ら3名と、後方に居た戦闘機をも包み込んで立ち上って行った。
「きゃー!」
映像を見ていた美愛が、思わずそう言ってうずくまった。
無理もない、テレビ画像を通してとはいえ、目の前で人が死んでいく様を直接見たのだ。
しかも相手は敵の攻撃と共に砕け散ったというより、瞬間的に蒸発してしまったのだ。
巨大な光線の発せられた後には、何も残ってはいなかった。
地球侵略に対して人類の存亡をかけ、命がけで彼らが戦闘を仕掛けているのだという事を、改めて認識させられた。
「ふうっ、やばかったなあ。」
突然、無線に聞きなれた声が飛び込んできた。
「一体どうしたんでしょう?」
サイキックAの声と、後から続くのはサイキックCの声だ。
「どうしたもこうしたも、敵の策略でまんまとおびき出されてしまい、強力な兵器の的にされたってことだなあ。」
サイキックAの声は、冷静に先ほどの巨大な光の束による攻撃を分析している。
「いえ、それは判っているのですが……それで、どうして我々は無事なのでしょうか?」
引き続きサイキックCの声が続く。
「多分、我々3人のうちの誰かわからんが、死に際に新しい超能力に目覚めたのだろう……テレポーテーション能力……瞬間移動だ。
おかげで一緒に吹き飛ぶはずだった戦闘機までが引っ張られて、こちらの空間まで飛んできた。」
「よ……、よかったあ。」
機内放送の無線を聞いた美愛が、ほっとしたように胸をなでおろしす。
「なんだい、さっきまであのA国軍人たちは仇とまで取れるように、非難していたくせに。」
幸平が不思議そうに美愛の顔を眺めた。
「確かに、この間の突然の失礼な攻撃は腹が立ったわよ……でも、それと人の生き死にの問題は別よ。
あの人たちだって家族がいるでしょうし、何よりも地球の存亡をかけて戦ってくれていたのだから、心の中では応援していたわよ……当たり前でしょう?」
巨大円盤を中心に映し出されていた映像は、別アングルの映像に急遽切り替えられた。
それは、先ほどまで攻撃していた側とは円盤から見て反対側で、煙幕のごとく攻撃により視界が遮られていた部分が向こう側に遠く確認された。
先ほどまで何もなかった空間に、超能力部隊の3人と戦闘機1台が飛ばされてきていた。
戦闘機は引き続き円盤への攻撃を開始し始めたが、その攻撃が円盤まで到達することはなかった。
「どうやら、あの巨大な光の大砲のような攻撃を仕掛けてから、またバリアーを張ったようだな……。」
サイキックAは、無駄な攻撃は当面控えるように戦闘機に指示をだす。
「しかし、成果はあった……十数機がバリアーの中に入った。今、編隊を組んで飛行している。」
同時に別な無線連絡が飛び込んできた。
確かによく見ると、巨大な円盤本体すれすれに、戦闘機が編隊を組んで飛行している。
彼らはバリアーが解かれた隙をついて、中に入り込んだ様だ。




